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まほカン  作者: jukaito


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第37話 混迷! 少女達は奇跡を証明する (Cパート)

「あぁ……」

 唐突にマニィが明後日の方向へ向いた。

「マニィ、どうしたの?」

「いや、何体かマスコットがアルミの方に魔力供給に向かったみたいなんだ」

「社長のところに?」

「そう、僕らはアルミと魔力供給のための見えないパイプでつながっているからね。他のマスコットがどうなっているのかも把握できる」

「確か、社長がマスコットに魔力を分け与えているせいで全力で戦えないのよね」

 それであれほどの力を持っているなんて今考えてもとても信じられない話だ。

「うん。それをカットして、マスコット自身が蓄えている魔力を身体ごと渡せば、社長はその分だけフルパワーに近いチカラを発揮できる」

「それじゃ、あんたも行くの?」

 カナミは訊く。

 その声には自分でも驚くほどの不安が混ざっていたことに気づく。

 以前、急にマニィは自分の肩から離れてアルミに魔力を渡すために飛び去ったことがあった。

 あの時は急な別れに驚き、戸惑い、自分が思っていたよりも大きくこのマスコットがいなくなって欲しくないと気付かされた。それが繰り返されるかもしれないと思うとその想いもまた再燃してしまったのかもしれない。

「いや、どうやら前回みたいに十二匹のマスコット全員駆り出すことはないみたいだ」

「ああ、そうなの」

 少しだけ安堵した。

「あ、でも……」

 しかし、よく考えてみると、それはとんでもない事態になっているんじゃないかと気づく。

「そんなことしなくちゃならないぐらい、社長がヤバイってこと?」

 社長がヤバイ……口にしておいてなんだが、そんな事態を想像することすらできない。

 何しろ、社長は未だに戦っても傷一つ負わせられなんじゃないかと思うぐらい、あまりにも強い。

 それがマスコットの魔力が必要になるなんて天変地異が起きたとしか思えないほどに緊急事態なのではないか。

「ああ、心配しなくていいよ」

 そんなカナミの狼狽をマニィは察して言う。

「リリィやトニィ、ドギィが魔力供給に使われて、それだけでなんとか解決したから」

「それじゃ、もう解決したのね?」

「うん……危なかったみたいだけど、アルミはなんとかしてしまったよ」

 それを聞いて安心した。

「まったく、おどかさないでよ」

「まあ、緊急事態だったのは確かだけど」

「それはそうね、あの社長が魔力を補充しなきゃいけないなんて」

「まあ、それでもフルパワーの半分以下だけど」

「……あははは」

 カナミは乾いた笑いをするだけで精一杯だ。

(あの人どんだけ凄いのよ……)

