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8話 わたしの一人戦争

 『ところで、わたしたちが乗っ取った体の持ち主はどうなってるの?』


 情報処理室から出たところで、私は疑問を口にした。


 『ダジャレばかり言ってる方は無事に保護したわ。だけれど、もう1人のほうはどっか行ったわね』


 つまり、リーフィが取り逃して行方不明ってことだ。


 『それってまずいんじゃ?』


 『気になるなら探しに行くわ、ついてくるのは?』


 『せやな~、うちが行こかな?』


 『ではわたくしも同行しますわ』


 『それじゃあ、わたしと黒部、斑鳩さんは別行動にしよっか。わたしはもうちょっと話を聞いてたいし』


 そういうわけで、わたしたちは別に行動することになった。


 『それじゃ、次はどこに行こうか・・・・・・』


 斑鳩さんが口を開いた瞬間に、わたしは斑鳩さんの背後に回り込み、首をがっちりと腕で固めた。


 『い、痛いよ! いきなりどうしたの!?』


 『ほら黒部! 手伝えっ! 手伝ったら褒めてあげるから!』


 『は、はいーl ここで夏芽さんを助けられるのは私しかいないですよねー!』


 『おにいちゃんをこっちの世界に戻しなさい』


 『そ、そんなに簡単に出来ることじゃないんだってば! 今は施設で保護してるからっ!』


 『正直言って、わたしにはこっちの世界がどうとか向こうの世界がどうとか関係ない、おにいちゃんと暮らすことが目的なの。だから、早くして』


 『く・・・・・・そういうわけにもいかないんだっ!』


 そういって、私を弾き飛ばす。


 すると、突然周りの人間が消えて、聞き覚えのあるアナウンスが流れた。


 『どもーっす! しろねこっすよー!』


 『こっ、これはVTuberバトルってやつ!?』


 まずいかっ? 逃げるべきかもしれない。でも、今は情報もある、逃げてばかりじゃなくても大丈夫なんだ。


 『よし、ツイてる! VTuberバトル中は、こういうことも出来るんだよっ!』


 そう言うと、斑鳩さんは空間からT字定規を取り出した。


 『なにそれ! そっちばかりずるくない!?』


 『夏芽さん、こっちも武器を出しましょう! 夏芽さんは鞭を出すことが出来るはずです!』


 私、飲み込みは早い方だから。なんとなくイメージすることが出来た。


 『なるほど、こうか』


 鞭を出すと、私は試しに近くにいたランに向かって鞭を打ってみる。


 『い、いったぁぁ!?!? ワールとは違って私痛いのはイヤなんですけど!?』


 『ありがとうラン、おかげで鞭の打ち方が分かったよ』


 『お、お礼されるとそれほど悪くない気も・・・・・・』


 『ランちゃん! 将来DV男に引っかからないように気をつけてよ!?』


 無駄口叩いてる間に鞭を斑鳩さんに向かって打ちつける。


 『早くおにいちゃんを返してよ! 1対2で勝てると思ってるの!? ほら! 黒部も協力して! おにいちゃんを奪われてるわたしを助けてくれたら、あなたは他でもない、ヒーローだよ!』


 『それもそうですね! ここは夏芽さんにつくべきですよね!』


 『ランちゃーん!!!! それよりも、夏芽ちゃん! かりんさんたちと話して、今回の事態について分かったんじゃないのっ!?』


 『よく分かったよ。すごくよく分かった。でもね、だからなに? あんたたちはわたしたちのいた世界をぶっ壊して、わたしとおにいちゃんの平穏を奪ったんだよ!? それを棚に上げて、助けてほしいなんて虫が良すぎるよっ!』


 『それは、そのとおりだ・・・・・・』


 私が鞭で攻撃、斑鳩さんはなんとか大きな定規で防いでるけど、黒部の後方支援もあってかなり押してる。


 『黒部! このまま攻撃を続けたらどうなるの!? 死ぬの!?』


 『いえ! ダウンするだけです! だけど、その後も攻撃を続けたら3Dモデルが削除されます!』


 『なるほど、交渉には十分だね』


 『ランちゃん! なんでそっちに肩入れするんだよ! 前は一緒に戦ったじゃないか!』


 『だって! 弱い方を助けたほうが世間からの評価もよくなるじゃないですか! そしたら、夏芽さんにもお兄さんにも、みんなにも褒めてもらえます! 映画も作ってもらえるかも知れません! そしたら、沢山の人から頭撫でてもらえる・・・・・・』


 『どっちが正義なのか、考えたことがあるのっ!? 1人の平穏と、20人の人の生死を天秤にかけたら、どっちを優先すべきなのかっ!』


 『え? 20人の・・・・・・?』


 黒部が揺らぐ、でも、もう遅い!


