24話 しんじた人とみるせかい
Vector事件。Sランクに昇格した人達を実質的な監禁をしていたということで、Vector社は重大な責任を負うことに・・・・・・は、ならなかった。恐ろしいものだ、大企業のもみ消し術は。
彼女らは依然機械の中に閉じ込められたままだし、助け出す方法もまだ分かっていない。というのも、あの機械に入ってしばらくするとあの機械が体に根付いて、精神と一体化するとかいう滅茶苦茶な話らしい。だから、無理に取り出すと心が壊れるとのことだ。その点、かりんさんは僕をすぐに救出してくれたから、僕は助かった。
「今度は、晴人がいなくなるのね。全く、VTuberに関わっているとろくなことがないわ」
「助けられるんだよね?」
「大丈夫だよ、きっとなんとかなる」
「そのために、わたくしたちが頑張りますのよ!」
Vector社は社長がいなくなったことで、代わりに咲也さんが臨時代表を務めることになった。
なんで咲也さんが? と、最初は思った。なんでも、社長は緊急時マニュアルを残していたらしく、自分がいなくなったら代理代表にする名簿を優先度別に残していた。咲也さんはとても喜んで引き受けていた。
「まさか僕がこんな大役を任されるとは。でも、僕が頑張ればみんなが熱狂して、楽しめるものを作れるというのなら、頑張らせてもらうよ」
「なぁに言ってんのよ、咲也」
律帆は彼を呼び捨てで呼ぶ、あんなことをしでかした2人だけど、それほど犬猿の仲ということでもないらしい。
「咲也は、自分が思ってるほど出来ないわ。いつも自信満々に振る舞ってるけど、実際はなにをどうすればいいのか分かってない。だけど、それを周りに知られて不安にさせないようにしてるのよね」
「律帆ちゃん・・・・・・あんなに人の心が分からないって言ってたのに」
「それとこれとはまた別よ。私、負の感情には人一倍敏感だってことに最近気付いたの」
「なるほど、カウンセラーになれるかもね」
「カウンセラー・・・・・・。確かに、私の経験で、誰かを救えるのならこれ以上無い仕事だわ」
「律帆ちゃんの夢、見つかったかもね!」
「ふん、少し考えてみるわよ」
Vector社の社長室で話していると、ドアの向こうから女の人が入ってきた、秘書の人だ。
「・・・・・・律帆」
そう、彼女こそ律帆の本当の母親だ。
「私、今更合わせる顔なんてない・・・・・・っ。ごめんなさい・・・・・・! 律帆っ!!」
「私、自分のことはキライになるけど、他人をキライになるほど興味ないわ。でも、私にとってのお母さんは生みの親のあなたじゃなくて、育ててくれたお母さん」
「うっ・・・・・・うぅっ!!」
律帆ちゃんは怒ってはいない様子だったが、彼女の言葉はナイフのように本当の母親に突き刺さった。
「ところで咲也、あの組織はどうするの?」
「解散したよ。僕のわがままに付き合わせてしまったからね、申し訳ないと思ってる。僕がこれからするのは、償いだよ」
「じゃ、どこに住むの?」
「え? この会社だけど・・・・・・」
「そんなことしてると、また白夜みたいになるわ。私の家で暮らしなさいよ」
白夜というのはあの社長の本名だ。橘白夜、ちなみにかりんさんも本名は橘かりん。
「・・・・・・え?」
咲也さんは突然の提案に呆気にとられる。
「そっちのあんたも」
そういうと、実の母、律花を指差す。
「で、でも、そんなの許されない・・・・・・」
「うちのお母さんは優しいしぽかーんとしてるから、2人増えたところで困らないわよ」
「律帆ちゃんを傷つけた僕が、許されるなんてことなんてない。でも、なんで?」
「人は、1人で生きていくことも出来ると思うわ。だけど、当然1人で生きるのが苦手な人もいる。私もあんたたちも、そっちの部類よ。誰にも頼れないのにめちゃくちゃなことをやってた咲也と、夫の暴走を止められなかったあんたも」
