第107話 会議! 少女にのしかかるは重役の重荷!? (Cパート)
それから、支部長会議は始まった。
まずは自己紹介だった。
「名前と肩書と特技と、あとは何か一言言う事」
カリウスは言う。
(支部長会議なのに、あんたが取り仕切るのね……)
かなみは心密かにツッコミを入れる。
「僭越ながら……」
影鉄が立ち上がる。
「こういうのは新顔からやるのが習わしだと思いまして、まずはこの私めが」
影鉄は胸に手を当て、丁寧に一礼する。
「皆様、始めまして。新しく中部支部長に就任しました影鉄です。特技は壊すことですね。ここに石がありますね」
影鉄はどこからか人の頭くらいある石を取り出す。
その石を上へ放り投げて、人差し指で突く。
バァーン!
石は花火のような爆音を立てて粉々に砕け散る。
「まあ、このくらい芸当でしたらここにいる皆様でしたら簡単にやれると思いますが、私の特技といったらこれくらいです。それでは最後に一言、この度は十二席の候補生から支部長に就任しまして実質降格かと正直落胆していましたが、候補生に返り咲くどころか一足飛びで十二席の座につけるチャンスを与えていただいて感謝で言葉もありません。必ず私があなたを倒して十二席の座につかせていただきます。以上です」
影鉄はそれだけ一通り話して、丁寧に一礼する。
「うん、新顔からということは次はオラか」
メンコ姫が立ち上がる。
「つい先日、東北支部長に就任したメンコ姫だ。前東北支部長・応鬼は魔法少女に敗れた。いつまでも支部長の座が空席だと収まりが悪いとそこのカリウスが要請してきたので、オラが抜擢された」
魔法少女に倒された、のところで一瞬カナミを見たような気がする。
やっぱり前支部長、つまり上司を倒したということで魔法少女に恨みを持っているということなのだろうか。
(倒したのは、私じゃなくて社長なのに……)
そう心中でぼやかずにはいられなかった。
「特技は舞だ。一つ見せる」
メンコ姫はそう言って、会議室の中央に立つ。
そうして、メンコ姫は舞を披露する。
自分の背丈の倍以上もある棍棒を背中に背負いつつも重さを全く感じさせずに軽やかに舞う。
花びらが周囲に風とともに飛び散った。
そんな錯覚を起こすほどに、メンコ姫の舞は優雅だった。
童女の細くて短い手足を存分に振るう。
それは可憐であり、華麗という他なかった。
(凄い……きれい……)
かなみは素直にそう思った。
ピョン
いきなりメンコ姫はウサギのように飛び跳ねて、宙を舞い、一回転する。そして、見事に着地する。
それが舞の締めだったようだ。
パチパチパチパチパチ
かなみは自然と拍手を送っていた。
かなみに端を発して、ヨロズ、いろか、マイデとハーン、極星、カリウスも拍手を送る。
「――!」
そこで、かなみは突然拍手を止める。
メンコ姫と目が合ったからだ。
般若の面で表情どころか視線も定かに見えないものの、確かに目が合った実感がある。
(やっぱり恨んでるよね……)
彼女が東北支部長という肩書なのでかなり強い実力なのは間違いない。
そういう怪人に恨まれて敵視されるのは不安で肩身が狭くなってくる。
「なるほど、目の付けどころは良い」
ヨロズもそんなメンコ姫の視線を察して言う。言っていることは、かなみからしたら的外れもいいところなのだけど。
「褒めるところ、そこなのね……って、新顔ってことは次はあんたじゃないの?」
「そうだな」
かなみに言われて、ヨロズは立ち上がる。
「カリウス様からの指名で関東支部長に就任したヨロズだ。特技は……そうだな。今はこの人間の身体をしているが、この身体は元々様々な獣の身体を寄せ集めてできている。だから獣ができることはできる。こんな風にな」
ヨロズの背中からコウモリの羽が生える。
その羽を羽ばたかせて、浮遊する。
「あとは熊の力だが、これを使うと――」
「会議室が壊れるな。それは勘弁して欲しい」
ヨロズが確認するように、カリウスへ視線を送るとそう答える。
「ならば、そうだな……――超音波だな」
ヨロズは口から超音波を発する。
ピィィィィン!
