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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
1章 体育祭

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10/20

10 生徒会にいれる時間

体育祭まで、残り一週間。


学内は、学年を跨いだ縦割りのチーム編成により、お祭り特有の浮き足立った熱気に包まれていた。

俺たちのクラスは「紅組」。

放課後のあちこちで、応援団の太鼓の音が響く。

巨大な横断幕が色鮮やかに描き上げられていく。


そんな喧騒の中、俺を取り巻く空気は劇的な変化を遂げていた。


つい先日まで、廊下を歩けば「なんであいつが白鷺さん」という冷ややかな視線。

時には直接声をかけて心無い言葉を投げかけられることもあった。


だが、有村先輩に啖呵を切ったあの日の出来事が広まってから事態は大きく変化した。


刺すような視線はへった。

女子生徒からは生暖かい目で見られることが増えた。

あからさまに絡んでくる連中もいなくなった。


(……数週間で変わりすぎだろ)


と戸惑いながらも、俺は昼休みの体育館へと向かった。


今日の昼休みは、珍しくいつメンの三人を誘って体育館に集まっていた。


「いやー、よかったな。やっと普通に廊下を歩けるようになって」


金井がバスケットボールを回しながら、しみじみと言った。

佐々木と遠藤も、深く頷いている。


彼らも、俺に向けられていた理不尽な視線に心を痛めてくれていたらしい。

持つべきものは友人である。


「てか、珍しいじゃん。大地からバスケしようぜなんて言い出すなんてさ」


佐々木と金井が、意外そうな顔で俺を見る。

それもそのはず。

体育の授業以外でボールを触ることすら避けてきたのだから。


「……てか遠藤、お前いつまで泣いてんだよ」


視線を向けると、そこにはユニフォーム姿の遠藤が、ユニフォームの裾で目を真っ赤にして押さえていた。


「お前……この前『バスケにはもう興味ない』って……っ! 一緒にバスケできないと思ったから」


「嘘っていうか、強がりっていうか……。まあ、ちょっと気が変わったんだよ」


俺は遠藤からボールを奪うと、ゆっくりとフリースローラインに立った。


ボールの感触。重み。

一年近くのブランク。

体は鈍っているはずだった。


放たれたボールは、綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれた。


乾いたネットの音が、体育館に響いた。

……よし。まだ、動けそうだ。


「うおおおおお! 綺麗なフォームじゃん!」


金井がはしゃぎ、佐々木が「ブランクあってそれかよ」と苦笑する。


「よし、2on2やろうぜ。上原、お前どれくらい動けるか試してやるよ!」


遠藤が涙を拭い、不敵な笑みを浮かべて構えた。


「てか上原ってもしかしてめちゃくちゃうまい?」


「俺より上手いよ。っていうか、そこらへんの三年の先輩よりセンスあ」 


遠藤が当然のように言うと、俺は苦笑いして首を振った。

「うるせぇ。……おい、試合始めるぞ」


そのまま始まった2on2。

結果は、俺と佐々木のチームが15対11で勝利した。


佐々木が肩を並べて笑いかけてくる。

だが、身体はも動かない。


一年のブランクで筋肉と持久力が秋かに低下してる。

肺が焼けるように熱い。


「……いや、足がガクガク。今の俺じゃ、まともに一試合も持たないよ」


「謙遜すんなって。今のお前なら、あの有原さん相手でも15対0でボコれるぞ」


遠藤がニヤリと笑いながら、きついブラックジョークを飛ばした。


「……? なんで今、有原先輩の名前が出てくるんだ?」


嫌な予感がして、俺は肩で息をしながら問い返した。

遠藤は不思議そうな顔をして、タオルで汗を拭った。

「お前知らないの? 有原さん、うちのバスケ部だぞ」


「…………まじかよ」


俺は絶望に打ちひしがれ、天を仰いだ。

ここで嫌なことが頭をよぎる。


「っていうことは……青葉とも繋がりがあるってことか……?」


「? ああ、大丈夫。あの人、上原とやり合う前から部内じゃ嫌われてたからさ。特に女バス全員に嫌われてる」


遠藤が事もなげに続ける。

「つーか、あの人さ。俺にレギュラー奪われてから、部活もサボり気味なんだよね。」


「……お前、あの人からレギュラー奪ったのかよ」


ここにきてエグい事実が判明した。

つまり有原先輩にとって、

俺「自分を辱めた後輩」

遠藤「自分をベンチに追いやった憎い後輩」

というわけか。


(……これ、遠藤と一緒にいる時に遭遇したら、火に油を注ぐどころじゃないな)


「絶対にあの人とだけは、廊下で鉢合わせないようにしねーと……」


そんなことを考えていると遠くで遠藤が手を振っていた


「おーい! こっちこっち!」


どうやら知り合いを見つけたらしい。

遠藤に呼ばれてこちらにやってきたのは、数人の女子生徒の集団だった。


話してる態度的に堂女子バスケ部の三年生だろう。


「……あれ? 上原君じゃん! こんなところにいるなんて珍しいね!」


聞き慣れた明るい声に、俺は重い頭をゆっくりと上げた。


視線の先にいたのは、バスケウェアに身を包み、ポニーテールを揺らす鶴見先輩だった。


「……お疲れ様です、鶴見先輩。先輩も、バスケやるんですね……」


息を切らしながら、途切れ途切れに言葉を返す。

さっきの2on2で体力を使い果たし、今は顔を上げているのが精一杯だ。


「ふふ、2年生まで女バスでレギュラーだったんだよ? ……。ねぇ、遠藤君。彼、もしかしてかなり動ける?」


鶴見先輩が面白そうに目を細める。

すると、遠藤が待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。


「ええ。ブランクありですけど、……先輩たち、よかったら俺らと4on4で一試合やりません?」


……おい、遠藤。何を勝手なことを。

俺の、俺のライフはもうゼロだ


結局、断る間もなく試合は始まった。

女子バスケ部のトップ層を相手にした4on4。


結果は僅差で俺たちの勝ちだ。


「…………っ、はぁ、はぁ……っ!!」

終わった瞬間、俺の意識はホワイトアウトした。

そのまま体育館の床に大の字になって倒れ込む。

天井のライトがチカチカと回っている。


「ちょっと大丈夫!? 生きてる?」


鶴見先輩やバスケ部の先輩達が、タオルを差し出しながら目を輝かせていた。

そのうちの1人。他の人に部長と呼ばれていた先輩が俺に声をかけてきた。


「上原君滅茶苦茶上手じゃない!体育祭終わったら是非うちに入部してよ!」


「……っ……、いや……それは……」


心臓の鼓動が耳の奥でうるさく響く。

とても魅力的な提案だ。


けれど、彼女の「体育祭が終わったら」という言葉が、不意に冷たい現実を突きつけてきた。

そうだ。俺が生徒会という場所にいられるのも、体育祭まで。


(……一週間、か)


俺は、差し出されたタオルを顔に乗せ、天井の光を遮った。


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