第22話 実習! 少女が受ける教養は魔法!? (Bパート)
「かなみちゃん、一時間目と三時間目と四時間目、どこに行ってたの?」」
「ぐう」
「しかも、五時間目からずっと寝てるしな」
「ぐう」
かなみは意味のある事を話せないぐらい疲労していた。
「ああ、こりゃグウの音が出ない状態なんだね」
貴子は納得してくれる。
(い、今は寝かせて……)
かなみは精も根も尽き果てて、ただ机の上に顔を沈めるだけであった。
身体が重い。
だるいし、思うように動かない。
しかし、仕事しないと給料は出ない。
給料は出ないと借金も返せないし、生活ができない。
結局のところ、疲労困憊の身体に鞭打って備品をチェックするのであった。
「かなみさん、大丈夫?」
「だ、だいじょうぶです……」
心配で声をかけた翠華に心配をかけまいと強がって答える。
「うーん、この状態じゃ魔法少女になってもまともに戦えないだろうな」
鯖戸はあるみに言った。
「そうね。意気込みは買うんだけど」
「意気込みで戦い抜けるのは君ぐらいなものだよ」
「かなみちゃんも出来るようになってほしいんだけどね」
あるみは期待の眼差しをほうほうの体で働くかなみに向ける。
学校行って、掃除のロッカーに潜んで、どのクラスも数学のない間の時間でちょっと休んで、学校が終わったら仕事へ行く。
そんな日が三日続いた。
四日目の今日、かなみの体力は限界を迎えていた。
というか、初日の時点で既に限界といってもよかったのだが、中学生という若さと強靭な体力で乗り切っていた。しかし、さすがにそれもダメだった。
「今日こそ尻尾をつかんでやるわ」
それでも気力と意地を振り絞って身体を動かす。
幸い、今日は数学三時間でうち一時間は自分のクラス。掃除のロッカーに隠れるのは二時間だけですむ。それでもキツイことにはキツイ。
しかも、これが全部徒労に終わっていることがかなみの精神を追い詰めていく。
「う、うーん……」
結局今日も空振り。
柏原は生徒へ襲いかかるが怪しい動きを一つ見せない。至っておとなしい普通の教育実習生であった。たまに実習らしく教壇に立って授業してみせたりしているが、それも教え方や仕草はまさしく教師のそれであり、とても丁寧でわかりやすい授業で、そして眠かった。
「こうなったら、仕方ない」
「ん、どしたの?」
かばんの中でマニィはぶつぶつ呟きだした。
もう放課後になっており、生徒もほとんど帰っているから喋っても問題ないと判断したのか、マニィは普通に声を出してくる。
もっとも、他に生徒がいたところで注意を払えるほど今のかなみに余裕があるわけがない。
「放課後もつけてみよう」
「え~それじゃ仕事に遅れるわ」
遅れたら減給は免れない。元々これはかなみの独断でやってるのだから仕事を優先する。また授業が終わったのだからもう柏原が変なことはしないだろうと考えていたのも大きい。
「彼の様子を見ていたけど授業中に何かする素振りは無かった。つまり彼が動くのはその前か後ってことになるんだけど」
「今から変なことをするつもりなの?」
「授業だけが学校生活じゃないからね。部活動や委員会活動で何かするっていうのも十分考えられる」
「た、確かにそうね……」
そうとなったら動き出さなければならない。
「やるな」
「何が?」
「君のことさ。これが限界、限界まで動いたと思ったらまだ動けるんだからね」
「そんなの、ここで限界かと思ったら動けないからよ」
かなみはそれだけ答えて職員室に向かう。
マニィはちゃっかり、そのかなみの肩に乗る。
「……あ」
しかし、その職員室に向かう途中、柏原の姿を見つけることが出来た。
隣の校舎の廊下を歩いている。
どこかに向かっているようで、かなみの目には怪しく映った。
「いくわよ」
「大丈夫かい?」
「心配してくれるの?」
かなみは意外そうに訊く。
「うん、君に何かあって借金返せなかったら我が社は大損だからね」
