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10話 時間がない!

 あれから1週間。


 『どっこにもいねぇ!!!』


 私はVスタジオで叫んでいた。


 『ホンマな、こっちの世界の藍って人、どこにおるんやろな』


 『COSMO;GARAXにも聞いたんだけど、ダメなんだ。分からないって』


 『どういうことですの!? 数日前から行方不明って!』


 『どーすんのっ! おにいちゃんを助けられないよー! もう2週間はおにいちゃん断ちしてるせいで狂いそうだよー!!!』


 毎夜おにいちゃんの妄想をして寝てるけど、そろそろ限界が来そうだ。


 『律帆ちゃんの行方不明の次は藍ちゃんの行方不明か・・・・・・』


 『それもですが、件の夏芽さんと体を取り替えた人も見つかってません』


 『探し方を変えないといけないよね・・・・・・どうすれば』


 『諦めるしかないんちゃうか?』


 『五百井は黙っといて』


 『えぇ~』


 『そうだ、そういえば! 前にVTuberの個人情報リストを見ていた時気になる情報があったんだ!』


 斑鳩さんが急に何かを思い出したように言う。


 『確か、その体を取り替えた相手、クリスの本名は矢代喜楽里、藍ちゃんと同じ学校に通っていた!』


 『なーんでそれを先に言わないんですのっ!』


 『だって、それも数ヶ月前のことだよ!? みんなを助けるためにチラッて見ただけだったから、記憶の片隅にあっただけなんだよ!』


 『間違いありませんわ! その2人の行方不明には関係があります!』


 『そんな偶然あるんか? 間違いあらへんって、そやろか・・・・・・』


 『五百井は黙ってて』


 『ひどいて!』


 『というか、どっちみち手詰まりやん! その喜楽里って人もおらへんねんやろ!?』


 『それもそうだよね・・・・・・』


 進展したかと思われた捜索も、再びふりだしに戻ってしまった。


 誰か、プロフェッショナルはいないの!? 幼女の匂いを辿って探せる警察犬とか・・・・・・。


 ・・・・・・はっ!!!!


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『全く、一体何度職質されたら気が済むんですかあなたは』


 『でへへー、挨拶しちゃった! おはようーって言ったら屈託のない笑顔でおはようって返してくれた! 幼女は優しいし純粋だし、最高だなー!』


 『す、すいませーん!』


 私は池袋の交番でようやく彼女を見つけた。


 『あれ? 可愛い子が私を迎えに!?』


 『きゅー子さん、助けて欲しいんです!』


 『とのことです田代さん! 私は幼女助けに行ってきます!』


 『はぁ、全く反省していませんね』


 よかった、この新しい体もギリ幼女判定されたらしい。


 『ねぇねぇ、どうしたの? 悩みって? 恋の相談かしら~、女の子との恋なら応援しちゃうな~。そうでないなら目覚めさせてあげる~』


 『あの、きゅー子さん、私のこと覚えてます? 夏芽です・・・・・・』


 でも、覚えてるはずない。なぜって、この世界の住人は1ヶ月毎に記憶をリセットされているからだ。私たちは一回外に出てしばらく過ごしていたから、既に記憶をリセットされてるはず。


 『やだ! 夏芽ちゃん!? でも姿が違うじゃない!』


 『え? 覚えて・・・・・・』


 『もちろんよ! 確か五百井ちゃんと、リーフィちゃんと3人でお兄さん探しの旅に出てたのよね!』


 ど、どういうこと!? なんで記憶が残っているの!?


 私は斑鳩さんに連絡して事情を説明する。


 『おかしいな、確かに記憶のリセットは平常通り行われているよ、うん、間違いない』


 『じゃ、じゃあなに? この人は記憶のリセットを無効化したってこと!?』


 『私、一度見た幼女のことは忘れないわよっ!』


 あぁ、でも幼女関連じゃないとダメそうだ・・・・・・。


 『と、とんでもない人だ・・・・・・。そ、それじゃあ! よろしくお願いします!』


 『でも嬉しいわ、姿は変わっているけどたしかに中身は夏芽ちゃんね。ところで今回もお兄さんを探しにいくの?』


 『いや、あの・・・・・・。説明するのが難しいんですけど、私の知り合いの中学生と、私の体を乗っ取った人(正確には私が乗っ取った側だけど)がいて、その人を探したいんです』


 『やだ、メルヘンな話ね。体の入れ替わり? 幼女が嘘をつくわけないから信じるわ。それに、位置情報が山口に移動したのも納得いくものね』


 『へ? 山口?』


 『ここだけの話、実は夏芽ちゃんの髪飾りに位置情報をトラッキングする追跡装置をつけてたの! でも、これは迷子にならないようにって言う老婆心からよ! ほら、最近は子供に持たせるスマホに位置情報アプリを入れたりするでしょう!?』