 わたしは説得で隙のできた斑鳩さんの武器を弾き飛ばし、無防備な状態にする。


 『なっ!? 油断したっ!? くっ、僕はSランクまで上り詰めた実力者のはずなのに・・・・・・』


 『Sランク、がなんなのかは知らないけど、わたしのおにいちゃんへの愛が一番強いってことみたいだね。さぁ、トドメいこうか!』


 鞭を大きく振りかぶって、強力な一撃を与える。


 締野うどん ダウン。


 『だ、ダウンした・・・・・・! まずいっ!』


 『さぁ、もう一度聞くけど、おにいちゃんを助けてくれないの?』


 『申し訳ないけど、この3Dモデルが破壊されるよりも遥かに、20人のほうが大切だ!』


 くそっ、交渉としては弱かった・・・・・・! ここじゃなぜかリーフィとの通信も取れないし、選択を間違えたか・・・・・・?


 『みんなを助け出す方法が分かれば、みんなも、お兄さんも助かるんだよ! だからもう一度お願いする、協力してくれないかっ!?』


 『あのかりんさんって人、おにいちゃんの妹なんだっけ? それに、そっちの世界の偉い人なんでしょ? だったら、おにいちゃんはそっちの世界にいた方が良いこと尽くしだよね。つまり、大多数の人の幸せを正義だとするあなたなら、わたしを裏切る可能性だってあるっ!』


 『くっ』


 『これは戦争だね! わたし1人と、それ以外全員の!』


 『それは違うよ! これは戦いなんかじゃない! 人を救うために、もう戦う必要なんてないんだ! 今までは、たくさんの人が戦って、失って、最後はなんとか大団円。だけど、今回は違う、大きな山場なんていらないから、ただみんなで地道に頑張って、協力して、一緒に全員が幸せになる方法を探すんだよ! そのなかで多少のいざこざは起きるかもしれない、僕が正義なのかも分からない! でも、今こうやって短絡的なことをすると、大変なことになるかもしれないんだっ!』


 わたしは、全く納得してない。


 でも、これ以上やっても無理そうだ。ここは引こう、説得を聞いて改心したフリでなんとか丸め込める。


 だって、最後に勝つのはわたしのおにいちゃんへの愛なんだもん。


 『う、うわーんごめんなさーい!』


 『わ、分かってくれたってこと・・・・・・?』


 『おにいちゃんにしばらく会えてないせいで、少し気が立ってたのかもしれないです! 短絡的になったらダメですよね! 協力しますー!』


 『よ、よかったのかな、これで・・・・・・』


 『じゃあ、この世界の探索に行きましょー! 黒部! ぼけーっとしてないで道案内頼むよ!』


 『20人・・・・・・正義・・・・・・。うーん・・・・・・!』


 黒部は目をぐるぐる回していた。


 そのうち、再びアナウンスが流れてVTuberバトルは終了した。人が戻ったこの世界を、黒部に案内してもらいながら歩いた。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 私は、ようやく願いが叶った。


 ずっと欲しかったものが、そこにある。


 私は矢代喜楽里、VTuberをしていて、今日もいつも通りVTuberバトルに参加していたんだけど、急に私の体を何者かに奪われて、交換する形で私は新しい体を手に入れた。最初は意味がわからなかったけど、その後クラゲみたいな女がこちらに向かってくるのを見て、急いで逃げて、隠れた。体も何故か透明だったから撒くのは簡単だったし、しばらくすると遊園地に人が現れて、その中に紛れ込んだ。体はそれと同時に元に戻った。


 それから、私はあてもなく彷徨っていた。でも、しばらくして、ここが私のいた世界より昔の世界だってこと、そしてここにいる人達は本物と変わらないってことを知った。この世界は2025年くらい、私は山口県、私の実家に向かった。


 目的は家に帰ることじゃない、私の好きな人、藍ちゃんを見つけるためだった。


 始めに家についた時、私はもう1人私がいるところを見つけた。でも、これはあくまで私の代わりに存在する人間。


 この世界に、私という個体はいない。


 そう、私は本来いてはいけない存在。


 だったら、なにをしても構わない、ということ。


 私は、藍ちゃんがいる教室を見た。中学2年、2年前だ。世界とここにいる人の年齢が合わないけれど、そんなことはどうでも良かった。私は藍ちゃんが下校するタイミングを見計らって、声をかけた。


 『あ、あの。藍ちゃん・・・・・・』


 『ん? だれー?』


 見た目は同年代だけど、私の姿はまた別のだれかのもの。名前では呼んでくれなかった。


 『あ、あの。秘密基地を見つけたから、一緒に、見て、欲しくて』


 『えー! 秘密基地!? なにそれ! 見たいみたい!!』


 私は秘密基地、中学生の頃に籠もっていた山の廃屋に藍ちゃんを連れて行った。


 扉を開けて、先に藍ちゃんを入れる。


 『うわー、暗いよー?』


 『そうだね』


 その廃屋には地下室がある。かなり分かりにくいところに入口があるから、おそらくバレない。入口はなぜか金庫のようにダイヤル式の錠がかかっている。だけど、私は暇でこの秘密基地に来てはずーっとダイヤルをいじっていたので、ここの番号は知ってる。


