第1話
俺の恋人は、大抵強がりの鎧で自分を覆っている。
彼女――蓮宮珠希が言うには、それは彼女が物心ついた時からのスペックの一部らしい。結構ストレートなモノ言いをする彼女は、昔からよく勘違いを受けては、上の人間には「生意気だ」と言われ、同学年や下の人間には「怖い」と言われてきたらしく、そんな勘違いから来る嫌がらせや根も葉もない噂話も、笑って流せるようにならないと仕方無かったのだという。
まあ確かに、そんな話を聞いて頷けなくは無い部分は多々ある。
実際のところ、俺自身が彼女を見た時の第一印象は『生意気そうな女』だった訳だし、それはとあるきっかけが無ければ多分崩れないものだったのだろうから、彼女のイメージに対して俺が他人へ理解を求めるのはいささか筋違いというものだろう。
あの辛辣な言葉が、裏を返せば彼女の陰日向のない性格を表していることだって、それに攻撃力を上乗せするあの整った顔立ちを、彼女が望んで得たものじゃないことだって、よくよく考えてみなければ分からないことを俺は充分に知っている。
そして彼女は、深く付き合えば付き合うほど面白い側面がぽろぽろと出てくる人間なのだ。
まさかあの容姿の端麗さで男経験がほとんど無いなんて夢にも思わなかったし、動物の出てくる映画やヒューマンドラマなんかを見たら目を真っ赤に腫らして泣いてしまうほど涙もろいなんて意外にも意外だった。
なんてイメージだとは思うが、俺としては、その綺麗な顔という仮面で性格を覆い隠しては男を食いまくっている印象や、感動モノで泣いている年下の女の子に向かって「下らないわね、そんなの見て泣くなんて」と小馬鹿にして笑うような印象が強すぎたのだ。
でもそう思っていた分、慣れないスキンシップにあたふたして縋るように俺を見上げる子犬みたいな顔とか、泣き腫らして鼻まで真っ赤にして「見ないで!」と恥ずかしそうに俯く仕草とか、そういったものがツボすぎて堪らない。彼女の親友曰く、「クールな仮面を剥ぎ落とす瞬間には快感すら覚える」というのは本当にそうだ。涙目でプルプル震えていた時なんか、いっそそのまま泣き叫ばせてやろうかと――
……コホン。
とにかく、俺は現在進行形で彼女を溺愛している。そろそろ、本気で彼女との結婚も考えていいと思っているほどに。
過去の話はあまりしたくないが、昔から女には困らないくらいには向こうから近寄ってきていたし、もちろん片っ端から食いまくるような汚い真似はしていなかったものの、それに近いことはまあ……そこそこしてきた自覚はある。
でも、と。そう言って彼女は信じるだろうか?
こんな風に大切にしたいと思った恋人は初めてだし、事実こんなに大切に一から十まで導いてやったことも初めてだ。今まではなんとなく刹那的な感情しか持っていなかったのに、彼女との未来はずっと向こうまで存在していると感じるのは俺のエゴなのだろうか?
目の前の、ビロード張りの小箱に想いを馳せる。
これを渡す時、彼女はどんな顔をするのだろうか。