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19話 ツギハギ:⇔めいくちーむ!

 目覚ましもつけずに寝たから、今日はゆっくり寝ることが出来た。時計を見ると8時、試合まであと3時間だ。


 顔を洗いに行こうと、寝ぼけ眼をこすりながら洗面所に向かうと。


 「お、おはようですわ」


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 まだ寝ぼけているのかな。かりんさんが猫の耳としっぽをつけているように見える。


 「な、なにそれ・・・・・・」


 「感想は?」


 「えぇ・・・・・・」


 いや、まぁ、可愛いけど・・・・・・。


 「頭、大丈夫・・・・・・?」


 僕はかりんさんと代わる代わる顔を洗ったりして身支度を整える。


 「・・・・・・最近、ちょっと変わったことをしたときの斑鳩さんの反応が面白くてついついやってしまいますわ」


 「は、はぁ・・・・・・」


 「斑鳩さんが外から帰ってきた時、玄関で死んだふりをして出迎えるというのもアリですわね・・・・・・」


 「そんな映画あったな・・・・・・」


 朝ごはんを済ませると、僕は軽いストレッチを始めた。


 「最近、つい考えてしまうのですけれど。わたくしたちの関係ってなんなんでしょう」


 「相棒みたいなものだと思ってるよ。背中を預けられる最高の相棒」


 「相棒・・・・・・」


 「そろそろだね」


 時刻は10時、もう試合が始まる。


 「よし、それじゃ頑張ろう!」


 僕たちは、かりんさんの家(この家は実家とは別らしい)に行って、いつも通りフルダイブマシンに乗り込む。


 「勝つよ!」


 「ええ、もちろんですわ」


 世界は、VTuberのいる仮想世界へ。


 『久々に復帰したくろねこと!』


 『28連勤しろねこっす!!』


 『しろねこも休暇取ったら? 最近のバトルは凄い熱量。みんなが次々バトルするから実況のわたしたちも体がもたないよ』


 『労基違反の労働を強いられるのは上司のせいじゃないっす。それを求めるお前達消費者がいけないんっす!! とはいえ、この連日のバトルもそろそろ熱が収まりそうっすね』


 『そのとおりっ! なんと、Sランク特典のなんでも願いを叶える権利は、このバトルで一回打ち切りに!』


 『勝った方はギリギリセーフっ! 負けた方は悔しいっすよー!!』


 『今日の試合はもざいぶ6期生ときゃらめリップ4期生!! あれ? どっかで聞いたことのある組み合わせ』


 『そう!! もざいぶ6期生初のバトルの相手っす! しかも、負け越しなんすっ!』


 『今シーズン初めてのバトル相手にして、最後のバトル相手・・・・・・。なんてドラマティックなのっ! まるでドラマ! 映画!』


 『てなわけで、惜しいっすけど前置きはここまでにして、試合の開始っすよ!』


 『今回の試合、舞台は植物園!! 見通しがきかない分、黒部ランの狙撃力が存分に発揮されるかもっす!』


 『頑張れ! わたしの分身! っと、応援は言っちゃいけないんだっけ』


 『そんじゃいくっすよ!!』


 『『Sランク昇格戦! スタァーット!!!!』』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 転送されるとともに、周りの空気が一変、ジメジメとして生暖かい空間に移動した。


 『うげ・・・・・・僕こういうところはキライなんだよね・・・・・・』


 周りを見渡すと、巨大な植物がたくさん並んでいた。熱帯の植物といったところだろうか・・・・・・。


 様子をうかがいながら、植物を使ってカモフラージュしながらゆっくりと移動する。


 僕のスキルはかなり特殊だ。相手とのレベル差を7にしないと意味がない。Sランク昇格戦ともなればおそらくレベルは自然につり上がっていくだろう。だから、僕は序盤は隠れつつショップを回ってレベルアッパーを集め、ハルハル、かりんさんに渡す。もし相手が僕のスキルを発動しないようにレベルを7までに抑えた場合、僕らがレベルを上げ続ければレベル有利で勝てるし、レベル8以上にしたとしても、覚醒した僕とレベルの高いもう1人が相手になるから勝てるだろう。


 Aランクになってから、この戦法で負けたことはない。このスキルは、最強のスキルだ。


 『さぁーて、勝てるとか思っちゃってるんだろうねぇー! うどんちゃんっ!』


 こ、この声はっ!?