 敵じゃなくてよかったと思うのはこれで何度目だろう。

 未だにあの人の底が知れない。


ヒュルリ


 そこへ一迅の風が唐突に舞い込んでくる。

「――ッ!」

 それが何なのか、わかったカナミはステッキ構えて戦闘態勢に入る。

「私の存在を感じたのね、嬉しいわ」

 そう言って喜んでいたのは天女と見紛うばかりの美女。しかし、その姿を見ると悪鬼と区別がつかないほどの悪意をもっており、逃げたくも見つめたくなる。

 それが悪運の愛人・テンホー。

 これまでカナミと幾度も対峙してきた。しかし、直接戦ったことはない。

 ただ、カンセイと負けず劣らずの怪人であることは想像に難くない。

「私は嬉しくないわよ」

「私と決着をつけることが嬉しくないの?」

 テンホーは笑顔で問いかけてくる。

「決着をつける……!」

 その言葉にカナミは緊張が走る。

 そう言ったテンホーの顔こそいつもの薄気味悪い笑顔だが、目は本気であることを語るかのように殺気に満ちていた。

「嬉しいでしょ、私は嬉しいわよ」

 フフ、とテンホーは笑う。

「だって、本気で戦ってみたかったもの!」

 テンホーはそう言って符の束を出してみせる。どうやらそれが彼女の武器のようだ。

 カナミも身構える。

 どんな攻撃も撃ち返してみせると心の中で意気込む。

「呪符吹雪!」

 テンホーは一回転優雅に回ると呪符が文字通り吹雪のように舞う。

 それらが炎になり、氷になり、雷になってカナミに向かって降り注ぐ。

「ジャンバリック・ファミリア!」

 カナミは鈴を飛ばして、魔法弾の連射で応戦する。

「あっつッ!?」

 しかし、その中の一つの炎はそれらの弾幕をかいくぐって、カナミに命中する。

「それ、第二弾よ!」

 テンホーは続いてもう一回転して、呪符の紙吹雪とともに炎や氷が雨あられにカナミへと襲いかかる。

 カナミは同じように撃ち落とす。

「かはッ!?」

 今度は氷をぶつけられる。全部撃ち落としたつもりなのに、そのために弾幕を張っているのに、そのことごとくをすり抜ける。

「あら、ついてないわね。百発中九十九発撃ち落としても、一発当たっちゃうなんて」

「そんなわけ……ないでしょ……!」

 百発中百発撃ち落とすつもりでやっている。

 それで、落とせていないのは失敗であって、ついてないというのは正しい表現じゃない。

「さあて、もう一度やってみましょうか!」

 第三弾がやってくる。

 今度こそ、とカナミは鈴を飛ばして魔法弾を撃ち落とす。

「あぎゃッ!?」

 しかし、ダメだった。

 百発どころか、千発でも落としてやるつもりで、やたらめったら魔法弾を撃ったのに、それをすり抜けて雷はやってきた。

「な、なんだっていうのよ……?」

 焼かれて、凍って、痺れて、三連発をくらってよろめく。

 しかも、どうして攻撃を受け続けているのがわからないという動揺が、またダメージに結びついている。

「次はこれで行くわ!」

 テンホーは四度、呪符の紙吹雪を舞わせる。

 今度は炎や氷、雷と様々なものに変化せず、岩一つに変化する。

 それがあられのように降り注ぐ。

「こ、今度こそ!」

 カナミは気合を入れて鈴を飛ばす。

 鈴は縦横無尽に駆け巡って、岩を次々と撃ち砕いていく。

「――ッ!」

 しかし、砕いた岩が石のつぶてになって、カナミを襲う。

「アイタッ!?」

 一発一発が小石でも何発も当たるとそれは大きい。

「あいたたた……なんでこうなるのよ……」

「お前は、そういう星の下に生まれたのよ。どんなに抗おうとも拭いきれない不幸の星ね」

「そんなはずがないでしょ!」

 カナミは否定し、魔法弾を撃つ。

 テンホーの前に札が折り重なって、盾のように阻む。

「しかし、私には届かなかったわね」

 テンホーはニヤリと笑う。カナミが苛立つように嫌味ったらしく。

 カナミの魔法弾は届かず、テンホーの札は当たる。

 実力の差とは思えない。撃っているモノは純粋な魔力と炎や氷といった質の違いこそあれ押し負けているわけではない。

 だが、カナミの砲弾はテンホーの届かない。

「でも、私の方は届く。それがあなたと私の違い、悪運の差ね」

「そんなわけないでしょうがッ!」

 カナミは強く言って魔法弾を撃つ。

「だが、私には届かない」

「それなら!」

 カナミはステッキを砲弾に変化させる。

「神殺砲!!」

 一気に発射する。

 テンホーは同じように札を展開して盾を作って受け止める。

「――ッ!」

 しかし、砲弾はこれをあっさりと貫いた。

「これだけの威力なら、悪運も何もあったものじゃないわね」

 テンホーは感心して、かわす。

「どうよ、届いたじゃない!」

 これは届かないと言われたことへのカナミの意趣返しであった。

「そうね、届いた。それは認めるわ」

「バカにして! 私は運を頼りにして戦ったことなんてないわ!」

「その運が無いからね」

 ムキッとカナミはこめかみに怒りマークを出す。

「ええ、そうよ! 運が無いのよ!」

 カナミはもう一発神殺砲を撃つ。

 その様を見て、テンホーはフフッと笑う。

「逆上して……可愛いわね」

 そう言って、テンホーは姿を消す。

「消え、た……?」

 次の瞬間、カナミは背中に火の玉を受ける。

「が……!?」

 熱くて痛いのをこらえて、後ろを振り向く。

 そこにテンホーは立っていた。

 一瞬で目に見えないほどの速さで背後に回ったのか。

「そんなスピードあるなら最初からやりなさいよ」

 カナミは悪態をつく。

 呪符を飛ばして攻撃してくるから、足を止めての撃ち合いが主戦法だとばかり思っていた。

 しかし、目に見えないスピードで動き回るというなら、話は変わってくる。何しろこっちは当てるために狙いを定める必要があるのに狙いが定まらないのだから当たるわけがない。広範囲攻撃があるにはあるが、それだと威力が分散して、札の盾で防がれてしまう。