耳をつんざく甲高い音が鳴り響く。
外の窓ガラスにヒビが入る。
「あのガラス、銃弾を弾く特別製なんだけどね」
カリウスが言う。
「面白い特技やな。それにまだまだ隠し芸を持ってそうやしな」
「宴会芸! 宴会芸!」
マイデとハーンが興味深そうに言う。
「こんなものでいいだろう。それで最後に一言か。今回カリウス様を倒せば十二席の座を与えられる話だが、俺はそれよりも成さなければならない目標がある。それは――」
ヨロズは、かなみを指差して宣言する。
「魔法少女カナミを倒すことだ」
自然と、かなみへ視線が集中する。
(ちょっと、こんなところでわざわざ言わなくてもいいのにぃぃぃぃッ!!)
かなみとしては不本意極まりない。
「十二席の座よりも優先すべき目標か」
チューソーは言う。
「なるほど、そいつはいいぜ! 俺もあいつを倒してやりたいと思っていたんだ!」
ヒバシラが闘争心を燃やして、かなみを指して言う。
(ええぇぇぇぇぇッ!!? なんで、私が標的にされるのよぉぉぉッ!?)
かなみは理不尽だと思った。
そんな様子を見て、カリウスはさも愉快そうに微笑んでいる、ように見えた。カリウスの顔は見えないものの、彼の言動からしてそうに違いないと思った。
「――以上だ」
そんな盛り上がっている中、当の火種をまいたヨロズは我関せずと自己紹介を締めくくった。
席に戻ってきたヨロズをかなみは恨めしげに視線と思念を送るけど、ヨロズは全く気にしていなかった。
「次は私ね」
いろかが立ち上がる。
「ついこないだ九州支部長になった、いろかよ。特技はそうね、幻術なんだけど一つ見せてあげるわ」
いろかはそう言って、右腕を天井へ掲げる。
「――!」
すると、各支部長の背後にいろかが立っていた。もちろん、かなみの背後にも。
同じ姿、同じ顔をした九人のいろかが背後から首筋へ手刀を突きつける。
「これはまた……」
ヨロズは感心する。
「ふざけた趣向だ」
チューソーが言う。
「いやはやいやはや、悪趣味ですね。怪人らしくて好ましいですよ」
影鉄は愉快そうに言う。
「これが幻術か。ならば、この場で命を取れるようなものではないか」
メンコ姫は言う。
「その通りよ」
いろかは腕を下ろす。
すると、各支部長の背後にいた九人のいろかの手刀が首筋を刺す。
「――!」
かなみは心臓が飛び上がりそうなほど、仰天する。
しかし、痛みはなく、血も一切流れない。
いろか達は幻でしかなかったため、手刀は通過するだけだった。
「面白かったでしょ?」
いろかはそう言って、背後のいろかを消す。
(悪趣味よ……!)
