4.妄想は得意です
前回のあらすじ
・オノマトペの偉大さ。
中立都市セントル。知識と知恵と竜の止まり木、と称される大陸中央に存在する都市である。
実際には都市とは名ばかりでその実態は独立国家に近く、いわゆる都市国家であるが、一都四都市からなっているので、どちらかというと都市同盟。更に言うなら、枢都の他の四市に対する優位性が明らかなので、もうそれ普通に国家でいいじゃん、と方々から言われているようなアレである。
枢都セントルを中心に、芸術都市クルスト、工業都市テルバン、商業都市メルティ、学術都市シエントが正方形の四頂点に配置され、各都市間は不沈街道と呼ばれる街道で結ばれている。別に攻められても沈没しないとか、そういうのではなく、各都市間の交通が盛んで、街道沿いの町灯や、魔車の明かり、行商隊付きの魔道師が道を照らす魔法光でそこだけ日が沈まないかのように一日中明るいからだ。
ちょうど今も夜を徹してメルティ側からやってきた一台の魔車がシエントへと入ろうとしていた。
「停車。検問だ。身分証またはギルド登録証の提示を願う」
「はいよ。おつとめごくろうさん。積み荷は果物だ」
御者席の男に渡された商業ギルドの登録証を、軽鎧姿の騎士が魔法具で軽く照らす。
「商紋確認。結構だ。積み荷の検査を行うから簡易門へ。立ち入り検査はない。通過後に」
「あー平気平気。初めてじゃねえからな。分かってるよ、係員に通行税だろ。んで一般食品は関税免除だろ。最近きてなかったんだが、シエント値上げしたか?」
「最近がどの程度か分かりかねるが、ここ半年ほどは、中型魔車は一律五千イルだ」
「変わってねえな。にしても騎士さん真面目だねぇ。新人さん?」
「……先月付けで拝命したばかりだ」
御者台の男は破顔すると、荷台を探り始めた。
「おうおう、なんだ、まだひよっこじゃねえか。もっと気抜いてけ。そんなんじゃこれから持たないぞ。
っと。あったあった。ほら、これでも食え」
「勤務中の飲食は……」
「かたいこと言うなって、採ってすぐ運んできたかんな、うまいぜ。がぶっといけ、がぶっと。じゃあまたな。仕事がんばれよー」
無理矢理に真っ赤に熟れたアプルの実を二つ騎士に押し付けると男は手綱を操ってさっさと簡易門へと進んで行く。
「……そして、残った騎士は男の背中を見ながら、苦笑して手の中のアプルをかじった。ってなことがあったかもしれないんだぜ、シアン」
露店で見つけた美味そうなアプルの実を食べるついでにシアンに戯れに語っていると、隣を通ったおじさんがオレ達をみて、ぎょっとした顔をした。
スライムが町中で果物かじってるんだもんな、分からなくもない。与えたのが自分じゃなきゃオレだって二度見する。
という訳で、オレは今、シアンを連れてシエント北部の雑貨市を冷やかしていた。
ちなみにシアンに窒息死にされそうになってから二日経っている。
先日の召還儀式から数えると五日。なんとオレは三日もぶっ倒れたままだったらしい。
状態検査の眼鏡でなんとか魔力欠乏による昏睡だと分かったようだが、運んでいる最中も、医務室に着いてからも、シアンがオレを覆って離れなかったので具体的な治療は出来ずに放置してたとか。
もしかしなくてもオレ、相当危なかったんじゃないか……。
余談だが、何故か某医務室の主がシアンの手触りの虜になっていた。最初は治療のためにどうにかしようとしたようだが、触っているうちにあの絶妙な肌当たりにやられたらしい。昨日、寝ていたところにど紫の感情が送られてきて何事かと飛び起きたら、ものすごく人様にお見せ出来ない顔をした医務室の主が身体をくねらせながら、手を伸ばしているのからシアンが必死に逃げていた。仕事しろ公務員。だから史上最強の残念色気とか言われるんだ。
まあ、そんなこんなで、なんとか身体にも異常は残っていないようだし、今後の身の振り方について考えることになったのだが。
まず、竜を召還できなかったオレは、学校の規定に照らすと卒業ができない。
竜召還の儀式が卒業試験になっており、同時に見習い科の卒業がそのまま、高等部竜騎士科への入学になっているからだ。
初年度の三百名が卒業試験に至るまでにおよそ五分の一まで振り落とされるので、試験の段階では竜召還が可能だろうという人間しか残らないのに加えて、そもそも竜騎士見習い科は竜騎士科に進むのを前提とした学科であるから、学校側も卒業と入学の処理を別に行う二度手間を避けた形である。
卒業出来ない以上、中退。そしてこの各学校卒業間近の中途半端な時期に募集をしている新卒用のまともな働き口なんて……はは。
「空は青いなぁ!」
落ち着こう。奇異の目でみられる。
……ってかあそこでゴミ箱にアプルの芯捨ててるのシアンだよな。
……いつの間にオレの分も持ってったんだ、このいい子め。
竜騎士になれないとすると、オレがとる道は限られている。元々、竜騎士を目指したのは自立のためだ。オレは家を出たかった。
目的を叶える力も欲しかった。なにより、オレだけのパートナーが欲しかった。
それには竜騎士はまさに完璧。途中まで上手くもいっていた。でも立ち消えた。
「よしよし。でも次からは急に消えるなよ。勘違いされて倒されたら困るから」
戻ってきたシアンを撫でて一言注意する。心持ちシアンがしゅんとしたので、近くの仲良さげな親子を指差してから手を差し出して催促すると、オレの意図を理解して身体の一部を伸ばして手の上に乗せてきた。
軽く握る。
「よし。手繋いでいこうか」
浮上したらしい。ぽわっとした赤。リンクがあると分かりやすくていいな。
なんだか面白くなって笑ってしまう。竜ではないがパートナーならもういるじゃないか。
「さ、目指すは、この先の冒険者ギルドだ」
最善が消えたなら、もう仕方ない。別の最善を探すだけだ。