9話 ブイ☆ブイ
あの後も何箇所か回って、この世界の地理は大体理解した。とはいっても、基本は本来の池袋と変わらないんだけど、何箇所か重要な施設があるみたいで、前に行った作業してる人の部屋とか情報処理施設みたいな、この世界の管理に必要な場所を巡った。
そして、他の皆と合流したんだけど、わたしの体の持ち主は見つからないままだった・・・・・・。
『雷舞ライムは無事に現実世界に戻していますわ、ですから五百井さんの姿は元通りなんですのよ』
歩きながらそんな説明を聞いた。
『ねぇ、この世界からログアウトするにはどうしたらいいの?』
『元の体がある状態でしたら、BMIを操作すれば簡単ですわよ』
『あぁ、あれね・・・・・・』
正直、今すぐにでも出たかったけど、ここで出ていったらまた不信感を貯めることになりそうだから、おにいちゃんと平穏な毎日を送るためにここは少し我慢・・・・・・。
『ん、管理部の方から連絡だ、今すぐ来てくれって』
『なにか進展があったのかもしれませんわ! さっそく行きましょう!』
『じゃ、黒部はもう用済みだね、じゃーね』
『ありがとう、助かったよランちゃん』
『くぅー! 褒められましたー! またいつでも呼んでくださいね!』
そう言うと、るんるん気分でスキップしながら何処かへ歩いていった。
私たちもみんなと一緒に管理部の方へ歩き始めた。リーフィは引き続き行方不明の子を探すために探索に出かけたので、私と五百井、かりんさんと斑鳩さんの4人に戻った。
『分かったんですよ! ようやく! 20人を助ける方法が!』
『なんだって!?』
『なんですってー!?』
おお、展開早いな・・・・・・。
『記憶領域の仕様を読み直していたんですが、どうやら要領削減のためにこの世界の人間が考えることはかなり簡易化されてるみたいで、そこを突けば記憶領域を簡単にまとめられるんです!』
『簡易化?』
『えぇ、例えば、目の前にりんごがあったとしますよね』
『はい』
『その時、りんごが嫌いな人ならりんごは嫌なものだとして認識します。そこから遡って、なぜりんごが嫌いなのかということを頭は処理してしまうんです。そうだな、例えばりんごを初めて食べた時に酸っぱくて吐き出した思い出とか、りんごの赤が昔見た事故現場の血を連想させるから嫌いだとか。そういった複雑な記憶の集積が人間を作っているのですが、それを単純化させることでこの世界は作られています。最も、行動パターンも感情や心の機敏な動きも99.999%は現実と同じですが』
・・・・・・。じゃあ、同じように私がおにいちゃんが好きな理由を考えてみる。
見た目、性格、思い出。たくさん思い浮かぶけど、どれがおにいちゃんを好きになった明確な理由かは分からない。でも、やっぱり私はおにいちゃんが大大大好きだ。これはプログラムされた感情なんかじゃなくて、遺伝子レベルで好きだ。きっと、こういうのを運命とか、赤い糸って言うんだと思う。
『それでは、具体的にはどうすればいいんですの?』
『なるべくたくさんの人の意識を1つのものにまとめるんです。そうすれば複雑な記憶領域の糸がほどけて、全員の記憶をサルベージ出来るはずです。ですが、戦争だとか地震だとかはダメみたいです。というのも、あれらは熱中とはまた別のものですから、なるべく“行動”と結びつける必要があります。ゲームを“プレイ”するとか、映画を“観る”というような』
『・・・・・・でしたら、生配信なんていかがでしょうか?』
『生配信?』
『それも、わたくしたちの世界でのトレンドVTuberに』
『なるほど・・・・・・それならいいですね。配信という形なら話題性も、その瞬間を見逃すと一生見ることができなくなるという損失回避バイアスもかかってかなりの人を熱中させることが出来るはずです』
『視聴者は何人ほど集まれば目的を達成出来そうですか?』
『この世界は今のところ日本圏しか実装していませんから、その8割、1億人ですね』
『1億・・・・・・わたくしたちの世界でしたら簡単ですけれど』