「ああ、そうでしょうね!」
かなみは不機嫌顔で答えて、柏原を追う。
放課後で人気が無い廊下を一人歩く柏原。
怪しい。
何か企んでいて、何か仕掛けを施すのなら、絶好の機会だ。
どうして今までこんな簡単に気づかなかったのだろう。
寝不足と焦りで頭がいっぱいになってしまったせいか。
今でも寝不足で頭が回っている自信は無いが、気づけれないくらいの注意は払っているつもりだ。
幸いにも柏原はこれといった注意を払うことなくまっすぐ歩いているため、気づかれていないようだ。
「この先は確か視聴覚室だね」
「ええ……」
あんまり入ったことがない特別教室だ。っていうか、入った記憶が無い。
それだけ誰も使っていないような教室だから、やっぱり隠れて何かをするのにはうってつけの場所だ。
「何をするのかしら?」
かなみは扉の窓ガラスからのぞく。
扉を開けたらその音で気づかれてしまうからそうやって出入り口ではりつくしかない。
「まったく、こんなところで何をやってるんですか……」
呆れ返った少年の声がする。
――スーシーの声だ!
この視聴覚室の中にスーシーがいるのか。
「ただの興味ですよ。兄さんを困らせた人がどんな人なのか、どうしても知りたくて……」
柏原の丁寧な口調が聞こえる。
その返答の内容からして、会話をしているのはわかる。
「彼女は別にボクを困らせたわけじゃないよ」
「私はそう認識しているけど」
「認識の違いかな、君は子供だからね」
「そのセリフ、兄さんにだけは言われたくありませんでしたよ」
兄さん……あの柏原がスーシーのことをそう言ったのなら、柏原はスーシーの弟ということになる。
(ええ、どういうことッ!?)
かなみは混乱した。
スーシーはどうみても小学生ぐらいの子供なはずなのに、柏原は大学生ぐらいの教育実習生である。二人が兄弟だというのなら、柏原が兄でスーシーが弟のはずだ。
なのに、柏原はスーシーのことを兄さんと呼んでて、それだと柏原が弟でスーシーが兄ということになる。
(そんなわけないじゃん!)
かなみは考え込んでいるうちに会話は進む。
「で、君はこれからどうするつもりなのかな?」
「別にどうするつもりもないよ。ただ彼女のことを知りたいだけです。それに私は子供好きですからね。大勢の子供に囲まれる教師という職業は天職ですよ」
「怪物が何を言ってるんだ? 怪物は怪物にしかなれない、天職なんてあるわけないじゃないですか」
「兄さんのそういうところ、嫌いなんですよね」
柏原は嫌悪感を露わにして答える。
「彼女だって魔法少女で中学生じゃないか」
かなみは自分のことを言われているのだと気づく。
「いずれ彼女は中学生でいられなくなる日がくるよ。今だって相当無理しているみたいだしね」
「そこがまた可愛いところなんですよ」
柏原の台詞を聞いて寒気が走る。
早いところ出て行ってこの二人をぶっ飛ばしてやりたい。
しかし、二人の狙いが何なのか、何の議論しているのかも気になる。
「まあ、そこが魅力的なのは認めるところですが。そんなことを言いたいんじゃないんだよ」
「では、何が言いたいんですか?」
「さっさと戻ってこいと言っているんだよ」
スーシーの返答から棘があるように感じた。
「計画が動き始めたんで、手駒がいくらあっても足りない状況なんだから勝手な動きは慎んでくれないかな、本当に使えない弟だよ」
スーシーのため息がここまで聞こえる。
「使えない弟を呼び戻して何のメリットがあるかと問いかけたい気持ちですが、それよりも兄さんの手駒というのが気に喰わないですね」
「弟は兄の手駒で何がおかしいのかな?」
「そんな常識はありませんよ。それよりも早く戻ってきてくれないかな?」
「今の返事がノーだという返答に気づきませんですか?」
「気づいていたよ。あまりボクを見くびらないでくれるかな。君がそういう返答をすることも想定して、
――もう手はうってあるんだよ」
ガシャン!!