かなみは心の中で悪態をつく。
「あとは一言ね。私は楽しそうなことが大好きだからこのゲームは楽しませてもらうわ。――楽しむついでに最高役員十二席の座をいただいちゃっおうかな、ともね、フフフ」
いろかは怪しげな笑みを浮かべて言う。
「それじゃ、次はわいやな!」
マイデとハーンが立ち上がる。
人形を持った黒子で、どこかの劇団員の人かなと、かなみは思った。
「わいは、ハーン! この人形はマイデ! 二人合わせて近畿支部長・マイデとハーンや!」
パッパラパーン、と効果音が鳴ったような錯覚がする。
(でも、そのまんま……)
かなみは心中でツッコミを入れる。
「特技はみてのとおり、腹話術や」
「またの名を腹芸ともいう、ハハハハ!」
人形のマイデは不気味に笑い出す。
(でも腹話術くらいだったら、普通のような……)
かなみが疑問に思う。
「まあ、このくらいの芸当は普通の人間でもできることや。それじゃ怪人の特技は言えへんやろ。というわけで、こういうのはどや!?」
ハーンがそう言うと、各支部長達の前に人形が現れる。
全てが可愛らしいメイド服を着飾った少女の人形だった。
「意趣返しというわけね」
いろかはニヤリと笑う。
「「「見ての通り、わいは人形集めが趣味でな」」」
少女の人形からハーンの声がする。
(可愛いのに野太い男の人の声……気持ち悪い……)
「なるほど、これは悪趣味だ」
ヨロズが言う。
「あんたもそういう感覚があるのね」
「よくわからないが、そう感じる。テンホーが言うには生理的嫌悪というものらしい」
「そういうことも教えてもらってるのね」
もっとちゃんとした教育をするべきだとテンホーに物申したい気分だった。
「「「こうして集めた人形にうちの声を吹き込むことができるんや」」」
人形からハーンの野太い声がする。
「い、いらない……」
かなみは思わず声に出して言ってしまう。
「「「ちょっとそこのあんた!」」」
人形は、各支部長(+かなみ)に向けて指差して言う。
「「「これを悪趣味やと言うたな! 安心せいや、うちもその自覚はある!!」」」
「どう安心しろっていうのよ!?」
かなみは条件反射でツッコミを入れる。
「「「お……!」」」
人形の女の子達は、一斉にかなみを見る。
「え……?」
「「「お嬢さん、いいツッコミしてはるな」」」
「いいツッコミ?」
「「「ちょうど新しい人形が欲しかったところや」」」
「新しい人形!?」
「「「お嬢さん、知ってはりまっか? 人形っていうのは人の形と書いて人形っていうんやで!?」」」
「知ってるわよ!? そのくらい!? って、ちょっと待って、人の形って?」
「「「おー、きぃつきはったか? せやせや、人の形をしているならすなわち人そのものでもいいってわけや!!」」」
「どういう理屈よ!? 早い話が人さらいじゃない!!」
「「「ハハハ、いいツッコミやな。ますます相方に欲しくなったわ。お嬢さんも加えて近畿支部長・マイデとハーンと魔法少女カナミで売り出していこうや!」」」
「そのまますぎるでしょ!? っていうか、長すぎるわよ!?」
「「「ナイスツッコミや! 正直十二席の座よりお嬢さんが欲しいわ!」」」
「ええ、そんな告白嫌なんだけど!?」
「「「あかん、断られてもうたか!?」」」
メイド服の女の子達は落ち込んだ足取りでマイデとハーンに集まる。
「こんなにも簡単に断られたのは初めてや。――まあ、断った奴がどうなったかは言えへんけど」
ハーンは不気味に笑う。
「え、どうなったの!? 怖いんだけど!?」
かなみはツッコミを入れる。
「せやけど、わいは簡単に諦めへんでー、必ずお嬢さんを相方に引き入れてやるわ」
ハーンはそう宣言して、席に着く。
「すごい……疲れた……」
かなみはツッコミ疲れでため息をつく。
「近畿支部長に勧誘されるとはな、さすがだな」
ヨロズは言う。
「さすがって言われるほどじゃないものだと思うんだけど」
ただツッコミが評価されただけなのに。
「あのマイデとハーンにまともにツッコミを入れられるとはな」
極星はかなみに感心する。
「しかも、勧誘をいとも簡単に断るとは……」
チューソーも同様だった。
「ヘヴルを追い詰めただけのことはあるぜ! ただの怪人とは一味違うみたいだぜ!!」
意外なことに、ヒバシラも評価していた。
「……なんで、私評価されてるの?」
かなみは困惑する。
思いもよらないことで評価されている。しかも、望まぬ方向、望まぬ方達から。
「次は俺か」
チューソ―はそう言って立ち上がる。
ネズミの顔をした筋肉隆々の偉丈夫で、怪人らしい異様な姿をしている。というのが、かなみの印象だ。
「中国支部長・チューソーだ。特技はこの腕で斬ることだ」
ウィィィィィィィィィッィン!!
