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蒼き道を征く  作者: Alpha
6/13

6.様式美というもの②

前回のあらすじ

・オレの相棒マジ ナデポ(受け身)

・エルフへの憧れは齢4つにして消えました。

 正味三回天井を突き抜けて(その度にそこだけ穴が開いた、技術力の無駄だと思う)ようやっと床が止まった頃には、オレはもう精根尽き果てそうだった。

「ふーっ。はー……はー…」

 片手をついて床に座りこみ、なんとか息を落ち着けようとする。

 誰だこんな移動方法考えたの。普通に魔道式昇降機でいいだろ。手すりも何もなしに床だけ浮くってなんなんだよ。いや、浮くのは百歩譲っていいとして。なんなんだよあの超高速移動。あ?めっちゃ重力かかったぜおい。なに。

「あれ、どうしたのこんなところで」

 オレに恨みでもある訳?つか遊具じゃねーんだよ。移動手段だろ。冒険者ギルドの支部の設備とかもう公共交通でいいだろ。ご老人乗せたら衝撃でぽっくり逝きそうな道具作ってんじゃねーよ。

「ねえ」

 お姉さんもお姉さんだ、事前に説明しろ。何が踏ん張って下さいだ。サプライズだとでも思ってるのか。

「ねえってば」

 ったく、シアンが咄嗟にオレの足許固めてくれなければどうなっていたことか。オレは怪我しにここに来た訳じゃないんだぞ。

「人の話を聞きなさいよ!」

 頭頂に衝撃。

「ってぇ」

 当たりどころは違うが最近叩かれることが多いな。と他人事のように思う。

 顔を上げると、よーく見知ってはいるが、ここに居る筈のない人物が丸めた雑誌片手に仁王立ち。

「……なんでこんなとこに居るんですか、メイア先生」

 薄い青でヴェーブのかかったロングヘア、そこそこ整った顔と厚めで肉感的な唇。推定Eカップの武器(むね)、細いと言っていい腰回り、それと対照的に自己主張する尻。

 色気はあるのに、それを帳消しにして余りある本人の残念さで、全てが台無しになることで有名なお方。


 我が校の医務室の主が立っていた。


「なんでって……さぼりに」

 何を当たり前のことを聞いてるんだ、みたいな感じで首傾げてるけど、おいまて。

「いや、先生の職場、ここじゃないですよね?」

 今日は平日だ。下級生は休みの期間だけど、3年は召還したての竜に慣れるため,特別訓練が組まれている。

 万が一に備えてほとんどの先生はきてるし、医務室には医療担当班が詰めてるはずだ。

 

「あー、実は、職員の一人が友達なんだけどね。今日どうしても外せない彼氏とのデートだからって代わり頼まれちゃって。ねえ、信じられる?6股よ6股。なんで男ってあんなに見る目ないの?どうしてあんな、いかにもキャラ作ってますぅって子ばっかりモテてわたしはデートに誘ってくれる男もいないわけ?

本命に浮気がバレても、『イワンくんが構ってくれないからワタシ、寂しくて。トーマスさんに相談してたらいきなり……。……ずっとイワンくん言えなくて。ごめんなさい。無理矢理とは言え、わたしが悪いの。わたしが隙なんてみせたりしたから……ごめんなさい。ワタシはあなたにふさわしくないわ。別れましょう』とか泣かないように我慢してるフリしながら、寂しげに切々と訴えられたくらいで許しやがって。馬鹿じゃないの?ヤることヤってんのよ?しかも無理矢理そんなことした奴が激怒しながら、彼女が愛してるのは俺だ。女に暴力ふるう男に彼女を渡しておけるか、とか言う?ねえ、ちょっと考えれば分かりそうなもんじゃない?別に羨ましいから、こんなこと言ってるんじゃないんだよ?ほんとに違うよ?ただ、常識的に言ってるだけね。うん。常識。そう常識。なんでわたしがあの女のアリバイ工作の為になけなしの有給まではたいてあいつの実験の手伝いしなきゃなんないのよ!あんなのがモテるなんて世も末だよ!全くあのアバズレが」


