11話 ふれあフレイム・アーモンドトースト
僕は、イヤホンをつけながらベッドの上で音楽を聞いていた。
♪窮屈だって困難だって 超えれば立派な勲章さ!
♪やなこと全部シェイクして カクテル飲んで酩酊めーでー
♪みんなふれあちゃんを盲信しなさいっ 全て忘れれば 世界は楽しいのさっ!
歌詞はもちろん、何より音作りがいいなぁ。涙が出るほどに・・・・・・。
「なにを聞いてるんですの?」
「え、あ。なんでもないです・・・・・・」
電波ソング好きなんて人前で言えるかっ!
まぁ、この曲は僕が好きなアーティストが作ったVTuberの曲だから、まだマシな方だけど、もっとディープでマイナーな楽曲がプレイリストにはたくさん入ってる。
はぁ、よく「好きな曲はなに?」なんて聞かれるけど、その度頭の中をフル回転させて無難なアーティストを選んでしのいでる僕の身にもなってほしいよ・・・・・・。
「ふれあフレイム・レモネードマティーニ・・・・・・。知ってますわよ?」
「わぁっ! か、勝手に見ないでくださいっ!」
「隠す必要ないじゃありませんの。何を隠そう、ふれあちゃんもわたくしのお知り合いですわ!」
「いや、別にこのVTuberは好きじゃないんだけど・・・・・・。でも、アーティスト本人がカバーしてるバージョンより、なんかこっちのほうが声質が癖になるんだよね」
「他にはどんな曲を聞きますの? わたくし気になりますっ!」
「いや、えーと・・・・・・。長嶋成徳さんとかが好きだけど」
「今流行りの方ですわね」
すみれさんだったら、VTuberの楽曲選んだほうがウケがいいかもな。こっちも作曲者が好きなだけでVTuber本人のことはミリ知らだけど・・・・・・。
「VTuberだったら、暗い森の赤リンゴとか、ラフライフ☆めでぃけーしょん! とか。あと、Link Wedding Birthとか聞いてます」
「センスいいじゃないですの~。それに、ラフライフ☆めでぃけーしょん! はハルハルが歌ってる曲ですわよ! 素敵ではありませんの、好きな曲の歌い手と並んで戦えるなんて」
「あ、そうか。アーティスト表記がネクステ18期生だったからピンと来てなかった」
「思ったより反応薄ですわね・・・・・・」
「んー、まぁね」
ラフライフ☆めでぃけーしょん! はそこまで好きじゃないんだよね。一応前に買ったCDに入ってたから聞いてるけど、歌詞が微妙かなぁって。別に好きな作曲者でもないし。
「そうですわ! 話は変わりますが、わたくし最近美味しいお店を見つけましたの! 初勝利を祝して一緒に行きませんこと?」
「はい! すみれさんのお店なら信頼できます」
「それでは行きましょう!!」
そういうわけで、僕らはひとまず駅の方まで来た。いつもの癖でコンビニを見るとバチャメンカードがBOXでワゴンセールされてた。不人気パックだから、全然元は取れないんだけど、当たりはそれなりに良いんだよな。半額になってるし、一回剥いてみたかったから2箱だけ買うか・・・・・・。
すみれさんに少し付き合ってもらって、1BOX11000円が定価のところ、11000円で2箱買うことが出来た。
「ほんと、好きですわね~」
「やっぱ、半額って言葉には弱いなぁ。でも、シュリンク剥かれちゃった、寝かせれば不人気BOXでもプレミアつくかと思ったけど、売ることも出来ないし。大人しく剥くかぁ」
VTuberの収入でお金には全然困ってないけど、それでも欲しいものはたくさんあるから、ムダ遣いはしたくない。
「よし・・・・・・引くぞ! レアカード!」
「当たりはだれですの?」
「12カートンに1枚と言われる三神ヒビキのレアカードですね、38万円するかな。でもそれは流石に当たらないだろうから、1カートンに3枚封入されてるサインカード狙い。そっちは名前覚えてないですけど・・・・・・とにかくサイン付きが出たら1~3万円くらいのカードです」
「一箱11000円なのですよね? 当たりが出ても10000円なら、直接買ったほうがいいのではなくて・・・・・・?」
「あー、いやそう、正しいんですけど・・・・・・。なんでかなぁー・・・・・・」