律帆はズバズバと話を進める。
「でも、僕は・・・・・・」
「だけど、私は・・・・・・」
「そーやって1人で考えるから困るって言ってんのよ!! ほら! さっさと行くわよ私ん家に!!」
そう言って、律帆は2人の手を繋いで社長室を後にした。
「律帆ちゃん、なんだかかっこよくなったね」
「かりんさんの血を継いでるんだから、当然だよ」
「これからが楽しみですわね、子供の成長は奇跡を起こしますもの、きっと素晴らしい未来が待っているはずですわ」
そして、僕たちも社長室を後にした。
「晴人くん・・・・・・」
藍ちゃんが心配そうに呟く。
「それが、この会社の捜索をしていたとき、とある装置が見つかったらしいですの」
「とある装置?」
「なんでも、あの機械、あくまでデータの転送装置でしかないらしいですわ。見つかった装置というのは、集めたデータをまとめる機能があって、そこのデータをいじれば機械と切り離すことが出来るかもしれないとのことですの」
「切り離すって、どうやって!?」
「VTuberの3Dモデルを使えば記憶領域に入ることが出来るそうですわ、VTuberモデルが必要なのはVector社の共通規格だかららしいですのですけれど、要するに、膨大な記憶領域の中でなんとかSランクの人達の精神が集まる場所を探せば、そこにダイブすることで人格をサルベージ出来る、ということです」
「「ごめん、分かんない」」
僕と藍は同時に答えた。
「ずこっ!」
「文系にも分かるように話して!?」
「うんうん!!」
「おいおい説明しますわよ。とりあえず、なんとかなりそうってことですわ。もう1つの世界を作るだけの技術があるのなら、こんな作業くらいやってくれるに違いありませんわ」
とにかく、かりんさんが言うからにはなんとかなるんだろう。
藍ちゃんは学校のある兵庫まで帰り、僕達はいつもどおりの場所に帰る。
「僕はいつまでこの狭い家に住むんだろうか・・・・・・」
「お金はあるじゃありませんの。いっそ、どかんと一軒家でも建てるなんてどうですの!?」
「・・・・・・いや、しばらくはここでいいよ」
「そうですわね、愛着のある部屋ですものね」
「あと聞きたいんだけど、かりんさんはいつまでここにいるの?」
VTuberとしての目的は全て達成した。これ以上、なにをするのだろうか。
「わたくしは、もうしばらくいることにしますわ」
「もうしばらくって、いつまで? VTuberはもう極めちゃったでしょ?」
「甘―い! ですわ! 目標を達成したら、さらなる目標を目指すのが人生ですわよ! ゴールがあるなんて、そんな甘いものではありませんの!」
「じゃあ、次は?」
「そうですわね、そうそう! 藍さんが言っていたレジェンドVTuberを目指すというのはどうですの!」
「レジェンドVTuber? それって、なに?」
「さぁ、わたくしにも分かりませんわ。ですが、藍さんが言うにはみんなに勇気を与える存在にになることだそうです」
「そんなアバウトな・・・・・・」
「VTuberバトル自体も継続するとのことですし、頑張りますわよー!!」
「地道に頑張れば、それはきっと無駄じゃないはずだよね」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「はーっはっは! ついに思いついたです!!」
「思いついたって、何を?」
「なにをですか?」
「見るです!!」
そう言って、フライパンを振ると、手際良くチャーハンを作り始める。
「さぁ! 食べてみるです」
ぱくっ
「普通のチャーハンですね」
「なのれす」
「それには、コオロギが入っているのです!!」
ぶふぉぉっ!!
