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15話 時計仕掛けのダイアリー -戦いの幕が開ける時- 後編

挿絵(By みてみん)


 判明した覚醒の発動条件。でも今すぐに使うことは出来ない、発動条件を満たすために僕はレベルアッパーを手に入れる必要がある! それが分かれば即行動だ、今ふれあちゃんがいる場所から反対側、火が消えた廊下の方へ走る。


 『逃がすわけないでしょーっ!!』


 流石レベル7、足の早さも強化されていて、一瞬で僕達との距離を縮める。


 『・・・・・・っ!! ダメっぽい!! あーしを置いて早く逃げてっ!!』


 『そんなっ! 僕を1人にするのっ!?』


 『女々しいこと言ってんなし。あーしの勘がここはこうすべきだって言ってんの!』


 そういうと、僕にガガりんを投げ、ふれあちゃんに抱きつく。


 『ちょっと! いきなりなにするのっ!』


 『数秒でも時間稼ぎできたら、きっとうどんがなんとかしてくれる的な』


 『私はレベル7なんだよーっ!! えーいっ!』


 振り返ることなく、僕は走った。そして、ハルハルと歩いたところとは別の場所にショップがないかを探す。


 りんす ダウン。


 その時、りんすのダウンをアナウンスによって知った。十分すぎるほどな活躍だ。無駄にはしない、これで勝つ。


 ひたすら下に降りていくと、中庭にショップが見えた。よし、スパチャは・・・・・・、溜まってる! 僕のスキル宣言をして期待が集まってるみたいだ!


 ショップに駆け込むと、僕はレベルアッパーを1つ購入する。


 よし、これで勝てる・・・・・・。後は簡単だ。


 僕は一転攻勢、敵のVTuber3人を探す。が、それにはあまり時間がかからなかった。


 中庭の隅、丸くなっているふれあちゃんの姿があった。あの漂うマイナスオーラ、間違いない、中身はサチウスだ。


 僕は、こっそり近づいて、攻撃を仕掛ける。


 『あぁっ!? 見つかっちゃったよぉっ!!』


 『ここでトドメをさす!』


 『待って! その前にガガりんを返してっ!』


 『返すわけないでしょっ!』


 『返してよぉー・・・・・・』


 少し心苦しいけど、これも作戦に必要なことだ。サチウスを倒さずにピンチに陥らせる。


 『ふれあ様ぁーっ! 交換してー!!』


 『任せてっ!!』


 またもや一瞬で中身が入れ替わり、今度はふれあちゃんがふれあちゃん本人の体に宿る。焦ってガガりんを落としたけど、それは今は関係のないことだ。


 『ふれあちゃん参上っ!!』


 僕は、作戦通り、落ち着いて様子を伺う。


 『ありがとう、サチウスちゃん』


 ふれあちゃんはポケットにレベルアッパーが入っているのを確認して、それを飲み込んだ。


 『みんなとの絆の力だねっ! レベル8だよっ!!』


 コメントが一気に増える、視聴者も大盛り上がりだ。


 『それ、本当に絆の力?』


 『え?』


 『結局戦ってるのってふれあちゃんだけだよね。ふれあちゃんはそれでいいの? 自分ばかり頑張ってさ、周りのみんなは戦わないんだよ? それって、自分の出来ないことから逃げてるってことだよね』