自引きすることにそこまで執着してるわけでもない。いつもの人気パックならそこそこ元は取れるけど、僕はただのギャンブル中毒に他ない。パチンコなんかに手を出したらいよいよ終わりだろうな・・・・・・。
「まぁ、それが不人気パックと呼ばれる所以なワケで」
「ハズレ扱いされるVTuberが不憫でなりませんわ・・・・・・」
「ごもっとも・・・・・・」
ハズレとして名高いハルハルさんには黙っておこう・・・・・・。
そんなこんなで、すみれさんの言う美味しいお店とやらに来た。
「ここですわ! 安くて山盛りなんですの!」
「スミレさん、見るからにお金持ちなのにやたらリーズナブルなご飯を評価したがりますよね」
「もちろん、13万円する天ぷらのフルコースやら串カツやらお寿司やらもたくさん食べてきましたけれど。わたくしとしては、こういうお店を探すほうが楽しいんですの」
「ひぃ・・・・・・ホントのお嬢様だ」
「そんなに珍しいことでもないと思いますけれど・・・・・・」
そんなこんなで店に入る。入口付近にはご飯が美味しいカフェと書かれた手書きの立て看板。張り紙には「現金のみの取り扱いとなります。ご了承ください」の文字。イマドキ現金のみって結構面倒だな・・・・・・でも雰囲気は良さげだ。
店に入るとすぐに店員が水を持ってきた。4,5人位の従業員がいて、お客さんもそれなりに入ってる。こんなところ全く知らなかったけど、かなり愛されてることが分かる。
メニューを開くと、一面に様々なピラフが載っていた。ピラフはアメリカ風、イタリア風、インド風など様々な種類がある。ピラフはどれも同じだが、上に乗ってるメインメニューが違うみたいだ。アメリカ風はカレーと唐揚げが乗っている。どこがアメリカ風なのかはわからないけど、どれも美味しそうだった。
悩むけど、僕はBOXを買ったばかりということもあり一番安いブランチピラフを選んだ。とんかつが乗っていて、味噌汁、サラダが付いてお値段2180円、確かに安い。牛丼一杯1100円ぐらいするこのご時世に、カフェでここまで安いのはすごいのではないか・・・・・・。
しかし、11000円の買い物をした後にランチで100円ちょっとの違いを気にするなんて、僕はなんて情けないのだろうか・・・・・・。
「わたくしはこれにしますわ」
すみれさんが指をさしたのは、インド風ピラフだ。ドライカレーとカレーのあいがけらしい。
「以前来た時はブランチピラフを頼んだのですが、次来たらこれを頼みたいと思ってたんですの」
「ブランチピラフ、美味しかったですか?」
「来てからのお楽しみですわ」
「それもそうですね」
店員に注文を伝えると、僕はカバンからさっき買ったBOXを取り出す。
「それじゃ、これ開けますっ。音も立たないだろうし、別に迷惑じゃないですよね」
「おぉー、いいですわね」
というわけで、開けていく。最初はパックを指でピリッと開けていたが、音が気になるからとすみれさんがソーイングセットの中に入っていた小さいハサミを貸してくれた。
合計60パック、豪快に10パックずつ開封していく。これも半額だからこそ成せた贅沢だろう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で開封していく。
「・・・・・・あー。1BOX目はだめだ・・・・・・」
箱1の当たり枠が外れだった。他の小当たり枠も微妙だったし・・・・・・。
「こんなにキラキラしてるのに?」
「うーん・・・・・・買取に出しても300円くらいかなぁ・・・・・・。半額で買ったからいいものの、11000円出してコレが出たらしんどいよなぁ・・・・・・」
「そういうものなんですのね」
「よし、気を取り直して2BOX目!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「かぁー、まただめだ・・・・・・。さっきよりは良いけどそれでも600円買取くらいかなぁ」
「さっきから、お金で換算するのやめてくださいません・・・・・・?」
「だってさ、このカード知らない人に説明するには金額で説明したほうがわかりやすいでしょ?」
「そうですけれど・・・・・・」
小当り含め、11000円が1800円くらいになった。なんてこったい、9200円の損失だ!
