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7話 改善計画

 「お前らは、配信の時に意識してることはあるか?」

 

 「どうしたの? 急に」

 

 「俺たちはトレンドVTuberだ、しっかりとした愛されるキャラクター象を作り上げ、ここまで破綻なく続けることが出来ている」


 「まぁ、そうね」

 

 「破綻ねぇ。ハルハルのキャラはコロコロ変わってるような気が・・・・・・」

 

 「仕方ないだろっ! 難しいんだよ電波キャラって! それに俺は男で、女の子を演じてるんだ! ボロがでるのも仕方ないんだっ!」

 

 ※6話参照


 「それは置いておいて! トレンドVTuberになったんだ! ここからは日頃の動画作りから見直していく必要があると思う!」


 「そうはいっても、今のままで成功してるなら、そのままでいいと思うんだけど?」


 「うんうん、それに、路線変更してフォロワーが減っちゃった人もいるし、今のままでいいんじゃないかなっ!」


 「いいや、それは甘えだぁっ!」


 「おお、熱血、だね・・・・・・」


 「『歴史と独断から学ぶ、AtoZ、VTuberの心構え』と題して、教材を用意した、実際に学んでいこう」


 「はぁ、なんか始まったし・・・・・・」

 

 「よし、じゃあとりあえずダイブしてくれ、すぐに共有プライベートルームに招待する」

 

 3人はBMIの機能を使い、仮想空間にダイブする。

 

 BMIとは、Brain Machin Interfaceの略だ。要するに、脳内にコンピューターを直接埋め込み、手足を使わずにあらゆるものを操作することが出来る。


 その技術を使ったものの1つがダイブだ。その場でカメラ通話のようなことが出来る。フルダイブマシンに入った場合と違うのは、感覚を共有しないということと、自由に動けないことだ。スマートフォンで出来る連絡手段程度のものだと思っていただいて構わない。

 

 『はい、というわけで学んでいくぞ』

 

 『おー!』

 

 『この学習会、いるの?』

 

 『まずは1章、ハイコンテクスト・マニアックワール・・・・・・』

 

 『分かりやすく言って』

 

 『分かったよ、要するに初めて見る人にも分かりやすい動画作りを心がけるってことだ』

 

 『はじめて見る人?』

 

 『そう、トレンドVTuberになったことで、これまでよりも切り抜き動画が広まっている』

 

 『人の動画を盗んで収益を得ようとするハイエナね』

 

 『そう腐るなよ、この切り抜き動画から入る視聴者も多くいるんだから』

 

 晴人はごほんと咳をして、再び続ける。

 

 『VTuberに限らず、内輪ネタというものは新規視聴者の入りにくさを助長している』

 

 『確かに、ハルハルエンジンとか、初見じゃ分かんないもんね』

 

 『とはいえ、内輪ネタが視聴者を一致団結させているのは事実、そして、他人から見る内輪ネタの痛さもまた事実!!』

 

 『全くね』

 

 『藍はいい、誰にでも愛される最高のVTuberだ』

 

 『えへへ、晴人くんに褒められると照れるなぁ~』

 

  顔をほころばせる藍を見て、晴人はなぜか顔を赤くする。

 

 『藍の倍晴人が照れてるけど・・・・・・』

 

 『うるさい! とにかくだ、問題は俺と律帆。藍に比べて俺たちがキワモノなのは百も承知、だがそれでも初見の興味を引くのに役立っている。問題は俺たちを囲む視聴者の空気をコントロールすることだ!』

 

 『コントロール?』

 

 『例を出そう、昨日見た語彙力の低い金髪ピアスの実写配信者、クレーンゲームのプレイ動画を投稿していた』

 

 空間に画面が映し出される。

 

 『かっこいいね』

 

 『そうかしら、すこし悪趣味すぎるわ』

 

 『そして、動画の内容はただ2人ではしゃぎながらクレーンゲームをするだけ。ただ言動の1つ1つから知性のなさがにじみ出ているし、金の使い方が極めて下品だ。とった景品はフリマで確認して、高かったものは売り、安かったものは適当に視聴者にプレゼント企画で渡す。自分を勝ち組だと思ってる感が癪に障るし、なんでもかんでも金に絡めて話すのが鬱陶しい』

 

 次に、動画のコメント欄を表示する。

 

 『そして問題はコメント欄、動画の内容は批判したいところばかりだが、視聴者は口をそろえて『とれてすごいです!』『○○様かっこいい!』『2人の仲のいい感じが好きです!』だ。この実質3種類しかないコメントが100件ほど、すべての動画についている。Botも疑ったが、そうではない・・・・・・これはもはや洗脳、マインドコントロールだ!』

