4話 Hammer -勝利をもとめて-
VTuberの属性について
前回、ホリィはしっぽを駆使してバトルを有利に進めた。このように、VTuberにはスキルとは別の“キャラクター”を持っていることがある。例えば天使系VTuberなら翼で一定時間浮遊することが出来る。そのかわり、浮遊できる時間は限られていて、その上全体的なステータスは低めに設定されている。
その他にも、直感が強化されたVTuberや、ペットと共に戦うVTuberがいる。そういったそれぞれの個性を反映した自由な戦略性がありながら、運営の完璧なバランス調整により性能修正が行われずにバランスが保たれている最高のバトル、そして最高の娯楽、それがVTuberバトルだ。
『やったね! いきなり大逆転!』
『いやぁ、レベル差がなくなっただけで大逆転とは言えないんじゃないかしら・・・・・・』
『ええ、その通りです。それどころか、目の前にショップがある状態、私たちの方が有利です』
『うみゅみゅぅ・・・・・・』
『でも、大丈夫だよっ! きっとハルハルならあの3人だって簡単に倒せるよ!』
『いや、お前らも手伝えみゅ』
『腐ってもアタッカーだものね、わたし』
『アタッカーの2枚採用には、あいかわらず理解に苦しむデス』
基本的には、レベルアッパーをアタッカーに使わせるのが定石だ、アタッカーが2人いるとレベルアッパーが分散して中途半端な攻撃力にしかならない。
『それじゃ、ハルハルは山田ちゃんをよろしくねぇ? わたしは・・・・・・そうね、厄介なデバッファーから倒しちゃおうかしらっ!』
『え、じゃあ私はミリコさんが相手ってこと? でも、パワーが足りないよ? 私ヒーラーなのにっ!』
アイカの質問に答える間もなく、2人は切り込みに行った。
『さて、私が相手ということですね。私はタンカー、レベル1ヒーラーの攻撃なんて痛くもありませんよ』
『だ、だよね・・・・・・』
『私は13連敗中なわけですが、今度こそ勝ちたいんです! 容赦はしませんよ!』
『トレンドVTuberも大変だね・・・・・・』
そういいつつ、アイカは武器を取り出す。
『えーっと、ラブリカステッキー!』
ハートがあしらわれた可愛いらしいステッキだ。ヒーラーの装備なので、基本性能は著しく低い、味方の回復に特化した装備だ。
『それでは私も、この拳銃で・・・・・・』
『はひ・・・・・・?』
ぱぁんっ!!
発砲音が鳴り響いた。弾は外れているが、それでも突然の出来事にアイカは凍り付いた。
『大丈夫ですよ、当たったとしてもこれはゴム弾の威力の6分の1、架空弾ですか、ら・・・・・・。それに、私はガンナーではないのでこの銃も威力は豆鉄砲程度・・・・・・。あれ?』
アイカの内太もものあたりから流れ落ちるものが、小さな水たまりを作っていた。
『それ、汗ですよね・・・・・・?』
『う、うん・・・・・・』
この一瞬で集まった一部マニアからのスパチャは、500万円にものぼった。
そんな牧歌的なバトルの間にも、ホリィとハルハルたちは苛烈な戦いを繰り広げていた。
『ハートアックスー!』
『ちょっちょー! か弱いわらひに斧はやめてくらさいー!』
アンダーソンは相棒のスズメを呼び出し、ホリィに攻撃する。
『じゃっ、邪魔よぉっ!』
顔の周りを飛び回る雀を追い払おうと手を振る。
『いまれす! でばふーをかけるれす!』
アンダーソンは手を怪しげにわきわきさせると、呪文を唱え始める。
『ふにゃらかふにゃらか・・・・・・ほんわりふにゃにゃか』
『あら? あららぁ・・・・・・っ?』
アンダーソンのスキル、「なんか軟化~?」により、ホリィのハートアックスは少し柔らかくなってしまった。
『うっそー! すっかり萎えちゃったわぁ!?』
『いまれす! すすめしゃん!』
『いたっ! いたたぁっ!』
ホリィがスズメ相手に手を焼いていると、近くでカキン! と甲高い音が鳴り響く。
『ハンマーはいいデスね! テキトーに振ってるだけでも様になるデス!』
『ふみゅぅ・・・・・・。武器を使いこなせてないって言いたい?』
『その通りなのデス!』
自分の身長と同じほどのギガハンをなんとか振り回してはいるものの、ポイズンクローの素早い動きについていくことが出来ず、当たれば大きいハンマーの一撃を与えられずにいた。
『残念ながら相性が悪かったみたいデスね! このまま勝利はもらってやるデス!』
『まだ、まだもうちょっと・・・・・・』
『ここで一気に押し切るデス!』
『ふみゅ・・・・・・』
『スキル発動デス!『死の運命(デスデスティニ―)ですデス!』デス!』
『ですですうるさいみゅ・・・・・・』
