S級冒険者クロトの災難な報酬日 ~待ちぼうけの末に教団幹部を瞬殺したら、休日が吹き飛びました~
リハビリ的に短編を書きました。
え? 連載の方が2カ月くらい止まってるだろって?
本当にすみません。
「クロト、そっちいったよ‼」
耳に着けている魔道具から、後方支援の常盤アッシュの声がする。
「やっと出番か~。2時間も待ちぼうけだよ。」
ついに届いた出番の合図に寝っ転がっていた木の枝から地面に降りる。作戦開始からあまりに暇すぎたので木の上で読書しながら時間を潰してした。
「アッシュ、敵の数は?」
「約20。けどクロトの所には逃げてきてるんだから、戦意は高くないだろうね」
アッシュから簡単に敵の情報を教えてもらう。だがまあ、聞いてる限りそこまで心配する必要もなさそうだ。
「ずっと寝っ転がってたから身体動くか心配だな~」
軽く準備運動をしながら呟くと声を魔道具にに拾われていたようで、ため息が聞こえた。
「ハァ~~。頼むよ?こいつら逃がしたら後がめんどくさいんだから。」
「ハイハイ、最善は尽くしますヨっと」
アッシュの小言を返しているとクロトの方向に走ってくる一団が米粒のように見える。一団は黒い祭服をきた神職風の恰好をしている。
アッシュのいた場所は草原と森の境目の場所で、一団が走っている草原の少し遠くには黒煙を空に広げる村が見える。
アッシュが一応姿が見えないように伏せていると黒ずくめの一団の会話が少し聞こえた。
「もう少しで森に入れる。急げ‼」
「なんでアジトがバレてるんだよ、ちくしょう!」
「とりあえず今は逃げ切ることを考えろ!」
もう森が目の前で気が緩んでいるのか、まあまあ大きな声で悪態をついている一団にアッシュは内心可哀そうになった。
(逃げ切れると思うの早すぎないか? あの格好は目立つだろ……)
もう少し森に隠れられると走るスピードを上げようとした黒ずくめの一団の前にアッシュは姿を見せ、大声で叫ぶ。
「ハーイ。止まってね~!。もう逃げられないから大人しくお縄についてね~。」
「なにッ?待ち伏せか‼」
「こっちは20人はいる!強行突破だ!」
黒ずくめの一団は持っていた武器を一気に構え、そのまま突撃してくる。その光景をアッシュは呆れた顔をしながら、内心「ご満悦」だった。
(2時間待たされたんだ。1人は骨のあるヤツがいるんだろうな?)
ポーカーフェイスを保ちながらメイン武器である大太刀の柄に手をかける。
眼を閉じ、突撃してくる相手の殺気から敵の位置と姿勢を感じる。そして相手の”隙”を見つける。
「焔影閃流 居合峰内 陽炎」
カチン。
クロトが目を開けると目の前に迫っていた黒ずくめの一団が視界から消えている。振り向けばほぼ全員が気絶し地面に伏していた。なんとか意識を保っている者も立ち上がることは出来ない様子だ。
「骨のあるヤツはいなかったか。アッシュ終わったぞ」
「ご苦労様。ノエル達の方から応援を送ってもらってるから合流まで待機ね」
「了解」
アッシュに連絡した後、倒れている一団に近づく。意識を保っている者は恨めしそうにクロトのことを見ていた。
「じゃあ君たちは拘束させてもらう。正直に取り調べは答えてね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
2日後 第3軍基地 会議室
「今回の作戦で第3軍および冒険者の死者はなし。教団のアジトは壊滅しメンバーの多くを拘束に成功しました。現在は他のアジトの情報がないか捜索しております。」
第3軍の副団長が簡潔に戦果の説明をする。手元に詳細な資料があるため長々とした説明はいらないという判断だろう。そう思いながらクロトが資料を読んでいるとふと、視線を感じた。視線は副団長のもので説明の続きを話し始める。
