4話 放浪海月リーフィさん
『さあ! せつめいしてもらおうー! この世界は一体何なのか!』
私は、お風呂に浸かったままのクラゲ女を問い詰めていた。
『ここは、最も現実に近い場所。Vスタジオ』
『なんやそれ』
『この世界を中心に数多の世界は作られていく、あなたたちがいた世界も、ここから分岐したものよ』
『じゃあ、ここで空を飛べないのは、私たちがいた世界と違うからってこと?』
『そう考えてもらって構わない、ここでは現実の世界で出来ることしか出来ないように制御されているのよ』
『それじゃ、ここに来たのはミスとかじゃなくて、現実へ行くための道中なんやな?』
『そのとおりよ』
そうか、それじゃあ、またここで何かすれば、晴れて現実世界に行けるってわけだ。
『じゃあ、ここで何をすればいいの?』
『そうね、方法は2つ、誰かの体を乗っ取るか、現実世界に器を用意するか』
『どっちのほうが簡単で、確実?』
『体を乗っ取る。私がいれば、簡単に入れ替えられるわよ』
『乗っ取るって・・・・・・穏やかやないなぁ・・・・・・』
『大丈夫、所詮体は器に過ぎないもの。それに、私の力があればあなたたちのその体と入れ替えることが出来るから、現実の人間の人格もひとまずはこちらの世界に置いておけるわ』
『じゃあそれでいこう!』
『ただし、1つ問題がある。今安易にこの世界を抜けてしまうと、あなたたちの住む世界の時間だけがとんでもなく早く進むことになるわ。現実世界に1秒いただけで世界は滅んでいるでしょうね。このVスタジオには問題なく戻ってこられるけれど、それ以上分岐した世界は無理ね』
『え? ど、どういうことなん?』
『あなたたちの住む世界と現実の世界の進む時間は違うって前に説明したわよね。今いる世界、Vスタジオは両方の時間の性質を併せ持つの。その結果、あなた達の世界の時間も現実の世界の時間も止まっていているのよ。正確には止まってはいないのだけれど、極めて0に近い速さで進んでいるの。だけど、現実世界からVスタジオに来ると時間が歪んでランダムな時間に飛ばされる、でも、なぜか都合のいいタイミングに飛ぶの。ここが面白いところね』
『と、いうことは、もしうちらが現実世界に行ったら、もううちらの住んでた世界は滅んでるってことなん!? どうすんねん! 門限過ぎてるどころの話ちゃうで!?』
『私は大丈夫だよ、おにいちゃんがいる世界が、私の住む世界だもん』
『うちはそうはいかんで!? あかんて! 学校も塾もあるのに! 親も友達もみんな置いてきてもとるのに!!』
五百井は当然ながら混乱して、頭を掻きむしってる。
『では、整理するとこう。現実世界に飛ぶことは可能、でも、現実世界に飛ぶとあなたたちのいた世界はなくなっている。世界を捨てても、あなたはお兄さんを助けに行くの?』
『当たり前でしょ! 二言はないよっ!』
『私は無理や、絶対無理や。そんな覚悟、出来へんて』
『そりゃあそうだよ、だって、五百井が現実世界に飛ぶ理由なんて無いもん。でも、私は行く。五百井は帰ってて』
『せやな、クラゲさんを見つける手伝いもしたし、私はちゃんと役目果たしたわ・・・・・・』
『ありがとう』
私は、五百井にそう言った。
『ところで、元の世界へはどう戻るの?』
『・・・・・・あ』
突然、クラゲ女が口を閉じた。
『ん? どうしたの?』
『ごめん、今の話無し、五百井、あなた帰れないわ』
『は、はぁぁぁぁぁ!?!?!?!?』
『あなたの世界はお兄さんがいなくなった時点で崩壊しかかっていたはず。うん、もう元の世界は無くなってる』
『ちょちょちょっ! 説明しーや!! どういうことやねん!!』
『あなたたちのいた世界は、Vスタジオに保管している人間のデータから作られるものなの。そして、あの世界はあなたのお兄さんが作ったものだから、観測者がいなくなった時点であの世界は消えるわ。完全に失念していたわね』
『どどどどどどどないすんねん!!!』
『この世界で生きるか、現実世界に行くかの2択ね』
『じゃあつまり、あのままあの世界に残っていたら私も五百井も消えてたってこと? ラッキー!』
『そうね、私もその仕様を完全に忘れていたわ、危うく私も世界の巻き添えを食らうところだった』
『ラッキー! で済まされへんわ! どうすんねん・・・・・・。今まで住んでた街が、好きなアイドルが全部消えてしもうたなんて・・・・・・』
