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第6話 ちぇ~んじっ! ~あのVになってセカイをコエルよ~

 いよいよだ、今日が作戦決行日。


 『またね! きっとまた会えるわよね! お別れは昨日たっぷりしたから、今日は気持ちよく送り出すわ!』


 『うん、本当にありがとう』


きゅー子さんはすごく変な人だ、でも、どこか似ているように気がして実のところは結構好きだった。まぁ、愛玩動物的な意味合いで。


 『お世話になりましたやでー!』


 『お風呂、湯加減がなかなか良かったわよ』


 私はリーフィ、五百井の2人と歩き出す。


 『それじゃまた!』


 そういうわけで、私たちは電車に乗って、富士見遊園地に移動した。今の時刻は11時、試合開始は11時50分らしいので、時間にはまだ余裕がある。


 『あぁ、緊張してきたわ・・・・・・。ついに現実世界に行くんやな・・・・・・』


 『うん、でも私はおにいちゃんのことしか考えられないよ。絶対救い出す!』


 遊園地で時間を潰していると、ついに予定時間が近づく。


 50分まで、3,2,1・・・・・・。


 カウントダウンが0になった瞬間、周りにいた人達が全員一瞬で消えてしまった。


 『よっしゃ来た! リーフィさん! お願いします!』


 『えぇ、ちょっと待ってなさい』


 リーフィが無言担ったかと思うと、突然私たちの体が消える。


 『作戦通りやりなさいよ。ダウンしたVTuberと体を交換するの、そうすれば問題なく現実世界まで行けるわ。意思疎通は会話、でも、できる限り小さくね』


 リーフィの声をかき消すように大音量のアナウンスが流れる。


 『ランク制度が出来てから更にアツいVTuberバトル!』


 『現在のトップランカーはBランクのバースタジオ3期生! 2回のバトルでもうこんなところまで来てる化け物級の人気っす!!』


 『今日の試合はもざいぶ6期生VSネクステ19期生!』


 始まった、いつものアナウンスだ。


 『よし、作戦開始よ』


 『『らじゃー!』』


 小声で返事をする。


 というわけで、リーフィは離れて観戦、私と五百井はダウンした人に件の機械をつなぐべく、選手の近くで隙を伺っていた。


 『出落ち要因で落ち着くMyポジション? 悲Cねぇ~』


 ライム ダウン。


 『えぇっ!? 倒しちゃったの!? ハルハル!』


 『まあな、次行くぞ次』


 すごい戦いだったけど、それは割愛して、1人倒れた。それに、倒れた1人を残して他の人達は去っていった。今がチャンスだ。


 『よし、先に五百井が行って。私は絶対大丈夫だから、五百井のほうがヘマりそうだし』


 『一言多いねん・・・・・・』


 五百井の姿は見えないが、機械の作動音とともに、倒れている人の身体が一瞬ぴくっと動いた。


 『あれ? あれれ? 私の体が倒れてるYO! 私の体は、透明っ!? 近くで見ても遠目で見ても透明とおめーだYO!』


 よし、乗っ取り成功みたいだ。


 五百井を置いて、私はいなくなった人達のほうへ走った。


 『幼女を愛でるためなら、その他はもうなにもいらないのーっ!! さぁ! 今すぐ愛でてあげるからね! 天使のアリスぅーっ!!』


 『わたしありすじゃないよ? そんなかわいいなまえじゃないの・・・・・・』


 ようやく戦いの場面に出くわした。んだけど、あれってきゅー子さん!? そういえば、現実にいる人なんだっけ!?


 彼女の戦いよう、言動、どこをとってもきゅー子さんだ、姿もほとんど変わらない。なぜか変な髪飾りをつけてるくらいしか違いがない。


 きゅー子さんも健闘したけど、結局ダウンしてしまった。


 どうする? きゅー子さんの体を乗っ取ってもいいのか? ある意味恩人の彼女を。いや、ここは見送ろう。だって、向こうの世界でも協力してくれるかもしれないし、なんせあと1人は確実にダウンするってリーフィが言ってたし。


 その場を後にしようとしたとき、きゅー子さんがなにかぼそっと言ったように聞こえた。


 『ん、幼女の匂い・・・・・・。なんで幼女の髪ってあんないいにおいがするんだろうなぁ・・・・・・、あぁ、私が幼女をお風呂に入れられるようになった暁には匂い控えめのモイストシャンプーを使ってあげたい、髪を乾かしてあげる時にどさくさですーっと一吸いしたいよぉ。・・・・・・やっぱり、私好みのいい匂いがするな、あぁ、お迎えがきたのかな?』


 思わず笑ってしまった。独り言が長いよ、きゅー子さん。


 私は思わず自分の髪の匂いを嗅ぐ。そういえば昨日お風呂にはいる時、きゅー子さんがこだわりのシャンプーだって言って新品のを出してくれたっけ。なんだ、幼女に自分好みのシャンプーを使ってほしかったからだったのか。現実の世界のきゅー子さんも、ここのきゅー子さんも変わらないんだな。


 ほんっと、気持ち悪くていい人。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『ふぁいなるアターーック!!!!!!』


 ドゴォォォーーン!!!!!