27591


 ダイヤル式の扉を開くと、私は藍ちゃんと一緒に地下室へと入っていく。


 『本格的だねー!』


  疑うことを知らないんだ、藍ちゃん。私のちんまい姿に騙されて、まんまとはしごを降りる。降りた先には、ほこりを被った水や缶詰の置かれた部屋があった。


 『これって飲めるの?』


 『うん、昔の人が残したものみたい、缶詰も問題なく食べられるよ』


 『うわーすごいなー』


 しばらく部屋にいると、藍ちゃんが言った。


 『そろそろ帰らなきゃ、出よっか!』


 『・・・・・・やだ』


 『えー? 帰らないとダメだよー』


 『藍ちゃん、藍ちゃんはずっとここで一緒に暮らすんだよ』


 『でも、それだったらご飯食べられないよー?』


 『ここには缶詰も水もある、大丈夫だよ』


 『トイレは? お風呂は?』


 『お風呂は我慢して。トイレは、耳を塞いであげるから』


 『もー! そんなこと言ってないで帰るよー!』


 可愛い藍ちゃん、まだ分かってないんだ。


 『ここの扉は、一度閉めちゃうとまた中から番号を打ち込まないと開かないんだ。きっと、ここを作った人は誰かを閉じ込めるためにこの地下室を作ったんだと思う』


 『もうー、怖いこと言わないでよー! はやく帰ろうよー!』


 ふふふ、いい。すごくいい。


 ここで、満を持して、私は懐にしまっていたものを取り出す。


 電球が2個ほど光っているだけの空間、光を反射してそれはキラリと光っていた。


 『これ? 分かる?』


 『ほ、包丁だよ・・・・・・。危ないよ?』


 『そんなのは分かってるよ。これ、刺さったら痛いよね、死んじゃうよね』


 私は、手に持った包丁で藍ちゃんに斬りかかる。


 『あ! 危ないよ!!!!』


 『ふ、ふふふふ。これで分かった?』


 『なんの話っ!?』


 『藍ちゃん、あなたはここで私と一緒に暮らすのよ。ずっと、ずぅーっとね』


 『やだよ! お母さんに会いたいよ。友達だっているのに!!』


 『ここに友だちがいるでしょ?』


 『でも、名前も知らないよ!』


 『私は喜楽里だよ』


 『喜楽里ちゃん? おんなじ名前の子がクラスにいるけど・・・・・・』


 『クラスメイト?』


 もう一度、包丁をちらつかせる。


 『私は友達じゃないの?』


 『な、なんのこと!? わかんないよ!』


 『ねぇ、私のことちゃんと名前で呼んで、喜楽里だよ。喜ぶに、楽に里。苗字は矢代』


 『だから、それは私のクラスメイトの』


 『友達じゃないのっ!?』


 とはいっても、私だって中学の頃は藍ちゃんと友達になろうとなんて思っていなかった。だから、当然と言えば当然なんだけどね。


 『ねぇ、呼んでよ、喜楽里ちゃんって』


 『う、うん。喜楽里ちゃん』


 『ありがとう!』


 私は藍ちゃんに抱きつく。


 分かる、分かる。震えてる、藍ちゃん、理由も分からずいつか刺されるんじゃないかって思ってるんだろうなー。単純で可愛い。


 『私も、こんなの初めてだから分かんないことばっかりだけど、一緒に暮らそうね』


 『ねえ、なんでこんないじわるするの・・・・・・? 私が嫌いなの?』


 『逆だよ、大好きだから、だよ。大丈夫、私は藍ちゃんがなにをしても、全部愛してあげるから。おもらし癖が治ってないのも知ってるから、漏らしちゃっても怒らないし、頭がそれほどよくないのも知ってるから、変なことを言ったり私を怒らせるようなことを言ってももっと好きになってあげる』


 『私のこと大好きなんだったら、おうちに返してよ・・・・・・』


 『可愛い、もうホームシックなの?』


 『嫌だよー!!』


 泣き出してしまった。


 可愛い。


 包丁を藍ちゃんの首にあてがう。


 動きがぴたりと止まり、肌が少し冷たくなって顔が青ざめているのがよく分かる。


 可愛い、なんて可愛いんだろう。


 『動いたらダメだよ、首が切れちゃうよ』


 藍ちゃんの太もものあたりから、なにか温かいものが流れてくる。


 『あ、言ったそばからおもらししちゃったの? わるいこだなぁ』


 藍ちゃんが引きつった顔で、嗚咽する。


 『大丈夫だよ、こんなことで怒ったりしないから』


 藍ちゃんはなにかを口にしているようだったけど、どうも言葉にならない。


 『ねぇ、この部屋で出来ることで、藍ちゃんがしてほしいことってなに? なにがしたい? この狭い空間で、何を生きがいにすれば明日を生きる活力になるのかな?』


 『帰りたいよぉ・・・・・・』


 『藍ちゃん、しっかりして! 壊れちゃったらダメだよ! 藍ちゃんにはここでいつもとおんなじように過ごして貰わないと!! じゃないと、私の好きな藍ちゃんじゃないもん!』


 今日から、私と藍ちゃんの共同生活が始まった。


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