『大丈夫! 断捨離だよ!』
『どこがや! ほなあんたもお兄さんを断捨離出来るんかいな!』
『一緒にすんな! バカ五百井!』
『あぁー・・・・・・。なんでまともなやつはどこにもおらんねや・・・・・・』
五百井はより一層強く髪をかきむしる。
『くそっ! せやったらヤケや! どこまでもついてったる!』
『そうでなくっちゃね!』
じゃあ、もう一回整理。とにかく私たちは現実世界に行かざるを得なくなった。だって、元いた世界は全部消えたから。現実世界に行って、おにいちゃんに会って、現実世界で一緒に幸せに暮らす、五百井はどっかそこらへんで幸せになるでしょ。うん、完璧。
『それじゃあクラゲ女! 現実世界の人間の身体を乗っ取るにはどうすればいいか教えて!』
『簡単よ、現実世界の人達が唯一この世界に来る用事がある』
『それって!』
『VTuberバトル、あれは、現実の世界の人間たちが仮想空間で楽しむスポーツなの。この世界は、その舞台としても利用されてるわ』
『舞台“としても”? てっきり、そのバトルの舞台にするだけのために作られた世界だと思ってた』
『いいえ、本当は違うの。現実世界になるべく近い世界を作るべく作られたのがこの世界、この世界にいる人間は、現実にいる人間のデータをコピーして作られたものなのよ』
『じゃあ、きゅー子さんも現実世界にいるの!?』
『そうね、それこそ彼女はVTuberをやっているわ、それも実名で』
『実名でやるとか、中々クレイジーなやっちゃな』
『まぁ、それはどうでもいいの、今回の件には関係ないから。私は、次のバトルがこの世界でいつどこで起こるか分かってる。だから、その場所に先回りして、そこにいる人間たちを乗っ取ればOKよ』
『でも、どうやって? それに、体を乗っ取ったのがバレたら現実の世界の人が黙ってないんじゃない?』
『だから、私が必要なの。私がプログラムコードを少し書き換えるわ、そうすればあなたたちの姿は消えて、音も立たなくなる、そうすればバレずに入れ替わることだって出来る。入ってきた人間にこの機械を使えば、簡単に入れ替われるわ』
そう言って、なにやら奇妙な道具を渡される。
『これ?』
『そう、それをVTuberと自分に繋げば中身が入れ替わるわ』
『なるほど』
『ちなみに、プログラム書き換えは私たちAITuberの特権よ、それに、バトル空間はVスタジオとは切り離されてるおかげでセキュリティが甘いの。本当は使っちゃいけないし、出来ることもこれで精一杯ね。さて、次の試合は・・・・・・』
『ちょっと待って!?』
私は、1つ疑問が残っていた。
『この世界って、時間がバラバラに流れてるんだよね? だったら、VTuberの体を乗っ取っても、おにいちゃんが現実に行く前だったり、すごく後だったりしない!?』
『それは心配ないわ、この世界に詳しい人がいなくなったせいで曖昧だけど、こちらから外に出る分には同じ時間の流れになるはずだから』
『あともう一個質問や。仮に向こうの世界に行けたとしても、うちらはどうやってお兄さんの居場所を突き止めて、助けるんや? そもそも、どの場所にうちらは飛ばされるんや?』
『それもそうね、行き当たりばったりで現実世界に行けば取り返しのつかないことになるかも知れない』
うーん・・・・・・。
『それじゃあ、私がサポートするわ。私は、この世界にいながら現実世界にもアクセス出来るもの』
『えぇっ!? なにそれ!?』
『そういえば、あんたの正体がいまいち掴めてないんやけど、誰なん?』
『私は、AITuber4号機よ、簡単に言えば、現実世界を認識しているこちらの世界の住人ね』
『AITuber?』
『AIを元に作った人格、とはいえ、私の生まれはとても複雑なの。現実世界に存在する人間の人格を元に作られたんだけど、その人間は実験漬けにされていてね、この世界にアクセスするための機械の研究に使い潰されていたの。その結果、今の私が生まれた、でもその後も長いこと凍結されててね、そのとき身についた癖っていうのかしらね、こうやってお風呂に入らないと落ち着かないの』
『お風呂っていうのは、どういう繋がりや?』
『よくSFなんかで息が出来る液体みたいのあるでしょ? それに漬けられていたの、長い時間ね、最初は気持ち悪かったけど、長い間液体に漬けられていたら、逆に液体の中じゃないと落ち着かなくなったわけ』
