凹みと凹み
凹みと凹みでも上手く重なる部分はある。
でも、どうしたってはみ出てしまう部分はある。
そこは、いつも野ざらしで、重なっている部分の暖かさが、逆に晒されている処から体温が常に奪われていることを意識させてしまう。
失われる体温は、暖めてくれるあなたの体温をとても意識させて、その暖かさに涙が出そうになる。
でも、あと少し、もう少しでいいから、もっとあなたの暖かさを感じさせて欲しいと思うのは。
あとちょっと、もうちょっとでいいから、晒され続けて体温を失った処に貴方の暖かい手をのばして欲しいと思うのは。
そんな思いをずっと持ち続けているのは、
伸ばした手の先で、重い荷物を持ち続けているのと同じくらい、
とても、辛いことだったのよ。
そのことに気付いていて、貴方に伝えられなかったこと。
気付けなかった鈍感を棚に上げて、
「言ってくれれば良かったのに」って責めるのでしょうか?
そうね、言わなければ伝わらないわよね、それはそうね。
”察してちゃん”っていい年して言われてしまいそうね。
でも、ふとした弾みにひそめてしまった眉や、こわばってしまった口元からそれを読み取って欲しかったと思うのは、我が儘が言えない私の、一番の我が儘だったのよ。
わかりにくい女だったわね。それについては謝るわ、ごめんなさい。
それに、私の方から貴方の重なっていないところへ手を伸ばして、
貴方にもそんな冷えて乾いた部分があるということを伝えて、
放って置かれたその部分が暖められる時の胸が震えるような、まるで春の日差しが体の中に生まれたような、そんな感覚を、先に貴方にわかってもらうこともできたのでしょうけど。
そうと考えることも出来るのだけれど、先に貴方に暖めて欲しかったのよ。
暖炉に薪をくべてもいないのに、先に暖めて欲しいと、そんな我が儘を言っているのと同じ事、と今になって気付いて、自嘲の笑みが口元に張り付いてしまうのを止めることが出来ないのだけれど。
胸にぽっかりと空いた穴が何故か眉間に鈍く重い塊を押し付けて、その塊の熱さに堪える事が出来ないのだけれど。
重なっていた部分が離れて、お互いに融通しあっていた熱が、まるでコンクリートの上に撒いた水が夏の日差しに当てられて揮発していくかのように消えていくのを目の当たりにして、逆に何故かちょっとほっとしている私がいるわ。
それなりに穏やかで心休まる日々をすごしていたと思っていたのだけれど、それなりにじめじめとしていたのかしらね。
あっさりと乾いていくように消えていく熱に名残を惜しむ気持ちはもちろんあるのだけれど、そんな水気が揮発していく時に私のなかにこもっていた鈍くどんよりとした熱も解き放ってくれているようで、ちょっとずつ気分が楽になるわ。
後で、目元を冷やして、その後、夕飯の献立でも考えましょう。
それまでは、もうちょっとだけ、このままで。