忌電車
ある冬の休日、友人に会う用事ができた俺は久しぶりに電車に乗っていた。朝の電車と言っても都心部じゃなかったから中は満員どころか普通に座れるぐらいには空いていた。そのまま黙ってスマホを弄っていたらものすごい音がして電車が急に停止した。まだ駅に着くようなタイミングではないのにと一緒に乗っている人々と顔を見合わせると車内アナウンスが流れた。
「踏切での人身事故のため運転手が現場検証を行います」
まさか。この電車が人身事故の対象だったのだ。今までも人身事故の影響によるダイヤの乱れで電車が遅れることは少々あったのだが、流石に今この電車でそれに遭うとは思っていなかった。
自分が座っていたのは後ろの方の車両だったので何か変な匂いがすることは無かったし、外でその様子を見ることも無かったことだけは良かったのかもしれない。
しばらくしてから中に地元の消防士が気分の悪くなった人を探しに来たり、友人に遅れる旨を伝えたりで、1時間くらい待たされ出発し、ようやく首を長くした友人の待っている駅に着いた。
友人の運転する車の助手席に乗って俺はようやく息をついた。
「何でよりにもよって俺の乗ってる電車で事故なんか。お前も待たされただろ」
「災難だったねぇ」
ハンドルを握る友人にそう同情され俺はため息をついた。
「本当だよ。噂じゃこういう時遺族は莫大な金を支払わされるんだってな。都会の通勤ラッシュだと億越えとか」
「それだけデカい出来事って事だよ」
しばらく無言になる。話すことに尽きたのか友人が口を開く。
「そう言えば事故の起きた車両ってどうなるか知ってるか?」
「ん?廃棄されんじゃねぇのか」
「大体異常があるか点検して何もなかったら使いまわすんだとさ」
「はぁ?そんなことしてんのか。じゃあ事故物件に乗ってるみたいなもんだろ」
俺の衝撃を友人は頷いて肯定する。
「まぁ事故物件は不動産だけど電車は交通機関だからね。色々違うのさ」
「じゃあ今まで乗った列車も何が起こっていたか分からないのか」
「この路線みたいな田舎は中々買い替えないしね。でもやっぱその手のオカルトはあるみたいだよ」
友人はオカルトに詳しかった。どうせ今まで知っていたか待っている間にでも調べたのだろう。
「ウチの界隈ではああいうのは『忌電車』って呼ばれてるよ」
「き、忌電車……どっかの赤い猫みたいに地縛霊でもいるのか?」
「ハハハあれ流行ったの何年前だよ。まぁでも怪奇現象は報告されたりしてるね。途中に謎の人が乗っていたとか変な音がするとか」
「怖いよ。特に今はこの手の話はさぁ……まるで俺が気づかない間に乗ってたみたいじゃないか」
俺は早々に耳を塞いだ。
用事が終わり俺は再び車で駅まで送られた。
「じゃあな気を付けろよ。流石に帰りは行きみたいな事故はないだろうけど」
「だろうな。今度遭ったら流石に会社を訴えてやる!」
俺たちは軽口を言いあいながら別れた。
帰りに乗った列車は流石に行きのものとは違ったが、やはり夜の外は静かで空いているようだ。列車はガタンゴトンと言う豪快な音ではなく車輪が回って擦れるキュルキュルキュルと言う軽い音がした。
適当にスマホで調べたら、ネットニュースの端っこに事故が載っていた。ぶつかった男性は亡くなったらしい、流石にあれだけの事故で生き延びてはいないか。遺族は悲しむ暇もなく莫大な賠償金を支払わされるのか。
そんなことを考えている内に電車は同じ踏切の辺りを通った、足元から車輪の音がする。死者が電車で踏まれて苦しんでいるのではないか。朝の出来事を経験した俺には音がそう聞こえ、俺は恐怖で耳をワイヤレスイヤホンで塞いで流行りの曲を聞き始めた。しかしなぜか車輪のキュルキュルと言う摩擦音は消えなかった。
もしかしたらこの電車も忌電車だったのかもしれない。
その瞬間車輪の音に小さな悲鳴が混じったような気がした。