良くわからないけど、クラゲ女も色々あったんだな。
『さてと、他に質問はある?』
『そうだなぁ、そろそろさだこだのクラゲ女だのって呼び方が気持ち悪いし、ちゃんとした名前をつけたいかも。AITuberってみんな名前がつけられてないの?』
『0号機はアイ、1号機はいちかりん、2号機は白野ワール、3号機は黒部ラン』
『え? みんな名前付いてるの?』
『そうね』
『せやなぁ、4号機やから、4号でどうや?』
『嫌』
『白と黒って来てるから、間を取ってグレーとか、ニビとかは?』
『はぁ、センスがないわね』
『文句ばっか言いやがってこのクラゲ女・・・・・・』
だから名前が付けられてないってことか? こいつが文句言うから。
『じゃあ、クラゲの名前でいこか? といっても、クラゲの名前しらんけどな』
『そうね、カツオノエボシ、アカクラゲ、オワンクラゲ、ビゼンクラゲ、サカサクラゲ、ミズクラゲ、タコクラゲ、カラージェリーフィッシュ・・・・・・』
『じゃあタコか! うちとおそろいや!』
『却下よ』
『もう! 文句しか言わないじゃん!』
『うーん、ジェリーフィッシュ・・・・・・。ジェリーはネズミみたいだから、リーフィはどう!? メルヘンすぎるか』
『その案、賛成』
『気に入ったの!?』
『好きなクラゲの名前が入ってるし、うん、いいわね』
というわけで、彼女の名前はリーフィで決定した。
『よし、じゃあもう一回最後に整理するよ! 私と五百井で、VTuberの体を乗っ取って現実世界に行く。現実世界に言ったらリーフィが案内してくれるんだよね?』
『ええ、向こうの世界にはBMIっていう便利な機械を全員が脳に埋め込んでるから、ダイレクトに会話出来るはずよ』
『現実世界スゴぉ・・・・・・。でも怖ぁ・・・・・・』
『で、案内どおりにすればなんとかなると』
『まず関係者の連絡先にかければ、ひとまずは話が出来るはずよ。あの人達はいい人だから、確実に話を聞いてくれるわ』
『ふん、おにいちゃんを攫った連中がいい人なんて、思えないけど』
『あれも、人のためにやってることだから、それに、あの人達にとっては私たちはあくまでフィクションの存在にしか思ってないわ。それこそ、ゲームの中の敵を罪悪感なしに倒すようなものね』
そうか、なら私たちも責めることは出来ない。
それはそれとして、おにいちゃんを攫ったのは許さない、万死に値するから。
『作戦決行は・・・・・・。2日後、富士見遊園地。この試合ね』
と、言うわけで、とりあえずはこれからやるべきことが分かった。あとは、この作戦日まで待つだけだ。
『それじゃ、当日は頼むからね。今はリーフィだけが頼りなんだから』
『いいわ、任せなさい。トラブルシューティングも私の仕事よ』
そういうわけで、私と五百井はお風呂を後にした。
『夏芽ちゃん、あの人大丈夫なのかしら・・・・・・。かれこれ20時間くらいお風呂入ってるけど、そろそろふやけて死んだりしない?』
『あ・・・・・・』
そういえば、この人ともお別れだ。会ってから3日しか経ってないけど、この人が私に協力してくれなかったらここまでこれなかった。そう考えると、少し申し訳ない。
『きゅー子さん、お話が・・・・・・』
『ん? なぁに? 結婚のお誘い?』
『それが、私たち、2日後にこの家を出ることになりました・・・・・・。本当に、ありがとうございました・・・・・・』
『がっ、がぁーん!!』
椅子から崩れ落ちるきゅー子さんをなんとか支える。
『つ、辛いわ・・・・・・。たった3日間だけだけど、私たち家族になれたと思ってたのに・・・・・・』
いや、そこまでは・・・・・・。
『でも、大丈夫、夏芽ちゃんは、お兄ちゃんを探すためにここに来たんだもんね。お兄ちゃんが見つかったってことなの?』
『は、はい・・・・・・。見つかりそうってだけですけど・・・・・・』
『だったら大丈夫! お姉さんのことは心配しないで! 夏芽ちゃんがいなくなっても、私は頑張れるから! 夏芽ちゃんが幸せになれるなら、なんの未練もないわっ!』
『未練がないって言ってる割には、えらい泣いてますけど・・・・・・』
そんなわけで、その日はきゅー子さんを励ますだけで、1日が終わった。そして、1つとんでもない約束をしてしまったんだ。
『お世話になったし・・・・・・よければ明日、デートとか、行く?』
『デートっ!? 行く! 絶対行く!!』




