8話 時折ユメミタイ
「・・・・・・落ち着いて聞いてください」
「いきなりどうしたんですか、すみれさん・・・・・・」
趣味で集めてる紙書籍(漫画)を読んでいると、突然すみれさんが神妙な面持ちで話を切り出した。
「明日試合が入りましたわっ! ということで、今日中にモデルを作って、名前をつけて、デビュー戦ですわよっ!」
「んな無茶なっ!?」
すみれさんと出会ってから1週間、なんだかんだこの空間が心地よくてぐだーっとしてたけど、VTuberの道はそんな楽なものでは無いらしい。
「ここ数日で色々アイデアは出ましたから、あとはそれを形にするだけですわ」
「でも・・・・・・」
「それが難しいですのよね・・・・・・」
うむ・・・・・・・。
最初の試合で使った3Dモデル、いちかりんはツクヨミにキルされたせいで使えなくなった。だから、次のバトルで使えるよう、VTuber活動をはじめられるように今はVTuberを作ろうとしている。
VTuberを始めるのは当然そう簡単な話じゃない。自分にあったキャラ設計、方向性、そしてなにより3Dモデル。どうすればいいか考えているうちに、こうして次のバトルが近づいてきている。
色々やるべきことはある。でも、それよりも聞きたいことがあった。
「1つ聞きたいんですけど、VTuberバトルになんで僕が出れるんですか? 色々調べましたけど、フォロワーが沢山いて、それなりに実績がある人がスカウトされて、晴れてバトルに参加できるんですよね? なのに、なんでVTuberのブの字も知らない僕が参加できてるのか不思議でならなくて・・・・・・」
「それはもちろん、私が選んだからですわ!」
「どういうこと・・・・・・」
「そこは安心してくださいまし、わたくしがいうのですから心配事など一切ありませんわ」
「だからどういう・・・・・・」
「それ以上聞くとすみれポイント没収ですわよ」
「それはなんか嫌・・・・・・。了解です・・・・・・」
すみれポイントとかいう謎のポイントに翻弄される僕であった。
「とにかく、わたくしを信頼してほしいのですわ! 信じるものは救われる!」
「新興宗教!?」
「寝る前にわたくしの顔を拝むとよく寝れるのですわ」
「なんだってー!」
なんて、くだらない会話で後回しにするわけにもいかず、色々と案を練っていた。
「ところで・・・・・・もうひとつ聞きたいんですけど、なんでバトルを辞退できないんですか? メンバーが揃ってないならその間はお休みしてもいいと思うんですけど・・・・・・」
「そんな暇ありませんわ! ランク制度が始まったばかりでとても大切な時期なんですの!」
「ランク制度? 初耳です」
「ランク制度は、名前の通りチームがバトルの結果によってランク変動するシステムですの。チームの集めたスパチャや、勝敗の結果、視聴者数など、様々な要素から試合ごとの点数を換算して、その点数に応じてランクアップが可能ですのよ! それが始まったのが1周間前、今はどのチームもランク上げに必死ですの!」
「そのランクが上がるとなにかいいことが?」
「なんでも願いが叶うらしいですわ」
「・・・・・・嘘くさっ」
「わたくしもそう思いましたわ。ですが、Vector社の発表によると願いに制限はなく、どんな願いでも叶えることが出来る。とのことですの。それも、Sランクに到達した人は全員。先着順じゃないらしいですわ」
「いやいや! おかしいでしょ!」
「ウソを付くような人ではないと思うのですけれど・・・・・・」
すみれさんがいうならそうなんだろうか、普通ならそんなのはありえないと思うんだけど、こんな大々的に宣伝している以上、嘘でしたじゃすまないだろうし・・・・・・。