 

 『まぁ、底辺で自分のこと様付けで呼ばせる配信者にまともな人間はいないわよね』

 

 『動画の内容は放っておいて、こういった気持ち悪い現象は投稿者を視聴者が囲み、担ぎ上げることで起こっている。だからこうならないようにより一層注意する必要があるわけだ、視聴者が新規視聴者の壁にならないように』

 

 『なるほどね』

 

 『こういった閉鎖的な社会集団を形成することで、外部の情報を完全にシャットアウトさせて、内部で行き交う言葉と価値観でしか思考できなくなる。宗教と同じ理屈だ。いいか? VTuberは視聴者に崇め奉られるアイドルではなく、生活に寄り添ってくれる友達だ。それがVTuberとその他の動画投稿者との違い』

 

 『とてもいい言葉ね、お昼寝中の藍にも聞かせてあげなさい』

 

 『おぉーい!! 寝るなぁ! 起きろぉぉ!!!』

 

 『うーん・・・・・・。ふぁーあ。途中から難しい言葉ばっかりで、わっかんなくて』

 

 『いや、難しい言葉はなかっただろ! なるべく横文字減らして分かりやすいイメージで伝えてただろ!』

 

 『ふみゃぁーあ』

 

 『かわいいあくびしても許されないからな!?』

 

 『また後でアーカイブ見て復習ね、まぁ中々いいこと言ってたと思うから』

 

 『うん、そうする。だから今はおやすみぃ・・・・・・』

 

 『だから寝るなよっ!』

 

 その後、反面教師として実際の動画をみんなで見ることにした。今回流すのは今流行りのバチャメンカード最新弾の開封動画。妙に再生回数とコメント数が多い動画だ。


 「うぇーい、今回は開封動画っでぇーす」


 「マジすかwマジすかw」


 「つーわけで、今回は大人気のバチャメンカード、連星の思い出? 2箱ゲットしたんで、あけていきまーす!」


 動画内の配信者2人はちゃらちゃらした様子でボックスを乱暴に開封する。

 

 『それは思い出と書いて”メモリー”って読むんだよ! 商材を理解していないあたり、非常にイライラする! しかもそれについてコメントではだれも指摘してない!!』

 

 『まぁまぁ・・・・・・』

 

 そんなこんなで開封動画は進んでいく。

 

 「お!? これレアじゃないん!?」

 

 「これが1箱に1つのレア枠っすね」

 

 動画内に出てきたのはハルハルのサインカード。

 

 『あっ! これハルハルだね! かわいいー!』

 

 『ま、そうでもねーよ、ははは~』

 

 しかし、動画内の反応はあまり芳しくなかった。

 

 「えぇ!? コレ14万するやつ!?」

 

 「いや、これは2300円っす」

 

 「ゴミカードじゃねぇかよ!』

 

 そういうと、乱暴にカードを机に叩きつける。

 

 『あ! あぁぁ!?!? やりやがった!! こいつら俺のカードを叩きつけやがった!!!』

 

 春人の怒り様は見るに堪えなかった。藍は動画内の状況を理解できず、律帆は「はぁ」とため息を吐く。

 

 『他の動画でもそうだ! 俺のカードを雑に扱うんだ! 今日の朝だけで2つは見たぞ!』

 

 『絶対その腹いせで講義なんて開いたんでしょ』

 

 晴人は空中に浮かんだディスプレイを消す。

 

 『そういえば、私もサイン書いたんだっけ』

 

 『藍はいいよな! シークレットカードが18万円もする! 律帆はサインカードで20万円! 俺のサインレアは2千円! どういうことだ!!』

 

 『え? そんなにするの?』

 

 『ホリィちゃん、オタクさん需要がすごいからねー』

 

 『あのサインにどれだけ苦労したか分かってるのか! 女の子の文字、絵のタッチ、センス! 1か月かけて89の試作サインを経てようやく描けた珠玉のサインを! 2千円!? BOXのあたり枠潰し!? 最もカードゲーマーを泣かせたVTuberって呼ばれてるんだぞ!?』

 

 『とりあえず、落ちつこ? 話もそれちゃってるし・・・・・・』

 

 『うがー!! このフォロワー乞食迷惑系ミーハー配信者どもがぁーっっ!!』

 

 『ハルハルちゃんの口から、汚い言葉が・・・・・・』

 

