表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/63

14話 佐々木夏芽の探偵FILE ~水槽に泳ぐ無意識殺人未遂事件~

 時刻は21:01


 『やばいやん! どーすんねん!?』


 『おにいちゃんに会えないってこと!? 説明しろー!!!』


 温泉をあがって、私たちが見たのは曇ったかりんさんの顔だった。


 かりんさんは一度みんなをまとめると言って、この食堂に全員を集めた。そして、告げられたのは。


 『落ち着いて聞いて下さい。こっちの世界と現実世界が、分かれてしまいました』


 『え!? それって、どういうこと・・・・・・?』


 一同驚きを隠せないようだった。


 『端的に説明します。何者かにVスタジオと現実世界の間に壁を作られましたわ、この壁を無効化するには犯人が設定したパスワードを打ち込む必要がありますの』


 『別に焦る必要はないんじゃないの? こっちの世界は晴人たちがいた世界と違って現実世界に近いんだし、いつかは帰れるでしょ』


『それが、そうもいきませんわ。1ヶ月に一度、この世界の住人は記憶をリセットされます、本来現実世界から来ている私たちは記憶が消えないようになっているのですが、その仕組みも解除されています。それも全員分』


 『それって、どうなるですか・・・・・・?』


 『パスワードを作った本人の記憶も消えます、つまり、パスワードの手がかりが完全に消えます。更に、このパスワードは総当たりで解除できないようになっているので、私たちはこの世界に永遠に閉じ込められますわ。それに、わたくしたち現実世界の住人はこちらの世界で死ぬと・・・・・・そのまま・・・・・・』


 『嘘でしょ? せっかくみんなでハッピーエンドを掴んだのに・・・・・・っ!』


 『あぁ、藍ちゃん。その顔すごく可愛いよ・・・・・・』


 喜楽里が藍を見て顔をうっとりとさせる。


 『犯人って喜楽里なんじゃないの? 藍を曇らせたいがために』


 私は喜楽里を睨む。


 『あいにくだけど、私はあれからずっと監視されてたから細工なんて出来ないし。アリバイがある分、この中で一番犯人である可能性は低いと思うけど?』


 『悔しいけど事実みたいだね』


 ざわざわ・・・・・・。


 『ど、どないすんねん・・・・・・。そもそも動機が全く分からんで・・・・・・』


 『どこのどいつかは知らないけど、犯人が分かったらぶん殴ってやるから!』


 『質問なんだけど、そのリセットっていうのはいつなのかな』


 男の人が聞く、渚カペルっていう現実世界のVTuberの人らしい。


 『27時間後、明日の夜12時ですわ』


 『これは、中々にヘビーだね・・・・・・』


 『どーするんですかー!!』


 『まずいですーー!!!』


 それからもずーっと大騒ぎだった。しかし、私たちにはもうどうすることもできず、全員旅館の自室に向かって、夜を過ごす。


 そんななか、私は夜も解放されている露天風呂に入ろうと脱衣所に向かっていた。


 『あ、夏芽』


 『五百井も?』


 『うちの客室はかりんさんと小林さんがめっちゃ話し合っててなぁ、どうも寝れへんねん』


 『こっちも、状況を理解してないきゅー子さんが『幼女ぉー!』とかいって和美ちゃん(雷舞ライム)を抱きしめてる。あの2人はこっちの世界の住人だから全く関係のない話だしね』


