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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
1章

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02

午前中の授業を終え、俺たちは学食の喧騒の中にいた 。

カツ丼の食券を握りしめて列に並んでいると、友人たちがニヤニヤしながらこちらを見てくる 。


「で、どうよ。菊池さんと話したか? 」


「……いや、最初の挨拶以来さっぱりだ。ただ、視線だけはやたら感じるんだよな。授業中も緊張しっぱなしだよ 」


そんな俺の苦労も知らず、金井は「ま、そのうち慣れるだろ」と楽観的だ 。

だが、食堂の入り口がにわかに騒がしくなり、その会話は中断された 。


「おい、見ろよ。『生徒会』の御一行さまだぞ 」


金井の声に、食堂中の視線が一箇所に集まる 。

そこには、我が学園の生徒会メンバーが勢揃いしていた 。

周りを囲む人の数もすごい。


そして、その中には隣の席の住人――菊池さんの姿もあった 。


「あれ、菊池さん?」


「あー、そういえば生徒会に入ったんだってね。なんか会長にスカウトされたらしいよ」


「へぇー、そうなんだ」


ということは、白鷺さんとも面識があるのか。

なんて話をしていると、俺たちはこんな話題になった。


「お前ら、誰派? 俺は断然会長!」


金井がニヤニヤしながら下世話な話題をみんなに聞いてくる。

会長というのは、白鷺先輩と同じクラスの烏羽ヒヨリ先輩。

白鷺先輩が『王子様』なら、烏羽先輩は『お姫様』。


アイドルグループにいてもおかしくないほどの美少女。

守ってあげたくなるようなそのルックスで、男女共に大変人気がある。


「鶴見さんかな? 明るいし、一緒にいたら楽しそうじゃね?」


佐々木君は鶴見先輩か。

確かに明るくて、誰とでも気兼ねなく話せる感じは、佐々木君と相性が良さそうだ。


「俺は彼女いるからパス」


「はー? ノリ悪、つまんなぁ。なら、お前の彼女に似てるから、お前は鳩ヶ谷先輩な」


「勝手に決めるな」


そう、遠藤には中学から付き合っている彼女がいる。

隣町の女子高に通っていて、帰りは一緒に帰っているらしい。

おのれ遠藤、心底羨ましい。


「んで上原は……聞くまでもなく白鷺先輩だろ? 」


金井に振られ、俺は正直に答える。「まあ、そうだな」と 。

すると、三人は顔を見合わせて苦笑いし始めた


「白鷺先輩はさ、綺麗だけど『王子様』すぎて近寄りがたいんだよな 」


「完璧すぎて、男としてはちょっと……ねぇ? 」


こんな感じで、白鷺先輩は男性からの人気がそれほど高くない。

俺にはどうしても、彼女が他の女子と同じように可愛らしい一人の女の子に見えてしまうのだ 。


「そうかな? 他の人と同じくらい可愛らしい人だと思うけどな」


「はいはい……また始まった。お前だけだからな、そういうの」


そんな談笑を楽しみながら、時間は過ぎていった。


午後の体育で体を動かした後、帰りのホームルームが終わった 。

荷物をまとめていると、不意に隣から声をかけられた


「上原君って、意外と真面目なのね」


「――え?」


驚いて顔を上げると、そこには菊池さんがいた 。

「意外と」という言葉に苦笑いするしかない。


「金井君たちと仲がいいから、もっと不真面目な人だと思ってた。ごめんなさい 」


あいつらと一緒にいて説教に巻き込まれることはよくあるから、そう思われてもおかしくない。

金井、ボロクソに言われているぞ。


「改めて、これからよろしくね」


「う、うん。よろしくね」


菊池さんが初めて見せた笑顔に、思わずドキッとしてしまった。

睨んでいた理由が「ただの誤解」だったことに安堵しつつ、俺も「よろしく」と返し、彼女と別れた。


放課後の廊下。生徒たちがそれぞれの部活へ向かう中、俺は一人、校門へと急ぐ 。

うちの学校は部活加入が原則必須だが、俺には特別な「家庭の事情」による免除が認められている


その途中、一人の女子生徒とすれ違った。白鷺先輩だ 。

いつもは取り巻きに囲まれている彼女が、珍しく一人で歩いている 。

思わず見惚れて立ち止まると、彼女と目が合い、軽く会釈を交わした 。

その瞬間、小さな違和感を覚えた。


(……あれ? )


すれ違いざま、彼女の横顔に小さな違和感を覚えた。

ただの疲れではないような、どこか体調が悪そうな……。

まぁ勘違いだろと自分に言い聞かせ急いで会談を降りていった。


電車を乗り継ぎ、たどり着いたのは地元の幼稚園 。

「お兄ー!」という元気な声とともに、妹の千代が飛びついてくる 。


「大地、いつも悪いわね。助かるわ」


「大丈夫だよ、母さん」


この幼稚園で働く母さんが申し訳なさそうに笑う 。

父さんを亡くしてから、母さんは一人で家計を支えている 。

忙しい母さんに代わって妹を迎えに行き、晩飯を作る 。

これが俺の、誰にも言っていない「放課後の日常」だ。


「千代、帰る準備できたか?」


「うん、できた! たくくん、ママ、バイバイ!」


「お兄ちゃんの言うこと、ちゃんと聞くのよ!」


千代と手を繋いで、残っているお友達にバイバイして帰っていく。

帰り道、作った工作道具やお医者さんごっこの話をしてくれた。


「今日の夜、何が食べたい?」


「オムライス! カレー!」


「じゃあオムライスにするか。スーパーで買い物しないとな」


そう言って、俺たちは最寄りのスーパーに向かった。

ついてきてくれたお礼に、千代の好きなアニメの食玩を買ってあげた。

あまり甘やかすなと母さんから言われているが、思わずこうやって何かを買い与えてしまう。


「千代ー、家に着いたら手洗いうがいな」


「はーい!」


家に着くとそう声をかけ、俺はキッチンに向かった。

高校生になってから独学で覚えた料理の腕前も、今では千代に「美味しい」と言わせるまでになった 。


2人で話していると、家のチャイムが鳴る。


「ママだ! おかえりなさい」


「ただいま。あら、いい匂い」


夜、19時半。仕事から帰ってきた母さんも含め、三人で食卓を囲む 。


「最近遅いけど、仕事大変? 」

「大変だけど……預かり保育の家庭にも、いろいろ事情があるからね…… 」


他の家庭のことなので詳しくは聞けなかった。

でも、母さんが大変なのはよくわかった。


「ごめんね、友達と遊びたいだろうに」


申し訳なさそうにする母さんに、間髪入れず言った。


「大丈夫だって。父さんの分も俺が頑張るから」


強がって見せると、母さんは少し切なそうに、それでも嬉しそうに微笑んだ 。

21時。朝が早い上原家の夜は早い 。

こうして、俺の慌ただしくも平穏な一日は終わりを告げるのだった



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