 戦況は俄然不利だ。

 カンセーよりも強いんじゃないかとさえ思う。しかも、スズミの鈴で回復しているとはいえ連戦で下手に魔力を使うとあっという間に尽きてしまう。

「いえ、スピードはないわ。カンセーの方が何倍も速いぐらいよ」

「だったら、どういうことよ?」

「シーサンプートウ、あなたを中心とした十三の方角にランダムにテレポートする」

「て、テレポート……」

「瞬間移動よ」

「言い直さなくてもわかるわよ!」

 なんだか小馬鹿にされた気分だ。

「つまり、あなたは運を天に任せて私がどこにテレポートするのか当てないといけない。

――さあ、当てられるかしら!?」

 テンホーはまた消える。

 十三方向というと前後左右どころじゃない。どこから来るのかわからない。

(――後ろッ!)

 カナミは直感で後ろから来ると思って振り向いた。

 今やられたばかりな上に、一番隙が多い真後ろがやばいと感じての判断だ。

 しかし、そこにテンホーの姿はなかった。

「あああぁぁぁッ!!?」

 身体中に痺れと焼けるような痛みが走る。

 後ろから電撃をくらったみたいだ。……ということは、テンホーは後ろにいた。

「く……!」

 歯を食いしばって、倒れそうなところをこらえて後ろを向く。

 後ろの後ろ、つまり元は正面だったところだ。

「まさか、またこっちに来るとはね。でもそのおかげで裏をかけちゃったわね、アハハハッ!」

 テンホーは声高々に笑う。

 それがまたカナミの闘争心を滾らせる。

 こんな奴に負けるものか。今カナミを奮い立たせているのはそんな気持ちだと言っていい。

「誤解しているみたいだけど、このテレポートはあくまでランダムであって、今のは結果的に裏をかいただけのことよ。もしかしたらあなたが向いた方向に出てきたかもしれないけど……

――私は悪運が強いから。きっとあなたは外し続けるわ」

 そう言い残して、テンホーはまた姿を消す。

「……くッ!」

 カナミは歯軋りする。

 このテレポートがテンホーが言ったように十三方向のランダムでやってくるなら読み合いは無駄。こっちもランダムで対応するしか無い。

「右ッ!」

 直感で判断した。

「ざんねーん、左斜め後ろでした」

「――ッ!」

 また背中に炎の石つぶてを撃ち込まれる。

「ぐッ!」

「ほら、当たらないでしょ。何しろあなたには悪運が無いから!」

「くぅ……!」

 テンホーはまた姿を消す。

 前後左右、あらゆる方向から次々と攻撃が飛んでくる。

「くうッ!?」

 いくら鈴を飛ばして数を撃っても、死角からの攻撃の対処はどうしても遅れてしまう。

 頭に石をぶつけられて、腕を燃やされて、足を凍りつかされる。

 右手は電撃を受けてしびれて感覚が無くなる。しかし、杖だけは手放しはしないと握り締める。

 ダメージはどんどん蓄積されていく。

 意地と気合でなんとか立っているものの、このままだと確実にやられる。

(な、なんとかしないと……!)

 しかし、一発逆転を狙って神殺砲を撃ったところで、テレポートのせいであっさりとかわされてしまう。

「だったらッ! セブンスコール!」

 カナミは真上に魔法弾を撃つ。それが割れて、雨のように周囲三百六十度に渡って降りそそぐ。

「――ッ!」

 右斜め後ろに現れたテンホーはそれに気づいて、即座に対応し、札の盾が防ぐ。

「アハハハハハ、そんな小雨で私に届くはずがないでしょ!」

「くぅぅッ!!」

 わかっていた。

 こうなることが簡単に予想が出来た。

 あの盾は神殺砲じゃないと貫けない。それはわかっていたはずなのに焦りすぎた。

 ただ無駄なことをした、と、苛立ちを募らせただけだ。

「それッ!」

 左足が凍りつく。これで、この場から離脱する選択肢は無くなった。

 いよいよもってなんとかしなければならない。

(単純計算で十三分の一……低いにも程が有るわよ!!)