 『なんか想像つくわ、きゅー子さんにはお世話になったからなぁ』


 私たちは服を脱いで、再び露天風呂に入る。


 『夜の露天風呂は格別ね、そうは思わない?』


 『リーフィ、やっぱりいたんだ』


 『呼んだっ? 呼んだよね、呼んだよんだよんだ』


 リーフィがキャラに合わない顔でおどける。


 『それフロスキーのマネかいな』


 『あれが私の理想ね』


 私は体を流した後、湯船に浸かる。BGMがかかっていて、雰囲気もすごくいい。


 『このメンツで集まるのも久しぶりね』


 『そやなぁ』


 『どう? こっちの世界は、案外悪くないんじゃない?』


 『せやな、この頭に刺さっとる爪楊枝もそろそろ慣れてきたわ』


 私たちの姿はおにいちゃんがデザインしたもの、本当の私の姿じゃないけど、いつの間にか慣れてきた。


 『にしても、えらいことになっとるな・・・・・・現実世界の人らは大騒ぎや』


 『私だって、おにいちゃんに会えないのは絶対ヤダ。だから、もう案は考えてあるの』


 『ホンマか!?』


 『犯人は絞られてる、私、五百井、リーフィ。藍、律帆、晴人。喜楽里、黒部ラン、白野ワール、COSMO;GARAX。佐藤、七海、小林。斑鳩、かりん、渚。合計16人ね』


 『現実世界のことを知ってる人らやね』


 『そこから私たちAITuberは外せるわ、私たちは人間に準ずるように作られているから、こんなことは立案したり出来ないようになってるの。私は最近のどさくさで解凍されたからプログラム制限がかけ忘れてあったんだけど、あなたたちを助けた時に制限をかけられたもの』


 『待って、立案出来ないって言い方に引っかかる。じゃあ実行は出来るってこと?』


 『残念ながらそうなるわ。それに、私たちの記憶は簡単に消去出来るようになってるから、AITuberに聞きこみするのは無意味ね』


 そういえば、前おにいちゃんを奪取しようと斑鳩さんに戦いを挑んだ時、黒部ランは私の味方になってた、それが20人を見放すことになるとしても、お願いされた人のために行動していた。


 となると、黒部ランが怪しいなぁ・・・・・・。お願いされたら断れないタイプみたいだし。


 『せやったら、技術的な意味では誰にでも犯行は可能やな。AITuberを利用してプロテクトを作ったってことか』


 『じゃあ、もう一度整理するね。犯人は私、五百井、藍、律帆、晴人。喜楽里、佐藤、七海、小林。斑鳩、かりん、渚の12人のうちの誰か?』


 『自分は外してええんちゃうの?』


 『いいの、私は何が何でも犯人を捕まえる、そのためには自分だって疑ってみせる』


 『はぁ~』


 そう、おにいちゃんと一緒にいるために、私が記憶喪失になってただけで、本当は私が犯人でしたー! なんて可能性も考慮しないといけない。


 『本人が言ってた通り喜楽里も外せるわ、私がしっかり監視していたから』


 『あんた、サボって大分に温泉行ってへんかった?』


 『そうよ、喜楽里といっしょに大分まで移動したの。そしたら東京の本部で悪さできないでしょう?』


 『理に叶った方法やったんや・・・・・・』


 『そもそも、プロテクトを張る方法がVTuberなんだったら、VTuberに任せておけばいいんじゃないの? 首謀者のアリバイなんて関係ないように思うんだけど』


 『プロテクトはAITuberだけじゃ起動出来ないの。発動は24時間以内に設定出来るけど、その発動設定には人間の生態情報も必要なのよ』


 『あーもう! ややこしいなぁ!』


 『じゃあ、私、五百井、藍、律帆、晴人。佐藤、七海、小林。斑鳩、かりん、渚の11人、かなーり絞れたね』


 『こんなかで怪しそうなやつは誰かな』


 『五百井』


 『なんでや!』


 『だって、東京にいたし、24時間ずっと一緒にいたわけじゃないし、犯行はいくらでもできそう』


 『そんなこと言わんとってや! 友達やんかー!』


 『どうだか』


 『ドライすぎるやろ!!』


 『まあいいや、私の方法でやればいいだけだし』


 『そういえばそうだったわね、案は考えてるって言っていたじゃない』


 『うん、みんなを殺そうかなって思って』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『それ、ほんまに言うとん?』


 『うん、もちろん。おにいちゃんのためだったらこの手も汚すよ』


 『デタラメじゃない、殺したらパスワードも分からないわよ』


 『流石に命の危険が迫ったら本当のこと言うでしょ? 一人ひとり並べて、包丁でも突き立てて、白状しなかったら刺す。本当に犯人じゃない人には悪いけど、こうすれば確実なはず。以上』


