5話 ないしょ青春記
とある一軒家に、2人が訪ねてきた。
「あ! みんなー!」
「お祝いだ、ほら」
藍は好きなイチゴチョコを受け取った。乾燥させたイチゴの周りをチョコでコーティングしたお菓子だ。
「ありがとう!」
「それ、ほんと好きよね」
訪ねてきたのは小学校からの同級生、晴人と律帆だった。
「えっと、あがっていい?」
「うん! もちろんだよ! 私の部屋行こっ!」
階段を上がり、件のVTuber部屋に入る。
「それじゃあ改めまして・・・・・・」
3人は懐からクラッカーを取り出す。
ぱんっ!!
ぽんぽんっ!!
「「「バトル初勝利、おめでとーう!!」」」
「晴人くんのおかげだよ! 私なんて何にもできなくって・・・・・・」
「いや、3人の力だろ? お前がいなかったらスパチャが足りなくってレベルアッパーが買えなかったし」
「私は・・・・・・? どうだったかしら?」
「律帆がいなかったら下の階に侵入できなかっただろ? それにアンを倒したのも律帆だ」
「うんうん、みんなのチームプレイの“たまもの”だね!」
VTuber部屋は完全防音だ。それをいいことに、夜の7時にもかかわらずトップシークレットな話題を大声で話し合う。
「それで、次のバトルっていつだっけ」
「あー、それなら1か月後だな」
「正確には12月の3日、期末テストの2週間前」
「うへー、テストかぁ・・・・・・」
「いや、それどころか高校受検だろ。志望校は決まってるのか?」
「私は八葉大附属かなぁ」
「へ―、県外なの」
「俺も八葉大附属か遠野だな」
「いや、なんで2人とも八葉なの? そんな有名じゃなくない?」
「俺は生粋の科学好きとして、加古昇さんの出身校に行きたいんだよ」
「わたしは、あんまり頭よくないから、大学への推薦枠があるところかなぁって」
「なんか、勉強したいことがあるって感じじゃないんだ」
「そういうお前はどこなんだよ」
「私は、まだ決めてない。正直どこでもいいし」
「将来の夢とかないのかよ?」
「私はただ“普通”に生きていければいいだけ」
「でもVTuberになれたんだから、もう普通じゃないんじゃない?」
「私がVTuberになったのは幸せになるためなの。普通に、幸せにね」
「なんだかよく分かんないや」
晴人が大きく欠伸をする。3人とも、昨日のバトルがどこか遠い思い出のように思えて、すこしゆめうつつだった。
「でも、人生が大きく変わったって感じがするよね」
「いつだったか、お前がレジェンドVTuberになりたいとか言ってた時はまだ、VTuberになる将来なんて想像もしなかったしな」
「私たち、藍に振り回されてここまできちゃったわけね」
「トラッカーを一緒に組み立てたのも最近のことみたい」
再び部屋が沈黙で満たされる。各々振り返る思い出の中には、いつもこの3人がいて、活動開始からの2年間の紆余曲折、どれも日に照らされた水晶のさざれ石のように輝いていた。
沈黙をやぶったのはドアの開く音だった。
「バトルすごかったぞー! 藍!」
「あ! お父さん! お疲れ様!」
「「お、お疲れ様です! 社長!」」
「おおっと、ハルハルとホリィもつれてきたのか!」
「もう~いいかげん名前で呼んでよ~」
「晴人です、お世話になってます」
「律帆です、お邪魔してます」
「晴人くんと、律帆ちゃん・・・・・・。ふむ、多分覚えた!」
「いまちょうどお祝いしてるんだよ! お父さんも本当にありがとうね!」
「やっぱり、持つべきものはコネね」
「そういうこと言うなよ」
「でも、実際そうでしょ? 藍のお父さんが事務所を作らなければ3人同時デビューなんて絶対あり得なかったし」
「ははは! コネで結構、大人の世界は常に広いコネクションが大事だからね! 弁護士の友達、建築士の友達、趣味の合う友達!」
「その大半がAIにとって代わられてますけどね・・・・・・」