「そして、S級冒険者の赤羽クロト氏が拘束した一団は、教団の幹部級でした。正面からの襲撃に耐えられないとみて脱出した模様です。」
その言葉に驚きが広がる。この場には本作戦に参加した第3軍の将校及び、副団長と団長、そして作戦に協力した冒険者たちが出席している。驚いたのは冒険者たちだ。
「今回の作戦の最重要目的だった幹部級の拘束は達成されたと我々第3軍、および王国は判断しました。よって報奨金を”増額”いたします。」
「「ウオォーー‼‼」」
冒険者たちから歓声が上がる。第3軍と冒険者ギルドの合同作戦である今回の教団への討伐作戦は、そもそもが高ランク冒険者が対象、さらに冒険者ギルドからの指名された冒険者のみという危険なクエストだった。
情報流出を避けるために色々と規制までありそもそも報奨金も高額だったうえでさらに増額の発表。歓声が上がらないはずがなかった。
「静かに」
大喜びで叫んでいる冒険者たちが、少し落ち着いたタイミングで威厳たっぷりの軍人が冒険者たちを制する。
「第3軍団長の柘榴谷バロウだ。今回の作戦は、近年王国が頭を悩ませているカルト教団”紫雲の聖堂会”を叩くことが目的だったことは知っての通りだ。今回の戦果には国王陛下も満足されている。冒険者ギルドもランク昇格の加点を出す事を検討していると聞いている。今回の作戦に協力くれたことを改めて感謝申し上げる。以上だ。」
団長というとんでもなく偉い人から感謝を告げられ冒険者たちは軒並み困ってしまう。全員がこのような状況に慣れていないのだ。その様子を見ていた第3軍の副団長が話を引き継ぐ。
「団長からもありましたが、ギルドの方は我々の管轄外ですので、詳細については問い合わせてください。こちらの報奨金の増額についても金額が確定していないため後日支払いとなります。元々の報奨金については、既にギルドに支払っておりますので確認してください。それでは以上になります。資料は持ち帰らず団員に渡してください。」
会議が終了し第3軍基地からゾロゾロと冒険者が出てくる。クロトこと赤羽クロトは同じパーティーの常盤アッシュ、雪城ノエルと連れ立って歩いていた。
「いやぁ~、クロトのおかげで報奨金増額だって!ありがとね~」
ニコニコしながらノエルが話しかけてくる。
「あんまりやる気なさそうだったから不安だったけど問題なかったね」
後方支援をしていたアッシュにも小言を言われる。
「流石に2時間も待ちぼうけ食らったらやる気もなくなるだろ。それよりもノエルは楽しそうだったな?」
「そりゃあ私は最前線で暴れる役だもん。大暴れ出来てストレス発散‼」
「羨ましいなぁ。なんで俺が逃走したヤツの捕縛担当なんだよ」
「多対多よりも一対多に特化しすぎなのよ、焔影閃流は」
前線で暴れたかったと愚痴ったがノエルに冷静に返された。実際に焔影閃流は味方が周りにいない方が戦いやすい流派なので文句も言えない。ノエルはいわゆるタンクで華奢な体の割にでかくて重い盾を持ち、レイピアで攻撃というメリットを潰したような武器構成をしている。しかし集団戦という部分においては非常に上手にこなす女の子だ。
「結果だけ見ればあの采配は大成功だったんだから、第3軍の軍師を褒めるべきでしょ?」
「ウググ……」
アッシュにも冷静に返されてしまった。こいつは俺たちのパーティーの指揮官で武器を持って戦う事は少ないが、パーティーの要だ。頼んでもないのになぜか基本は荷物持ちポジションになろうとしている、面倒くさい性格の持ち主だ。今回は後方支援として指揮官のサポートをしていた。
「アッシュの後方支援はやっぱり安心するね。第3軍の人たちとは微妙に呼吸が合わなくてやりにくかったよ」
「十分じゃない?作戦に支障はなかったんだから。」