 『それって・・・・・・うちも?』


 『五百井は友達だから最初にしてあげる』


 『それを言うんなら最後やろ!』


 『っていうのを、あらかじめみんなに言っておくの』


 『へ?』


 『そうすればみんな血眼になって証拠探すでしょ! それに、犯人もビビって白状するだろうし!』


 『せ、せやな・・・・・・』


 『私おにいちゃん狂キャラだから、みんな信じると思うんだよね』


 『ええ、私もちょっと信じたわ・・・・・・』


 『で、これを明日の朝イチにみんなに言っておく。そうすれば尻に火がつくでしょ!』


 私はそれだけ言うと、湯船から出た。


 『さて、今日は徹夜かな。情報を集めて集めて集めてっと』


 もう一度シャワーを浴びて、私は温泉を後にした。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 時刻は07:58、記憶のリセットまで16時間2分。


 私は大きな声で宣言した。昨日五百井たちに言った通りのことを。


 『死ぬのが嫌なら死ぬ気で探せ! 犯人の証拠をー! さあ! 調査開始!!』


 調査開始。


 昨晩は一睡もしなかった、一睡もせずに全員のアリバイや動機の考察を行った。その結果、1つ気になった点があったので、その検証を行う。


 私は喜楽里を呼び出し、2人きりで部屋に集まった。


 『さぁーて、尋問を始めようか!』


 『前にも言った通り、私にはアリバイがあるから、絶対犯人じゃない』


 『それは知ってる、私が聞きたいのはこの世界のことをどうやって知ったかなの』


 『そんなの、数日間この世界にいれば分かるし』


 『でも、記憶のリセットは知りようがないはず。斑鳩さんに記憶のリセットを知っているかって聞かれた時言い淀んでたよね、記憶のリセットのことを知ってたってことで間違いないだろうけど、それを知ってる時点であんたに教えた誰かがいるってことなの』


 記憶を掘り出して、それを証拠に喜楽里に叩きつける。


 『それに、前に喜楽里が捕まった時、こんな捨て台詞を言ってたでしょ『せっかく手助けしてもらったのに、捕まっちゃうなんてね』って』


 『記憶違いじゃない?』


 『残念、私は人より記憶力が良いの、一言一句違わず同じことを言っていたはずだよ。手助けって、なんのことかな?』


 『さあ?』


 あくまで知らないという風にすました顔でそっぽを向く。


 『これ、なーんだ』


 私は押し入れにしまっておいたものを取り出す。


 『そ、それって・・・・・・』


 旅館の食堂にあったいけす、要するに魚の水槽だ。


 『昨日の夜に忍び込んで拝借してきたの、見覚えあるんじゃない? 律帆に藍がどんな拷問を受けてたかは聞いてたから、同じ方法なら吐く気になるんじゃないかと思って!』


 『や、やめ・・・・・・!』


 私は水がたっぷり入った水槽に喜楽里の顔を突っ込む。


 『ごぼ! ごぼごぼ・・・・・・!』


 『真相を知れて、さらにいじめっこを成敗出来る! 私ってば天才!』


 でも、正直どの程度やっていいものなのか分からないな・・・・・・。


 まぁ、30秒は沈めてみる?


 時計を見ながら時間をカウントする。10秒を過ぎた頃から全く泡が出てこなくなったけど、とりあえず30秒経つまで放置。


 『ぶはぁっ!? はぁっはぁっ!!!』


 『どう!?』


 『や、やめてっ! やるのは好きだけど、やられるのは好きじゃないっ! 苦しい! 私打たれ弱いからっ!』


 『もっぺんいってみよー!!』


 ばしゃばしゃ!!


