10話 Hammer II -反逆の幼女たち-
ハルハルと同時行動して、ショップを探索。
『まぁ、分かってはいたけどスパチャが集まらねーな・・・・・・』
『だね・・・・・・弱小VTuber街道まっしぐらだ・・・・・・』
僕に集まるスパチャはハルハルの1000分の1にも満たない。ビジュアルはいいし、初心者を応援したい派閥の人もいるからある程度は集まってるけど・・・・・・。
『どぅわー!! 僕はどうしたらいいですかーっ!! せんぱい―!!』
『寄るな寄るな・・・・・・。人気なんてそんな数日で手に入るワケないだろ。だから、今回うどんはスパチャを集めない戦略でいくしかない』
『って、どうやって?』
『レベル上げが必要ない戦略を練るんだよ。前に戦ったランとかそうだっただろ? 銃は割合ダメージだから、最後の一撃をアタッカーに譲る戦い方が出来る。なら、お前に出来ることはなんだ?』
『僕にできること・・・・・・』
ハルハルについていきながら、繰り返し練習する。
色々試す中で、チョーク弾という技を編み出した。もう文房具でもなんでもないような気もするけど、授業中に居眠りしてる生徒を叩き起こせそうな威力の技だ。これも豆鉄砲くらいの強さにしかならないけど、気を逸らすには十分すぎる。
道中ショップを3つ発見し、ハルハルは合計3つのレベルアッパーを手に入れた。僕は前回と違って、スパチャをもらうためにテコ入れするんじゃなく、スパチャを完全度外視する戦法でいく。
そして、とうとうあの変な奴らと出くわした。
『うん、お前らは、敵か。さて、いじめがいはあるんだろうかー』
『なっ、あってもなくてもなんだか複雑だなぁ』
『ハルハルくんだ、今のところはいじめがいがありそうなランキング3位に入ってるよ、おめでとう』
『くん付けはやめてくれねーかな』
『中身は男なんでしょ? じゃーハルハルくんで間違いない』
え? ハルハルって、中の人は男なの? 初耳だし・・・・・・というか、そんな事知られちゃって大丈夫なの・・・・・・?
『ハルハルっちは、3ヶ月前のホリィとの戦いでその正体が男だってバラされた的な』
気づくと、背後にはすみれさんが立っていた。
『い、いつの間に・・・・・・?』
そんなことがあったんだ・・・・・・。思えば初対面の時からキャラがイメージと違ったのは、実際に女性的なキャラを演じられなくなったのが原因だったのかも・・・・・・。
ハルハル、怒ってる・・・・・・。そりゃあ、デリケートな部分だもんな・・・・・・。
『様付けだ・・・・・・』
『はい?』
『先輩に対して、くん付けはどうかと思うぜ?』
『ほー、やっぱりいじめがいがありそうだよ』
ハルハルは背中のハンマーを振り下ろす。
『俺を揺さぶろうとしてるんだろうが、それは無駄だぜ』
『おっと・・・・・・』
ハルハルがハンマーを振り回すものの、なんなく躱される。
『俺が男だろうが、女だろうが、みんな俺を応援してくれた。あの時、VTuberは続けられないと諦めもした、たくさんのフォロワーが去っていった。だけど、それでも応援し続けてくれた人達のために、俺はVTuberを続けたんだ!』
『んー、強いな~』
『キャラ変上等! 電波もロリも妹も演じた俺の新しいキャラクターは、俺自身だ!』
つ、強い・・・・・・。人として、鋼のメンタルを持ち合わせた最強のVTuberだ!
『そもそも、VTuberってそういうものだったんだけどね、元来は。でも、いつからかみんな量産型なキャラを演じちゃって、お嬢様だの妹だの。だから、本当はファンなんだよ? 自分自身を貫く強さと、他に変えられないそのキャラクター。いいじゃん』
突然、ハンマーがムチに弾かれる。そのムチこそが、彼女の得物だった。
『だからいじめたくなるんだ。それが私、佐渡島クリス』
『チッ・・・・・・』
『わたしにとってのいじめたい子ナンバーワンは揺るがない。けど、中々手が出ないから、こうして退屈しのぎに他のやつをいじめるんだ。歪んでるでしょ、でも、仕方ないよ』
てっきりこのクリスとやら、白野ワールのドMと相性が良さそうだなんて思ったけど、そうでもないらしい。筋金入りのロクデナシ、VTuberだからこそ輝く現代社会の不適合者かもしれない。
『またバトルモードに入っちゃったし・・・・・・。これじゃあーしらの入る幕ない的な?』
『ホントだね・・・・・・』
しかし、退屈の心配はなかった。
『どーも・・・・・・やる気を無くした女でーす。はぁ、幼女を嗅ぎたい』
またしても現代社会の不適合者が現れた。
『てなわけで、幼女がいなければ作ればいいじゃない! 誰にしようかなー・・・・・・』
両手の人差し指と親指でカメラのジェスチャーをして、僕らを見定めている。何をする気だ・・・・・・?