チューソーの腕が唸りを上げて、腕に仕込まれた刃が振るう。
「――と、この腕で斬ってしまったら、ホテル側に迷惑がかかってしまうな」
「そのとおりだ。気遣い、ありがたいよ」
カリウスは言う。
「それで一言だが、俺は必ずこの腕でカリウスを斬って最高役員十二席の座をいただく。ついでに、魔法少女カナミを斬ってみたい。以上だ」
チューソーは決意表明を言い切って、座る。
(ええぇぇぇぇぇ、私ついでに斬られるのぉぉぉぉぉッ!?)
かなみはいきなり、「ついで」扱いで標的に指名されて狼狽する。
「次は俺だな」
ヒバシラは立ち上がる。
バチバチ!
燃えている身体の周囲で、火花が散る。
全身炎で燃えていて、名前の通り、火の柱をそのまま体現したような怪人だった。
しかも、先程から怒る度にその身体の火は激しく燃えて、火事にならないか、かなみは不安になる。
「俺は四国支部長・ヒバシラだ。特技はまあ見ての通り燃やすことだ」
ボォォォォォォォォッ!!
ヒバシラの身体は勢いよく燃え上がる。
大火事になるかと思う勢いで燃え広がったが、火の手は支部長達の手前で綺麗に止まる。
「まあ、こんなところだ」
ヒバシラは自慢げにそう言うと火は跡形もなく消える。
床も天井も壁も焼け焦げた後が無い。
一瞬、幻を見せられたのかと思った。
「あ……」
しかし、制服の一部が焦げ付いていることに気づく。
さっきの火で焼かれたのだろう。とすると、さっきの火は幻じゃなかった。
よく見ると、ヨロズの服もかなみの制服と同様に焦げ付いている。他の支部長達もどこかしらが焦げ付いている。
「って、何焼いてるのよ!?」
かなみはいの一番に抗議する。
「特技を見せろっていうから見せてやっただけだ! なんだったら、お前を黒焦げにしてもよかったんだぜ!」
ヒバシラの反論に、かなみは口を噤む。
彼の力なら人間一人を黒焦げにするくらい造作もない。それは、魔法少女になっても変わらないだろう。そのくらいの力の差を感じる。
「それは聞き捨てならんな」
ヨロズが立ち上がって言う。
「ヨロズ……」
ここに来て、初めてヨロズが頼もしく感じる。
「ほう、どう聞き捨てならんっていうんだ!?」
「お前ごときに易々と黒焦げになる魔法少女カナミではないということだ、そうだろカナミ?」
ヨロズはかなみの方を振り向く。
「ちょ、そこで私に振らないでよ!?」
「なるほど、俺ごときじゃ火遊びにもならねえってことか!?」
「言ってない! 言ってない!」
「上等だ!? お前とはヘヴルと戦った時からシロクロはっきりつけたかったんだ!?」
「あ~、あの時から目をつけられてた、ってこと?」
「まあ、当然の成り行きだな。もっとも、かなみの方は眼中になかったようだが」
ヨロズがさらに挑発する。まさに火に油を注ぐ勢いだ。
もっとも、かなみからするとヘヴルを倒すことだけに集中していたからヒバシラを気にしている余裕などなかった。そういう意味では、眼中になかったというのもあながち間違っていない。
「なるほど、眼中になかったわけか! さっきから平然としていたのはそういうわけだったのか!?」
