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8話 みすめーかー

 今日も、いつもと同じファストフード店のバイト。


 お金には余裕があるけど、私は証明したいんだ。


 「これ渡して」


 紙袋を渡される。


 渡すって、だれにだろう・・・・・・。


 周りを見渡す、しかし分からない。


 同時に、ポテトが揚がる音がする。


 そうだ、ポテトをとにかく作らないと


 小走りでフライヤーに向かい、ポテトに塩を振る。


 えっと、ポテトはいくついるかな・・・・・・。


 「4番に渡してくれた?」


 「え? えっと・・・・・・」


 「え!? 渡してないの!? 冷めるからいそいで!」


 そうか、アレをお客さんに出す必要があったのか。でも、聞こうと思ったときにはいなかったし、戻ってくるまで待つ必要があったから仕方ない。


 えっと、次は何をすればいいんだろう。あ、コーヒーの砂糖が少ない。補充しないと・・・・・・。えっと、砂糖は、どこだっけ。とったことないからわからないや。


 「すいません、粉砂糖ってどこにありますか?」


 「え? 知らないの?」


 「はい」


 知らないから聞いてるのに、わざわざそれ言う?


 「はい、ここの棚」


 「ありがとうございます」


 「あ、ポテト足りないから漬けておいてね」


 「はい」


 カウンターにお客さんが来ていないのを確認して、いそいでフライヤーにポテトをつける。


 えっと、次は何をしよう・・・・・・。


 「ほら! カウンターにお客さん来てるよ! 急いで聞いて!」


「は、はい・・・・・・」


 不思議だ。なんでみんな一瞬で人の出入りとかに気づけるんだろう。


「ご注文、お伺いします」


「えっとね、これと、これ、お願い」


「はい、店内でお召し上がりですか?」


「そうだね、あ、すぐ飲むからストローさしておいてね」


「わかりました」


 レジを打ち込んで、急いで商品の取り揃えに向かう。


 セットだから・・・・・・。ポテト、あるかな。


 フライヤー周りを見ると、ポテトが潤沢にある。


 うん、ある。それじゃあ、バーガーは・・・・・・。


 バーガーはない。


 えっと、じゃあ飲み物作らないといけないのか。


 ドリンクサーバーに駆け寄る。


 氷を入れてサーバーにセット、ドリンクが落ちていくのを眺める。


 蓋を付けて、ドリンク完成。


 あ。


 気づくと、カウンターにたくさんのお客さんが並んでいた。


 えっと、こういう時は、まずこの手元のセットだけ渡さないと。


 ドリンクをいつの間にか出来ていたバーガーと共にそろえる。


 あ、ポテトもいるんだっけ


 ポテトを持ってきて、乗せる。


 よし、これを客席にもっていって・・・・・・。


 トレイにのったセットを客席まで小走りで運ぶ。


 あっ、ストロー忘れてた。


 ストローを取りに戻って、トレイに乗せてお客さんに渡す。


 「ごゆっくりどうぞ」


 「ありがと」


 あぁ、お客さんがならんでる。いっぱい並んでる。


 けど、先輩が受けてくれている。


 「あ、ありがとうございます」


 「だめだよ? お客さん待たせちゃ、はいじゃあ後よろしく」


 「わ、分かりました。それでは5000円お預かりして・・・・・・」


 レジを打ち終わって、すぐにおつりを用意する


 「ほら、お客様小銭も出そうとしてない?」


 「す、すいません・・・・・・」


 小銭を受け取って、差額を暗算して正しいおつりを渡す。


 「ありがとうございました」


 急いで戻ってセットを作って、待たせてるお客さんの注文を取って・・・・・・。その繰り返し。


 「先にドリンクから作ろうか」


 「これはこっちの袋に入れて」


 「この袋とこの袋は分けて入れないとダメ」


 「普通そうはならないでしょ?」


 もうここで働いて2年、初耳の言葉が行きかう。


 幸い、ここの人たちは優しいけど、迷惑をかけてるんだって思うと、すごく悲しい。


 ようやく仕事が落ち着いて、先輩と話をしていた。名前は知らない、でも顔はなんとなく知ってる。この時間帯によくいる人、かな。たぶん。


 「今日は、すごく忙しかったです」


 「いやいや! 今日はめちゃくちゃ空いてたよ! ねぇ!?」


 「そっすね~ 忙しいときはこの比じゃないっす!」


 「すごい汗・・・・・・頑張ってるのはすごい伝わるから、一回水飲んで、ポジション変わろうか」