スーシーがそう言った瞬間、物騒な物音が立つ。
かなみは言ってもたってもいられず、扉を勢い良く開けて視聴覚室へ入る。
「ああ、やっぱりそこにいましたか」
柏原が少しも驚かず、むしろ安堵したかのように言う。
「なんとなくそんな気がしましたよ」
スクリーンに映しだされているスーシーも納得がいったかのような態度で出迎える。
「なんだかこの前からつけられているような気がしたんですよ。でも、私をつけまわすような人はあなたしか考えられませんからね」
「あうう……」
気づかれていたと思われるとなんだかきまずい感じになる。
「まあ、かなみさんだったらつけまわす前にぶっ飛ばすかもしれないと思っていたけどね」
「それは社長にとめられたのよ」
「ううむ、その社長に感謝しないといけませんね」
まさか、社長に感謝されるとは思わなかったので、かなみは複雑な表情を浮かべる。
「まあ、それはともかくですね。これで信用してもらえましたか?」
柏原が訊いてくる。
「何をどう信用しろっていうのよ?」
「私が何もしちゃいないってことを、ですよ」
「まだ信用できないから! 特にスーシーのお兄さんだって聞いたらね!」
「……………………」
それを聞いて、柏原とスーシーは共にしかめ面になる。
「君は勘違いしているようから言いますが」
「ボクが兄でカーシーが弟ですよ。ああ、そっちでは柏原という名前を使っているんですね」
「カーシー……? っていうか、どういうことなのよ!? ええ、スーシーの方が弟で、カーシーの方がお兄さんで……じゃなくて、そのぎゃくぅッ!?」
かなみは再び混乱する。
「どどど、どういうことよ!? どうみてもカーシーの方が大人じゃない!? あんただって子供じゃない!」
「まったく心外ですね」
スーシーはため息ついて続けて言う。
「そんな常識が通じる、と思われてるとは」
「ああ、そうね」
そのスーシーの物言いでかなみは納得がいった。
「そういう連中なのよね、あんた達は」
「そうです、そういう連中なんですよ、ボク達は」
スクリーン越しに映るスーシーはどこまでも憎たらしい笑顔を浮かべてそう答えた。
「そして、あなたもこちら側なんですよ」
「こちら側って一緒にしないでよ」
「一時期は同僚になったと聞いていますが」
「ああ、そういうことね」
それはかなみがどう否定したくても拭い切れない事実であった。
「でも今は敵同士。大事なのは今よ」
「さすがですね、前向きなのがあなたの魅力ですよ」
「寒気が走るわね、この場にいたらぶっ飛ばしてやるところよ」
「まったくその暴力的発想がボク達向きというんですよ」
ウィンガシャン!