「でも、先着順じゃないなら急ぐ必要はないんじゃ?」
「なぁに言ってるんですのっ、ランク上げの方法が確立してきたら勝ちにくくなるじゃありませんの!」
確かに、ゲームのランクマッチもそんな感じだもんな。
「すみれさんは、そこまでして叶えたい願いがあるの?」
「わたくしは、ただの興味心。本当に願いが叶うのかをこの目で見たいだけですわ。なんてったって、わたくしは欲しいものをなんでも手に入れるだけの運と力がありますもの! わたくしが世界の中心! 強いものにも屈せず、自らの手で世界を意のままにするのがわたくしですわ!!」
「すごい自信家だね・・・・・・。羨ましいよ」
「お賽銭を入れなくなった頃から、わたくしは強くなったのですわ!」
小銭を使って神に頼るくらいなら、それが1円だとしても自分で使って願いを叶えるってことかな。僕も信仰心がないからお賽銭とかやったことないけど、すみれさんは僕なんかとは違って強い心があるんだ・・・・・・。
「貴方は、一体何を願うつもりですの?」
そうだな・・・・・・。なんでも願いが叶うなら・・・・・・。
「時間を自由に操れるようになりたいな。楽しい時間を繰り返したり、嫌な時間はなかったことにしたり。それを、ずーっと永遠に楽しむんだ。それが出来たら、何も悩む必要のない人生が送れるように・・・・・・」
「これまた俗っぽい願いですことね」
「俗っぽいかなぁ? お金が欲しい! とかイケメンと結婚したい! とか、そんな漠然とした願い事よりは遥かに高尚だと思うけど・・・・・・」
「ふむふむ・・・・・・きっと、わたくしには不安がないから理解できないんですわ。お金や時間、外見。どれも人生が不安だから欲しがるものですわね、わたくしに言わせてみればどれも俗っぽい」
「つまらないってこと?」
「どこが! 素晴らしいではありませんの! それぞれの人生経験から生まれた願い、これ以上にない芸術ですわ!」
僕、やっぱりこの人の考え方が好きだな。大胆なようで、おおらかで優しい。
でも、僕はまだ彼女をメインキャラとは呼べない。もしかするとあと1、2週間でいなくなるかもしれないし、本当は僕のことを利用しようとしているだけの人間かも知れない。メインキャラってのは、僕の人生を変えて、死ぬまで関わりのある人物なんだ。
・・・・・・。もしかしなくても、僕はまだすみれさんの全てを信用出来てないみたいだ。というか、僕のメインキャラモブキャラ論、相手を信用できるかってところに帰結しているような・・・・・・。今こうして考えてみると、そんな気がする。だとしたら本当に俗っぽいな、あたかも常識を逸脱した人間観かと思いきや、ただ信頼できる人か否かの違いなんだから。
「心から信頼できる人に出会える、って願いのほうがいいかもな」
「ということは、人間関係に不安があるんですのね。わたくしからのアドバイスですが、信頼できる人は作るものだということは言っておきますわ。自ら何もせず、心から信頼できる人にばったり会うなんてありえませんもの」
真理だった。
「さて、モデル像は出来たので、後は専門家にお願いするだけですわね。今からもう一度3Dモデラーの方に連絡しましょう、そうすれば今晩には6案くらい来るでしょうから、その中から選んで、あとは当日に仕上がった3Dモデルで試合をする・・・・・・完璧ですわ!」
「ところで、今回はスキルとか使えるんですか?」
「そうですわね、掛け合ってみますわ。前回は試作AITuber1号でしたからステータスはかなり平均的でしたけれど、モデルや本人のデータからかなり個性的な性能になるはずです」
試作AITuber1号・・・・・・?
