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蒼き道を征く  作者: Alpha
3/13

3.名前をつけましょう

前回までのあらすじ

・悪夢かと思ったら現実でした。

 結果報告。ちょっとやそっと寝たところで、現実は変わりません。

 結局、それから半日ほど寝たふりをしたところで、オレの現実逃避は終わった。なんでってね。気配が分かるんだ。オレが二度寝を決め込んで、ランドが出て行ってから暫くして、おずおず近付いてきて、そのあと何も変化がないと分かると、今度はとぼとぼ医務室から出て行って、部屋の前でじっとしてんだよ。

 何がって?察してくれ。部屋の隅っこに居たアレだ。契約があるから気配も分かる。

 推察するに、自分がオレのこの態度の原因なのは分かっているが、かといって離れるに離れられなくて、苦肉の策でオレの視界に入らない場所に移動したんだろう。


 どうもあのスライムは気遣いができるいい子らしい。


 近付いてきた時に、水差しから水汲んでサイドテーブルに置いたらしき音はするわ、布団かけ直されるわ。この時点で心が痛かったけど、通行人の迷惑にならないように身縮こめてドア脇でじっとしてる気配なんて感じちゃったらさ!出来た子すぎて、逃避していじけてる自分がすごく情けなくなりましたよ!

 というわけで、オレも色々と覚悟を決める事にした。

 どうも、召還で呼び出されただけあって、アレは普通のスライムとは違うらしい。ちょっと光ってるし。オレだってスライムの生態に詳しい訳ではないけど、一般にスライムが感情あるように振る舞うことはないと思う。思考できるかも謎なのに。まして気遣いって。心遣いって高等な心理スキルなんだぞ。

 まず相手に対する好意や、良識といったものから、自分以外の誰かを良くしようという発想のベースの存在が必要。

 更に、相手の置かれてる状況を把握して、そこから相手がどのような心理状態を形成しているかを、様々な経験や想像から類推できなければならない。

 その上で、適切に対処するための具体的な方法を自分なりに考え、それを行動に移す、とそこまで段階を踏まなければ成立しない。人間にだって出来ない奴がまま居る。

 それを軽々こなしてしまったアイツは多分スライム界の異端児だ。スライム平和賞受賞者でもオレは驚かない。

 相手がその程度の人か……スライム格を有していて、しかもこんな心意気をみせてくれるなら、オレだって相応に遇してやらねばならないんじゃないかと思う。

 例え、それが竜騎士という、自分の夢への手段の一つを諦めることになり、ゴールまで大分遠回りを余儀なくされることになっても、だ。そもそも召還したのは自分である。更に言えば契約の時に、既に一度、選んでいる。ならば、潔く認めて先を考えた方が建設的だろう。道は一つじゃない。

 そこまで考えて、一度目を閉じ、迷いを振り切るために、勢いをつけて身体を起こす。

 自分の竜、というものへの憧れは消えてなくなりはしないだろうけど。最後に脳内でそう付け加えて苦笑してから、オレはドアの外に向けて声をかけた。

 

 「入ってこいよ、相棒」


 びくっと震える気配。声が聞こえたのだろう。閉め切られていた引き戸に隙間ができ、間から遠慮がちに半透明な物質が見え隠れする。

 「おいで」

 小さく手招きして、寝台に座ったままの自分の足の上を指差すと、静かに部屋の中に滑り込んで、そのまま指定した場所に乗った。思ったよりも軽いが、それなりに重量はあるようだ。中型のモーレン(二足歩行したりしなかったりする前世的に言うネコの魔物。ペットとして人気)くらいはある。

 手を伸ばしても避ける様子もないので、そのまま触れてみる。

 心持ちひんやりしていて、恐ろしいくらい手触りがよかった。やべぇ気持ちいい。

 外側は粘着質だったり、手が沈み込むような液体質なのかと思ったら、そうでもないようだ。きめ細かいがつるつると言うよりはサラサラという音が相応しい、滑るような優しい肌当たり。程よい弾力と相まって、最高。手が止まらない。いつまででも撫で続けられる。

