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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
1章 体育祭

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09 王子様からのお褒めの言葉

「上原君、さっきの……最高にカッコよかったよぉ!」


多目的ホールの片付けを終え、廊下に出るなり、鶴見先輩が俺の背中をバシバシと叩いてきた。


「い、痛いですって……。すみません、皆さんのことをあんなふうに言われて、ついカッとなって声が出ちゃいました」


照れ隠しに頭を掻きながら答える。

だが、ふと思い出した。


(……待てよ。あの人、結局先輩たちに謝ってないじゃないか)


肝心の謝罪を引き出せなかった、次あったら絶対謝らせる!。


そんなことを考えながら、施錠のために出口へ向かうと、そこには想定外の人物が待っていた。


「……お疲れ様、みんな」


扉の横に立っていたのは、白鷺先輩だった。


「あれ、華ちゃん! お留守番しててっていったじゃない!」


会長の驚きの声に、白鷺先輩は手元のスマホをこちらに向けた。


「他の生徒から連絡が来たのよ。『ホールで生徒会の人たちが、男子生徒と揉めて大変なことになってる』って」


画面には、野次馬の一人から送られてきたであろうチャットのログが並んでいた。


「心配で来てみれば、あの有様だし……」 


白鷺先輩は呆れたようにため息をついた。


「すみません……恥ずかしいところを見せました」

俺が肩を落とすと、先輩たちは顔を見合わせ、それから一斉に苦笑いを漏らした。


どうやら俺が啖呵を切ったシーンは、ホールにいた野次馬たちによって、瞬く間に校内に広まっているらしい。


あまりの恥ずかしさに消えてしまいたい。


だが、俯く俺の視界に、白鷺先輩が一歩近づいてくるのが見えた。


「……上原君」


「はい……」


叱られるのを覚悟して顔を上げると、そこには予想だにしない表情があった。


「みんなのために、怒ってくれてありがとう」


彼女は、俺に向けられていたこれまでの「敵意」をすべて消し去ったような、柔らかい雰囲気で、小さく微笑んだのだ。


夕暮れの廊下、窓から差し込む茜色の光が彼女の横顔を照らす。


(――……可愛い)


語彙力を失った脳内で、そんな短絡的な言葉が響いた。


「「「…………!!!」」」


「は、華ちゃんが……男の子にデレた……!?」


烏羽会長、鶴見先輩、鳩ヶ谷先輩の三人が、目を見開いて固まっている。

一方で、菊池さんを見ると、彼女は満足げに小さくサムズアップを送ってきた。


生徒会室へと戻る道のり。

さっきまでの緊張感が嘘のように、空気はどこか和やか……というか、先輩たちのニヤニヤが止まらない。


「ねぇ、上原君。今の気分は?」


「鳩ヶ谷先輩、茶化さないでくださいって……」


俺は逃げるように、話題をさっきの男子生徒へと変えた。


「ところで、あの喧嘩を売ってきた人……何年生なんですかね。やっぱり、俺が謝りに行った方がいいんでしょうか」


大勢の前で恥をかかせてしまったのは事実だ。後で報復されるのも怖いが、何より生徒会の名前に傷がつくのは本意ではない。


「えー、上原君が謝る必要なんてないよ! 悪いのはあっちだし」


「そうよ、あいつは放置しておけばいいわ」


先輩たちは口を揃えてそう言うが、鳥羽先輩だけは少しだけ険しい顔をして前を見据えていた。


「有村君のことは、もういいわよ。私たちと彼は……まあ、絶望的に相性が最悪なの」


烏羽先輩が、まるで酸っぱいものを食べたような、苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。


やはり、先輩たちは以前から彼のことを知っていたらしい。

思い返せば、説明会の最中に彼が口を開いた瞬間、隣にいた鳩ヶ谷先輩が小さく「チッ」と鋭い舌打ちをするのが聞こえた気がする。


「……何かあったんですか?」


恐る恐る尋ねると、会長は深い溜息をついて指を折った。


「あの子ね、一年生の時は華ちゃんと私。二年生になってからは鏡花と茜に告白して、ものの見事に全員から撃沈しているのよ」


「…………」


絶句した。

四人。生徒会メンバー全員に特攻して散ったのか、その人は。


「そりゃ……生徒会を目の敵にするわけですね」


フラれた腹いせに「いい子ちゃん」「内申点稼ぎ」と毒づいていたのか。

さっきまでの俺の熱い怒りが、急激に冷めていくのを感じた。


……なんだ、ただの逆恨みじゃないか。


「さて、私はもう出るわね。みんな、お疲れ様」


教室に戻るといつものように、白鷺先輩が早めに鞄を手に取った。


俺は反射的に「お疲れ様です!」と、彼女の背中を見送る。


……が、振り返ると、残った先輩たちがニヤニヤとした表情で、一斉にこちらを凝視していた。


「……え、なんですか。俺の顔、何か付いてます?」


「いやぁ……上原くん、本当にすごいねぇ」


鳩ヶ谷先輩が、俺の顔を覗き込むようにして言った。


「え、何がですか?」


「警戒心が人一倍強くて、男子を寄せ付けないあの華ちゃんがさ。あんな風に、自分から笑いかけるなんてね」


「……確かに。あんな穏やかな顔、私たちでも滅多に見られないわよ?」


鶴見先輩も同調する。

言われてみれば、あの瞬間、茜色の光に照らされた彼女の微笑みは、驚くほど綺麗で――。


(……思い出しただけで、心臓に悪い)


その後も、鳩ヶ谷先輩と鶴見先輩による「今日のヒーローへのインタビュー」が延々と続き、俺は羞恥心で死にそうになりながら生徒会室を後にした。


家についても、今日のことを思い出す。

枕に顔を埋めても、結局その日は明け方まで眠りにつくことができなかった。

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