7話 女子☆騒々! RE-DIVE!
「さて、それでは先に私たちの素性から話しますわ」
量の多いカルボナーラに苦戦していると、既に1/4ほど食べ進めている彼女から話を切り出してきた。
「まず、わたくしの名前はかりん、呼び方は好きにしてくださって構いませんわ。わたくしはこっちの世界の一大スポーツ、VTuberバトルを運営するVectorという会社の社長の妹ですわ」
妹、という言葉にピンときたけど、今は関係ない。
「そしてこちらが斑鳩さん。ふとしたことからVTuberになって、ネット世界では有名人ですわ。そして、わたくしと一緒にVector社の社長、つまりお兄様の野望を阻止しましたわ」
「なんやそれ? めっちゃおもろそうな話やないかー!」
「細かい話はおいおいしますわ。重要なのは1つだけ、そのVector社の開発した機械、ユートピアメーカーという機械に19人の罪の無い人間が取り込まれているんですの。そして自ら入り込んだ社長の合計20人、その機械から人を救出するにはまだまだ情報が足りず、機械の発明者である私のお兄様を真っ先に救出しようとしましたわ」
「大体話は掴めたよ。つまりわたしのおにいちゃんは・・・・・・」
「橘白夜、わたくしのお兄様ですわ」
「意味わからへんー! ばかでも分かるように教えてくれやー!」
「わたしの認識が間違ってなかったら、話はシンプルだよ。この世界の20人が機械に閉じ込められてる。そして、それを助けられるのはわたしのおにいちゃんであり、このかりんっていう人のおにいさん」
「なるほど、つまりっ、あんたとそこのお姉さんは実は姉妹やったんや!!」
「違う、バカ五百井。私たちは現実じゃない仮想世界の住人でしょ? わたしのおにいちゃんは現実世界から仮想空間に行ったの、つまり、おにいちゃんは現実世界に妹を持っておいて、それでいてわたしの兄もやってたってことよ」
「つまり、演じている俳優がお兄さんやとすると、俳優の妹がかりんさん、ドラマの中での妹が夏芽ってことなんやな」
ぽかっ!
「痛っ!? なんで殴るねん!」
「わたしのおにいちゃんはおにいちゃん! それ以上でもそれ以下でもない!」
「さっきお兄さんをやってるとかなんとかって言ったのはあんたやんか!!」
「あなたたちも、もし“わたし”をそんな風に見下しているというのであれば、認識を改めてください。“わたし”はフィクションの存在じゃない! こうして、今あなたたちと話している、立派な本物の人間です! そして、わたしのおにいちゃんも本当のおにいちゃんです!」
「“わたし”? “わたしたち”やろ~? うちを省らんといてくれや・・・・・・」
「その意見は尊重するよ。さっきは記憶を消すなんて言ったりして申し訳ない、正直、僕達もあの世界のことはあまり知らなかったんだ。こうして、現実世界に来たり出来るくらい、“人間”なんだとは、思っていなかったよ」
「おーい、聞いてるん~?」
男の人、斑鳩さんが申し訳なさそうに言う。今思えば、彼らにとってはわたしにとって1週間ほど前の出来事が“さっき”だったのだと思うと、世界の歪みを感じて少し不安な気持ちになる。
「励ましになるか分からないけど、この世界が現実とも限らないんだ。だって、それを証明するものはないからね。この世界はたくさんの層になっていて、僕達は君たちの世界の上の次元層にあるということしか保証出来ないんだよ。だから、君たちがこうして話している以上、同じ世界の人間として扱うよ」
私たちがゲームの中の人間を見て、自分を現実の人間だと感じるように、彼らも私たちを見て自分を現実の人間だと思っているに過ぎない。確かに、そういうこともあり得るのかも知れない。