 「さっきまでごめんな」

 頭(?)と思しき山になっている部分を撫でながらそう言うと、身体の一部が盛り上がってオレ手首に巻き付きぎゅっと握られた。同時に橙色を思わせるあたたかい感情が流れてくる。気にするなということだろうか。

 ということは言葉の理解が出来ているのか?なら喜ばしい。流石に言葉を発する事はできないらしいが、契約による感情のリンクは通常の通り存在しているようだし、意思疎通方法は本来の契約と同じだ。

 「ありがとう」

 今度はきゅきゅっと軽く二度力が込められた。返事?お返しにぷにぷに摘んだり、むにむに揉んでみると、初めは身を震わせていたが、次第に薄く広がってリラックスした様子。気持ちいいのだろうか。なんだろう。和む。

 「呼び出してしまったのも謝る。原因は分からないけど、オレの腕が悪かったのかもしれない。あれ、本当はドラゴンの召還用だったんだ。……巻き込んじゃってごめん」

 戯れつつ訥々と語るのを相棒は静かに聞いていた。

 「呼び出した以上はちゃんと責任とるけど、お前はどうしたい?普通の召還生物は召還主から離れないものだけど、別に離れられない訳じゃない。オレは契約でお前を縛る気もないし、外で自由に暮らしたいなら、そうしてもいいぞ。簡単に殺されないくらいの準備はしてやれると思うし」

 言葉を切って、返答を待つ。ほんの少しの間の後に、腕がスライムに埋った。なら、決定だ。

 「オレ、お前に名前つけた?」

 通常、召還術においては、召還主が相手の名を預かることで契約が成立する。その存在の過去や本来あった未来を、名という概念に押し込め、それを預かることで、召還空間に入る以前の諸々を全て切り離すのだ。

 そうして、ただ「我は我である」というだけの状態になった相手を引っ張り出し、新しい道を与える。

 神に願い、召喚空間に落とし、それを呼び戻す。ゆえの召還。ある種の新生だ。

 そのため慣習的に、それらの象徴として契約成立直後に名付けを行うのだが、生憎と結界に手をあてた後の記憶が綺麗さっぱり吹き飛んでいる。リンクが繋がり、コイツがここにいるという事は契約は成立したのだろうが、相棒の本来の名すら覚えていない。……そういえばなんでオレは魔力欠乏症になったのだろうか。結界維持のタイムリミットが差し迫っていたとはいえ契約用の魔力はちゃんと残していた。竜に対する支配契約相当の魔力があったのにそんなやすやす……そんなことをつらつら考え始めたが、相棒から否定の意思の感情が伝わってきて、そこで中断した。

 契約と同時に倒れたというのは本当らしいな。

 「そうか。じゃあつけないとな」

 何が良いだろう。スラ子?スラ男?安易すぎるよな。性別あるかもわからないし。ライム。果物だ。スイム。泳ぐな。ムース。苦手。ライス。あ、余計なこと思い出した。米食べたい……。呼ぶ度にこうなるのは却下だな。

 うーん。アナグラムから離れた方がいいんだろうか。

 改めてじっくりと相棒を眺める。ほんのり光った体。近付くと透明のようだが、遠目にみると青みがかっている。青。アオ?直球すぎるな。アオ……アオイ、藍、いっそ藍之助とか?でも5文字か。長いな。

 青。うーむ。青酸。青素。ジシアン。シアン。シアンか。良いかもしれない。確か青って意味の言葉が語源だったよな。男女中性どれでもいけそうだし、これでいいか。

 「シアンでいいか?」

 目に見えて相棒が硬直した。

 「シアン?」

 もう一度呼ぶとふるふるし始める。

 「シアン」

 だめ押しの3回目。あ、クリティカルっぽい。素早い動きでぎゅうっと身体に巻き付かれた上に、ぽわっとした赤系統の感情が奔流のように押し寄せてくる。

 気に入ったみたいだな。

 「これからよろしくな、シアン」

 巻き付いてるシアンを撫でると、更に拘束がきつくなった。……ぎ、ぎぶ。

 

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