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恋愛頻度 ~俊典と珠希の場合~  作者: 綺穂
Usually強がりな彼女
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第3話

「ただ今戻りました」


「蓮宮! A社の契約は!」


「取って来たに決まってるじゃないですか」


「内容は?」


「こちらのものを八割方呑んでいただきました」



 さらりと言ってのける端正な顔立ちの女に、次々と質問攻めにしていた男たちはほとんど呆然に近い顔をした。

 それもそのはず。A社の担当者と言えば非常に偏屈なオヤジで、同業者からも難攻不落として有名だったのだ。



 それを、あっさり落としてしかも八割呑ませたとは……



「お前、どんな手使ったんだ?」



 思わず訊ねてしまった、課で二番目に若い後輩の気持ちは、手に取るほどよく分かった。


――そうだよ、聞きたいことは聞きたかったんだ。


 呆然としていた男たちの眼が、お前よくやったとそいつに訴えかけた。



 しかし、訊ねないのには訊ねないなりの理由がある。


 その後輩よりも少しだけ年を喰って、少しだけ賢い俺たちは、その結末を予測出来たからこそ訊ねようとはしなかったのだ。若さゆえの勢いだと羨ましく思いながらも、哀れみが先に立つ。



「そんなことも考え付かないなんて、加島さんもたかが知れてますね」



 はい、ノックアウトー。



 きっと皆が同時に思ったことだろう。そしてその言葉が自分に降り注がなかったことに、とにかく胸を撫で下ろしたに違いない。

 課で一番若い、しかも綺麗な女の子の口から放たれるそんな一言は、男のプライドを深く抉るには充分だ。

 


 そして皆の視線は俺に向けられる。おい、あんたどうにか救ってやれよ、と言う声がひしひしと俺を責める。



 俺は意を決して、舌戦になりかけたその雰囲気に口を挟んだ。



「蓮宮、加島。どうでもいいから仕事に戻れ。蓮宮は詳しく報告」



 すると二人は面白いほどにシンクロして頷き、蓮宮はいつも通りのポーカーフェイスを張り付けて俺のところへやってきた。

 こいつ、笑えばもっと可愛いと思うんだけどな、と思うが言わない。セクハラだと訴えられるのも嫌だし、何より癪だからだ。






 蓮宮がうちの課に来て、ひと月は経っていた。



 最初に彼女が紹介された時、俺は思わず眼を見張っていた。


 ドラム缶というあだ名が妙にしっくりくる課長の隣に立った、すっと背筋を伸ばした美人は紛れも無くあの日食堂で眼を奪われた美人。あの真一文字に口を引き結んでいた彼女は、ほんの少しだけその口元を緩めた顔で、真っ直ぐ目の前を見つめていた。



 そして、はたと気付く。美人はこっちだとして、生意気は?



「課長、今期の移動は二人では無かったんですか?」



 けれど課長から返ってきたのは、なかなか咀嚼出来ない言葉だった。



「いや、一人だよ?」



 その言葉を聞いて、まさかこの美人と「生意気」を結びつけられる人間はいないだろう。

 しかし「生意気」の意味を、俺たちはその後たっぷりと学習することになるのだった。






 一を言えば、十返ってくる。それは、いい意味でも、悪い意味でも。



 彼女を表わしてしまえばそんなところだろうか。



 仕事は確かにものすごく出来る。男には負けたくないという気持ちが強いのだろうか。女というだけで多少のハンデにはなる営業の仕事も、その意地と根性で粘り強くこなす。

 元は地方の支社にいたらしく、よく出来る新人だといってそこの支社長直々に推薦してきたらしい。


 実際、彼女は最年少で主任に出世した(らしい)俺とみっつしか変わらない訳で、それは女という括りでなくてもすごいことだと言えるだろう。



 けれど物言いが、なかなか厄介だ。営業用とその他で分けているのだろうか、その他の方ではあまり遠慮が無い。

 それに加えてあのポーカーフェイスの端正さは、強力な凶器となるのは言わずもがな。生意気、という印象もよく分かる気がした。








 そしてそんな、ある日のことだった。





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