 『あ、呆れた人です・・・・・・』


 『やったー! 幼女のジト目ー!』


 というわけで、大きな手がかりを手に入れた私はみんなを連れて山口まで移動した。


 『かりんさん、こちらのライブ会場設営や広告、現実世界の藍さんの練習は順調に進んでます。あとはVスタジオの藍さんが見つかればうまくいくかと思われます!』


 『ええ、了解しましたわ。こちらも大きな手がかりを手に入れたのでもうすぐ見つかりそうです、今しばらくお待ち下さいな』


 『九子さんって本名でVTuberやってたんですね・・・・・・。それに、あの幼女好きってキャラじゃなくて本当にロリコンで・・・・・・』


 全員で新幹線から降りて、電車に乗り換え、位置情報の指し示す位置までタクシーで移動した。


 藍のいる場所は想像以上に活動圏内から近かった、裏山の中にひっそりと佇む小屋に反応がある。


 『ここよ! 間違いない、幼女の香りがするわ・・・・・・』


 小屋の中を捜索するも、どこにも人の気配はない。


 『うーん、見つからへんなー』


 『五百井、口を動かしてないで手を動かせ! おにいちゃんがほら! もうここまで来てる!!』


 『何が見えとんねん・・・・・・』


 『分かったわ! ここよー!』


 きゅー子さんが指さしたのは巨大な金庫の扉だった。カーペットの下に入口が隠れている。


 『鍵はダイヤル式か。爆破するのも危険だし、おそらく中は部屋になってるからこのまわりから掘り進める方法もダメそうだ、きっと大きな壁に遮られてる』


 『ここはわたくしに任せてくださいな!』


 そう言うと、かりんさんはどこからともなく聴診器を取り出した。


 『なんでそんなもの持ってるんですか!』


 『こういうこともあろうかと持ってきておいたんですの! わたくしの勘は当たるで有名でしてよ!』


 『でもかりんさん、道具が会ったところでそう簡単には』


 『ピッキングとダイヤル式錠の外し方は心得ておりますわ! 淑女の嗜みですわよ!』


 『絶対おかしい・・・・・・』


 かりんさんはなれた手つきでカチカチとダイヤル錠を回す。


 『それに、1桁の組み合わせ、これくらい朝飯前ですわ。・・・・・・1つ目は2、2つ目は・・・・・・7ですわ』


 27591


 『開きましたわ!』


 『すごいよかりんさん!』


 2人はハイタッチをする。


 『じゃあ僕から行くよ、安全確認のためにね』


 『藍、生きとるかな? 骨になっとったりしたらイヤやで?』


 みんなでぞろぞろと降りていく。


 しかし、なぜか降りていったみんな一言も喋らない、一番最後の私も恐る恐る降りるとそこには見覚えのある私の姿と、ボロ雑巾のようになった女の子の姿があった。


 『これで全員?』


 『そ、そうだっ!』


 喜楽里は藍の首元に包丁をあてがっている、藍は全く反抗する気もないようだ。それもそうか、よだれや鼻水を垂らして、目も虚ろ、衰弱しきって指一本動かせないように見える。


 『や、やめろっ! なんでこんなことをっ!?』


 『今すぐに出ていって、ここは私と藍の愛の巣なの』


 『愛の藍の巣? なんやややこしいな』


 『黙れ五百井』


 くだらないギャグで隠せないほど、緊張が走る。


 『だめよ! 幼女同士仲良くしないとっ! なんでこんなことするのっ!?』


 『仲良くしてるよ、藍・・・・・・。わたしは藍が好きで好きで仕方ないの。だから、こうやって2人っきりで一緒に、幸せにいたい、それだけなのに、邪魔するの?』


 『違うでしょっ! 幼女同士の愛し合い方って! お医者さんごっことか、一緒に一輪車とか、登り棒とか。あ、あとちょっとアプローチ強めな子が体育倉庫に連れ込んで縄跳びで手足を拘束してっ、あぁ鼻血が・・・・・・』


 『あの、きゅー子さんも黙ってもらえませんかね?』


 『斑鳩さん、ここはお得意の』


 『肯定論法だね、任せて』


 斑鳩さんが一歩前に出る。


 『頼む、僕たちは藍ちゃんに協力してもらってライブをしないといけないんだ』


 『ライブ? 中学生の藍は歌ったり出来ないはず。絵も面白いくらい下手っぴだし。あーそうか、元の世界の藍を連れてくるってこと? で、この体に入れる必要があると』


 『理解が早くて助かるよ』


 『じゃあ、それが終わったら返してくれる? 藍にも休憩が要るから外の世界に出してあげてもいいけど、その後はまたこの地下に連れてくる。外の希望を与えておかないと、壊れちゃうから』