「ちょっと合わないのがストレスなのよ」
喋らなくなったクロトを置いて、アッシュとノエルが指令系統の部分の話をしている。
(ちくしょう。集団戦も出来るように練習しようかな)
肩を落として話が盛り上がっている二人の後ろを歩いていたクロトはふと、遠くからの視線を感じた。振り向くとそれは明確な殺気が向けられている事がわかる。
「なんだぁ~?」
呟きながら足を止め、大太刀の柄に手を置くクロトを見て、アッシュとノエルも目線の先を見る。そしてノエルはクロトの様子を見て抜剣した。
「なにがいるの?」
「知らない。殺気」
ノエルの質問に簡潔に返答する。それを聞きアッシュは一歩下がり、ノエルはクロトの前に出た。
クロトの視線の先、何もいないように見える草原が一気に紫の霧に包まれる。その霧が少しずつ晴れると黒ずくめの一団が来ていた祭服に紫の筋が入ったものに身を包む、司祭のような人物がいた。
「どちらさまですか?」
明らかな不審者にアッシュが声を掛ける。その男はニヤニヤした表情を隠そうともせず、ゆっくりと近づいてくる。
「私の大事な信徒たちが君たちにいいようにやられたようだからね。挨拶に来たんだよ。」
「……どちらさまですか?」
「君たちのおかげで計画が台無しだ。鬱陶しいウジ虫どもが!」
アッシュの問いかけに応じずずっと心ここにあらずといったように怒っている。まともな精神状態には見えない。
「ありゃだめだね。こっちの話きいてない。」
アッシュが諦めたようにぼやいた。クロトも同意見だった。こちらが警戒している間も不審な司祭はブツブツと呟いていた。
「罰を与えなければ………次は君たちの番だ!」
その言葉と同時に纏っている雰囲気が一気に変化し、紫の霧を身体に纏う。
「来るぞ!」
クロトが叫ぶと同時にノエルが盾を構えて突進する。司祭はノエルに向かって手をかざした。
「神の祝福があらんことを」
その言葉と同時に紫の霧の中から10匹の狼が飛び出してくる。狼の目は紫に染まり、正常な状態ではない事は明白だった。
「ハハハ、ハハハハハ!」
不審な司祭は笑い声と狼を残して霧の中に消えていった。
「チッ!めんどくさい!」
突撃していったノエルに狼が群がる。ノエルは危なげなく対処しているが、正常な状態ではない狼はノエルの手に余るようだ。
「クロト、変なヤツはいなくなった。あの狼に専念して」
狼をノエルにまかせ、司祭に集中していたクロトにアッシュが声をかける。その言葉を聞いてノエルに向けて駆ける。
「ノエル!スイッチだ!」
アッシュの掛け声を聞いてノエルが盾で狼を吹き飛ばす。そしてノエルが大きく後ろの飛んで空いた間にクロトは入り込んだ。姿勢が大きく乱れた狼たちをクロトは見据える。
「焔影閃流炎陣・百連!」
炎を纏った斬撃が狼に襲いかかり、そのまま斬撃に切り刻まれる。刻まれた狼は紫の霧となって霧散していく。
「ただの狼じゃなかったのか」
「そうりゃそうでしょ。私の盾でドついてもビクともしなかったし」
寄ってきたノエルが苦笑いしながらぼやく。対峙していたノエルは気が付いていたようだ。
「とりあえず一件落着みたいだね」
ノエルと反省会をしているとアッシュが近づいてきた。なんとも言えない顔をしているが、それはクロトも同じだろう。
「一件落着かは怪しいけどね」
「まあとりあえず、第3軍の基地にトンボ返りか」
「しかたないな~」
ノエルとアッシュがこの後の行動を決めていく。結果としてさっき出てきた基地へのトンボ返りが確定した。
「ちくしょう~。今日はゆっくり寝ようと思ってたのに」
「今日はむりそうね」
3人で今歩いてきた道を戻る。超遠距離から3人を見ている存在にクロトたちは最後まで気が付かなかった。