「何食べさせるの!!」
「そう! 誤魔化せばいいんですよ!! 私のスキルは強い蜂を召喚するじゃないですか、今まではかっこよく宣言して出していたからダメなんです! こっそりスキルを使って、服の中にでも仕込ませて、相手と戦う時にスムーズに蜂の攻撃を当てれば一発ダウンを取れるです!!」
「なるほど、確かに」
「私のキャラはかっこよさが一番のウリだと思いますが、でも! 時にずる賢く立ち回ることも大切なんです!!」
「ここねぇのキャラはっ、てっきりバカキャラだとおもってたれす・・・・・・」
「ところで・・・・・・」
「はい?」
「その説明をするために、わざわざ私たちにコオロギチャーハンを食べさせる必要はあったかな・・・・・・?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。
「ほっ、ほら! 百聞は一見にしかずというではないですか!!」
「くすぐれーっ!!」
「はいれすー!!」
「あひゃひゃ!! やめるですー!! ひゃひゃひゃ!!!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「お! 新しいダジャレ思いついた! 運動会、うん、どうかい? うーん、微妙だよー・・・・・・」
「それより、運動場に行っていい? うん、どうじょー。なんてどう?」
「一本取られたよー! それ採よー!」
「ふふ、かずみちゃんって、ほんとにダジャレが好きなんだね」
「うんうん、私のダジャレへの愛は相変わらず愛変わらず! あ! そうそう、ここの店、出てくるのは素晴らしい蕎麦らしい、なんてのはどう!! 最高だよー!」
「それいいかも! なんか使いやすい!!」
「ふふーん、持ちネタ帳に書かなくては~」
小学校の帰り道、友達と帰る瀬川知美こと雷舞ライム。そんな彼女に、電柱の背後から視線が注がれていた。
「あぁ、小学生は本当にかわいいな~。見てるだけで肌が若返っちゃう・・・・・・」
「あ、私もひとつ思いついたよ! 隙ありっ!」
「きゃっ!?」
「隙っ、好きー!」
「あははっ! 私も好きだよー!」
私は、小学生が大大大好き! そして特にあの百合カップルが推し・・・・・・。毎週水曜日の15時9分プラスマイナス5分くらいにここに通るから、ついつい眺めちゃう・・・・・・。
「あの、少し話を伺ってもいいですか? 私、最近池袋に配属されました、巡査の田代というものですが・・・・・・」
「なっ!? なんですか!?」
「あの、最近ここを周期的ににうろつく不審者がいるとの通報を受けまして」
「わっ!! 私は触ってませんよ!! YESロリータNOタッチをちゃんと弁えるロリコンですから!! そこらの犯罪者といっしょにしないでください!!」
「触らなくても、ストーカー規制法違反が成立するんですよ。とりあえず、署まで来てもらって」
「うそだぁー!! いやだぁぁー!!!」
「認めたくないですよね、若さゆえの過ちは」
「来世は女児に背負われるランドセルになりたいー!!!」
「ランドセル、といえば、最近のロボットモノはバックパックのことをランドセルと呼ばないんですよね。なんででしょうか」
その日、地垂木九子の配信は理由不明の休止となった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「藍―! なんで昨日は休んだのー!?」
「ちょっとね、用事があって!」
藍ちゃんが、クラスメイトの1人と話している。それを机に突っ伏しながら聞いている1人の女の子、それが私。
ふふふ、そうだよね、藍ちゃん。昨日は東京のVector社に行ってたんだもんね、私だけは知ってるよ。
私の名前は矢代喜楽里。名前に反して、どんよりとした感じの陰キャ女子だ。
私は、人生がつまらなかった、でもね、藍ちゃん、あなたと出会ってから変わったの。
それは、世間で言うところのホリィ事件が起こるちょっと前のことだった。クラスメイトの律帆が違法薬物を所持していたの、それを見た親友の藍は顔を引き攣らせながらも一生懸命笑顔を作ってた。自分のクラスメイトが違法薬物に手を染めていたと知って、友達が警察に連れて行かれるかもしれない、自分のせいかもしれない、友達が本当はわるいひとだったのかもしれない、でも、それを悟らせてはいけないから一生懸命笑顔を作る。
それを見て、私は興奮した。
初めてだった、心拍数が上がるのがはっきりと分かった、顔が熱くなって、息が荒くなって・・・・・・。とにかく、私は気付いた、藍の絶望に浸る顔が、これ以上ない私にとっての媚薬、痛みを忘れさせ、体を熱くさせる。いつか、それを独占してやりたい。
そんな自分の目的に気づいてから、私はいつも近くて一番遠い場所から藍を見ている。いつか手に入れる、彼女の苦しむ顔を妄想しながら。そのために同じ高校に入ったし、同じVTuberになった。名前はクリス、トレンドVTuberの条件はすぐに達成できた、その後は藍のお父さんに頼んだら、コネで藍の入っていたネクステに入ることが出来た。