 さっき30秒で余裕そうだったし、2分やってみようかな。


 時計を見て2分経過するまで顔を押さえる。


 その時、戸が開く音がした。


 『かんさいでんきほーあんきょーかいー。ってぇ!? なにやっとん夏芽!?』


 『げ、ばれちった』


 『ちょ! 魚臭いで!! いやそれどころちゃうわ! やめー!!』


 『ほい』


 私は喜楽里を水槽から出す。


 『か、可哀想に・・・・・・顔がめっちゃ汚ななっとう・・・・・・』


 『こ、この人ぉっ! この人が手助けしたんですっ!!!!』


 喜楽里が涙を流しながら不細工な顔で五百井を指差す。


 『え!? なんの話や!?』


 『今さ、喜楽里にこの世界のことを教えた裏切り者を探してるの』


 『この人ですっ!! この人がっ! 私に教えて、私を見逃したんですっ!!』


 『ほーら、助かろうとしてその場しのぎの嘘をつくやつはもう一回水槽の刑・・・・・・』


 『あー、それホンマのこと』


 『・・・・・・は?』


 五百井が顔を少し俯かせて、遠慮がちに手をあげる。


 『ほら! 言ったじゃないですか!!』


 『うるさい喜楽里』


 もう一度水槽に顔を沈めてやる。


 『ごばぼぉーっ!!』


 『どういうこと? 説明して』


 『言った通りや、逃げた喜楽里を探してるときな、実は見つけたんよ、東京の駅近くで。でも、なんか連れて帰りにくい雰囲気で・・・・・・』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『あ、もしかして、あんた喜楽里やないか!?』


 私は目的の女の子を見つけた。


 『・・・・・・っ!?』


 走って逃げ出す、私は逃がすまいとすぐさま追いかけた。走るのは苦手なのか、遅かったので陸上部の私は簡単に追いつくことが出来た。


 『ほーら、元の世界に返したるから、はよついてきー』


 『元の世界?』


 『あー、これ言うてもええんかな・・・・・・』


 私は、とりあえず話をややこしくするわけにもいかないと思って、知ってる情報を全て話した。


 『・・・・・・じゃあ、藍もこの世界にいるってこと』


 『藍?』


 『山口にいる、私の好きな人』


 『そうなん?』


 『でも、好きって言う勇気がなくて、したいことをする勇気がなくて・・・・・・。でも仮想世界だったら・・・・・・』


 『・・・・・・あー見えへんなー』


 『え?』


 『喜楽里ちゃん、どっかに見逃してもうたわ! 見逃したなんてみんなに言うわけにいかへんしなー!』


 『・・・・・・』


 『あー、しかもお金まで落としてしもーた! こんだけあったら山口まで行けてまうのになー』


 『あ、ありがとう!』


 私はサムズアップをして、喜楽里を見送った。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『なるほどね』


 『そういうことや』


 『・・・・・・』


 『・・・・・・』


 『つ、ま、り、五百井が大戦犯ってことでOK?』


 『あ、あー』


 『なにかっこつけて親指立ててるの!? バカなの!? 五百井って脳みそなかったの!?』


 あまりの衝撃に喜楽里から手を離すと、喜楽里はまた息を大きく吸い込んで話し出す。


 『聞きました!? 全部白状しましたよ!』


 『うるさい喜楽里、つまりあんたは泣き落としで五百井を利用したってわけでしょ?』


 『・・・・・・はい! だけど、それはもう過去の話です!! もう反省しました! 生まれ変わります!!! 暗い陰キャ女子だけど、真っ当に生きます!!』


 『ねえ五百井、息止めの世界記録ってどれくらい?』


 『調べるな、えーと、24分3秒らしいわ』


 『いや、それは純酸素吸い込みアリでの記録・・・・・・』


 『じゃあおまけしてあげて12分か』


 『死んじゃいます! お願い! やめて!!!!!!』


 『そやで! 流石にあかんって! もう完全に白なんやから!』


 『五百井さん・・・・・・!』


 『悪いことしたお仕置きなんを考慮しても、その1/4の3分で勘弁したり』


 『バカですか!? 3分も息止められると思ってるんですかぁっ!?!?』


 私はとりあえず喜楽里を水の中にもう一度沈めた。


 覚悟を決めたのか、出てくる気泡は少なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