「ち、違いますから!! 因縁つけられないようにしてただけなのに……」
思いっきりつけられてしまった……。
「だったら、無視できないくらい焼き尽くしてやるぜ! 覚悟しておけよ、カリウスを焼いたら次はお前だ!?」
ヒバシラは燃え上がる人差し指をかなみを向ける。
文字通り熱い指名に、かなみは呆然と立ち尽くすしかなかった。
「それでも第一指名は私か」
カリウスは言う。
「当たり前だ! てめえの首には十二席の座がかかってるんだからなあああ!!」
ヒバシラは絶叫する。
「かなみは第二指名か」
「なんで、あんたが不満そうなのよ?」
かなみはヨロズへ言う。
「盛り上がっているところ申し訳ないが、そろそろ我の自己紹介を始めていいか?」
極星が立ち上がり、ヒバシラへ問いかける。
「ああ! 俺はもう言いたいことは言ったからな!!」
ヒバシラは席に着く。
「それでは……」
極星は周囲を見渡す。
彼と視線が合うと、思わず目を伏せたくなる。彼の身体は金色に輝いていて、目が合うとその輝きは目に入って直視できない。まるで太陽を見ているようだった。
しかし、その輝きの中心には人の形をしたシルエットが見える。それがおそらく極星の身体なのだろう。
輝く星の中にある人の影。彼は彼で怪人らしい異様な姿だと、かなみは思えた。
「我は北海道支部長・極星。特技はビームだ」
極星の光が収束して、一直線にビームが放たれる。
全身三六〇度、あらゆる角度からビームは放たれ、それらが天井、床、窓に反射して会議室中を駆け巡る。
「――!」
当然、各支部長とかなみにビームが当てられる。
しかし、痛みや熱さを感じない。
「余興なので攻撃するつもりはない。もちろん、攻撃するつもりになれば君達を焼くことは造作もない」
「俺の真似かよ! 二番煎じは受けが悪いぜ!」
ヒバシラが物申す。
「それはごもっともであるな。では、これでどうだ?」
極星がそう言うと、ビームは屈折して部屋の中央へと収束する。
パァン! と、光が弾けて、オーロラになった。
「キレイ」
かなみは思わずそのオーロラを絶賛する。
「チィ」
ヒバシラは舌打ちする。
「これでもまだ宴会芸ではあるが、お気に召したかな?」
「フフフ、気に入ったわ」
いろかは笑って言う。
オーロラは極星の手の方に浮遊する。そして、手の平の上へ収まっていく。
「さて、最後に一言だが、我とて最高役員十二席の座は欲しい。よって、カリウスの首は我がいただく」
極星はカリウスへ宣戦布告する。いや、他の支部長に対しても。
「上等だ!」
ヒバシラは笑みを浮かべてそれを受ける。
「冷静沈着の皮を被っていても、怪人らしく野心家だな」
チューソーは極星をそう評する。
「さて、これで一通り終わったな」
極星はそう言って、席に着く。
「いや、まだ残っている。肝心の主賓がね」
カリウスはそう言って、かなみへ視線を向ける。
「え?」
「今回の会議の主賓だよ。魔法少女カナミ」
カリウスがはっきりとそう指名したことで、各支部長の視線も集中する。
(ええぇぇぇぇぇッ!?)