『うちの世界やったらVTuberなんてオタクしか見てへんなぁ・・・・・・』
『いえ、案外そうでもないですよ』
『え、そうなん?』
『VTuberは案外女児人気もあるんです、可愛いというだけでも、たくさんの女の子の人気を得てるんですよ』
『やとしても、微妙やけどなぁ』
『だったら、歌だよ! VTuberはゲーム配信、バトル配信だけじゃない、歌でもたくさんの人を魅了してきたじゃないか! 歌はいいよ!』
斑鳩さんがいきなり声を張って語り始める。VTuberがそこまで好きというわけでもない感じの人だったから、急で驚いた。
『斑鳩さんは音楽オタクですからね』
『うん、ライブをしよう! VTuberの音楽ライブ、これで1億人の注目を集めるんだよ!』
『この世界で1億人に見てもらえたら、それは間違いなく伝説ですわね』
『伝説・・・・・・。そうか、だったらふれあちゃんに頼もうよ! トレンドVTuberで、歌えて。レジェンドVTuberを目指してるし、うってつけだよ!』
『それではその線でいきましょう。バーチャルライブの準備はこちらで進めておきます。あくまでも、こちらの世界の中のバーチャル空間ですので、クオリティは多少劣りますが任せてください、最適化は得意分野です。それと、ふれあさんの中の人にはこちらの世界の体に入ってもらいます。同じ体でないと同調律が不安定で、声や動きに悪影響が出ますので』
『分かりましたわ、決行は2週間後! がんばりますわよー!!』
そういうわけで、私たちはライブ大作戦を達成すべく、活動を始めたのであった。
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ストックホルム症候群。
誘拐や監禁といった、事件において、被害者が犯人に信頼を寄せてしまうという不思議な現象。極限状態の中で自分を守る防衛本能とも言われている、私は素敵だと思うけど、実際は精神障害に分類される、れっきとした病気らしい。
私は、あらかじめ用意しておいた大きな水槽を用意する。中には水がたっぷりはいっているだけだ。
藍の両手両足を綱で縛り、目隠しする。
あぁ、なんて可愛らしい姿なのか。動くことが出来ないのに、下手に動くとどうなるかわからないから体を僅かに震わせているだけ。
『じゃあ、いこっか』
私は藍の顔を水槽に勢いよく突っ込む。当然目隠しをされていたのでこうして水攻めに遭うとは分かっていなかったようで、かなりいい反応を見せてくれる。
『ごぼべっ! ごぼばぼば・・・・・・!!!!!』
頭を強く押さえ、逃げられないようにする。
『ごぼぼぼぼぼぼっ!!!!』
『だめだよ、そんなに喋ったら息が持たないのに』
しばらくして出てくる気泡が減ったのが分かったので、一度引き上げる。
藍は口から水を垂れ流し、大慌てで息を吸い込む。どうやら過呼吸になっているみたいだ。
息を落ち着かせる間を置かずに再び水の中に顔を突っ込む、今度はすぐに出してやる。
『やめてぇ・・・・・・お願い! なんでもするからっ!!』
『可愛い』
『喜楽里ちゃんおかしいよ! なんでこんな・・・・・・』
もう一度水に。今度は少し長めに浸ける。
どうやらそろそろ学習したようで、今度は口を閉ざしたままなんとか息をもたせようと頑張っているようだ。私としてはこっちのほうが嬉しいかもしれない、頑張って耐えようとしている時は時間に集中するから、長い事つけてやると焦りだすんだよね。
ほら、予想通り、膝をカクカクさせて急に起き上がろうとし始めた。
ここで、もうちょっと漬けてあげる。
『ごぼぶばっ』
最後の言葉を発して、それきり動きがなくなった。
自ら出してあげると、再び水を吐き出した後、かすかに呼吸をし始める。
ぐったりしていて、もう立ち上がる気力も無いようで、そのまま床に倒れ込む。
『お楽しみだね~』
目隠しをはずしてやると、目を半開きにして気絶している藍の姿。
『か、可愛すぎる・・・・・・』
そっと、その口にキスをする。
コレで、私のものになってくれるよね。いい加減。