 僕は一瞬で状況を察し、その場から走って逃げ出した。ツクヨミだ、僕の前世であり、かりんさんの思い出の3Dモデル、いちかりんをキルした張本人。


 『久しぶりだねぇっ! またやられに来たわけぇ!? 転生してもおんなじ人にキルされる、それが運命ってことだよぉーーっ!!』


 くそっ、あまり表立って僕の前世をバラすなよっ・・・・・・。


 なにか、なにか使える武器は・・・・・・。これを使うかっ!!


 僕は、黒板用の大きい三角定規を2つ取り出すと、メリケンサックの要領で構える。


 『ほんと、ずるいずるいずるい! その覚醒ってスキル、強すぎるよね』


 『敵からレベルを奪えるスキルを持ってる君が言えることかな?』


 『うるさいなぁ、私は全員の完全上位互換になるくらい強いスキルをもらえないと満足できないの、分かる?』


 『随分強欲なんだね・・・・・・』


 僕は、とにかく誰かが助けに来るのを祈って、会話で時間稼ぎをする作戦に出る。


 『ねぇ、知ってた? スキルやステータスっていうのは、全体的なバランスをきちんと調整して決まってるらしいよ。しかも、明らかに強いスキルを持ってる人っていうのは、元の人格レベルが低いってことなんだって。つまり、強いスキルを持ってる君は、きっと中身のどこかに弱点があるってことさ!』


 『はぁ~? なに? 私を揺さぶるつもり? 生憎だけど、私は人の話聞くの苦手だから! ムリムリ!!』


 そう言って、僕を攻撃しに来る。ツクヨミは得物の双剣を連結させてブーメランにすると、それを僕に投げた。


 『あ! そうそう! 言い忘れてたんだけどさ、てか最近見つけたんだけどさ、レベル1の相手に私のスキル、『それちょーだい!』を使うと・・・・・・』


 僕はなんとか三角定規でブーメランをいなし、攻撃を避ける。


 『なんと! バグなのか、レベル0になって強制ダウンになるの!! つえーー!!! 調整ミスだよね! これって!』


 『ということは、それだけ使い主に弱さがあるってことかな』


 『ちゃんと調整されてるってんなら、今Sランク昇格戦にまで来れてねぇーっての!』


 僕はとにかく今ダウンするわけにはいかない。攻撃は絶対しないで、守りに徹することにする。今度は双剣に変形させて、僕に近づいてきた。


 『知ってる? この世界は全部運なの、生まれてから持ってるカードで勝負しなくちゃなんないんだよ。そこにバランス調整もない、容姿端麗成績優秀の天賦の才能だらけの人間がお金持ちの家庭に生まれることもあれば、生まれつき歩けない貧乏な子もいるの! でもね、それを公正にするのは間違い。人はみな、自分より下の雑魚どもを蹴飛ばして、勝ち組に君臨する必要があるの!』