 目の前で繰り広げられていたバトル、その片方の小さい青髪の女の子には見覚えが・・・・・・。そうだ思い出した! あの人、確か一番最初に会った人だ、試着室の前で話してた。


 勝負がついた、ドメスティックな感じの人(※正しくはサディスティック)が倒れたので、私はすかさず機械をその人に繋いだ。


 ぴゅーーん


 ぐらり、と世界が傾いた。


 記憶が少しずつ失われていく。あれ、


 藍ちゃん


 好きな人、絶望


 おにいちゃん


 記憶が混濁する中で、最後に覚えてたのはおにいちゃんだった。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 「はっ!?」


 目が覚めて、意識がはっきりしたかと思うと、わたしは学校にいた。


 「あれ!? ここはっ!?」


 気づくと、学校にいた。


 「あれ? 喜楽里ちゃん、どうしたのいきなり大声だして」


 私に近づく1人の女の子。でも、今はそれどころじゃない。成功したんだ! 詳しいメカニズムなんか知らないけど!


 でもなんで学校? バトルは特殊な機械に入ってやるって聞いてたからてっきり機械の中かと思ってた。とりあえず、気にしてる暇はない。確か、リーフィがおにいちゃんが現実世界に行ったのは2062年2月3日の12時38分って言ってた。


 今の時刻は!?


 「ねぇ! 今は何年何月何日!? 何時何分!?」


 「え? 今は2062年2月3日、12時、39分だよ」


 成功だ! 完全に成功! 今なら間に合う!!


 私は教室を抜け出し、急いでリーフィを呼ぶ。


 「リーフィ! リーフィってば!」


 『うるさいわね、聞こえてるわよ』


 「よかったぁ! ねぇ、どうすればいい!?」


 『今から関係者の1人につなぐから、なんとか説得しなさい。あなたは今兵庫にいる、お兄さんがいるのは東京よ、すぐに会うのは無理だわ』


 「うそっ!? 大丈夫なのそれ!」


 『えぇ、でも五百井が東京の池袋にいるわ、お兄さんのいる場所までは近いから直接会うのはそっちに頼みましょう』


 「ちょっとこの世界のことが全く分かってないんだけど、新幹線に乗ればいいの!?」


 『そのとおりよ、正確にはリニアモーターカーね、新幹線の倍の速度でたどり着くわ。予約は済ませてあるから、校舎前にいるタクシーに乗って、駅まで行って。改札はBMIが自動認識でチケット代わりになるから、なにも問題ないわ』


 「もうっ! リーフィ最高っ!」


 ちょっと聞き慣れない単語が多かったけど、多分大丈夫、だって私だもん。


 『あと、わざわざ口に出さないでも話せるわ。馬鹿らしいからそうやって声を出すのはやめなさい』


 『聞こえますか、私は今直接語りかけています・・・・・・なんちゃって』


 口で言葉を発するんじゃなくて、脳内で言葉を発する感じね、なんとなく分かった!


 『あら、飲み込みが早いのね、その調子よ』


 というわけで、私は学校を出ると、校門のまえに止まっていたタクシーにそのまま乗り込む、これがリーフィが手配したタクシーだ。


 「姫路駅まででいいですか?」


 「はい! お願いします!」


 移動中、私はおにいちゃんのいるところに連絡をした。手順というか、頭の中で念じるだけで声が伝わる、想像以上に簡単に使えて驚いた、まるで手や足のように使える体の部位が増えたみたいだ。


 『あ、どうも。すいません、今取り込み中で・・・・・・』


 あいつの声!


 『おにいちゃんを返してっ!!』


 『えぇっ!? この声、もしかしてさっきの子!? え、でも、そんなのありえないっ!!』


 間違いない、おにいちゃんを攫った人だ。


 『私はね、はるばる仮想空間から現実世界まで来てやったの! おにいちゃんを返してくれないと、本気で怒るから!! なにしでかすか、分かんないぞっ!!』


 『聞こえますか、わたくしはかりんと申します』


 会話に自然に入ってきた女の声、こっちもおにいちゃんを攫った人だ。


 『一度直接話し合う必要がありますわね、わたくしたちは今・・・・・・』


 『東京にいるんでしょっ! 首洗って待ってなよ!! 今リニアモーターカー? に乗って行くところなんだからっ!!』


 『分かりました、それまでお兄様には手出ししないことを約束しますわ、それでは、お待ちしております』


 くっそぉ、悪いやつらめ・・・・・・。どんな理由があろうと、私からおにいちゃんを奪った挙げ句、私たちの住んでた世界を破壊したのは許さないんだからっ!!