山田運命(以下略)のスキル効果で、どこからともなく小さな蜂が2匹飛んできた。
『刺されると強制ダウン。蜂はハンマーで仕留められないし、実に厄介みゅ・・・・・・』
スキルには時間経過で再使用可能になるスキルのほか、バトル中1度しか使用できないスキルもある。そのうちの1つが「死の運命(以下略)」、刺されると即ダウンになる蜂を5分間召喚することが出来る。蜂にまとわりつかれたことのある人なら想像に難くないだろうが、あの羽音の不快感や、蜂から逃げることを意識するがゆえに相手に隙を見せてしまう効果もある、とても強力なスキルだ。
ちなみに敵の持つスキル内容は、バトル開始前にお互いに知らされている。そのため、こういった初見殺しのスキルで負けないようなルールにはなっている。
スキルを発動した山田は、早くも勝ち誇った顔で言った。
『この蜂から逃げるしかない。だがここを離れるとショップを奪われる・・・・・・。そうデスよねハルハル? そう! お前たちに選ばれた道はただ1つ、敗北の運命なのデス!』
山田は思った、「決まったぁ!」と。
ミリコは思った、「センスを疑う」と。
アンダーソンは思った、「それはないとおもうれす・・・・・・」と。
『・・・・・・あっ、そろそろいいかしら?』
アンダーソンのわずかな気のゆるみに乗じて、ホリィはスキルを使用した。
『いくわよー! 『さきゅばしっちゃう魅惑のGGはぁと』!』
『山田ごえのひっでぇネーミングれす!?』
スキルの効果を受けたスズメは、アンダーソンにそのくちばしを向ける。
『うわぁ、うらぎりれすぅーっ!!』
そして、そのままアンダーソンに襲い掛かる。
『ひぇー!! めをさますれすすすめしゃんー!!』
『これがわたしのスキルっ! あらゆるオトコノコを誘惑しちゃうんだからっ!』
一転攻勢、デバフの効果の切れたハートアックスを強く握りしめる。
『また元気になってきたわぁっ! そろそろフィニッシュね!』
『や、やめるれす~!』
ホリィの振り下ろした斧はアンダーソンの体を刈り取る。が、体は両断されず、アンダーソンの体は瞬時にドット状の粒子になって、斧を避けるように蠢き、そのまますぐに元通りになった。アンダーソンは地面にばったりと倒れこむ。
井上アンダーソン ダウン
『あうー! またしてもやられたれすー!!』
『やったわー! 初めてダウンをとったわよー!』
気の緩んだホリィはすぐさま自分の顔をたたき、気合を入れなおす。
『さてと、次はどうしようかしら・・・・・・』
アイカとハルハル、どっちの加勢に入ろうか思考する。
『うーん・・・・・・。なんか頑張りすぎて疲れちゃったわ・・・・・・ちょっと休憩に入らせて貰うわぁ・・・・・・』
ホリィは軽く頭を休めようとしばらくぼーっとした後、ピンチなハルハルの加勢に入ることにした。
その数分前、アイカは自分の劣勢な状況を打開しようとしていた。
『ふざけた格好、銃の威力がダイレクトに伝わりますよ』
『そんなこと言われてもぉっ! 好きで着てるわけじゃないのにぃー!』
ハルハルはホリィの加勢もあり優勢だ。一方、アイカは勝ち筋を見いだせずにいた。今は物陰に隠れているが、安易に出ると打たれ、このまま動かずにいるとショップに行かれてしまうどうしようもない状態だった。
だが実際のところ、ミリコはレベルアッパーを買うだけのスパチャがたまっていない。相手チームのスパチャを見ることが出来ない仕様を活かしたハッタリ勝負、ミリコは意図的にショップに行ける余裕があるという雰囲気を出していた。
『これ以上レベルアッパー買われたらまずいよね。うーん、どうしよう・・・・・・っ!』
ミリコは銃を所持している。ダメージは低いものの、遠距離からの攻撃ができる厄介な武器だ。
『あーもう! 分からない! 分からないけど、ミリコちゃんって最近勝てたことないって言ってたから、当てるのが苦手なのかもっ! もうそれ意外ないよっ! とつげきー!!!』
ほぼ自暴自棄だった。視聴者にむかってぼやいたところで、物陰から飛び出し、右へ左へ、デタラメに動きながらミリコに向かって走り出す。
『なっ・・・・・・! なんて大胆な戦法!』
ミリコは急いで引き金を引く。自暴自棄に見えたアイカの推理は実は当たっていて、ノーコンのミリコが放った弾はどれも明後日の方向に飛んでいく。
勢いを殺さず、アイカはミリコに近づき、ステッキを構えた。
『たっ・・・・・・、弾切れっ!?』
『ごめんなさーいっ!』
ステッキで脇腹を殴打する。
『ぐほっ!?』
『いっ、痛くないですか!?』
ミリコはダメ―ジを食らったが、それでもダウンはしていない。