いつかまた、彼女の顔を絶望に染め上げたい。
毎日毎日、それだけを妄想していた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『今日の実験はテルミット反応です! 今日もVTuberスタジオの物理エンジンを使って試してみますよ!』
今日もみみちゃんは実験か・・・・・・。私は、一体どっちを頑張れば良いんだろう。
私はVTuberをしてるけど、実写配信が中心だ。でも、私はVTuberを頑張るべきなのか、経営してるお菓子屋さんを頑張るべきなのか、どっちつかずで困ってる。VTuber配信のおかげでお店の人気は出たけど、お客さんが多すぎても困るのがお菓子屋さんの悲しいところで・・・・・・。
私はお菓子を作りたいだけなのに、お客さんが多いからそれに間に合わせるように量を作らないといけない。そしたら、どうしても一個一個にかける時間が短くなるのが、私にとっては嫌だった。それに、お菓子屋さんは全然儲からなくて、いつも赤字、だからVTuberで稼いで、そのお金で機材を新調したり材料を買ってる。
どっちもやらないと、お菓子屋さんは続けられないし、どっちかにしないと、どっちも疎かになる。
「はぁ、どうしたらいいんだろ・・・・・・」
「なにを困ってるんですの?」
「あ、前に来てくれたお客さん・・・・・・。いや、話せないです・・・・・・」
「大丈夫ですわよ! どーんと話してみるといいですわ!」
「それが・・・・・・」
私の悩みを全部打ち明けた。
「でしたら、簡単な話ですわ! 受注生産にすればいいんですのよ!」
「受注・・・・・・? すいません、経営の話には詳しくなくて・・・・・・」
「ですから、お客さんに待ってもらうんですの! あらかじめ1日に作れるだけの量を決めて、その分を予約制にするんですの! 例えば、明日は30個用意できるから3個限定で10人だけに売るんですの!」
「そ・・・・・・そしたらなんとかなりそうです・・・・・・! でも、お客さんが納得してくれるでしょうか・・・・・・」
「あなたのお菓子は芸術品ですわ、逆に、ここで質を落とすほうが顧客の信頼を下げることになるんですの!」
「す、すごいです・・・・・・! じゃ、じゃあそうします!」
「お役に立てたようで良かったですわ!」
「いつでも連絡ください、お役に立てるようなら・・・・・・。依頼なども・・・・・・」
「なっ! なんたる役得ですのっ! もらえるご厚意はしっかりといただきますわっ!」
よかった。これで、お菓子作りは続けられる・・・・・・やった!
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『えぇっ!? わたしたちに記憶領域の調査をお願いしたいー!?』
『えへへ、つまらなそう』
『何言ってるのワール!! これは、手柄を立てれば超褒められるってことでしょ!! すごい! 千載一遇のチャンスだよ!! わーいわーい!!』
『うーん、記憶領域に痛いものはあるんでしょうかぁ・・・・・・。まぁ、なにもしないよりは、いいと思いますけどぉ』
『あと、AITuber4号機が同行するって、私たちの次世代機!? 性能もいいのかな!?』
『もうこれいじょう性能が上がるっていうのがよく分からないですけど』
『なんでも人格形成プログラムがわたしたちと違うって、よくわかんないけどすごいんでしょうねっ! 仕事を取られないように私も頑張らないとっ!』
軽い気持ちで引き受けた仕事だったが、後にとんでもない事件に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「ねぇ、かりんさん」
「ん? どうしましたの?」
「社長が、最後に言った言葉覚えてる? この世界は作り物だって」
「言ってましたわね」
「かりんさんのおかげで現実世界に戻ってこれたかと思ったけど、実はまだあの機械の中なんじゃないかって、時々怖くなるんだ・・・・・・」
「・・・・・・可能性は否めませんわね」
「何か、証明出来るものはないのかな・・・・・・?」
そこまで言うと、かりんさんは僕を優しく抱きしめた。
「勘違いしないでほしいですわ。これは10200かりんポイントのご褒美ですわよ」
「やけに中途半端だと思うけど・・・・・・」
「無粋なことを言うんじゃなくってよ」
でも、かりんさんに抱きしめられると、やっぱりここは現実なんだって感じる。
他の人の鼓動、温かさ、それが、本当に安心する。
「もう、以前律帆さんに信じることの大切さを説いたあなたはどこへ行ったんですの」
「信じる・・・・・・」
「そうですわ」
そのとおりだよ。
簡単なことじゃないか。
僕の言った言葉も、かりんさんが教えてくれたことも、同じなんだ。
「僕は信じるよ。この世界を、肯定する」
2章 いちかりんジェネレーション - 終 -