仰々しい音を立ててスクリーンが変形して、白くて巨大な謎の平ぺったい物体になる。
「ちょ、なによあれ!?」
「兄さん、いつの間にこんなものを学校に設置したと言うんですか?」
「この前にね、いろいろやってるんだよ愚弟を持つと賢兄は苦労するよ」
「そういうことを平然と言うから気にいれないんですよね」
「なんでもいいけど、私の学校にそんなものおくんじゃないわよぉッ!」
かなみは即座にコインを出して変身する。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
変身シーンも簡略化されて一瞬のうちに済ませる。
決して尺の都合ではない、とマニィは耳元で呟いたような気がするが、どうでもよかった。
「しかし、こんなところでおもいっきり戦えますかね」
「うぅ……!」
視聴覚室は狭い。しかもここはカナミの学校。
迂闊に建物を壊すわけにはいかない。
今回は仕事で戦うわけじゃないから、建物を壊したらボーナスが没収されるというペナルティではすまない。
直接、カナミの給料から天引きされるという涙目にあうことになる。
「こういうときにはこういう戦い方があるのよ!」
カナミは仕込みステッキを引き抜く。
斬撃でスクリーンの怪物を斬り裂く。
「それは幻影ですよ」
「ハァッ!?」
斬り裂かれたスクリーンの怪物は綺麗サッパリ消えて、四方に四体のスクリーンの怪物が現れる。
「これがスクリーマンの能力です」
「いきなり四体も怪物を出してくるなんて!?」
「落ち着くんだ、カナミ。全部本物のはずがない、一体だけ本物で、残り三体は幻だ」
「なるほど、本物そっくりの立体映像を出すのが能力ってわけね」
そういうときは魔法弾を撃ちまくって、映像も本物も関係無く全部に当ててやればいいのだが、いかんせん狭い屋外でそんなことしたら大破壊は免れない。
そうなったら実質カナミの負けなのだ。
「一つ! ニつ! 三つ!」
そうなったら被害を出さない、仕込みステッキで直接斬りつけるしか手はない。
ただ一体ずつ飛び回って斬るには四体は数が多すぎるし、時間がかかりすぎる。しかも、運が無さすぎる。
「四体目が本物ですよ」
四体目のスクリーマンが身体をうねらせて腕が伸びてくる。
その腕にはたかれて、机に吹っ飛ぶ。
「あいたたた……ッ!」
カナミは自分が吹っ飛ばされたことで割れた机を見る。
「これ、誰が修理代出すと思ってるのよ!?」
「君に決まってるでしょ」
スーシーは憎たらしい笑みを浮かべて答える。
カナミは苛立つ。こっちはこんなにも被害を出さないように戦っているというのに、どうしてここまであいつは神経を逆撫でするような言い方をするのだろうか。
「絶対ぶっ飛ばしてやるんだから覚悟しなさいよ!」
「ええ、どうぞ。出来るならやってみてください」
「む、むかつくー!」
カナミは歯ぎしりする。
今度は五体の映像を出してその中に紛れてしまう。
それで計六体。
さっきよりも二体多い。しかも動き回っているせいで余計に見分けがつかない。
「ああ! うっとおしい!」
六体もいることもさることながら、ぶっ飛ばしてたまらないスーシーの顔が六個もあるのがなおのこと苛立たせた。
「焦るな、カナミ」
「焦るなって言われても!」
カナミはそう言いながら一体斬りつける。
手応えが無い、ハズレだ。
「目に映るものを信じるから惑わされるんだ」
「じゃあ、どうしろっていうのよ!?」
「感じるんだ。本物ならちゃんと魔力の流れを感じることができるはずだ」
「感じるか……!」
「出来るかい?」
「出来る!」
カナミは深呼吸する。
焦るな、スーシーが憎たらしい顔で挑発してきても気にしない、感じるんだ。
「そこ! ピンゾロの半!」
カナミが感じた魔力の流れに向かって渾身の斬撃を放つ。
「斬った手応え、あり!」
とカナミはその手応えに満足した。
ゴツンッ!
その次の瞬間、横腹を思いっきり殴られた。
「ゴホッ!」
壁に激突する。
やったのは間違いなく、スクリーマンだ。
しかもカナミが斬ったやつじゃない。
つまり、カナミはハズレを斬ってしまったということだ。
「な、なんで、手応えはあったはずなのに……」
「視覚だけを欺くのはスクリーンでもできますよ」
「スクリーンがそんなことできるかぁッ!」
「それはともかくとして、魔力の流れまで正確に投影するぐらいできなくてはネガサイドの怪物は務まりませんよ」
「本物そっくりの偽者映してる時点で十分務まってると思うんだけど」
「それは偽者ですよ」
スクリーマンはさらに分身して合計十二体になった。
そのうち、スクリーマンの映像だけでこの視聴覚室を埋め尽くしてしまうのではないか、と不安にさせられる。
いくら、増えたところで一掃できる魔法があるのだが、視聴覚室を壊滅させてしまうのだから使えない。
ガシガシ! ガシガシ! ガシガシ!
