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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
1章

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3/9

03

「上原君、おはよう」

「菊池さんも、おはよー」


今では、隣同士で自然に挨拶を交わせるようになった 。

一週間前、氷の視線に怯えていたのが嘘のようだ。

夏休みまでの平穏な日々が見えてきた……そう浮かれていた俺に、彼女はさらりと言葉を重ねた



「――今日の放課後、空いてる?」

「え、あー、放課後か。ちょっと確認してみるから待ってね」


一瞬、思考が停止した。放課後? 誘い?

慌ててスマホを取り出し、母さんの仕事のシフト表を確認する。幸い今日は大丈夫そうだ。母さんに「帰りが遅れる」とメッセージを送り、俺は頷いた。


「もし忙しそうだったら、大丈夫よ?」

「いやいや大丈夫、せっかく誘ってくれたんだし」

「そ。なら、放課後にまたよろしくね」


彼女はそう言うと、またいつものように本に目を落とした。

……これって、もしや告白のフラグか? いやいや、知り合って一週間でそんな展開、ラノベの中だけだろ。


「じゃあいこうか。ついてきて」


そんな煩悶を抱えたまま放課後を迎え、俺は彼女の後に付いて教室を出た。

クラスメイトたちの「え、あいつらマジか?」というヒソヒソ声が刺さる。

いつメンのグループチャットは

『お前、告白か!?』

『何があったか後で吐け』という通知で埋め尽くされていたが、俺自身が一番状況を飲み込めていないのだ 。


彼女についていくと、着いたのは4階だった 。

4階は主に3年生の教室があり、2年生の俺たちが行くことは滅多にない 。

そわそわしながら歩いていると、案内されたのは最奥。

そうここはーー生徒会室だ。


部屋にいたのは、お菓子を囲んでくつろぐ二人の先輩。

この先輩たちを俺は知っている

生徒会のムードメーカー、鶴見鏡花先輩と、どこか浮世離れした雰囲気の鳩ヶ谷茜先輩だ。


「おっす、楓。……そっちの男の子は?」


「もしかして、楓の彼氏?」


「違います。彼に『例の件』を頼もうかと」


菊池さんが淡々と答えるが、俺は完全に置き去りだ。


「あー、なるほどね。なかなか見つからなかったから良かった良かった」


「先輩たちが誰も紹介してくれないからですよ」


菊池さんと鳩ヶ谷先輩が会話をしているが、俺は完全に蚊帳の外だ 。

状況が飲み込めない 。


「まあさ、とりあえず座りなよ。ずっと立たせているのも悪いし」


困っている俺を気遣ってか、鶴見先輩が声をかけてくれた 。

緊張する俺に、鶴見先輩は優しく声をかけてくれた。


「あ、ありがとうございます」


「そんな緊張しなくていいよ。うちは3年A組、鶴見鏡花。君は?」


「2年B組、上原大地です。よろしくお願いします」


「上原君ね。もう、肩肘張らなくていいって。リラックスリラックス」


自己紹介をしていると、会話を終えた鳩ヶ谷先輩が椅子から身を乗り出して話しかけてきた 。


「私はきょうちゃんと同じクラスの鳩ヶ谷茜。好きに呼んでいいよ、大くん」


「大くん!? ……よろしくお願いします、鳩ヶ谷先輩」


いきなりあだ名で呼ばれて焦ってしまった 。

生徒会会計の鳩ヶ谷先輩。

天然で何を考えているか分からない自由人だが、その抜けたところが男女共に好かれている要因だ 。


一通り挨拶が終わったところで、俺は質問を投げかけた 。


「あの、ところで俺は何でここに呼ばれたんですか……?」

「「「……」」」


俺が恐る恐る尋ねると、室内の空気が一瞬で凍りついた。

鶴見先輩と鳩ヶ谷先輩が、じとーっとした目で菊池さんを見る。


「おい、楓! この子に事情を説明してないのか!?」

「……」

「こっち向け、目を合わせろ!?」


視線を逸らす菊池さん。クラスでは見せない、年相応の少女のような気まずそうな表情。

……なるほど、彼女は俺に事情を説明せず拉致してきたわけだ。


そんな押し問答を繰り広げていると、部屋の扉が開いた。


「あなたたち、うるさいわよ。少しは静かに――」


現れたのは、生徒会長の烏羽ヒヨリ。そして、その隣には――。

白鷺華。

校門前で見た『王子様』が、そこにいた。彼女は俺と目が合うと、そのまま彫像のように固まった。


「ちょっと、華ちゃん、早く行って――あら? 珍しいお客さん?」


「会長、副会長。こちらがお手伝い候補です」


面白がる会長の烏羽先輩に対し、白鷺さんは一転して、まるで汚物を見るかのような険しい視線を俺に向けてくる 。

……待ってくれ、俺が何をした。


「なるほどなるほど。君、名前は?」

「2年B組、上原大地です」

「上原君ね。私は生徒会会長の烏羽ヒヨリ。隣は副会長の白鷺華ね。よろしく」


自己紹介が始まったが、空気はそんな生易しいものではなかった。

まるで裁判のような張り詰めた空気だ 。

俺だって何がなんだかわからない。


「君が生徒会の仕事を手伝ってくれるってことで、いいんだよね?」

「あの、それは――」

「それに関してなんだけど」


助け舟を出してくれたのは鶴見先輩だった 。

この人は絶対にいい人だ。


「楓が何も説明してないらしいんだよね……」


と彼女が漏らすと、室内に沈黙が流れ、その後に大きな笑い声が響いた 。

烏羽先輩は笑いのツボに入ったようで腹を抱えて笑い、


「じゃあ、上原君は楓に何も知らされずここに来たんだ」


「そうですね……ついてきてと言われた流れでここに」


「わかりました。楓への説教は後にして、本題に入りましょう。上原君には体育祭まで生徒会のお手伝いをしてほしいの」


話はこうだ。

今年の生徒会は女子しかおらず、体育祭に向けた力仕事や雑用をこなす「男手」を探していたらしい。菊池さんはその候補として、隣の席の俺を(無言で)連れてきたのだ 。


基本は週二日、体育祭直前は毎日。

千代のお迎えがあるから正直厳しいが、あの“生徒会”から声をかけてもらったんだ。

無下にはできない 。


「わかりました。一日考えさせてください。明日、返事をします」


そう告げて逃げるように生徒会室を後にした。時刻は18時を過ぎていた 。


「お兄、おかえり!」


家に着くとでは母さんと千代が夕飯を食べていた 。

事情を話すと、今まで見たことがないくらい嬉しそうに微笑んだ。


「大地。あなたも子供なんだから、遠慮なんてしないでやりたいことをやりなさい」


母さんのその言葉が、俺の背中を押した。

ずっと「家族の代わり」として生きてきた俺に、母さんは「自分の時間」を持ってほしかったのかもしれない。



翌日の放課後。俺は再び、四階のあの扉を叩いた。


「生徒会のお仕事、手伝わせてください」


「うん、歓迎するよ。他のみんなも異議ないね?」


「「「異議なーし!」」」

「…………」


1人を除いて……

先輩たちの歓声と、相変わらず冷ややかな白鷺先輩の視線。

こうして俺は、期間限定で生徒会を手伝うことになった 。


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