「まあ少なくとも麻雀はAIとじゃ面白くないなぁ。昔話や同級生の近況を聞きながらする麻雀は、いやぁ格別だ!」
この時代、麻雀もアプリでのオンライン対戦が主流である。そんな中でアナログな麻雀は、令和でいうところのレコードのような趣があった。ちなみにこの数年後アナログ麻雀が再ブームとなるが、それもまた後の話。
「なにはともあれめでたいことだ! うんうん」
「もー、お父さんは出てってよー!」
「あーはいはい、それじゃ、ごゆっくりー」
雑にあしらわれる社長、彼こそ3人が所属するVTuber事務所、ネクステの社長である。藍をVTuberにするためなら何でもすると言った彼だが、その言葉通り事務所を立ち上げて、藍をトレンドVTuberに仕立てあげた。
「でもさ、お父さんの力だけじゃダメだったでしょ? ちゃんとトレンドVTuberになるためのフォロワーさんも、自力でゲットしたんだから!」
「そうね、たしかに。割とちょろかったけど」
「俺も、意外と簡単で拍子抜けした。視聴者というか、民衆は割と単純だからな」
「そんなこといっちゃだめだよ! ありがとうって気持ち、しっかり持って!! それに、みんなで悩んで、一緒に頑張って、そうやってなれたんでしょっ! 思い出してよっ!」
「お前の、そういう真面目ところが魅力なんだろうな、アイカの」
「そうね」
「え? 私の魅力?」
「完璧じゃないけど、みんな藍の一生懸命なところに惹かれてるって言ってんの。褒めてんのよ」
それから、3人はこれまで思い出を振り返って笑ったり、これからやりたいこと、貰ったお給料で何を買うかなど、とりとめのない話をして、だらだらと楽しい時間を過ごした。
「それじゃ、そろそろ帰ろうかしら」
「そうだな、遅くなりすぎてもまずい」
「うん! それじゃまた明日学校でねー!」
「おう、寝坊すんなよ」
「はーい!」
「それじゃね」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
藍と分かれて、2人だけになった夜の街。
「前から思ってたんだけどね」
「うん? なんだよ」
帰り道、家が近くの律帆と晴人は話しながら帰っていた。
「晴人、あんた人を好きになったことって、ある?」
「な、なんだよいきなり。告白なら今は受け付けてないぞ」
「違うわよ、ただ単に、そういうの聞いたことないなって思っただけ」
「えぇ、そういうのって普通、そんな突然切り出すもんじゃないだろ」
「気を悪くしたらごめん」
「いや、謝るなよ・・・・・・。えっと? 人を好きになったこと? そりゃあるさ、小学の時に初恋したよ」
「それで?」
「だめだった、俺もガキだったからさ。すぐに告白したんだよ、そしたら『あまりお互いのことよく知らないでしょ? ごめん』だって。それから、もう一度告白なんてできるわけもなくて、気まずいまま中学で疎遠だよ」
「そっか、でも不思議、あまり知らないのに好きになるなんて。どういうカンジ?」
「そんなの、俺だって分かんねぇよ。まぁ、普通にしてたらどこかしらで分かるだろ」
「ふうん、普通に・・・・・・ね」
「ま、そんなことよりさ、律帆は今週生配信するのか?」
「ええ、明日はバイトがあるし、明後日にゲーム配信しよっかなって思ってる」
「そうか、それじゃ、俺のこと動画内で紹介してくれな。フォロワーが少しこっちにも来るかもしれない」
「うん、いいよ」
「しっかし、俺は思うんだよ。今回のバトルは俺達3人だから勝てたんだってな。特に律帆、しっぽを使って屋上まで登るなんて普通思いつかねーよ。それが鍵になって窓突き破ってショップに入れたわけだし、ホリィのおかげで勝てたといっても過言じゃないな」
「ちょ、ちょっと、あまり大きな声で言わないでよ・・・・・・。聞かれたら終わりよ?」
「あ、そうだな。俺としたことが」
「はぁ、ま、いいや。それじゃ私はこっちだから」
「おう、じゃな、また明日」
「うん、また明日」