 せめて、半分ぐらいになってくれれば……いや、そうなっても多分当てられる自信は無い。

 何しろ、自分は運が悪い。

 たとえ、二分の一でも当たらないかもしれない。

(二分の一……)

 その言葉が少しだけ引っかかった。

 これまでテンホーはカナミの後ろばかりとっている。

 十三方向と大仰に言っても、所詮は前か後ろの二択に別れる。それなら、テンホーが後ろに回る確率は五十パーセント程度。それなのに毎回毎回後ろへやってくる。

 まるで仕組まれているみたいに。

(まさか、確率操作……!?)

 カナミは後ろを振り向く。

「はっずれー!」

 後ろ……つまり直前まで向いていた真正面から石が飛んでくる。

「く……!」

 頭にぶつけられて、視界が歪む。

 立っているのも限界。

 神殺砲も撃てて、一発がいいところ。


――ただ、それでも諦めたくない。


 後ろ向いたら、また後ろからやってくる。

 まるで、カナミが後ろを振り向くのがわかっているかのように。

(読まれている……ランダムっていうのは嘘……?)

 いや、テンホーは嘘を言わない。

 高飛車でテンションの高い悪女だが、嘘をついたところを見たこと無い。

 そういえば、テンホーとはカンセイやスーシーよりも長い付き合いだった。何しろ、初めて魔法少女になって、仕事として戦った敵なのだから。

 しかし、実際に戦うのは初めてだ。

 初めて戦う敵……しかし、よく知っている相手だ。

 嘘をつかないし、こちらをあざ笑うように裏をかいてくる。


――でも、それは裏をかいているじゃなくて実際は悪運が強いだけ。


 根拠はない。ただのカンだ。

 でも、このカンは何よりも信用できる。

 運と運の勝負だと正直分が悪い。何故なら自分には決定的なまでに運が無いから。

 十三分の一で当てられる自信は無い。

 せめて、前か後ろの二択。

 ああ、でも、それでもやっぱりダメだ。さっき外したばかりじゃないか。

 確率二分の一でも当てられない。

 当てられないなら、どうやって当てればいい。

 テンホーは必ずカナミの後ろに回る。

 後ろに回るなら後ろを振り向く。すると、その後ろに現れる。

 どう足掻いても後ろに回られる。


――いや……

必ず後ろに回れるのならあるいは……


 今思い浮かんだ案を想像して、カナミは震える。

 もし、これで上手くいかなかったら……

 確実にやられる。というか、二度と立ち上がれないだろう。

 その恐れが決断を躊躇わせる。


――私と決着をつけることが嬉しくないの?」

――嬉しいでしょ、私は嬉しいわよ」

――だって、本気で戦ってみたかったもの!」


 彼女はそう言ってきた。

 カナミはそんなこと言われても、嬉しいという気持ちは全然こみ上げてこなかった。

 ただ、テンホーからは嬉しさはあるものの負けられない決意もあって、それは感じられた。


――負けられない。


 その気持だけは確かに共感できた。

 初めて変身して対峙してから何度も争ってきた。

 好敵手というと、何か違う。

 ああ、そう因縁の敵だ。

 だからこそ負けられない。

 勝って決着をつける。

 ここまで考えてカナミはようやく決意を固める。

(一か八か……!)

「やってやろうじゃないッ!」

 気合の一声を入れる。

 それを聞いたテンホーは満足げに笑う。

「そう、それよ。どんな逆境に陥っても、決して折れない心! まさしく魔法少女の輝き! へし折りたくてたまらなかったのよ!!」

「誰が折らせてやるもんかッ! たとえ、神様でも仏様でもッ!」

「なんだか懐かしいわね」

 テンホーは感慨深げに呟く。


――あんた、仏なら……仏なら、私の境遇を救って見せるのが仕事じゃないの?