よく考えたら、「いちかりん」って名前、数字の1が入ってる。1、かりん・・・・・・? なにか意味があったりするのだろうか・・・・・・。そもそもあの3Dモデルもどうやって生まれたのか分からないな・・・・・・。本当はすみれさんに聞きたいけれど、聞いたら聞いたでまた不機嫌になりそうだし。
「さて! あとは大切な名前ですわよ!!」
そうだな・・・・・・名前が思いつかない。
「VTuberっぽい名前ってどんなだ・・・・・・? そもそも今いるVTuberはどんな名前がいるかな・・・・・・」
おもむろに立ち上がり、棚からカードストレージを取り出す。中にはノーマルのバチャメンカードがたくさん入っている。
「おぉ~っ! バチャメンカードがたくさん!」
「どんなのがいるかな~」
ハイレア枠キャラは名前覚えてるけど、他は覚えてないんだよなぁ。こうやってノーマルカードを見れば色んな名前をみれて参考に出来そうだ。
「犬塚つくね、メザリィ・レーズン、彰メル、ナナハチ、地垂木九子、鳥貴おさけ、山田運命・・・・・・。あ、この人ってもしかして前にあった人?」
「そうですわよ?」
「僕、けっこうすごい人に会ってたんじゃ・・・・・・」
今度サイン貰おう、直筆サインカードは値打ちものだぞ・・・・・・。
「あ、これいいな。有無我やすし。ことわざをもじってるのか」
「案ずるより産むが易し。まさに今この状態を言ってるようですわね・・・・・・。どんどん名前をあげていきましょう!!」
そんなわけで、大喜利大会が始まった。
「トーリップ・ルル!」
「がぱお・ライス」
「綾小路まほろ!」
「グリーンカレン」
「水上しずか!」
「梨御蓮」
「すみれさん! さっきから料理に引っ張られすぎだよ!!」
それもエスニック料理ばかりだ・・・・・・。梨御蓮は案外良さげかもだけど。
「お腹がきゅーきゅー言ってるですわー」
「お腹が空いたってこと・・・・・・?」
「お昼の時間ですわねっ!」
それだけ言うと、エコバッグを持って化粧もせずに飛び出してしまった。
「食べるの好きだなぁ・・・・・・」
呆れ半分愛しさ半分。僕は名前を考えながらすみれさんが買い出しから帰ってくるのを待っていた。
8分後。
「帰ってきましたわよ! 今日はコンビニ飯ですわ!」
「コンビニ飯? スミレさんにしては珍しいですね」
「ふふふ、でもただのコンビニ飯ではありませんの!」
そう言うと、エコバッグの中身を出し始める。
「50年のロングセラー、コンビニのホルモン鍋¥840ですわっ!」
「結構安いね?」
「コンビニ弁当が1500円を超え始めてる現代、今でも良心価格で売っている最高の酒のツマミですわ!」
「へぇー」
携帯ガスコンロ(スミレさんの私物)を取り出し、火にかけ始める。
「まずはホルモンをそのまま、その後に豆腐やらキムチを入れると美味しいんですのーっ!!」
食べ物を眼の前にしたときのすみれさん、ホント幸せそうな顔だな。
「わたくし、ねこまんまは認めない派の人間ですが、鍋のシメに雑炊を作るのは最高に好きなんですの・・・・・・。斑鳩さんはうどんとご飯、どっちがいいですか?」
「僕はうどん派かなぁ」
「それじゃ! シメはうどんで決まりですわね!」
そんなこんなで、煮立ってきたホルモン鍋を2人でつつく。
「ご飯が止まりませんわぁーっ!!」
「うん、美味しいです」
「歌でも歌いたくなりますわねー」
「美味しい鍋っ♪ 美味しい鍋っ♪」
「ネギ、豆腐、鍋は最高の食べ物ですわぁ~♪」
僕たちは上機嫌で食べ進めていく。
そして、最後は宣言通り、うどんでシメ。
「シメはうどん♪」
「シメのうどん♪ ですわぁー♪」
ぐつぐつと湯気をたてて煮込まれたうどん。皿にとってすするぅ!
「んーーっ!! 美味しいです!!」
「さいっこうですわぁー!!」
「シメのうどん♪」
「シメのうどん♪」
「シメのー♪」
「うどーん♪」
「「シメのうどんー♪」」
・・・・・・。
「「はっ!!!」」
どうやら、僕と彼女、全く同じことを思いついたらしい。