「でもね、だから信じるんだよ。自分の住む世界の真偽なんて関係ない、自分の世界を信じて生きることが大切だって、かりんさんに気づかされたんだよ」
「あら? あなた自身が言いだしたことではなくて?」
「いや、かりんさんに会えて、たくさんのものを見てきたから気づけたことだよ」
ただならぬ視線を送り合う。なんだこれは、そういう関係かっ!? 兄という存在を持ちながら、妹の片隅に置けない奴め。
「ごめん、話がそれたね。君のお兄さんはまだ仮想空間の記憶を持ったまま会社の研究室にいるよ、本当は記憶を消して元の記憶を取り戻そうと思ったんだけど、君を見るとそう安易に進めていい事じゃないみたいだ」
「はぁっ!? 記憶を消すっ!?!? そんなことしてみなさいよ、ただじゃおかないからねっっっっ!!!」
「も、もちろんだよっ。それにね・・・・・・。その作戦もダメみたいなんだよ」
「はぁっ!?」
「さきほど研究チームと解析した結果、お兄様の人格とあなたたちの世界のお兄様の人格は似て非なるものだったそうですわ・・・・・・。もっと奥深くのデータをサルベージ、要するに引き上げる必要があったみたなんですの」
「もー! ワケ分からへんー!!」
「要するに、今回のダイブは無駄足だった・・・・・・。あなたたちの世界のお兄様の人格を持て余してしまっているんですの」
「その人格っていうの絶対消さないでよねっ! 消したらお前たちを殺して一緒に死んでやるからな!」
「ヤンデレ妹やぁっ!?」
「消しはしないよ。でも、その余った人格データが曲者で、君たちとはまた違った仕様だから今のところ肉体を持たせることが出来ないんだ。それが出来るのはあの世界の開発者、白夜さんだけなんだよ」
「じゃあ頑張って探しなよ!」
「やってるんだ。でも、ユートピアメーカーはその性質上、時間がたてば立つほど救出が困難になるから、これ以上かかると要救助民の身に何が起こるのかわからないんだよ・・・・・・。わかりやすくこの深刻さを伝えると、5分ごとに2倍に増えるくりまんじゅうを思い浮かべてみて、始めの一個が白夜さん」
「バイパインや!」
「そのくりまんじゅうを1ヶ月放置していたせいで、もうとんでもない数のくりまんじゅうがあの世界には溢れている。そして、その中からオリジナルのくりまんじゅうを探すのはとんでもなく、想像も出来ないほど難しいんだよ」
「指数関数の恐ろしさは、よく分かってる」
「アクセス方法がなんとか確立したときにはもうとんでもない時間が経っていましたわ、今回お兄様が見つかったのは砂漠の中から1粒のダイヤモンドを探し当てるほどの奇跡でしてよ。それですら、惜しくも叶わず。別の方法を探すしかありませんわ」
「だったら、あの仮想世界で考えればいいんじゃないの? あっちは時間が経たないんでしょ?」
「ええ、既に今研究チームはVスタジオにこもりっきりで必死に解決方法を考えていますわ、わたくしたちなんかとは比にならないほどに優秀な人達でしてよ」
本当かの確認も併せて、リーフィに聞いてみよう。
『HEYリーフィ! それは本当?』
『ええ、事実よ。私たちAITuberもずーっと探索活動につきあわされてて大変なんだから』
ファクトチェックも問題ないと。
「でもさ、研究チームがそんなに時間をかけてるなら方法も見つかるんじゃないの?」
「確証はありませんわ。ニュートンが重力を発見するまで、何億人、何兆匹の生き物がそれに気づかなかったように、この機械の仕組みを見つけ出して理解できているのはお兄様だけですの」
「なるほど」
「少し話が長くなりましたわね、お付き合いいただきありがとうございました」
気づくと、かりんさんのパスタ皿は空になっていた。いつ食べたの?