かなみは仰天する。
「ああ、そうだな。ちょうどいい機会だ」
ヨロズは同意する。
「あんたは黙ってて……」
「ええ、そうね。私もあなたのことを知りたいわ」
いろかは微笑んで楽しげに言う。
「うむ、そうだな」
チューソーは腕を組み、興味深そうにかなみを見る。
「せやせや、わいらも魔法少女カナミはんのことは知りたいでー」
「とっとと自己紹介せえや。グズグズするな」
マイデとハーンは楽しげに言う。
「自己紹介、是非お願いします」
影鉄まで言い出す。
「………………」
これはどうしても自己紹介しなくちゃならない雰囲気だった。
もし断れば、この場にいる支部長全員を敵に回して戦いかねないかもしれない。
そうなったら、かなみなんてひとたまりもない。
「マニィ……」
かなみは小声でマニィへ呼びかける。
今、頼れるのは彼だけだ。彼がいい助言をくれることを期待する。
「やるしかないよ」
しかし、マニィの返答は予想通りかつ妥当なものだった。
元々全てを解決してくれるような冴えた返答は期待していなかったけど、それでも期待してしまったので、これでいよいよもって頼れるものはなくなって追い込まれた。
(仕方がない)
かなみはいよいよもって観念して覚悟を固める。
「すーはー」
せめて、胸だけ張って堂々としようと一呼吸する。
そして、支部長達を見渡す。
「私は結城かなみ。皆さん知っていると思いますが、魔法少女カナミです。今日はヨロズに紹介されてこの場にいます」
かなみはできる限り丁寧に礼儀正しく自己紹介を始める。
「特技は……そうですね。これくらいしかできないですけど……」
カナミはコインを取り出す。
「マジカルワーク!」
コインを放り投げて、宙を舞ったコインから光が降り注ぎ、かなみを包み込む。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
そして、黄色の衣装を身にまとった魔法少女が姿を現す。
「ほう」
メンコ姫は小さく感嘆の声を漏らす。
「おもしれえじゃねえか。変身っていうのか、そういうの」
ヒバシラが言う。
「ええ、そうよ」
「んで、次は何を見せるんだ? まさか、これだけってことじゃねえだろ?」
ヒバシラに煽られて、カナミはためいきをつきかけるけど、こらえて、会議室の中心に立つ。
「言っておくけど、あの大砲を撃って会議室を壊したら……」
カリウスは念を押すように言う。
「わかってるわよ。会社に請求されたら困るから」
カナミはそう答えて、ステッキを構える。
とはいえ、カナミの魔法はほとんど砲撃で、何らかの芸をしようにも砲撃で会議室を壊してしまう。
それなら、砲撃でも家屋を壊さない魔法を使ってみよう。
(ちょっと練習してみたけど、上手くやれるかしら……)
カナミは使い慣れない魔法に不安をこみ上げるものの、これくらいしか彼らを満足させる手はないと割り切る。
「レインボー・ファイヤーワークス!!」
カナミは魔法弾を天井に向けて撃ち込む。
パァァァン! パァァァン! パァァァン! パァァァン! パァァァン!
そして、魔法弾は天井に達する前に弾ける。
それらは七色に輝いて発散する。花火のようだった。
「これでどうでしょうか?」
カナミは支部長達へ問いかける。
表面上は堂々としているけど、気分を害していないか、ステッキを持つ手は汗で滑り落ちそうになっている。
パチパチパチ
いろかが拍手を送る。
続いて、マイデとハーン、極星、メンコ姫、そして、ヨロズが拍手する。
「キレイだったわよ」
いろかは称賛する。
そう言われて、カナミはホッとする。
「それでは、最後に一言……」
カリウスはカナミへ促す。
「そ、そうだったわね……でした!」
カナミは慌てて訂正する。
こういうときに彼の気分を害しても危険だった。もっとも、敬語で喋らなかったくらいで気分を害するような男でも無いきがするけど、念のためだ。
「私は――」
カナミは支部長達を見渡して言う。
「最高役員十二席の座につこうとは思いません! なので、ゲームに参加するつもりないですし、あなた達と戦うつもりはありません! 以上、終わりです!」
カナミは後半、まくし立てるように言って、中心から退場してヨロズの元へ戻る。
「いい啖呵だった。支部長達に取り囲まれた状況下でよくそれだけ言えた」
チューソーは感心する。
「しかし、十二席の座につこうとは思わないか! そのわりにはヘヴルとの戦いじゃ思いっきり戦ってたのはどういうこった!?」
ヒバシラは疑問とともに身体の火を燃やす。
カナミに何を言っているのかわからなかったけど、その疑問とともに生じる敵意だけは感じとってしまたt.
(ちゃんと戦うつもりはないって言ったのに!?)
カナミは理不尽さを感じる。
支部長というのは身勝手極まりない怪人達の上役。理屈や説得は通じないんじゃないかと思い知る。
「でも、これで自己紹介は一通り終わったわ。カリウス、次は何をしようというの?」
いろかはカリウスへ問う。
「別に私は指示を出すわけではない、そのまま会議をすればよかろう」