『ハルハルは論外、あの新入りはウブそうだけど・・・・・・。いや! 絶対NG! 私の幼女センスがそう言ってる! けど・・・・・・あっちのギャルはいい感じ!』
『なにを・・・・・・?』
『スキル発動!『むすめいく!』』
今度は右手で銃のジェスチャーをすると、なにか波動のようなものが発射され、避ける間もなくそのまますみれさんを撃ち抜いた。
『え? あーし今何かされ・・・・・・』
すると、すみれさんの体がみるみるうちに縮んでいく。
『も、もしかして・・・・・・』
なんということだろうか、りんすのアバターが小学2年生女子の姿に変わってしまった!
『そんなのアリ!?』
『あれ? おにいちゃん? みんないなくなっちゃった・・・・・・!』
『これが私のスキル! 見た目だけじゃなく、ちゃんと記憶も7歳前後に戻すのよ!』
『強くない!?』
『幼女を愛でるためなら、その他はもうなにもいらないのーっ!! さぁ! 今すぐ愛でてあげるからね! 天使のアリスぅーっ!!』
『わたしありすじゃないよ? そんなかわいいなまえじゃないの・・・・・・』
ま、まずいのでは・・・・・・。記憶が戻るということは、本名とかの個人情報もバンバン言っちゃう可能性が・・・・・・。
『かりんはかりんだよーっ!』
ほっ・・・・・・。詳しくは知らないけど難は逃れた・・・・・・。個人情報は架空の女の子に書き換えられるのかな?
『なんでかりんここにいるの? おうちにかえりたいよぉ・・・・・・。うぇーん!!』
『まかせて!!』
九子は鼻息をフーフー荒らげながら、疾風の如き速さで僕のとなりにいたすみれさんを連れ去ってしまった。
『お姉さんがお家に連れてってあげるからねー!! でも、その前にさわさわさせてねー!!』
『こっ、こら! 今はバトル中だぞ! ちゃんと戦えー!』
『うるさい! これが私の唯一の楽しみなんだから! 放っておいて!! かりんちゃんかわいいー!!』
『ぴえーん!! へんなひとがかりんをー!! たすけてーー!!!』
『はぁ・・・・・・はぁ、今、幼女をさわさわしてる・・・・・・。あぁ、この控えめな胸がいいのよねぇ、小さいのに、ちゃんとハリもあって柔らかい・・・・・・』
さっきから思ったけど、すみれさんって子供の頃泣き虫だったのかな。あのロリコンが言うことが正しければ、すみれさんが7歳の頃はあんな感じだったんだろうけど、今のすみれさんを知ってると信じられない。
“「お賽銭を入れなくなった頃から、わたくしは強くなったのですわ!」”
そういえば、そんな感じのことを言っていた。強くなったということは、弱い過去があったということで、すみれさんは生まれつきすみれさんだったんじゃなくて、成長の中で今のすみれさんがあるんだ。
『そこのあなたー、たすけてー!!』
あなたって、僕のことだよな?
な、なんだ、僕はロリコンじゃないけど、なにかこうぐっと来るものがあった。
守護らなきゃ。これは、母性!?
『りんす、いや、かりんちゃんを、返せ』
『返すって、この子は誰のものでもないのに!?』
『いや、僕は・・・・・・僕はっ!』
T字定規を召喚し、両手に構える。
『かりんちゃんのママだ・・・・・・』
『ママっ!?!?』
『おかあさんじゃないよ・・・・・・?』
『いや、僕がママだ・・・・・・』
『そ、そうかも・・・・・・そうだったかも・・・・・・』
『かりんちゃんを洗脳しないでっ!!』
『どらぁぁぁーーー!!!』
僕は圧倒的母力を四肢に込める。
『かはっ!! そんなぁっ!? かりんちゃんには全く触れずに、私だけを攻撃っ!?!?』
僕は、足で地面を蹴る、蹴る、蹴る。このステップに九子は全くついてこれていない。敵を撹乱し、T字定規で繰り返し九子の体を狙って攻撃を与える。かりんちゃんは絶対に傷つけない・・・・・・。そして、かりんちゃんの脅威は刈り取る!!
『なんで!? 幼女への愛は誰にも負けない私がっ!!』
『1つ、勘違いをしてるようだね・・・・・・』
最後に、ハサミを10個まとめて九子に飛ばす。全てクリーンヒットしてロリコンは膝をついた。
僕は彼女の腕から無傷のかりんちゃんを救い出す。
『僕はロリコンじゃない、かりんちゃんだけの母親なのさ・・・・・・』
『幼女を分け隔てなく愛する私より、あなたのほうが上だっていうの・・・・・・?』
この言葉がトドメとなり、彼女はうつ伏せに倒れ、ダウンした。
地垂木九子、ダウン!