「で、これからどうするの?」
「そうですわね、貴方が本当にお兄様を助け出したいのでしたら、今すぐにわたくしたちと仮想空間に行きますわよ」
「最初から仮想空間で話せばよかったんじゃ!?」
「こちらに来ていただかないと、この世界についても分からないことばかりでしょうから」
かりんさんが立ち上がる。
「それでは、決意も決まったことですし、行きますわよ」
「はい」
「ここのご飯美味しいなー! もうちょっと現実世界を満喫したいわー!!」
爪楊枝を咥えながらお腹をぽんぽん叩く様は、まさにおっさんだった。
「五百井、わたしは仮想空間に行くけど、あんたはどうするの? わたしが向こうでおばあさんになったら、五百井に会った時に元の世界のことを話せる友達はいなくなるんだよ」
「脅すなやー! 分かったって! 事件が解決したらまた来るけど、それまではお預けや!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
そういうわけで、私たちは会社に戻った。
「そういや、うちらと入れ替わった人らはどうしてるんかいな?」
「あ、確かに。もう向こうの世界じゃおじいさんになってるかも」
「大丈夫です、Vスタジオは向こうでの時間の流れで1ヶ月ごとに記憶をリセットするシステムが組み込まれていますわ」
「どうして私たちにそんな重要な話をしてくれるの?」
「それはもちろん」
「君たちを信頼してるからだよ」
その言葉を聞いてから、わたしたちは特殊な装置に入った。
「個別IDは差し替え済みです、それではかりん様よろしくお願いします」
「了解ですわ、任せてくださいまし」
スタッフのような人に手伝ってもらいながら、私たちは装置を装着する。
装置が起動すると、私の視界は一瞬のうちに切り替わった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『ふぅ、久しぶりのわたしたちの世界!』
『正確にはちょっと違うみたいやけどな』
『細かいこと言うとモテないよ、五百井』
『うぅ、当たりが強い・・・・・・』
五百井はおにいちゃんにデザインしてもらった姿、だけど私は別のVTuberの姿だった。
私たちが来たすぐ後に、かりんさんと斑鳩さんも現れた。
『にしても、なんで斑鳩さんは男やのに女アバターで、かりんさんはお嬢様キャラやのにギャルみたいな格好になっとん?』
『僕のVTuberモデルだよっ! これでVTuberをやってるんだー、この姿になってるのは共通規格の3Dモデルが必要だからなんだけど、やっぱりいつも使ってる姿のほうがしっくり来るからね!』
『右に同じ的な!! こっちの姿のほうがいいっしょ? なーんて、だいぶイメージが違うでしょう?』
やけにテンションが高い。痛い人たちだ、と思ったのは心の中にしまっておこう。
『わたくしたちもこの世界の全てを把握しているわけではありませんの、ということで今回はナビゲーターを呼んでいますわ』
『どーもー! しっかりしてる方! 妹の方の黒部ランですっ! 気軽にランちゃんと呼んでくださいねー!』
『その更に妹のリーフィよ。また会ったわね』
『リーフィ! 久しぶり!』
『いうても、うちらからすると数時間ぶりなんやけどな』
リーフィという名前はかりんさんたちには初耳なはずだ、思えばわたしたちの話は全くしていなかったので、この機会にある程度ここに至るまでの経緯を話しておいた。
『私は無視ですかー!?』
『よし黒部、おにいちゃんを助けるために役に立て』
『いきなり苗字で呼び捨て!? まぁ、それでいいならいいですけど、活躍したら褒めてくださいね!』
なんか、五百井と同じ匂いがする、これはいじりがいがある子だ。
『そういえばっ! あなた、プログラムの改ざんをしていましたわよね。Vスタジオでのプログラム書き換えは何が起こるか分からないので絶対にしてはいけないというのはご存知でしょう? その3Dデータの上書きも、今回は大目に見ますが研究チームにフィードバックとして送信しておきますからね、多分行動に制限がかかりますわよ』
かりんさんに責められているリーフィは全く動じていない様子だった。AITuberは人間に作られた存在で、こんな風に制限をかけられるほど不自由だ、それでも凛としている。
『友達のためだものね、仕方ないわよね』
リーフィはわたしを見てアヒル(※正しくはニヒル)な笑みを浮かべる。
他愛もない話をしたところで、黒部の案内に従って歩いて移動する。すると、大きなビルに到着した。ここが仮想現実だと知ってからだと瞬間移動でもしたいものだけれど・・・・・・。出来ないんだよね。
『ここが! 研究チームのいる場所ですねー!』
ランが大げさに腕を振ってわたしたちを案内する。
『かりんさん! こんにちは!』
『やけにのんびりしてますのね・・・・・・』
『焦って考えても分からないものはわからないですからね、こうして少し頭を柔らかくして考えているんです!』