『ごめんなさいっ!』
『かはっ!』
『あとでパフェおごりますから!』
『っつぅ・・・・・・』
アイカの容赦ない攻撃にミリコはダウンした。
『遮断されないレベルの攻撃・・・・・・。素でやってるなら大した才能です・・・・・・』
このゲームはリアリティの為に多少の痛みは実際に感じるように出来ている。一定以上からは全く痛みを感じないように出来ているが、本来攻撃することを目的として作られていないアイカの得物は結果的に最も痛烈な痛みをプレイヤーに与えた。
コメント欄はかなりドン引きだった。しかし否定的な意見は見受けられず、アイカの天然キャラが炸裂したと面白おかしく書かれていた。
『そうだ、2人はどうなったかなっ! 助けに行かないとっ!』
『む・・・・・・無視・・・・・・ですか。がくっ』
そしてアイカがハルハルのもとにたどり着いたタイミングでちょうどホリィと出会った。
『あ、アイカちゃんも勝てたの? えらいわぁー!』
『そんなこと言ってる場合じゃないよぉ。ハルハルちゃんがピンチだよー!』
目の前ではハルハルが山田相手に遅れを取っていた。
『そういえばそうねぇ。助けましょうか!』
『そういえばって・・・・・・』
『でも、あまりに戦いが激しすぎて入れないのよぉ・・・・・・スキルもまだ使えないし』
ハルハルと山田の奮戦に、2人は手を出せずにいた。
『あの蜂よねぇ。刺されたら一発でダウンよ?』
『ホリィちゃんのスキルはあとどれくらいで使える?』
『あと1分はクールタイムがあるわよ?』
『とりあえず、私はハルハルちゃんを回復するねっ! 癒やせー!』
『ふぅ、ちょっと回復したみゅ』
『レベル1の回復がなんぼのもんじゃいデス!』
『というか、ハルハルちゃんはすごいわねぇ。あんなにおっきいハンマーで疲れないのかしら』
『やっぱり私たちとは体力も全然違うよねー』
2人ともクールタイムを待つ間、のんきだった。
『よしっ! 回復したわ! じゃあ早速、『さきゅばしっちゃう魅惑のGGはぁと』!』
スキルが山田の召喚した蜂を誘惑する。しかし不発に終わる。
『あれぇ!? なんでだめなのよぉっ!』
『そりゃあそうみゅっ!! そのスキルはオスにしか効かないみゅ、でも毒のある蜂は全部メスみゅ!』
『え~っ!? そんなの聞いてないわよぉ!』
『へ~、そうなんだー。ハルハルがちゃんって物知りだねっ!』
蜂はスキル時間が過ぎたためにどこかへ飛び去った。だが蜂を味方につけて山田を倒そうとする案は没になってしまった。
『ふみゅ、そろそろ限界・・・・・・』
『はぁ、はぁ、こっちもデス・・・・・・』
お互いに消耗して、動きのキレがなくなる。
『ハルハルー! 受け取ってー!』
アイカが何かを投げた。それを目視すると、ハルハルは迷うことなく受け取り、それを口に入れた。
『ま、まさかそれは・・・・・・』
『2人が戦ってる間に、ショップを探して買ってきたんだー!』
『まさかまさかみゅ。初バトルでここまで来れるとは思わなかったけど・・・・・・』
『Lv.4、この武器は”みゅんみゅんぺったんたん”みゅ!』
『今日一ひどい名前デス!』
ハンコを模したハルハルの得物は、ギガハンよりも巨大になっていた。VTunerバトルの武器は見た目より軽いものの、それでも大きくなればその分重くなる。
『それを持ち上げられるデスか?』
『余裕』
そういうと悠々と武器を振り上げる。
『さ、さっき疲れたって・・・・・・って、えぇーっ!?』
ハルハルの武器に気を取られていた山田はアイカとホリィに腕をつかまれていた。
『まさか、レベルアッパーの強化をダシに隙を作ったデスか!?』
『ナイス。あ、それと、さっき疲れたって言ったのは油断させるための嘘みゅ』
『そんなぁーっ!? ひぃーっ!』
『胸もはんこもー、ぺったんたーん!』
『むきゅーぅっ!?』
ハルハルの掛け声とともに振り下ろされた巨大なハンコは山田をダウンさせた。床にはハンコの跡「勝利」の文字。
『正義は勝ーつ』
『やったやった! 勝てたー!』
『それに! 3タテよー!』
『と、言うわけで今回の勝者はネクステの18期生!』
『アイカ、ハルハル、ホリィの3人組っす! おめでとうっすー!』
『ぐぬぬぬぬ、ついにビギナーにも負けたデス・・・・・・っ!』
『はう~』
『次こそ勝ちましょう、今回は役割分けが上手くいってましたから、レベルを4以上まで上げる工夫を・・・・・・』
『勝ったー!』
『やったー!』
『くぅー! あいつらうっせぇデスー! むかつくのデスよーっ!!』
こうして、3人の初試合は見事勝利をもって幕を閉じた。