『九子・・・・・・。その名前、覚えておくよ』
『と、とんでもない茶番っす・・・・・・』
『ゴホッ・・・・・・ツッコミ待ち? 実況の私ですら筆舌に尽くしがたい茶番・・・・・・』
僕は、腕の中のかりんちゃんを見る。
『ありがとう!』
『次はあやしいひとに捕まっちゃだめだよ?』
『うん!』
かりんちゃんは満面の笑みを浮かべる。徹夜明けの眠気を吹き飛ばすほどの破壊力だ。
か、かわいい・・・・・・。
『わたし、おねえちゃんみたいにつよくなるー!!』
『あはは、嬉しいよ』
『おれいにちゅーしてあげるね!』
『え?』
僕のほっぺに唇が近づく。ま、まずい・・・・・・。絵面が完全に事案だ・・・・・・!
『ちゅーー』
10cm,5cm,3cm,2cm・・・・・・。
ぼんっ!
その瞬間、突然かりんちゃんの姿がもとに戻った。
『あら? 今何が・・・・・・』
『え、えーっと』
『きゃあぁーー!?!? か、顔が近いですわぁーっ!!』
素に戻ってる! 素に戻ってるよ!!
『はっ、今は試合中・・・・・・。まじウケる!! 的な!』
『い、色々と危ない・・・・・・』
すみれさんは素に戻ったように見えた、でも実際は突然のことに顔を真赤にしてそっぽを向いてしまっている。顔をぱちぱちと叩いた後、こっちに振り向いた。
『ちょっと! 解説しろし!!』
『えーっとね、九子のスキルでりんすが幼女になっちゃってたんだよ。可愛かったなぁー』
『はぁっ!? ゲロ恥ずかしいんですけど!?』
顔を真っ赤にするすみれさん、一方地べたに這いつくばったままの九子はびっくりするくらいのしかめっ面になっていた。
『穢れた・・・・・・。あんなにかわいかったかりんちゃんはどこへ・・・・・・? ギャルなんて! 嫌い嫌い大っきらい! 不潔! 不潔よぉーっ!!!』
『・・・・・・真面目にヤバかった感じ?』
『うん、危うくあーんなことやこんなことを・・・・・・』
『ひぃーゲロやばぁ・・・・・・』
だけど、僕自身の手で、初めて相手をダウン出来た・・・・・・。嬉しい、ようやく僕の力で戦えるようになったんだ・・・・・・。
『マジ感謝! やっぱあーしが見込んだだけあるじゃーん!!』
『かりんちゃんを返せぇ~~~』
キルされたにも関わらず恨み節を履き続ける九子。
『あのさぁ、それ以上口を開くとキルすんよ?』
『うわぁーん!!』
すみれさん、キレると怖い・・・・・・?
『よぉーし! 後はあのサディストだけじゃー! ハルハルっち頑張ってるかなー?』
『あ! りんす! 僕らのスパチャ!』
そう、九子との戦いが良かったのか、僕たちはすごい金額のスパチャが集まっていたのだ。焦る気持ちを抑え、僕らはさっきハルハルと見つけた最寄りのショップに入り、2人で2つのレベルアッパーを手に入れた。
再びハルハルのもとにいくと、未だに戦いは続いていた。
『決定打に欠けるな・・・・・・』
『はぁ、なんだか飽きてきちゃった』
そうだ、このレベルアッパーが今回の勝負を作用する最後の切り札だ・・・・・・。
『りんす、そのレベルアッパー貸して』
『もち』
2つのレベルアッパーを左手に握り、僕は声を上げた。
『受け取って!! ハルハル!!』
僕は右手を振りかぶり、それを投げた!!
狙いは完璧だった。ハルハルを目掛けて飛んでいく。しかし。
『おぉっ、この流れ見覚えあるなー』
僕の投げたそれは、無惨にもムチに弾かれ、クリスの足元に転がった。
『同じミスを2回する? バカだなぁ、これ以上なく絶望的だよ。さて、ハルハルの屈服する瞬間を今度こそ拝めそうだ』
クリスは、それをぽいっと投げると口でキャッチした。
『むぐむぐ・・・・・・。んっ!?』
クリスは、ぺっと口の中の異物を吐き出す。
『・・・・・・なにこれ。消しゴム?』
吐き出されたそれは、小さくタブレット型に切り抜かれた消しゴムだった。
『はぁー、なるほど、過去の絶望をちゃんと活かしたわけだ・・・・・・』
ハルハルは僕から手渡しで受け取ったレベルアッパーを飲み込む。
『これで、レベルは6。お前を倒すには十分すぎるな』
『うどん・・・・・・。完全ノーマークだったけど、やっぱり君はいちかりんと同一人物だ』
『一撃で決める』
『私の一番の推しは決まってる、それは絶対に揺るがない。だけど、2人共案外良さげだったよ』
『はぁーーー!!!』
ハルハルはぐんぐんと大きくなるハンマーを、振りかぶった。
『あでぃおすぐらっしあー(さようなら)』
『ふぁいなるアターーック!!!!!!』
ドゴォォォーーン!!!!!
耳をつんざく轟音とともに、最後の一撃が放たれた。
佐渡島クリス、ダウン。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『勝った・・・・・・?』
『もち!! 勝ったんだよー!! あーしら最強っ!!』
勝利の実感は徐々に湧いてくるものだと、この時初めて知った。
こうして、締野うどんとしてのデビュー戦は、無事に勝利で幕を閉じたのであった。