 『いつもと同じでしょ』

 

 『というわけでどうすれば俺のカードをもっと人気に出来るかについて・・・・・・』

 

 『趣旨が変わってるじゃない!!』

 

 『やっぱ海外需要狙いか・・・・・・? いや待て、現段階でホリィのカードが高騰してるのは一部のカードゲームオタクからの高い需要、アイカのカードはみんなに愛されるポップVTuberだから一般向け需要が大きいためだ・・・・・・。となると、俺のカードは購入するターゲットが定まっていないことが原因か? 裾野を広げるか、逆に絞り込むか・・・・・・』

 

 『頭はいいんだけど、なぜか結果がついてこないのよね』

 

 『うん・・・・・・。学校の勉強に追いつけない私もおんなじ気持ちだよっ』

 

 『いや、それは違うから・・・・・・』

 

 『というわけで! やっぱり理念とかはこの際おいておいて、今度は人気を上げるための目標決めだ!』

 

 『はーい! 私は、今と変わらずみんなと寄り添ってー』

 

 『現状維持、まぁそれもいいだろう』

 

 『私は、もう少しウケのいい言葉探しかな・・・・・・』

 

 『お、おう・・・・・・』

 

 『なに? なにか変なこと言った?』

 

 『いや、その、なんでもねーけど・・・・・・』

 

 ここで少し、昔話をしよう。

 

 小学4年生の頃の律帆はなんというか、あまり世間を知らない子だった。ネットよりも本を読むのが好きだったのもあり、流行りのアニメも流行りのファッションも、そして何より性知識が全くなかった。

 

 ある日、授業中に先生が呼び出されて抜け出したことがあった。その日はクラスのムードメーカーが欠席していたこともあり、不思議と静まり返った。

 

 律帆は、この静かな空気が珍しいと思った。そしてなんとなく、クラスの男子が言っていた言葉の中に、似たようなニュアンスで言っていた言葉を思い出し、つぶやいた。

 

 「賢者タイム?」

 

 その言葉はクラスで大爆笑を起こした、男子のみならず女子もクスクスと笑っていた。

 

 先生が帰ってきて、騒いでるクラスに喝をいれてもなお、笑いは途絶えなかった。律帆は別にその言葉の意味を知ろうとは思わなかった。というか、人が言葉のニュアンスを生活の中で自然に学ぶように、“この言葉はこういうときに使うんだ”としか思わず、疑問を抱かなかった。


 「ねぇ律帆さん、その、言葉の意味をわからず使ってるでしょ・・・・・・」

 

 クラスの地味目な男子が律帆に指摘する。

 

 「え、うん」

 

 意味を指摘しようにも、内容が内容なので指摘できなかった。律帆はそれに気づかず、それどころか「これを言えばみんなに好かれる」と勘違いしてしまう。

 

 その延長線がホリィだ。みんなの使う言葉を真似して、その中でウケのいい言葉を持ちネタにして話す。そのサイクルを何度も続けてきたことで人気を獲得したのだ。

 

 『でも、どうしたらいいかしら。今度の配信で“私に言ってほしい言葉募集”とかやってみようかしら』

 

 『いやあるけどそういう企画。それはもっと邪なものだから・・・・・・』

 

 『え? よこしま? ぜぶら?』

 

 『それはシマウマってことか? いや全く違うから』

 

 『そうね、シマウマは縦縞だったはず』

 

 『ちげーよ! 天然物のボケが2つ採れたてだぁーっ!』

 

 晴人は頭を掻きむしった。

 

 『じゃあ私は言葉探し、藍は現状維持で、晴人はどうすんの?』

 

 『あ、あぁそうだな・・・・・・。目標としては“ちょっとの変化を”ってとこか。いや、律帆の視聴者に理想を聞くって作戦が割とアリかもしれないと思ってだな』

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 3日後、ハルハルの生配信にて。

 

 『なので、募集中、ハルハルの新しいきゃらくたぁー』

 

 始まったのは、視聴者の希望するキャラクター設定をハルハルがお試しでやってみるという新企画だ。

 

 さっそくコメント欄がどんどん書き込まれていく。

 

 男の娘

 妹

 男の娘

 ドM

 妹

 妹

 逆に姉!!

 からあげはデザート

 幼馴染

 

 『みゅ、妹が謎に人気みゅ。そんじゃやってみるみゅ』


挿絵(By みてみん)

 

 『えー、ごほん。おにいちゃん~、これでいい?』

 

 この配信のコメント数はハルハルの配信史上最高を記録した。


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