――私を苦しめるのが仏ならくそっくらえよぉ!


 脳裏に初めて戦った時、そんなことを叫んだのを思い出した。

 あの頃より少しは強くなれたかもしれない。

 でも、気持ちは全然変わっていない。

 諦めない。どん底の運命に突き落とそうとする神や仏なんか頼りにしない。

 自分のチカラで道を切り開く。


――信じなさい、あなたとあなたの魔法は最強だって!


 アルミの言葉が背中を押してくれる。

「でも、これで終わりね。名残惜しいけど、出し惜しみはしないわよ」

 そう言って、テンホーはすっと消える。

 おそらく、次に現れた時はとどめをさしにくるだろう。

 それはこっちも同じ。

 もしこの賭けに負けたら……嫌な予感を振り払う。

 かわりに勝つイメージをする。

 自分の直感に従って、次にテンホーが現れるポイントを推測する。

「――そこよ!」

 カナミはステッキを神殺砲に変化させる。

 これが最後の一発。残っているありったけの魔力を注ぎ込む。

「残念、ハズレよ♪」

 テンホーが高らかに勝利宣言をするかのように現れる。

 カナミの背後に。

 これで呪符を送り込めば、呪いによってカナミは倒される。――はずだった。

「いいえ、ハズレなかったわ」

 カナミは神殺砲を後ろ向きに置いていた。

「なッ!?」

「ボーナスキャノンッ!!」

 息をつく暇も与えず、カナミは発射する。

 テンホーは完全に攻撃態勢に入っていたせいで防御する間もなく飲み込まれる。


――最後に、悪運に見放された、みたいね……


 そう最後に言っていたのが聞こえた。

「……勝っ、た……」

 勝利を確信したカナミは力尽きて倒れ込む。

 魔力を使い果たした。

 そのせいで、立っていることもできないほどに体力も無くなってしまった。

 しかし、我ながら運が無いにも程があると苦笑した。

 テンホーは完全に運によるランダムでカナミの後ろをとるポイントにテレポートしていた。

 だったら、今度も必ず後ろをとると予想するのは簡単だった。

 何故なら、自分には運が無いから。当てるより外れると考えた方が現実的だ。

(まあ、最終的には当たったけど)

 それにしたって自慢はできない。

 しかし、テンホーに勝ったということだけは自慢してもいいんじゃないかと思ってしまう。

 それだけ強敵だった。同時に因縁の敵でもあった。

 もう会うこともないでしょうね。

 そう思うと、少しだけ寂しさが込み上げてくる。

「――いいえ、すぐ会えますよ」

 そんなカナミの心を読み取ったかのように文字通り見下す声を聞こえる。それも背筋が凍りそうになるほどに危機感を感じさせるやつだ。

 そりゃそうだ。

 何故なら、今カナミは動けない。

 こんなところを敵に襲われたらひとたまりもない。

 なのに、声の主はよりにもよってスーシーなのだから。

「ずいぶん、はやくきたわね」

「ええ、勝利の祝辞を述べるために参上しましたから」




 あそこに行きたくない。

 この場から離れたい。

 どこか遠くへ行きたい。

 理由は特にないけど。

 そういった意識に向かう魔法が都市群一帯にかけられている。

 そのせいで辺り一帯はゴーストタウンと化していた。しかし、その無人の街を我が物顔で歩く人ならざる怪人の軍団がいた。

 刀吉とカリウス。

 中部と関東の並み居る怪人軍団が無人の街を埋め尽くすように現れ、彼らがその先頭に立つ。

 向かう合う二人の闘志は、怪人達のどれもよりも強く激しく、それだけで街を消し飛ばすほど苛烈であった。

「ようやく会えたな、カリウス」

「ここまで来るのに随分と部下を失ったな、刀吉よ」

「それは貴様とて同じこと。主だった幹部は魔法少女に敗れたときく」

「確かにそうだな、腹心ともいうべき部下は失った。だが、君を相手にするには一切の不足はない」

「いちいち、癪にさわる野郎だ。さっさと斬り捨てたくてウズウズしてくるぜ」

「そういう君のわかりやすい気性は、私は好ましく思っているよ」

「俺は大嫌いだね」

 刀吉は腰の刀に手をかける。いつでも抜刀できる体勢だ。

「さあ、決着をつけるぞ」

「いいだろう。今こそ雌雄を決する時だ」

 カリウスもまた猟銃を構える。


ズドン!!