 くっ、流石にいなしきれないっ! 確実に押されている。


 『だから、私のために死ねっ! 王者に君臨するのは私1人でいいっ!!』


 その時だった、発砲音がした。おそらく黒部ランだ、こんなにあっけなく負けてしまうなんて・・・・・・。


 思わず反射的に目をつぶってしまう。しかし、目を開けた先に待っていたのは想像だに出来ない光景だった。


 『くそっ! 邪魔すんな黒部ぇっ!!』


 『はぁっ!? 仲間割れっ!?』


 弾を受けたのはツクヨミだった。味方のはずの。


 ツクヨミが痛みでよろけてる、今なら逃げられそうだ。と、その時目に入ったのは僕を手招く黒部ランの姿。罠かもしれない、が、僕にはなんとなくそんな気がしなかった。


 迷わず黒部ランのいる方へと走っていく。


 『くそっ! 邪魔ぁすんじゃねえっ!!』


 続けて、ランが威嚇射撃をする。僕はなんとか黒部ランの元へとたどり着く。


 『一体どういうこと!?』


 『話は後! 早く逃げますよっ!』


 銃をツクヨミに向けたままランは走り出す。僕もなんとかそれについて行った。


 しばらく走ると、なんとかツクヨミをまいたようで、ようやく一息つく。


 『ねぇ、なんで僕を助けてくれたの?』


 『交渉ですよ!』


 『まさか・・・・・・僕を人質に!?』


 『じゃなくて! ツクヨミは調子に乗ってるんです! 目を覚まさせるんですよ!』


 それから、僕はこの試合の直前に起きた話を聞いた。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『どーいうつもりですか!! 事前の作戦会議の予定だったじゃないですか!!』


 『そんなの、必要ねーよ』


 『なるほど・・・・・・。Sランクになる直前で敗北、その絶望に打ちひしがれる快感を感じたいと!!』


 『いや、勝つ。私が1人で勝つ』


 『またそれですか!! ツクヨミさんはそれでもいいかもしれないですけど、私はそうはいかないんですよ! だって、手柄を全部ツクヨミさんがとったら、私が褒めてもらえないじゃないですか!!』


 『くだらない。褒めてもらうだなんて、なんの意味もないのに・・・・・・』


 私たちはずっと思ってたんです、ツクヨミさんは乱暴なようで、いつもどこか暗い顔をしてるなって。だから、聞いてみたんです。


 『ツクヨミさんは、一体何に価値を感じて、幸せになるんですか? もしSランクになって願いを叶えられるとしたら、何を叶えるつもりなんですか?』


 『それを聞いてなんの意味があるの?』


 『人生の意味ですよっ!』


 『私はただ、自分に嫌悪感を抱きたくないだけ。だから、他人を蹴落として、自分の勝ちを証明して、他人を見下す。そこにあるのは幸せなんかじゃない、ただの安心感。幸せなんて、私にはないの、常に不安定な足場に立っている、永遠にね、その足場が少し安定したときにつかの間の安らぎが訪れるけど、それはまた不安定になって奈落に落ちそうになる。そういう心の持ち主なのよ、私は』


 『そんなの、悲しいですよ・・・・・・』


 『一回亀甲縛りを試してみませんかぁ!? 悩みも全部吹っ飛ぶ快感ですよ! あれは!』


 『うるさいワール!! 脳みそどっピンク!!』


 『はうあっ! エクスタシー!!』


 『ね? 見なよワールをさ。こんな普通の人とはズレたところで幸せを感じてる。そして、私は褒められることに凄い意味を感じてて、それを生きがいに、幸せだと感じながら生きてる。わたしとワールはAIだから、人間と同じ学習したとはいえ人間とは違う。でも、ツクヨミだって、もっと幸せになれる方法があるはずだよ!』


 『うるさいなぁ! 本ッッ当にうるさい! 説教!? AI風情が、私は邪魔をされたくないからAIを選んでチームに入れてもらったってのに、人並みに鬱陶しいな!!』


 『人並みってのはAIにとっては褒めコトバ! だけどこれは罵倒!? 快感を感じて良いのか分からない、このもどかしさもまたイイですぅーーっ!!』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『ということがありまして・・・・・・』


 『ツクヨミって、想像以上にめちゃくちゃな人なんだね・・・・・・』


 『ですから! 私は褒めてもらうためにツクヨミに反旗を翻したんです!! どうです? かっこいいでしょう? 褒めていいですよ?』


 Sランクの昇格戦にまで来て仲間割れ・・・・・・・ふれあちゃんのチームとは真反対だな・・・・・・。


挿絵(By みてみん)


 『もうーっ!! 聞いてます!? 褒めてくださいよーー!!』


 『でも、助かってるのは本当だよ! ありがとうね!』


 『えへへー』


 猫のように顔をほころばせている黒部ランの頭を撫でながら、僕はこれからの筋書きを考えていた。このまま、なんとかランを取り込んで、4対2になればかなり有利になるはずだ。それに、黒部ランも白野ワールも、自分の好きなことに対しては努力を惜しまない。それなら、ワールも仲間に取り込むことが出来るんじゃないか・・・・・・?