十二体分の足音までしっかり聞こえてくる。
「サウンドも五.一チャンネルですよ」
そう言ったスーシーの顔はとても得意顔で憎たらしい。
「そんなこだわり、聞いていない!」
負けじとカナミは仕込みステッキで斬りかかる。
「しかし、君はくじ運が悪いな」
三体目斬りこんだところで、マニィが苦言を呈する。
「うるさい!」
カナミが四体目を斬り倒したところで、五体目が襲い掛かってくる。
――五体目が本物であった。
「ハードボード・シールド!」
白い布が飛び込んできたところで、赤と緑で彩られた盾で防ぐ。
ガツンといった衝撃を受けて、踏みとどまる。
「逃がさない!」
即座に攻撃に移る。
幻にまぎれる前に攻撃してたたけば、確実に倒せる。
「ピンゾロの半!」
スクリーンをバッサリと斬り捨てる、つもりだった。
しかし、この布が思いのほか斬りづらいために仕留め切れなかった。
「そういう捨て身でいけるのもあなたの強さだったということを失念していました」
ここでスーシーは苦い顔をする。
「意外にうっかりさんなのね、おかげで助かるわ!」
「まったくです」
カナミの背後から柏原が指を突き出す。
彼は指先に何かを持っていた。
――ペンだ。
ペン先にたれるインクが布にこびりついて、次にペンが突き刺さる。
その先に、映っていたのはスーシーの目であった。
つまり、柏原はスーシーの目を潰したのだ。
「……やって、くれました、ね……」
穴をあけられたスクリーンマンは、崩れ落ちる。その中でスーシーは恨めしそうに柏原を見上げる。
「どうして?」
どうして、敵である自分を助けてくれたのか、カナミは訊こうとした。
「勝手に私のシマを荒らされるのは気に食わないですからね」
「ボクに対する私怨も含まれていると思うんだけどね」
「それはご想像にお任せしますよ」
「タダじゃすませませんよ。カナミさん、あなたも含めてね」
そう言い残して、スクリーンマンは塵となって跡形もなく消える。
「はあ~」
柏原は一息つく。
「ありがとうございます、カナミさん」
「お礼を言われる筋合いはないんだけど」
「いやあ、斬っても斬っても外れを引き当て続けるあなたのくじ運の悪さには感動さえ覚えました」
この嫌味ったらしい言動と笑顔は間違いなくスーシーの弟だと確信させられた。
「あんたもここでぶったおしておきましょうか?」
カナミは仕込みステッキを向ける。
「ちょっと待ってください。何度も言うようですが、私は敵意はありません」
「それが信用できないっていうのよ。油断させておいて後ろからズドンなんて平気でやるような連中じゃない」
「否定はできませんね」
「じゃあ、おとなしくやられなさいよ」
「ちょっと待ちなよ、カナミ。社長からの仕事内容を忘れたのかい?」
「うぅ……!」
肩からのマニィの忠告でカナミは思いとどまる。
「『柏原がネガサイドの怪人で、人に害をなすような行為に走ろうとしたとき、これを防ぐことで賞与十万を与える。判定はマニィの手に委ねる』」
丸暗記した書類の内容を苦々しげに言う。
「私がいつ人に害をなすような行為に走ろうとしましたか?」
柏原はまた嫌みったらしく問いかけてくる。
「私を後ろから刺そうとした」
「あれは兄の怪物を仕留めるためです」
確かに彼の言うとおり、カナミの背後から一撃を入れる絶好の機会であったにも関わらず、それをせずに怪物を仕留めた。
同じネガサイドなのに、何故そんなことを?
