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蒼き道を征く  作者: Alpha
11/13

11.忍ぶれど①

前話のあらすじ

・可愛い顔して凶暴だった妹

・凶暴な顔してツンデレ気味な同級生

 

ーーーーー竜騎士になろうと、思ったわけがあった。



 オレだけじゃない。見習い科に所属する一人一人が、きっと、己の理由を持っている。

 富か名誉か憧憬か。それとも他の何かか。

 ギルネイのように大っぴらに言いふらすものも居れば、そうでないものも居る。

 けれど、言わぬことが、すなわち持たぬことではない、というのは、誰もが理解していた。

 

 何の根っこも、支えも、覚悟もなしには、歩を進めるのが叶わぬほど彼の道は険しい。


 何も知らない者にとって、竜騎士というのは単なる都合のいい夢物語だ。

 なんだかんだ言っても所詮は己の生活に関わらぬもの。

 強大な力、華々しい栄誉、同じ世界に存在するのに、ガラスで隔てられた向こう側にあるものだ。

 いくらでも好き勝手なことを口にできるし、己の頭が望むままに理想化できる。

 門の外にいる限り、空の星と同じ。

 決して手に入らない代わりに、その輝きをただ素直に堪能できる。


 だが、見習い科に入った瞬間から、それは既に甘い夢物語ではなく、自らの力で叶えねばならない現実に変わるーーーー変わってしまう。

 目標は迷う余地がない。

 『竜を召還し、己がものとすること』 

 これ以上なく明確(クリア)。逃げ場なんて無い。

 そして、そこに至らねば、それまでの全てがーーーーー無駄だ。

 都立セントラル学園高等部 竜騎士科。この世界で唯一の竜騎士(ドラクティア)育成機関。

門を叩くものは世界各地からやってくる。皆が皆、天才と言われてきた人間だ。そうであっても挫折を強いられるほど、要求される水準は厳しい。

 魔力の量は大前提かつ絶対。才能が全てゆえに、誤摩化しは効かない。

 見習い科の期間、つまり、初めの三年は篩である。魔力検査(ぶんすいれい)によって綺麗に二分された優劣が更に細かく分別される。

 ほんの一握りの抜きん出た才あるもの、例えばランドなどにとっては、召還までの三年は単なる確認作業だ。彼らが行うのは十割を十二割にして石橋を叩くこと。

 そして、劣る者にとっての三年はーーーー『才能を努力で埋める才能があるか』それだけを問われるためにある。 

 

 ーーーーーどうにもならない現実は、どうしたって、どうにもならないのだ。

 不公平を嘆いたところで、憤りを心のまま叫んだところで、魔力量は増えない。絶対に変わらない。

 奇跡は、起きない。

 曖昧なラインにいる連中は、掌の中にある限られた材料をどうにかやりくりして、最低ラインへの到達できいか結果の見えない試行を繰り返す。


 それだって、どんなに、血反吐を吐きながらやったところで、元から才能のある奴らには適わない。

 

 ほんの一握り以外は、いつだって、ギリギリだ。余裕のある奴なんていやしない。一歩踏み外せば即、奈落行きが決まる綱渡りをしている。

 希望に手を伸ばせる位置にあるからこそ、質が悪い。叶わない期待は、厄介な毒だ。

 自らが望んでやまないそれを軽々手にする本当の天才達を目の当たりにして、知った現実にも何とか心を保って努力をして、それでも、駄目だと突きつけられた時、人は容易く崩れる。 

 演習。定期考査。新学期。節目節目に、櫛の歯が欠けるようにポロポロと誰かがこぼれていく。

 突き詰めれば召還出来るか出来ないか、0か1かの課題であるから、提示された“否”は、すなわち彼らがそれまで必死に積み上げてきたものの全否定だ。


 この三年で、何度、人が折れる瞬間を見ただろう。

 折れる、としか表現出来なかった。


 口数が少なくなり、表情が乏しくなり、あるいは逆に喚き散らしたり、そういった表面的な変化は個人差あるが、共通しているのはーーーー目が変わることだ。ふとした瞬間に、独特の陰が差す。