 そして、空へと打ち上げ、大地へと銃声を轟かせる。

 それが開戦のゴングであった。

 街を埋め尽くした怪人同士が、血と血で争う戦いが始まる。

 ある怪人は殴り、ある怪人は蹴り、

 ある怪人は燃やし、ある怪人は凍らせ、

 ある怪人は吹かし、ある怪人は轟かせ、


――その全てが血飛沫に彩られる。


 その中心にいるのは、やはり刀吉とカリウスの二人。

 刀吉は抜刀し、カリウスへと斬りかかる。

 刃先が光ると同時に、斬撃は飛ぶ。その余波で背後のビルが真っ二つに引き裂かれる。

「俺の斬撃をかわしたか!」

「私は臆病でね、君の斬撃を受ける勇気はとてもない」

「だったら黙って斬られろやッ!」

「む……!」

 カリウスは銃弾を放ち、斬撃に応じる。

 その衝撃へ光に変わり、怪人達すらも飲み込む。




「――ッ!」

 クルハは胸騒ぎを覚える。

「どうしたの、クルハ?」

「刻が迫っているわね」

「……爆弾ね」

「ええ、これだけ戦ってもまだ未来は変わらない。まだ都市が滅ぶ未来が視えてしまう」

「だけど、それを実現させる訳にはいかない。そうでしょ?」

「ええ、アルミ。私達は全力でそれを阻止するわ」

「――で、私はどうすればいいの?」

「爆弾の投下場所はここじゃなかったわ」

「それじゃ、スズミやカナミちゃん達の方に落ちるわけね」

「ええ、ここまで刻が進んだらここに爆弾が落ちる可能性は潰えたわ」

 それを聞いて、アルミは落胆すること無く前だけを見つめる。

 クルハにはその眼差しが眩しくてたまらなかった。

「じゃあ、急がないとね」

「時間は無いわ。今の私達じゃ足手まといだから」

 クルハがそう言うと、アルミはシオリやモモミに視線を向けた。二人共、火傷を負ったスイカを見ている。スイカは、炎尾の特攻といってもいい炎に身を焼かれて、一命をとりとめたものの意識を失うほどの重症を負っている。彼女を抱えたまま、移動するとどうしても遅れてしまう。

 それで間に合わなくなってしまっては取り返しがつかない。

「ええ、私一人で行くわ」

「頼んだわよ」

「言われなくても! 未来、絶対に変えるから!」

 アルミはそう言ってカナミ達のいる場所へ向かう。

「未来は変わらない。あの絶望に向かって確実に進んでいる。それでも希望はあると信じているわ」




――白い閃光が瞬いた。

 一瞬、空に太陽が一つできたかと思った。

 しかし、それは高密度に圧縮された魔力の塊が開放された瞬間だった。

 気がついたときには遅かった。

 それは爆発に変わり、何もかもを飲み込み破壊していく。

 クルハは未来がここまでであった。

 アルミやカナミや他のみんながその後どうなったかまでは確認できなかった。どうやら、確認することが出来ず生命を落としてしまったようだ。

 生きているかもしれない。そういう希望を抱くことも出来るが、死の危険は間違いなくある。

 それだけでもうクルハにとって絶望の未来であった。

 大切な人が死ぬところは絶対に視たくない。しかし、視なければ死ぬ。

 そんな矛盾が生み出す苦しみに耐えながらクルハはいつも未来を視てきた。

(私ができるのはここまで)

 絶望の未来は必ずアルミが変えてくれる。

 未来を変えるための戦いでクルハはできることはない。しかし、未来を変えたあとの戦いで出来ることは残っている。

「さて、行きましょうか」

 クルハはシオリ達に呼びかける。

――この戦争の終わりは近い。

 中部と関東の勢力のどちらが勝つかわからない。しかし、この戦いが終わったあと、ネガサイドは確実に変わる。

 それが自分達にとって良い方向になるようできることをするだけだ。

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