 『それは、難しいかな』


 『ふーん』


 『君はなんで藍ちゃんをいじめるの? 好きだからいじめるってこと?』


 『そういうことになるかな。藍を本当に愛してあげられるのは私だけ、藍のきれいな部分、可愛い顔、愛おしい凹凸の少ない体だけじゃない、汚い部分も、醜い表情も、全て愛してあげられるのは私だけ。だったら、これって最高の両想い、お互いに幸せでしょう?』


 『確かに、自分の全てを認めてくれる存在がいてくれることはとても嬉しいよね。でも、人ってそれだけじゃダメなんじゃないかな。色んな人と関わって、それだけ辛いことがあるから、いいことがあったときに喜べて、楽しい毎日が送れるんじゃないかな。それに、こんな暗いところにいたら日光も浴びれない、知ってる? 日光を浴びると幸せになるホルモンが分泌されるんだよ』


 『ふーん、それもいいかもね、首輪をつけて四つん這いで散歩させてあげたら喜ぶかも、もちろん全裸で服を着せずに。あ、1つ訂正だけど、この空間には幸せも辛いこともあるよ。私が時折藍をいじめてあげて苦しい気持ちを味あわせた後、ご飯をあげたり、抱きしめてあげたりしてる。そうして感情のサイクルを回すことが人間を壊さずに楽しまるコツなの』


 『あ、あはは・・・・・・』


 斑鳩さんが完全に引いている。このクレイジーサイコレズには何を言っても無駄かもしれない。


 『ピンチですわ』


 『・・・・・・こだわりが強いタイプと見たね、あの社長みたいに。なら肯定を利用してこだわりを否定できれば・・・・・・』


 斑鳩さんは少し考え込むと、何かを思いついたのか、これだと言うように喜楽里の方を向いて人差し指を指した。


 『待って、君は妥協しているんじゃないか?』


 『妥協?』


 『そう、現実世界で出来なかったことをこの世界でやっているのは、失敗しても取り返しのつく状況だからだ。もう分かってるだろうけど、この世界の住民は1ヶ月ごとにみんなの記憶がリセットされる。辻褄があうように別の記憶を埋め込まれ、死んだ人間も、死んだ場所でリセットされる、それを知っていて、やっているんだよね?』


 『・・・・・・』


 『僕も、実は昔仮想空間で同じようなことをしていたんだ。記憶にはなかったけど過去のログをサルベージしてみた、そこでは、僕が色んな人達を殺したり、足をもいだりしていたんだ。それでも僕は不満そうで、心は満たされていなかった。それはなぜか、やり直しがきくからなんだ! つまり、君はこの仮想現実にいる以上、本当の意味で、真摯に藍ちゃんに向き合うことは出来ない!』


 『そうだね、私も、そこは少し不満だった。でも、だからこそ出来たことなの』


 『確かに、それは肯定する。だけど、僕達がしようとしていることは取り返しのつかないことだ。だから頼む! 協力してくれっ!』


 斑鳩さんは頭を深々と下げた。


 『・・・・・・一理ある』


 喜楽里は藍を手放し、倒れそうな藍をきゅー子さんが抱きとめる。


 『大丈夫!? ・・・・・・脈も呼吸も正常みたいだわ、骨も折れてないし、汚れてはいるけど外傷もない』


 『そりゃあ、私は藍を愛しているから。傷つけたりしないよ』


 喜楽里に近づくと、斑鳩さんは握手を求めて手をさしだした。


 『素直に君の行動を認めることも許すことも出来ないけれど、まずは、ありがとう』


 『ありがとう、私の次の目標が出来た。今度は現実の世界、取り返しのつかない舞台で藍を演じてみせる。こっちの藍のおかげで、やり方も分かったしね』


 相変わらず困った顔の斑鳩さん。


 『にしても、きゅー子さん様々やね、まさかリセットされる前の記憶があるなんてな』


 『私、思ったんだけどさ』


 『ん?』


 『デジャブってあるでしょ? 本来経験したことがないのに、見覚えがあるみたいな。それって、こういうことなんじゃないかな』


 『確かに、せやったら辻褄があうな』


 『・・・・・・。余計、世界の構造が分かんなくなってきた』


 私は、疑問を振り払ってみんなとはしごを登っていく。


 『せっかく手助けしてもらったのに、捕まっちゃうなんてね』


 喜楽里がぼそっと呟いた。


 手助け・・・・・・? まさか、今回の事件には協力者がいた・・・・・・ってことなの?


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