 すげぇ。この人噛まずに言い切ったぜ……。

 まあ、うん。ここに居る理由は分かった。ついでに知らなくてもいい、イワンさんとトーマスさんと冒険者ギルドの魔性の阿婆擦れさんの個人情報までゲットした。真剣に要らない。


「とりあえず、そこまで思うなら友達やめたらどうですかね……」

「ダメよ!わたしまだ運命の人に会ってないもん!アイツがいないと顔の良い男とお茶会のセッティングをしてくれる知り合いが減るもん!」

 

 ーーーーーーーーーーーオーケイ。悟ったぜ。類友だ。


「で?わたしはこういう状態なんだけど、君は」

「ちょーっと登録をしにですね、あはは」

「君、まだ学生でしょ?」

「辛うじて。自主退学の申請出してきましたから」

 あと何度このやりとりするんだろうな。……学生、学生か。早くやめたい。

 起きろ学園長。

「……そうよね。召還、失敗したんだもんね」

「……まあ」

「大丈夫だよ、先生、分かってるから。先生の胸で泣いていいのよ」

 非常にわざとらしい、生暖かい慈愛に溢れた顔でメイア先生が腕を広げる。

 シアンに。 

 ……それを冷めた目で眺めて、オレはにこやかに声をかけた。


「先生」

「何?遠慮しなくて良いんだよ。さあ。ほら。ね。さあ、さあ、さあ」

「シアンに手出したら潰す、って言いましたよね?つい昨日」

「でも、シアンちゃんから寄ってくる分にはいいんでしょ?だからほら、シアンちゃん、

 こんなヘタレに召還された悲しみを、思う存分お姉さんの胸で癒して!そしてついでにわたしを癒して!

 さあ、さあ、さあ」

「……いい加減にしないとイシダ先生にバラしますよ、例のこと」

 爛れた視線に怯えて、オレにすり寄ってくるシアンを撫でて安心させつつ、 切り札(くびわ)メイア先生(もうじゅう)に突きつける。

 自らの思い人の名前を聞いた途端に、メイア先生(もうじゅう)は大人しくなった。こういう乙女なとこをもっとみせれば、この人の評価も変わるだろうに。つくづく残念系である。

 まあいい。構ってる暇はない。今はやるべきことが第一だ。

 起き上がって先程もらった書類の数が足りてるか確認。ダメ教師に差し出す。

「な、なんのことかな」

「はいはい。とぼけていいですから、これ、どうしたらいいか教えて下さい。大丈夫。イシダ先生はまだ

あのクッキーに何が入っていたか気が付いてま」

「な、何で知ってるの!?じゃ、じゃなくて、ワタシ何も言ってないからね。それ、貸して!早く!ま、魔力測定ね。こっちへきいで下さいませらっしゃい」

「……よく分からない動揺の仕方してないで、とっとと落ち着いて下さいね」

 今時の魔法人形(マグム・プッぺ)の方がよほど滑らかだと思うくらいカクカクした動きで進むメイア先生の後について、用途不明の魔法具群の間を縫って進む。検査機器かな?

 そのうちのどれかを使うのかと思ったらそのまま、いかにも研究者という人間がゾロゾロしてる別室へ移動。

 道理で、あのダメ教師しかいなかった訳だ。あそこは倉庫かなにかだろう。……移動先として倉庫ってセキュリティの問題とか大丈夫なのか、冒険者ギルドよ。


 そこから更にガラスで区切られた区画にいれられる。

 数人の先客が壁際に並べられた椅子に座って居た。同じく登録者だろうか。

「そこ座って。順番が来たら部屋に入れば大丈夫だから」

「ありがとうございます」

「ううん。ううん!このくらいなんでもないの。大丈夫だよ。平気だよ。ーーそれよりも例の件は」

 必死の形相でオレの肩を掴む先生。痛いからやめてほしい。そして他の人の視線が突き刺さってます。バレたくないらなら、衆人環視の状況じゃなくて、もう少し人気のないとこにすべきだと思うんだ……。