僕の手元でキープしておきたいカードもないし、全部売るか・・・・・・。
「とほほ・・・・・・」
「今度わたくしも買ってみたいですわ、きっとわたくしの豪運ならレアカードを当ててごらんにいれますわ」
「嬉しいけど、トレーディングカードは沼ですよ・・・・・・」
「コレクターがそんなこと言っていいんですの?」
その後、雑談しながら当たったバチャメンカードをレアごとに分けていると、店員さんが料理を運んできた。
「おっと・・・・・・」
僕は急いでカードをじゃまにならないように隅に寄せる。
「ブランチピラフです」
「あ、僕のです」
「インド風ピラフです」
「ありがとうございますわ」
「・・・・・・あ、それってVTuberのカードですか?」
「あ、はい・・・・・・。正直VTuberは全く知らないんですけどね、安かったので試しに」
「知らないのに買ったんですか!?」
あー、VTuberが好きな人なのかな。悪い印象与えたかも、かといって嘘をついたらついたでボロが出るし・・・・・・。
「わたし綺羅星カナちゃんが好きなんですよ! 玄関にフィギュア飾ってます!」
うう・・・・・・コレクターとして直射日光ガン当たりの玄関にフィギュアを置くのはちょっと複雑だな・・・・・・。
「カナのカードも当たりましたよ。コレと、これ」
3枚のカードを見せる。それぞれ違うレア度なのでイラストも異なる。
「わぁー、ホントだ! 綺麗ですね!」
「えと、欲しかったらあげますよ・・・・・・」
「えぇ!? いいんですか? でも、もしプレミア付きのカードだったりしたら・・・・・・1万円くらいするんじゃないですか?」
「いや、いいんですよ。知ってる人にもらってもらったほうがいいでしょ」
「ありがとう! てんちょー、カード貰ったー!!」
厨房に戻ると、従業員に自慢していた。
買取にだしても10円くらいのカードだし、あれだけ喜んでもらえたら、爆死したけれど元は取れた感じするな。
「いいところ、あるじゃないですの」
「まぁ喜んでもらえたらいいよね、それじゃ、食べましょうか」
眼の前には湯気が立つピラフ。
「ってデカっ!?」
「このデカ盛りがこのお店の凄いところなんですの! じゅるり・・・・・・」
直径30cmくらいのお皿一面がピラフだ。15×15×3.14=706.5平方センチ・・・・・・。嘘だろ。ピラフだから原価はそれなりとはいえ、この量は流石にやりすぎだ。コーヒーでも飲まないと店も赤字だろう。
「食べれるかな・・・・・・」
「まずはピラフを食べて、その後に上に乗ったおかずと一緒に食べる。最後はピラフ単体で食べる、この食べ順で最後まで飽きることなくピラフを堪能出来ますわ」
「なるほど、さすが食べることに関してはプロフェッショナルですね・・・・・・」
「食べることに関して、ではなく、全てにおいてプロフェッショナルでしてよ」
「なるほど」
さっそくピラフを口に運ぶ。うん、美味しい。自炊するとどうしてもべっちょりしちゃうんだけど、これはほどよくパラパラしてて、口に入れた瞬間香りが口いっぱいに広がる。ホントはゆっくり噛んで味わうべきなんだけど、こうも量が多いとどうしても焦っちゃうな。
ぱくぱく・・・・・・。
ふとすみれさんの方をみると、ピラフをお箸で食べていた。
「あれ? スプーン使わないんですか?」
「グリーンカレーはスプーン必須ですけれど、ピラフはお箸で食べますわね」
いや、そのピラフにもカレー乗ってますけど・・・・・・。
「ちょっとカレーの方も食べてみます?」