 『私は、それでもいいと思ってる。誰にだって出来ないことはあるけど、自分にできることを一生懸命にやるのは、逃げるってこととはちがうと思うよ』


 『・・・・・・そっか、それじゃ、行くよ』


 僕はT字定規を手に、ふれあちゃんに攻撃を仕掛ける。


 『コレで終わりだよっ!』


 ふれあちゃんがマイクを構えると、突然地面から火炎放射器が現れる。これが彼女の武器、火を放つ舞台装置を自在に操れる。


 『燃やすよぉーっ!!』


 彼女の声に応えるように、周りの舞台装置が一斉に火を吹き、僕を火炎で包んだ。


 ばちばちばち・・・・・・。


 『これでトドメだね』


 しかし、一向に僕のダウンアナウンスは流れない。


 ばちばちばち・・・・・・。


 カツ、カツ、カツ・・・・・・。


 火の燃える音の中に、僕の足音がかすかに響く。


 『え・・・・・・。なんでダウンしないの?』


 僕は火を纏い、ふれあちゃんに近づく。火は徐々に弱まると、やがて消えた。


 僕の丸焦げた体が、外側からぱりぱりと剥がれていく。


 そして、中から現れたのは。


 『な、なにそれ! 意味わかんない!!!!』


 『あれはっ! AITuber試作型0号、アイじゃないですかぁーっっ!?』


 実況の黒部ランが素っ頓狂な声をあげる。


 『アイ・・・・・・? もしかして、始まりのVTuber・・・・・・。私の名前の由来・・・・・・』


 僕にだって意味はわからない。僕達が一生懸命考えた“締野うどんの中”に、こんな姿が隠れていたなんて。


 『意味がわかんないのは僕も同じだよ。それに、発動条件もさっき分かったばかりなんだ。きっと、相手とのレベル差が6以上あって初めて判明する条件だったんだと思う』


 ふれあちゃんがレベルアッパーを飲み込み、レベル7になった時に覚醒の解放条件が脳の中にインプットされたんだ。


 『覚醒の発動条件は”相手が自分より7レベル上だった場合”に“その相手から攻撃を受ける”こと。すごく難しいけど、その分大きな力を得ることが出来る。それが僕のスキル、覚醒だったんだ』


 じゃあ、種明かしをしよう。


 『今、ふれあちゃんが使ったレベルアッパーは僕が買ったものだよ。さっき攻撃のどさくさでポケットに入れたんだけど、それをまんまと使ったんだ』


 『レベルを7個差にするために!?』


 『そういうこと。とはいっても、この覚醒の効果がどんなものか分からないから、本当に賭けだけどね』


 でも、分かる。この満ちて、溢れ、滾る感じ。僕は、今ここにいるだれよりも強い。


 僕は脳内に浮かんだビジョンの通りに右手の人差し指と親指で輪っかを作り。その内側に息を吹き込む。すると、小さなシャボン玉がぽんぽんと出てくる。


 僕はそのシャボン玉に飛び乗る。


 『な、なにそれ!?』


 ふれあは、飛び交うたくさんのシャボン玉のうちの1つに触れてしまった。


 『ぶうわぁぁぁーーっっっ!?』


 シャボン玉が爆ぜる。ふれあは爆発に巻き込まれてダメージを受ける。


 『じゃあ、これは僕だけが触れて、他の人が触ると爆発するんだ』


 『なにそれなにそれなにそれっ!?』


 もう一度息を吹き込むと、さらにシャボン玉が増える。


 ふれあちゃんもなんとかお得意の火炎攻撃で対抗するも、あまりの数にジリ貧状態だ。


 『諦めたらどう・・・・・・っ?』


 『諦めないよ!』


 とはいうものの、打開策は見つかっていないようだ。じわりじわりと近づいてくるシャボン玉と距離を取っている。


 勝った。一か八かの賭けに、そして、この勝負にっ!


 『『待ったぁぁ!!』』


 『ちょ!? なにっ!?』


 突然の声、聞こえてきたのは上だった。太陽を背に高所から飛んできた2人、御園生みみとサチウスだ。


 『えぇーっ!? そんな高いところから飛び降りたら一発ダウンだよーっ!!』


 着地までほんの数秒、宙を舞う2人にふれあは声を上げた。


 『私だってそんなに馬鹿じゃないですっ!!』


 みみは、懐からフラスコに入った薬品を2つ取り出すと、それを地面に向かって投げた。すると、その場所からもこもことした泡のようなものが出てきて、それをクッションに2人は無事に着地した。


 『みんなっ!?』


 『ご!! ごめんなさい! いっつも1人に戦わせちゃって!』


 『さっちゃん!』


 『私、ずっと怖かったんです・・・・・・。いつも笑顔のふれあちゃんだけど、実は私たちのことを見下してるんじゃないかって、戦わない私たちを疎ましく思ってるんだって』


 『そんなこと思ってたの!?』


 『で、ですけど! 私、自分以外を信じられなくて・・・・・・。でも、だったら人を信じれるように、他人に信じられる自分を信じられるように、一生懸命戦います!』


 『わたしもっ! さっき部屋の爆発を考案してハルハルを無事にダウンさせられて、自信がつきましたっ!!』


 『みみちゃん・・・・・・』


 な、なんだこれはっ!? 今のは完全に僕が勝つ流れだったよね!? なのに何だ、この胸熱展開は・・・・・・っ!