 気を使われているのが分かる。今までこういうことは何回もあったから、なんとなく分かる。


 「すいません、なんていうか、2年も働いてて知らないことばっかりですし、人一倍頑張ってる自身はあるんですけど空回りしてるような気がして」


 「そうだねぇ、空回りしてるねぇ。失礼だけど、結構要領悪くて怒られたりする? 今までとかにも『なんでこうなるの?』って言われてこなかった?」


 「えっと、基本的に一人で仕事すれば問題ないんです。逆に、成績はいい方だし、結構賞を貰ったり、作品が選ばれたりってことは多いです。ここで働き始めてから特に気になり始めました。たぶん、普通より少し手順が変わってるのかも」


 「そうだね、自己流多めって感じするからさ、8割くらい?」


 「でも、教えられたことはきっちりしますけど、教えられてないところを自分の考えでカバーするのは当然じゃないですか?」


 「うーん、難しいよねぇ」


 たぶん、この人は『普通にやってればおかしいことはないんだけどなぁ』って思ってる。根本的な問題だから、解決できない問題だからこうやって濁すんだ。


 「私、多分どれだけ頑張っても、意識しても直せないところがたくさんあると思うんです。なんで、申し訳ないんですけど、逐一指摘してもらえませんか? 言われたことは直せるので」


 「うんいいよ。でも、少し肩の力抜いてね? ほんとはもっと楽しい仕事のはずだから」


 「はい、ありがとうございます」


 それから時間は経って、仕事は終わった。


 「お疲れさまでした」


 挨拶だけして、すぐに帰る。


 自転車をこいで、家の近くの鳥居を通過したところで、バイトの掲示板を見るのを忘れてたことを思い出す。今から戻るほどの用事でもないから、次の為にメモに書いておかなきゃ。


 私は、なんでもすぐ忘れるし覚えられないからリマインドメモを使っている。脳内で覚えたいことを入力しておけば、時間になった時にこのメッセージが頭の中に届く。だから、こうやっておけば忘れる心配はない。全く、こんなにも科学は進んでいるというのに、ファストフード店は昔と変わらず人が注文を聞いて人が商品を用意する。きっと、新しいシステムを導入するよりも人間を安い給料で雇ったほうが安上がりだってことだろう。


 自分は人より要領が悪いし、普通を知らない。だから、人一倍頑張らないと・・・・・・。


 家に帰ると、弟の羽矢が庭でドッジボールの壁打ちをしていた。


 「練習? 手伝おうか?」


 「ねーちゃん! 1人じゃつまんねーと思ってたとこなんだ!」


 ボールを受け取ると、私はすぐさま顔にめがけて投げる。


 弟はそれをキャッチできず、顔面直撃、痛そう。


 「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!?」


 「いってぇー!! なにすんだよ!!」


 「なにって、ドッチボールの練習だから、いつどんなボールが投げられてもいいようにって」


 「へたくそ! 一人でやるからあっち行けよ!!」


 「顔を狙ってたわけなんだから、別に、へたくそなんかじゃ、ないわよ・・・・・・」


 またやってしまった。私の“普通じゃない”は、家にいても同じ。


 私が自然体で認められる場所なんて、どこにもない。


 でも、頑張ってここまで来たんだ。もう道ばたに生えてるきのこを食べて叱られることもないし、落ちてるものを何でも持って帰って怒られることもない。


 でも、毎日毎日、こうやって知らないことを知る。普通の人は普通に知っていることを。


 なんでわたしだけ、なんでわたしだけ。


 バイトで頑張って、つらい思いして、家に帰ればまたつらい思いをする。


 私はすぐにお風呂に入って、自分の部屋に入る。


 なんでっ、なんでよっ!!


 口にしたら、それは憎しみになる。私は、ただひたすらにこころの中で叫んだ。


 くそっ!くそっ!くそっ! くそっ!!!


 なんで、なんで、私はこんなにも頑張っているのに!普通になれないの!!


 あぁ、嫌。『俺病気だから、仕方ない』『私天然なんですぅ』ってアピールをしてるやつらも同じだ!! わたしはこんなにも頑張って、隠しているのに、それをなんで恥ずかしげもなく言えるんだよ!! お前たちのせいで! 本当に困っている人が迷惑するんだ! お前たちの言い訳に私たちを使うなぁっ!!


 はぁっ、はぁっ、くっ、くあぁぁぁぁ!!


 ただひたすらに、心の中で嗚咽した。


挿絵(By みてみん)


おまけ ホリィ デザインラフ

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