「は、はい。一口貰います。僕もカレーは気になってましたし、代わりにこっちのも一口とってください」
「えぇ、遠慮なくいただきますわ」
カレーピラフを一口。予想に反してカレーもかなり本格派だ。スパイスカレーとまではいかないが、じっくり煮込んだんだなってのが分かる奥深さ。それにピラフが合わさって、舌に強烈な印象が残る。
「うん! 美味しい!」
「わたくしも楽しみですわー」
その後はひたすら無言でピラフを食べ進めた。本当はもっと喋るべきなのかもしれないけど、僕は御飯食べる時は話したりせず食べるのが好きだし、すみれさんも話を振ってこないあたり同じ考えなのかも知れない。
さて、前半戦終了。次はとんかつを食べる。
うん、美味い。安いのにとんかつもしっかり肉厚で、衣はサクッとしている。ソースはデミグラスかな、ピラフに少し染みてるんだけど、ここがまた味が濃くて最高だ。このソースだけでピラフを完食出来るんじゃないか? ってくらい。
適度にサラダと味噌汁を挟んで、いよいよ後半戦。最後のピラフ単体ウェーブ。
うん、飽きてない。全然飽きてない。最後まで美味しく食べれるやつだ。
そんなこんなで完食。すみれさんも同じくらいのタイミングで食べ終えた。
「ひとつ、言いたいことがありますわ」
「ん、なんですか?」
「バチャメンカードを開ける時、あんまりお金の話はしないようにしましょう」
「え、でも。それじゃあスゴさが伝わらないじゃないですか」
「わたくしは、斑鳩さんの反応を見ますわ。あなたが欲しかったカードだと、それだけ言ってくだされば、同じくらい喜びます」
「・・・・・・そうですか」
この言葉は、どっちなんだろう。僕がお金の話ばかりしていたから辟易としてるのか、それとも僕のことを信じて理解しようとしているから出た言葉なのか。
店も混んできて、店員さんが慌ただしくしている。変える前にトイレに行こうかと立ち上がった瞬間、さっきカードをあげた店員がこっちに歩いてきた。
「これ! さっきのお礼!」
「あ、すいません。ありがとうございます」
癖ですいませんと言ってしまった。お礼された時はすいませんって言うべきじゃないよな・・・・・・。
なんてくだらない脳内反省会を開いている間に店員さんは行ってしまった。
テーブルに置かれたのはアーモンドバタートーストが2枚、かなり分厚いトーストにアーモンドバターが塗られて、そのままこんがりと焼いている。さっき入口に自家製アーモンドバターってのが売ってたからここのおすすめメニューなんだろうけど。
「って、更に食わすかっ!」
「わーい! 美味しそうですのー」
「サービス精神が僕のお腹をふくらませる・・・・・・」
ひとまずトイレで用を足してから、アーモンドトーストを食べる。
「美味い・・・・・・腹に溜まるのに止まらないよ~」
「1枚もらっていいですか?」
「もちろんです・・・・・・」
「いただきますわー。うーん、美味しいっ」
これだけ食べてスレンダー体型のスミレさんが謎すぎる。僕はお腹がパンパン、夜ご飯が入らなそうだ・・・・・・。
「すみれさんって、隠れて運動してたりする? たくさん食べるのに太らないなぁって」
「ええ、たくさん食べても運動して、代謝をあげればこの体を維持できるんですわ」
そんなこんなで現金でお会計を済ませ、店を出る前に店員さんがまたこっちを見て。
「カードありがとうね!」
「いや、こちらこそご馳走になって・・・・・・」
歯切れの悪い返事しか返せない自分に苛立ちながらも、満腹の満足感とともに僕らは帰路につくのだった。




