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蒼き道を征く  作者: Alpha
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2.夢オチだと言って下さい

 ーーーーーそもそも、これ普通に契約できるんだろうか?

 そこで、オレは飛び起きた。

 ここは?夢?……夢か。

 ものすごく嫌な夢だ。

 卒業試験でスライム……卒業試験でスライム。オレも相当ストレスがたまっているらしい。

 前世でも試験前になると巨大なテスト用紙に追いかけられる夢をみたりしてたからな……。三つ子の魂百ま……来世までとは。

 多少生まれ変わったとこで、本質的なところは変わらないのかもしれないなあ。

 身体の力を抜いてもう一度ばたっとベッドに寝転がりながらそう思った、のだが。

寝転んだことによって必然的に天井に向けられた視線が、違和感を脳に伝えて来た。

 ……貼ってあったリリアちゃんのポスターが、ない。

 なんで天井にアイドルのポスター貼ってあんだとか、そもそもアイドル好きなのか、とか、それにしても天井って……とか、突っ込んだクラスメイトの姿がフラッシュバックする。より具体的に言うと、興味津々にリリアちゃんをなめ回すように見ていた視線を思い出す。

 間違いない。断言しよう。あれは、犯罪者の、目だ。

 —————まさか、アイツ、オレのリリアちゃんのポスターを。許すまじ。カルア地方ライブ限定品ですげー高かったのに。

 脳裏に浮かんだやりかねないと思わせる、やに下がった顔にデカいバツ印を付けながら、俺はいかにして俺の心のオアシスを強奪した犯人に正義の鉄槌を下すかを思案する。

 そりゃあ自分のものにしたいというのも分からないではないのだ。なんてったってリリアちゃん。淡い桃色のロングヘアをたなびかせ、震えるような美声で歌って踊る様はまさにこの世の天使。

 容姿だけのなんちゃってアイドルではない。可憐で優美で愛嬌もあって、歌も踊りも魔術も最高。なのに才能を鼻にかけないし性格も良くて、ファンサービス完璧で……あの人はアイドルを超越した何かだ。



「ああ……りりあちゃん」

 奪還計画の思案のはずが、いつの間にかリリアちゃん回想タイムになり、至福の時に浸って呟いたその時だった。

「このっ、バカリウス!!」

 ・・・強い衝撃が頭に加わると本当に目の前に星が散るんですね。拝啓、前世の漫画家の諸兄よ。あなた方がいかに表現において卓越した才能を持っていたのかを今、俺は身を以て体得しました。こんなんあるかよとか馬鹿にしててすみませんでした。もしあの来世、あの世界に舞い戻れるようならもっと真面目に漫画読みます。待ってて下さい。敬具。

「ってぇ」

 額が割れるかと思った。反射で視界がじわっと涙で滲む。

 いつから居たのだろうか。見下ろしてくる見知ってるはずの顔をやっと認識したが、無表情すぎて怖い。

「心配して人がきてみれば。なんで貴方はいつも……。もう勝手になさい」

 淡々としているゆえに背筋が寒くなるような口調で、玲瓏な声が降ってくるのと同時に、完璧な造形が視界から消え、荒々しい靴音が遠かっていく。

 

 何がどうなったのか理解出来ずに、血液がもの凄い早さで集中して脈打ってるような額に手を当てて、ずきずきするそこを揉んでいると、入れ替わりに別の靴音が近付いてきた。

「お、アル起きたか」

 上から覗き込んできたのは、明るい炎の色の髪。すっと通った鼻筋に、爽やかな笑顔。

 オレの悪友である。

「ランド?」

「おう。見に来てやったぜ。復活早々何したのお前。レイラがすげー剣幕で飛び出してったけど」

「なんで俺の部屋にランドとレイラが」

「なんだ。まだ、寝ぼけてんのか。ちょっと周りみてみろ。ここ医務室だぞ」

 苦笑したランドに手を貸されて半身を起こす。白っぽい部屋に整然と並んだ寝台。

何故か隣のベッドに学園長が寝ている。……どうでもいいが、とれたカツラを枕脇に置いとくのは止めてあげた方がいいと思うんだ。

 公然の秘密とはいえさ。思いやりの心、大事。

 なんにせよ先ほどは気が付かなかったが、確かにここは自室じゃない。

 ……ということは、だ。

 よかった。オレのリリアちゃんはきっとまだ無垢だ!……じゃなくて。

「え、なんでオレ、医務室に」

「なんでってお前、気失ったじゃねーか。魔力欠乏症で」

「魔力欠乏症」

 ありえない、と瞬時に脳が呟く。平時から魔力制御には重きを置いて訓練している。緊急時でもないのに気を失う程に無茶な使い方はしない。


「そうそう。契約終わった途端に倒れて、そっからイーナとレイラが血相か…あー。俺とマグナスでお前担ぎ込んだ」


 ん?なんか聞き捨てならない単語が聞こえた気が。


「何したか知らないけど後でレイラにフォローしとけよ?倒れてから付きっきりだったし」

 呆れた顔のランドにさっき何言ったと聞き返す前に、更に意味不明な言葉が続く。


「あと、そいつも。倒れてからずっとお前覆って離れなかったから」


 嫌な予感が身体にはしるのを感じながらランドの視線の先を辿って、部屋の隅に目を動かす。

 ーーーー夢に登場した不定形生物が身を縮こめながら、こちらを見ていた。

 ああ、いま視線合ったね。なんでスライムが医務室に居るんだろうね。

 なんでこんなにも見覚えと懐かしさがあるんだろうね。

 なんで、心配と安心が混ざったような緑っぽい感情が伝わってくるんだろうね。

 

 

 ……ふう。


「オレ、寝るわ」

「……逃避もそこそこにしとけよ、アリウス」

 

 呆れた声のランドが何か言った気がしないでもないが、聞こえない。気にしない。睡眠集中。


 ……願わくば、次目覚めた時にはこの悪夢が覚めていますように!!





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