 少なくともオレが、先生の何かしらのネタ握ってることはバレバレだぜこれ。

 落ち着かせないと離してくれそうにないので、宥めるために極力優しい声を出す。

「大丈夫です。先生がシアンに手出さない限り何もしません。落ち着いて下さい。ね?」

「でも……わたし、イシダ先生に嫌われたら」

「大丈夫ですから先生。あれを知ってるのはオレだけです。そして先生が何もしない限り、オレから流出することはありません」

 要点を繰り返し強調。こういう人は往々にして自分の考え事に閉じこもって人の話きいちゃいないからな。

 聞くまで言うしかない。内心うんざりしつつ早く終わってくれないかと祈りながら辛抱して諭していたが、

ここで、メイア先生が斜め上の新説を終息するはずの議論にぶっこんだ。


「ーーーーでも、ほら、よくこういう流れが本であるじゃない。弱みを握った男子生徒が女教師に……」

 

 思わず笑顔が引きつる。

 何の本読んでんだよ、この色ボケ教師。フィクションと現実混同してんじゃねーよ。そりゃオレだって嫌いじゃないけどさ、女教師もの。

 でもまず自分の身を顧みてから発言しろよ。こんな超ベヴィー級物件無理っすわ。 

 そんなことを考えている間にもメイア先生の言動が過激化する。


「あー、わたしリヴァくんにあんなことや、こんなことをされちゃうのかな……」

「しません。」 

 ………我慢。我慢だ。キレるな。ここでキレたら全て水泡に帰す。笑え。笑うんだ、オレ。

「ダメよ、リヴァくん、あなたは生徒で、わたしは教師なのよ」

「そうです。その通りです。そして先生であろうとなかろうとあなたに興味はありません」

「ああでも、リヴァくんもう中退するんだよね……ということは生徒じゃなくなるし」

「気をしっかり持って下さい先生。ネガティブ思考はダメです。抵抗を諦めたらそこで終わりですよ」 

 はっと気が付いたみたいな顔するな。俯くな。赤くなるな。くねくねすんな。

 誰かこの危険物どうにかしてくれ、大至急。

「なら仕方ないのかな……わたし、なにされちゃうのかな……まあでも、リヴァくん顔も悪くないしヘタレで背がちょっと低いのが玉に瑕だけど、なくはないのかな……」

 頭の中でどんなお花畑が繰り広げられたらこんな戯言(たわごと)吐けるんだろう。

 もう何を言っても無駄な気がして、黙ったまま現実逃避していたら、散々自分の世界に浸りに浸って妄言を繰り返した先生が、何やら結論がでたのか一つ頷く。

 そして、極めつけに上目遣いでこうのたまった。


「ーーや、やさしくして、ね?」


 だーもう!

「ーーーーーオレには好きな人が居るんで、先生には興味ないです!」

 気が付いたら叫んでた。あれ、オレ今なんて言った?

 部屋が妙な静けさに包まれている。

 シアンが黄色の感情を伸縮させて驚いている。

 ーーーダメ教師の目が輝いている。

「そうなんだ!ねえ誰なの?やっぱりイーナちゃん?それともアリアナちゃん?顔ならレイラちゃん一択だけど、あの子ちょっと訳分からないところあるよね。まさか、カンナちゃんとかはないよね?君の年代で12コ下は流石に犯罪だよ!成人まで待ちなさいね!」

「答えるか!もうお前、黙れ。いますぐクッキーに惚れ薬と催淫剤と〇〇(ぴー)入れてたってイシダにばらされてーのか、この(あま)

 顎を掴んで顔を近付けて這う様な声で脅す。

 オレの剣幕に驚いたんだろう、メイア先生は今度こそやっと黙ってこくこくと頷いた。


 

 ダメ教師が出て行ったのを見届けて椅子に身体を預けると、どっと疲れが出た。

「修羅場だったな……」

 隣に座ったおっさんが声をかけてきた。 

「あはは……」

 笑って誤摩化す。できれば触れないで欲しいという念が通じたのか、おっさんは何も言わずオレの肩を軽く叩いたが、かわりに俺は分かってるよ的視線を投げてきた。……隠れられる穴、どっかないっすかね。

 








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