 そして、駅まで着いて、リニアに乗り込んだ。たった1時間ちょっとで東京駅まで着く。私が知ってる東京駅とは少し違ったけど、なんとか現存していた山手線に乗って、池袋まで移動。それからおにいちゃんがいるという会社の前まで移動した。


 『ひとつ聞きたいんだけど、さっきからお金はどうやって払ってるの?』


 『その体の持ち主が持ってるお金から引き落とされてるのよ、心配する必要はないわ、VTuberでがっぽがぽだから、数万円減ったところで気づかないわよ』


 気づく気付かないの問題じゃないと思うけど・・・・・・。


 『でも、私の体がコロコロ変わりすぎて、本当の自分を忘れちゃいそう』


 本来の私、おにいちゃんがデザインした姿、そしてあのVTuberの現実での体。3つの世界を3つの肉体で飛び回っている。


 『体なんて人間を形成する要素の1%に過ぎないわ。名前は0.01%、人を区別するための基準は92%が心よ』


 『偉い人の言葉?』


 『私の言葉よ』


 そんなこんなで、なんとかたどり着いた巨大なオフィスの前に立つ。ここが敵の本拠地。でも、巨大なドアは私が近づいても開く気配はなく、私は立ち尽くす事しか出来なかった。


 『じゃあ、開けるわよ』


 『そんなことまで出来るの!?』


 『データ化社会に出来ないことはないのよ』


 言葉通り、扉がゆっくりと開かれた。私は中に入っていく。


 入口付近に立っていたのは、冴えない顔の男と、気の強そうな女の人。あと小学生くらいの子、多分彼女がこっちの世界での五百井。


 「ようやく来てくれたんやな! この体ちっこくて歩きにくくてしゃーないわ!」


 「おにいちゃんを返してもらいに来ました」


 「ここで話すのもなんですから、場所を変えましょう」


 「おーい、うちは無視かいなー!」


 私たちは裏に置いてある車に乗った。男の人が運転席に座ったけど、ハンドルには手を触れない。


 「あかんて! 安全運転しーや!」


 「え? 安全運転?」


 しかし、車はしっかり曲がりくねった街の中を疾走する。


 「自動運転!? この世界すごすぎやろっ!」


 「一応ATの免許はとったけど、今や自動運転が主流なんだ」


 私は何も喋らなかった。早くおにいちゃんを返せ、返せ返せ返せ・・・・・・。


 たどり着いたのは、カウンター式のパスタの店。こんなところがあるのか・・・・・・。


 「おすすめは焼きカルボナーラですわよ」


 「僕はカレーパスタにしよっかな・・・・・・」


 「おすすめなんやったら、うちは焼きカルボナーラにするわ!」


 「私は、いらない。あんたたちみたいな人さらいとご飯なんて食べたくないもん」


 「そういうわけにもいきませんわ」


 「そうやって、ええ人そうやないか」


 「五百井、それは間違い。いい人だろうがどうだろうが、私はおにいちゃんを攫ったあなたたちを絶対許さないんだから」


 「誤解を解く・・・・・・つもりはありませんわ。でも、とりあえずご飯を食べましょう。お腹が空いていると、腹を割って話せませんわ」


 「・・・・・・じゃあ、焼きカルボナーラ」


 「分かりましたわ、食券機で買ってきますわね。並盛でいいでしょうか?」


 「うん」


 「ご馳走になりますやでっ!」


 しばらく待っていると、目の前で店員が手際良くパスタを作る。焼きパスタ専門店ということで、香ばしい匂いがただよう。


 あっという間に完成した、順番に並べられていく。


 「ってぇ! なにこれ!?」


 私は驚きのあまり大声を出してしまった。というのも、並盛とかいうくせに量がやたら多い。


 「並盛ですので、350gですわね」


 「3人分はあるでしょっこれっ!!」


 「あら、そんなことありませんわよ」


 女の人の方を見ると、私の倍以上あるパスタがそびえ立っていた。


 「なにそれ!? シェア用じゃなくて、1人でそれ全部食べるのっ!?」


 「ええ、メガ盛りですので1kgありますわ!」


 「ごっついな・・・・・・」


 「あはは、まぁ、初見の反応としては正しいよ・・・・・・。かりんさん、見た目の割に大食いだからね」


 「あら、大食いというのはレディに失礼ではないですの? 10かりんポイント没収ですわね」


 「そんなぁ・・・・・・」


 愉快なやつらだこと。


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