 『だとすれば、次に会うのは、ワールだ』


 『ん? なんのことです?』


 『よし、付いてきてほしい! ラン! 僕の仲間たちよりも先にワールに会うんだ!』


 『りょーかい! ランがRunします! なーんて、相変わらずのユーモアで視聴者のハートをがっちがちにゲットですね!!』


 ランってこうしてみると人懐っこいんだな。


 そういえば、今飼われてるようなペット犬には、人間といることに幸せを感じるウィリアムズ症候群の傾向があるらしくて、オオカミと犬の違いはそこにあるとも言うらしいけど、生き物が幸せになるには何が必要なんだろう。お金や恋人、幸せのカタチはたくさんあるけど、それはどれも奪い合いになる。だったら、誰も幸せを感じないようなところに幸せを感じるようになれば、それはとても幸運なことなんじゃないだろうか。みんな、ランのように人に褒められることで一番の幸せを感じるようになればいいのに。

 

 破天荒な展開、まさか敵と協力して戦うなんて。これもツクヨミが悪いんだよ、人をぞんざいに扱うから痛い目に遭うんだ。まぁ、僕が言えることでもないけどね。でも僕は敵は作らない、その辺りの上手い世渡りが大切なスキルだよ。

 

  流石姉妹、ワールの場所を一瞬で探し当てた。

 

  『ば、薔薇で首吊りをしたら、流石に死んでしまいますかねぇ・・・・・・』

 

  美しい薔薇庭園に、ヘドロの如くどす黒いオーラを放つ少女がいた。

 

  『ワール! 一緒に戦って! ツクヨミのやつに一泡吹かせるよ!!』

 

  『あれれぇ? なんでうどんさんが隣に・・・・・・? はっ! これはスカートは履いたまま、パンツだけ脱がされて、外を闊歩させられる露出プレイですか!? うどんさんが隣でそれを見てニヤニヤしてるってことですかぁーー!!』

 

  『ちっ、違うわっ!! パンツ履いてるから!!』

 

  『だったら、うどんさんに確認してもらわないと!』

 

  『するかっ!! バカワール!! あんたがみればいいでしょーが!』

 

  『はぁ、羨ましい。私もこんなふうにおちょくられたいですぅっ!! ランばかりいい思いしないでもらえますかぁっ!?』

 

  『いい思いなんてしてない!!』

 

  『ちょちょっと、もうコンビネタはいいから・・・・・・』

 

  この2人、仲がいいのか悪いのかよく分からないな・・・・・・。

 

  『それより! 話を本題に戻しますよ! ワール! 私と一緒にうどんさんについてっ! どうせ私たちAITuberはSランクになっても願いことを叶えられないんだから、ツクヨミが好き勝手するくらいなら敵になってやろ!!』

 

  AITuberって願いを叶えてもらえないんだ・・・・・・。可哀想だな、とはいっても、彼女たちなら願いを叶えなくても幸せにやっていけそうだけど。

 

  『いいですよぉ』

 

  『いいのっ!?』

 

  想像以上にあっさり、二つ返事でワールも仲間に入った。

 

 『で、でもなんで?』

 

 『ふふふ、敵に回ったと知ったら、ツクヨミさんが裏切り者の私を思いっきり罵倒して、お仕置きしてくれるハズですから・・・・・・』

 

 そんなこんなで、理想的な5:1の状況が完成した! 2人を抑えておけば、レベルアッパー数もこちらが圧倒的に有利になるし、これは勝てるぞっ!!

 

 『よし! みんなで勝とう!!』

 

 『勘違いしないでください、勝てるのはどちらかです』

 

 『でも、みんな幸せになる道に進んでるってことですよねぇ・・・・・・! 勝利よりも大切なことですよぉっ!!』

 

 こうして、僕らは同盟を組み、打倒ツクヨミに向かって共に幸せを目指す。

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