表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

“戦いのまえ”

 三階建てのビルの屋上からは、廃墟と化した街並みが見渡せる。

 辺り一面に薄く積もった雪が夕陽に照らされ、世界は紅く染まっている。


 経年劣化や植物の侵食、冬ごとの積雪によって、ほとんどの建物が崩れたり傾いたりしている中で、少年が立つビルはかろうじてその形を保っていた。

 少年は南西の方角を眺める。太陽は既に半分ほど、山々の影へと隠れつつある。

 彼はその視線を右に向け、遠くに見え隠れする目標が、木々を薙ぎ倒す音を聞いた。


 少年は厚手のジャケットの内側から赤い携帯電話スマートフォンを取り出して、この作戦の発案者との会話を始める。


「そろそろか」

『うん、あとちょっと……関さんは函館に戻れたかな』


 少女の言葉に、少年は背後を振り返る。南東の空は既に蒼く、空を飛ぶ鳥の視界なら、遠くに街の灯りを見つけられそうだった。


「あっちは大丈夫だろ。どっちにしても、俺たちが失敗したら後がないんだ」

『そうだね』


 夕焼けに向き直った少年は携帯電話を操作し、通話状態を維持したままアプリケーションを選択する。

 液晶画面に“術式コード”が表示されたのを見て、彼は携帯電話をジャケットの中に仕舞った。


『無茶して死なないでよ』

「わかってる。指示は頼んだぜ」


 腰から下げていたサーベルの柄を掴み、鞘から半分だけ抜いて具合を見る。

 左手で拳銃を抜いて構え、すぐに右脇のホルスターに戻す。

 使い慣れたふたつの武器の調子を確かめながら、少年は白い息を吐いた。


「夢じゃ、ないんだよな」

『それは、突き詰めるとなかなか哲学的な話になるね』

「そうかい」


 建物が踏み潰される音が響く。淡く光る鱗とたてがみが、地面を揺らしながら少しずつ近づいてくる。


 西風が運ぶ冷気が少年の頬を撫で、眼と鼻を刺激する。

 動きを妨げる防寒具を脱いで、少年は呟いた。


「……寒いな」

『うん、まあ。そっちは冬だもんね』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