『ねぇダックちゃん・・・・・・。どうやったらこの機械の記憶領域を紐解けるかなぁ? 私としてはこの◯?の△?に・・・・・・』
『・・・・・・』
ゴム製の黄色いアヒルに話しかけている人がいる。長時間の研究で頭がおかしくなったのだろうか。
『あなたの想像通りよ、あの人は、研究のしすぎでおかしくなってしまったの。ぐすっ、いい人だったわ』
『嘘を吐くんじゃありませんの! あれはラバーダック法ですわね、ああやって話しかけることで頭の情報を整理する役割があるんですの』
『色んな方法でアイデアを出そうとしとんやな』
『時間はありますから、正攻法じゃ上手くいかないと判断したのでしょう。ニュートンだって、りんごで重量を見つけたなんて言いますものね』
想像以上に緊迫とは無縁な研究室を見学して、次はその上の階に上がった。
『あ、咲也さん。こんなところにいらしていたんですね』
『あぁ、兄さんについて彼女に話を聞こうと思ってね。ところでその2人は?』
『このお2人はなんと、お兄様の世界から来た女の子なんですのよ。詳しいことはまた話しますわ』
『もしかすると何かのヒントになるかもしれない、後で話を聞かせてもらうとするよ』
咲也、という彼と共に、廊下の一番奥のドアを開く。
そこには、子供の遊ぶおもちゃがたくさんおいてあり、そこで1人の女の子が遊んでいた。
その女の子の服装が、とにかく奇抜で。色々突っ込みたいけどまずは頭につけてるイヤホンみたいなアクセサリー。その側面からはタコの足が出ている。耳にタコってこと? そして、胴回りには輪っかがふわふわ浮いてるし、首にかけてるアクセサリーにはAFOと書かれている。全体的に宇宙みたいなデザインだからUFOと一瞬見間違えた、とにかく。変な女の子だった。
『ここは情報処理部屋』
咲也さんが説明を始める。
『でも、なんか変な格好した女の子しかおらへんで?』
『あぁ、彼女が・・・・・・』
『ツーっ! んんっ!? ぱぁーっ!? ぶへらばー!!』
『な・・・・・・何語?』
『使用言語は日本語なんだが、造語癖があってね。意思疎通は難しいのさ』
『問題ナッシングでさー! じゃじゃじゃー!』
猫の手を模した大きな手袋で私たちをぶんぶん叩いてくる、痛い。
『それに、喋り方もめちゃくちゃ・・・・・・』
『ぶへらばー! ぶへらばー!!』
『ぶへらばってなんですか?』
『意味はない、多分。テンションが上がった時に言うんだよ。どうやらマイブームらしくって、ここ最近は一番よく聞く単語だ』
『んー? わぁー!! きゅるるー! きゃっはっは!!』
『え? わたし!? 急にどうしたん!?』
なぜか五百井にすり寄ってくる女の子。
『きゅるるー! きゅるるー! ぶへらばー!!』
『きゅるる・・・・・・初めて聞く単語だ。もしかすると、友達、とか、仲間、という意味なんじゃないかな。そのたこ焼きみたいな頭に惹かれたのかもしれないよ』
『変なんに好かれたー!!』
『ぷふっ、お似合いだよ・・・・・・』
『好かれるのは悪い気せーへんけどぉ!』
『彼女はAITuber、COSMO;GARAXだ。蓄積情報量、同時可能なCPU接続数は世界で一番、もちろん処理能力もね。でも、全ての情報を知った結果、自己同一性が薄まったり、新しい情報を作り出すことに意味を感じるようになった、不思議な子さ』
『なんで自我なんて持たせたんですか? 情報処理するなら機械みたいに淡々と仕事するほうがいいんじゃ? 僕もそこまで技術的な部分は詳しくないですが』
『それは兄さんの趣味だから僕にも分からない、技術者も同じことを考えているよ。でも、きっと兄さんは人間の形こそ仕事をこなすのに最適な形だと思ってたんじゃないかな。それに、人間の可能性を模索するということもしたかったのかもしれない、兄さんはAIだからこそ出来ることを色々と研究してた』
『それから、名前も不思議ですわね』
『コスモギャラックね、これは仕様書にそう書いてあったからそう呼んでるんだ。名前の由来は人間の脳と似た構造と言われている宇宙からとった、ってとこかな』
『じゃあ、リーフィの名つけ親であるわたしがバッチグーな名前をつけてあげる! そうだな、コモモなんてどう! コスモをもじって!』
『やだー! 大いにヤダー!!』
『あら、ありきたりな名前は嫌なのかしら? 全知の存在に名前をつけるのは難しいわね』
『うーん、じゃあカラッパペチカ!! 今頭の中に出てきただけの意味不明な文字の羅列! これで文句ないでしょ!』
『大有り! 文句大アリー! カラッパはカニだし、ペチカはロシア語で暖房!! 既に存在する単語なんて言語道断的なテキーラ!!』
『そもそも名前としてそれはどうなんや・・・・・・。とりあえず名前で呼ぶんもアレやし、わたしはコスモて呼ぶわな』
『きゅるるー! ぶへらばぁー!』
そもそもCOSMO;GARAXって名前のほうが既存の文字の羅列でしょうが。
それからも説明を受けていたけど、終始五百井にべったりなコスモがうるさくて集中できなかった。




