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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
1章

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07

「チャットで今送りますね」


俺は手慣れた操作で共有アプリを開き、鳥羽さんとと白鷺さんにファイルを送信した。

「もしイメージと違ったら、遠慮なくボツにしてください」と付け加えるのも忘れない。


白鷺さんのノートパソコンを囲むように、会長と鶴見さんが身を乗り出して画面を覗き込む。


「……ちょっと待って。上原くん、説明会のことなんて誰かに聞いた? 私たち、まだ君には話してなかったはずだけど」


鳥羽さんからの鋭い指摘に、俺は部屋の隅にある棚を指差した。


「あそこのカレンダーです。可愛い犬のキャラクターのやつ。あそこに『説明会』って書いてあったので。それと……」


言葉を切って、先週の出来事を思い出す。


「先週、倉庫から戻った時、皆さんがパソコンの前で唸っていたじゃないですか。鳩ヶ谷先輩が『スライドも作らなきゃ〜』ってボヤいていたのを小耳に挟んだんです。それで、勝手ながら作らせてもらいました」


「それで、資料はどうしたのよ。内容が正確すぎるわ」


白鷺さんが怪訝そうな声を出す。


「それなら、翌日のクラスで菊池さんに去年の資料を見せてもらったんです。それをベースに、今年の変更点やネットのテンプレートを組み合わせて、いくつかデザイン案を作ってみました」


俺の淡々とした説明に、三人は顔を見合わせた。

それは、俺にとっては、ごく自然な配慮の結果だった。


「……ポイント稼ぎ?」


沈黙を破ったのは、白鷺先輩の冷ややかな一言だった。


「はい? ポイント……ですか?」


「そう。そうやって有能さをアピールして、私たちに取り入ろうとしているんでしょ? 魂胆が見え見えだわ」


せっかくの善意をバッサリと切り捨てるその物言いに、俺は言葉を失う。

だが、すかさず鳥羽さんと鶴見さんに雷が落とされた


「ちょっと、華ちゃん! せっかく上原くんが準備してくれたのに、なんでそんな酷いこと言うの!」


「そうだよ、華。素直に『ありがとう』でいいじゃない」


「だって、ヒヨリ……っ!」


二人の先輩に左右から詰め寄られ、白鷺先輩は言い訳をしていた。


普段の凛とした『王子様』の姿はどこへやら、どこか我が家のチヨを彷彿とさせた。

(……意外と、子供っぽいところがあるんだな)

心の中でそっと呟く。


「おーす、先生のところ行って戻ってきたぞー」


賑やかな声と共に、用事を済ませた鳩ヶ谷さんと菊池さんが部屋に戻ってきた。


会長から事の顛末を聞いた鳩ヶ谷先輩は、目を輝かせて俺に詰め寄る。


「へぇー、大くん流石! 気が利くねぇー」


そう言うと、彼女は俺の頭を「いい子いい子」と優しく撫で始めた。


年上の女性に、それも学校屈指の美人に頭を撫でられるなんて経験、これまでの俺の人生にはなかった。

心臓が不自然なリズムを刻み、顔が熱くなる。


「あ、あの、鳩ヶ谷先輩……」


照れくさくて視線を泳がせていると、一瞬、空気が凍りつくような冷気を感じた。


視線の主は――もちろん、白鷺先輩だ。


彼女は俺と鳩ヶ谷先輩を交互に見つめ、それからこれ以上ないほど不機嫌そうに鼻を鳴らした。


一方で、俺を連れてきた張本人である菊池さんは、得意げな表情でこちらを見守っている。

どうだ、私が連れてきたんだと言わんとばかりに


「華ちゃん、改めてこのデータを使って修正してみて。これなら、今日中に終わるでしょ?」


会長の言葉に、白鷺先輩はしばらく沈黙した後、

「……わかったわよ」


と、絞り出すような声で承諾した。

俺が作ったデータを使って作業するのが、よほど不服なのだろうか。


自分に言い聞かせるようにキーボードを叩き始めた。


「鳩ヶ谷先輩、お昼はありがとうございました」


作業の合間、俺は隣に座る鳩ヶ谷先輩に声をかけた。

すると、彼女はポカンと口を開けていた。

頭の上に巨大な『?』を浮かべたような顔でこちらを見てくる。


「え、お昼……? 何かあったっけ?」


「購買ですよ。ほら、俺が先輩達に囲まれてるとこ助けてくれたじゃないですか。本当に助かりました」


「あー! あれね!」


ようやく思い当たったのか、

「いいよいいよー、あれくらい!」


大したことじゃないと言わんばかりにケラケラと笑った。


「これ、お礼になるかわかりませんけど、もしよかったら使ってください」


俺は、鞄から取り出した小さな紙袋を差し出した。


「え、なにこれ。目薬? なんで??」


中身を確認した彼女は、また不思議そうな顔に戻った。


「この前、先輩が『疲れた! 目が痛い! もー無理!』って、それ、思い出したので。……ちょうど俺も、コンタクト用と間違えて買った予備があったんです。余らせとくのも勿体ないですし」


「…………」


彼女は、じーっと目薬の入った袋を見つめ、何かをボソボソと呟いた。


「――っ」


何を言っているのか聞き取れず、少しだけ身を乗り出そうとした、その時。


「……大くん、マジで後輩力高すぎ。助かるー、ありがとー!」


ガシッと両手で肩を掴まれたかと思うと、またしてもわしゃわしゃと頭を撫で回された。


「ちょ、先輩、子供扱いしないでください……」


照れ隠しに身をよじった瞬間――室内に、あからさまに大きな「チッ」という舌打ちの音と、背筋が凍るような鋭い視線が飛んできた。


怖すぎて後ろを振り返れない。


「ちょっと、華ちゃん! 怖い顔しないの!」


また先輩たちに説教され始めた白鷺先輩を見ながら、俺は苦笑いするしかなかった。


その時、制服のポケットの中でスマホが激しく震え出した。

画面を確認すると、着信表示には『優子』――母さんの名前。


「すみません、ちょっと失礼します」


一言断って、俺は急いで廊下に出た。


「もしもし、母さん?」

「大地、ごめんね。急な残業が入っちゃって……千代のお迎え、今日お願いできる?」


電話越しの母さんの声は、かなり焦っているようだった。


「わかった、大丈夫だよ。今すぐ向かうから」


電話を切ると、俺はすぐに生徒会室に戻り、荷物をまとめ始めた。


「すみません、家の事情で急ぎの用件が入ってしまって。今日はここで失礼してもいいでしょうか?」


烏羽さんが快く送り出してくれた。

俺は先輩たちに軽く頭を下げると、時計の日付は17時30分を指していた。

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