 折れた者の末路は、無惨だ。腐っても竜騎士志望者ではないかと、思うだろうか。あるいは門の外にいる連中ならそう思うかもしれない。ーーーーけれど、彼らは折れた。そして誰よりも彼ら自身がそれを知っているから、救いようが無い。

 道を断たれた者は、ただ静かに情報漏洩の防止の為の陣をその身に刻んで、不名誉な烙印と共に一生を過ごす。

  

 そういった事情は、入学と同時に、新入生全員に告げられる。そして、払わねばならない対価を承知で、それでも求める者だけが、最後に残るのだ。

 望み、願い、膝をつく同胞を横目に淡々と茨を切り抜け、その先にあるもの。

 それが竜騎士(ドラグティア)だ。

 


 


 ーーーオレにとって、竜騎士への始まりは憧れだ。

 初めての記憶は六つの時。物語の冒頭のような、笑っちゃうほど典型的な出会いだった。

 あの日、両親に連れられてセントルの祭りに参加していたオレは、祭りの定番菓子シュタンーーー動物型で棒付きの動く飴ーーーを舐めながら、魔法生物店でペットを品定めしていた。母親の出身地である南方の連合国スヴァルの慣習に則って、六祝いの守護を選ぶためだ。あちらでは六つになる前の子は神からの預かりものであるとされている。無事に子が六つになると、親として神に認められ正式に親子関係が成立したことを祝って子に守護獣を贈る。本来はスヴァル中央にある大森林に子を連れて行き、そこで波長が合うのを探すのが正式なのだが、時代が進むに連れて簡略化され六歳になった子供に使い魔やそれに準ずる生物を買い与える行事になった。

 こういった事情を理解したのは、それから随分経ってからで、当時のオレは単に初めてみる生き物に好奇心が止まらず、しかもどうやら好きなのを買ってもらえそうなのでもの凄い興奮状態だった。


「坊ちゃん、どうですかい。お気に召したのはございましたかな」

 三角の布帽子を頭に載せた店主が、流れる様に一通り店内の生物の紹介をしたあと、にっこり笑ってオレに聞いた。

「アル、どうだ。どれにする?あっちのモーレンなんかいいぞ。それともバーワウにするか?どっちも人懐っこい種類だ」

「ねえ、アル、みてあの色艶。あのキッケロなんていいんじゃないかしら?ああでもシェーネクも捨て難いわ……こら、カルマ、勝手に触っちゃいけません!」

 父がふにゃふにゃの猫型と犬型の魔物の仔を指差す傍ら、母はオレの身長程もある紫にてかてか光った蛙を熱心に勧め、とぐろを巻く蛇を見つめる。

 子供ながらに変にひねていたオレは、モーレンとバーワウは子供っぽすぎると思っていたし、キッケロとシェーネクは姿が気味悪い。店主はその後も色々と出してくれたがどうもピンとくるものがなくて、真っ赤な羽に銀色の鋭い嘴を持ち、目つきの鋭いヨウブ辺りで妥協しようと父母を振り返ると、父の背後、奥まった場所に寝そべる毛玉の灰色の目と視線がかち合った。

 結論から言えば、オレはその毛玉を手に入れた。種類こそ青狼と少々生息地域が限られているものだが、魔物ではなくて源泉器官を持たない普通の動物。姿形の良く似た魔物にフロウヴィトニルが居て、そちらを仕入れた際に混ざっていたので後日返品予定で置いていたらしい。売り物ではない、このような魔物が欲しいなら、さっき言ったヴィトニルを用意するがどうかとも店主には言われたが、もう一発で気に入ってしまってオレはフワフワと柔らかく(ぬく)いそいつを抱えて離そうとしなかったそうだ。

 手に入れたばかりの新しい遊び相手を両腕で抱きしめたまま、オレは引き続き祭りを見て回ることにした。

 

 ーーーーーそれが間違いだった。

 

 



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