「言ったでしょ、私は兄が死ぬほど大嫌いなんですよ」
「その気持ちはわかるけど」
思わず、そう言ったところで柏原はニコリとする。
「かなみさんと同じ気持ちを共有をできて嬉しいです」
「虫唾が走るわ」
もう、ここで仕留めてしまえばいいのだろうか。
「『ただし、彼が無害であることを証明し続けている限りは、彼を傷つけることを禁止し、傷つけた場合は罰金が発生する』」
殺気にはやるカナミに対して、追記の一文をもってマニィが制止させる。
「こいつのどこが無害だって言うのよ!?」
カナミは抗議する。
「誰にも危害を加えていないからね」
「むうう……」
「それじゃ、私の身の潔白を証明したところで」
柏原は立ち去っていく。
カナミは追いかけようとしたが、彼が廊下に出たときはもう彼の姿形はどこにも無く、なんて逃げ足の速さだと悔しさで地団太踏んだ。
「やってられるかぁってんのよ、ふみへむもにやらけ~」
カナミは机に顔を沈めた。
結局、あれは一体なんだったのだろうか。
学校にネガサイドの怪人・柏原が教育実習生としてやってきて、つけまわしていたら、そいつがあの憎たらしい幹部の少年スーシーの弟なのであった。
しかも、その柏原は自分に興味があってこの学校に入ってきたのだと言ったが、どうにも胡散臭いせいで思い出しただけでも頭を抱えたくなる。
そうして頭を抱えているうちにスーシーは怪物を送り込んできた。
カナミはその怪物と戦ったが、仕留めたのはこれまた弟の柏原であった。
――とんだ茶番よ
昨日あった出来事の一部始終を思い返すと、そう言わずにはいられなかった。
もちろんこのことは、あるみに報告した。
ひとしきり語り終わると、あるみは「ああ、そう」とあっさり納得した。だが、かなみには納得がいかなかった。
「このまま放っておいていいんですか?」
我慢できずにかなみは訊いた。
「放っておくわ。害は無さそうだしね
ただ、誰かに危害を加えようとしたときはよろしくね」
あるみはそう言って出張に出てしまった。
おかげで柏原のことは有耶無耶のまま今日を迎えることになった。
授業開始とともにやってきて、教室の片隅にたたずむ柏原に目をやる。彼はかなみの視線に気づくとニコリと嫌味ったらしく笑みを返した。
(今に見ていなさいよ!)
かなみは負け惜しみにも似た感情をたたきつけてやった。
だがしかし、助けられたのは事実だし、明らかな敵意や害が無いみたいだから少しぐらいなら警戒は解いてもいいかもしれない。とはいっても、あの男がどうしても気に食わない。
仕事とかそういうのを抜きにしてもぶっ飛ばしてやりたい。
かなみは必ず尻尾をつかんで、ぶっ飛ばす大義名分を手に入れる。あとついでに報酬も。
「はい!」
前の席に座っている平川という女子からプリントがまわってくる
「え、これなに?」
「小テスト」
「……え?」
燃え滾っていたかなみはその一言で一瞬にして凍りつく。
「しょー、てす、と……?」
「きいてなかったの? 今日は抜き打ちで小テストするって」
「なんですってぇぇぇぇッ!?」
かなみは絶叫した。
柏原はその様子を見て笑いをこらえるのに必死であった。
そして、小テストの結果は……
――意外にも高得点であった。
休み真っ只中で執筆作業をしている作者です。
本編でかなみちゃんは数学の授業をききまくった影響で点数が上がったんですが、こんなことありえないだろって思いながら読んでた思いますが、安心してください。作者もそう思っていました。
実際、数学って聞くだけじゃなくて公式とか図形とか見て覚える必要もあるんでこれで点数が上がるわけがありません。ましてやかなみちゃんは聞いて覚えることが目的でやってたわけじゃないですから!
そこだけは作者も思っていたんで、それだけ言いたくてあとがきの場を借りて言いました。
後悔はしていません、反省もしていません(ダメだこいつ・・・)
というわけで、
次回もよろしくお願いします!(アイキャッチ)