 『これ、レベルアッパーですっ! たとえ相手が覚醒しても、それ以上に強くなればきっと!』


 そういうと、みみはふれあちゃんにレベルアッパーを2錠渡す。ふれあちゃんはすぐに受け取り、それを飲み込んだ。これでふれあちゃんのレベルは10だ。


 『視聴者のみんなも、応援してくれてるってことです!』


 『みみちゃん、そして応援してくれてるみんな、本当にありがとう。そういえばっ! さっちゃんには、はい! ガガりん取り返したよ』


 『あ、ありがとうございますっ! よし・・・・・・』


 そういうと、サチウスはガガりんを僕のシャボン玉に向かって投げつけた!


 ふれあちゃんの炎とは違って、シャボン玉は触れたときと同じように爆発した。それが誘爆して、僕の放ったシャボン玉は全て割れてしまった。


 『だったら、また作るまで!』


 再び息を吹き込む。が、シャボン玉は出来なかった。


 『上限はあるのか・・・・・・』


 な、他になにか武器はないのか!? もう一度、意識を集中させると、左手を銃のようにするジェスチャーのイメージが浮かんだ。


 『こうっ!? バーン!!』


 僕の声とともに、左手の人差し指からハートの形をした弾が飛んでいった。


 『いっ、いっだぁーー!!??』


 攻撃はサチウスにヒット。かなりのダメージを負っているみたいだ。


 『これ! 飲んでください!』


 『んぐんぐんぐ・・・・・・。あれ、体が楽に・・・・・・』


 『調剤で、回復薬作れちゃった。私、実は結構強いのかも・・・・・・』


 『そうだよ! みんな、強いんだよ! だからここまで来れたんでしょ!?』


 『そっか・・・・・・。ふれあさんは確かに強かったけど・・・・・・』


 『私たちの力も、あわせて戦ったんでした・・・・・・』


 ぐ・・・・・・。なんだ、なんだんだこの空気はっ!!


 僕は今1人だ。だけど、この1人は弱さじゃない。孤独じゃない。


 みんなが勝負に勝つために繋いだ命のバトンだっ! 僕はなんとしてでもこの勝負に勝たなくちゃならないんだ!


 『僕だって、ここにいない2人のために、勝たなくちゃいけないんだっ!!』


 こうして、戦いは最後のフェーズに入った。


 僕は強化された攻撃力とすばやさで肉弾戦に持ち込むも、ふれあちゃんのレベル10の強さは桁外れで、攻撃力はないものの僕のスピードを上回り、華麗に避けながら火炎放射でじわりじわりと体力を削る。


 みみとサチウスの2人も援護射撃をしてくる。さっきまでのバラバラ感はどこへやら、お互いの邪魔をしないように上手く立ち回って戦っている。サチウスがガガりんを投げて攻撃し、みみがデバッファーというような立ち回りで、お互いに確実にダメージを受け続けている。


 それでも、覚醒した僕は強いっっ!


 サチウス ダウン。


 『まだまだですっ!』


 御園生みみ ダウン。


 この新しい体は、さらにもう1つスキルを持っているみたいだ。僕はそのスキル名を叫ぶ。


 『『愛の鞭』っ!!』


 僕の右手にエネルギーがみなぎる。ふれあまで5cm、持ち前のスピードで距離を詰め、拳の力を全て前進のエネルギーに変える。


 放たれた拳は、ふれあを貫いた。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 ふれあ ダウン。


 『か、勝った・・・・・・。勝ったぞぉーっ!!!』


 僕は、僕達は紙一重の最後の競り合いを制し。Aランク昇格戦を無事に勝ち抜いたのだった。

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