6話 ぶいは友を呼ぶ
「むきーっ!!」
「どうしたの? すみれさん」
「ハルハルが来れなくなったらしいんですの!」
「そりゃあ昨日の今日で北海道に来いなんて無理な話ですよ・・・・・・」
ぷりぷり怒っているすみれさん、怒りの矛先を自分の髪にぶつけ、指先でくるくると弄くる。
「だったら、他のVTuberを探すまでですわ!」
「そんなあちこちにいるわけ・・・・・・」
「そうだ! いましたわ! ここから車で20分のところに!」
「めっちゃ近くにいた!?」
拳をぽんと叩いたのをきっかけに、さっきまでの不機嫌が一転、ぱぁーっと明るい笑顔に戻った。
「なんせ、わたくしの知り合いですからね! 今すぐ車を出しますから、出発しますわよ」
準備を済ませ、部屋を出ると寮の前には以前乗った車がすでに待機していた。5分くらいしか経ってないのに・・・・・・。
「小林邸までお願いしますわ」
「はい」
相変わらずの揺れを感じさせない車体性能と運転技術で、気持ちよく出発した。
小林か、ありふれた苗字だなぁなんて思いながら車で18分、あっという間に目的地に着いたのだが、僕はそれが目的地だとは思いたくなかった。
「・・・・・・なにこれ」
「なにって、わたくしの知り合いのVTuberの家ですわ」
めっちゃ豪邸、申し訳ないけど、すみれさんの家が霞むくらいには・・・・・・。
ドアホンを鳴らすと、身長の倍程もある門が勝手に開き始める。
「さ、入りますわよ」
「ちょっと待って!? ここってドレスコードあったりする? お引き取りくださいだのなんだのって言われたりするっ!?」
「大丈夫ですわ! 男は胸を張ることっ! それが一番のドレスですの!」
「むちゃくちゃだよ!」
恐る恐る家に入ると、使用人らしき人が出迎えてくれた。
「失礼します、お友達の茉優さんに会いに来ました」
すみれさんはいつもとは違って余所行きの声色で要件を伝えると、使用人は「こちらに」と手の動きで案内し始めた。僕達は、そのまま案内に従って部屋の前まで移動する。
しばらく歩いてたどり着いた部屋。僕が家の大きさに呆気にとられていると、すみれさんはばっとドアを開き、いの一番に奥にいた女の子に耳打ちしていた。
なんのことだか分からなかったが、女の子は微笑むと僕の方に挨拶してきた。
「こんにちは、私は茉優と言います。VTuberのミリコです、以後お見知り置きを」
「ミリコ? あぁ、噂には聞いてます」
「良かったですわね、VTuberに疎い斑鳩が知ってるなんて」
「ええ、嬉しいです」
「あの、万年負け続けてるって有名な!」
「がびーん・・・・・・」
かすれるような声でため息をつく小林さん。
「デリカシーがない人ですわ」
すみれさんが冷ややかな目で僕を見る。
「あ、今のは褒めてるんですよ!? だって万年負け続けるってことは万年VTuberやってるってことですよね!? 続けられてるのはなによりすごいですっ!」
「んー、まぁそのとおりですけれど・・・・・・」
どこか釈然としていないような返事だったけれど、一応納得はしてくれたみたいだ。しかし、すみれさんは依然冷ややかな目つきで僕を睨んでいる。
「さて、そろそろ来る頃ですね」
「え?」
突然、背後のドアが開き、2人の影が現れた。
「突然呼び出してなんのつもりですか・・・・・・?」
「なんかいるれすっ!!」
そこにいたのはちょっと小さい子と幼稚園児・・・・・・?
「この人がVTuberになりたいそうなので、アドバイスが欲しいとのことです」
「ふ~ん・・・・・・色々と教えてやるです! 私は佐藤心美、その正体は山田デスティニーです!」
「わらしは左武七海れすっ! 井上アンダーソンでしゅ!」
「先輩風もほどほどにね」
2人はすぐさま小林さんの元まで走っていって、しばらく作戦会議をしていた。僕達は3席ほど間を空けて座っていた。
すみれさんが僕の発言の件で相変わらずじーっと睨んでくるので、耐えきれず僕は口を開いた。
「す、すいませんでした・・・・・・」
「失礼な人ですわ、教わる立場の人間が・・・・・・」
「だから、ごめんって」
「謝る相手は私ではなくって」
そう言うと、すみれさんはぷいっと向こうを向いてしまった。
「さて、それでは斑鳩さん。私たちとグループワークの形でVTuberに必要なものを考えましょう」
「あ、あの。その前に・・・・・・」
僕は謝るのが苦手だ。というか、嫌いだ。
わざわざ過去の失敗を掘り返すのが嫌だ、それを言って、許してもらっても許されなくても微妙な空気になる。それでも、僕は謝ってみようと思った。すみれさんと出会って、いろんなことが変わってるんだ、僕だって、これくらい出来る。
「さっき、失礼なことを言ってすいません・・・・・・。本当に、悪気はなくて」
小林さん以外はきょとんとした顔だったが、小林さんは少し驚いた表情だった。
「あら、すみれさんに言われたんですか? いいんですよ、気にしなくて」
「いや、別に言われたわけじゃないんですけど・・・・・・」
「ふふ、真面目ですね。これだと、私たちも真面目に教えてあげないといけませんね」
小林さんはすごく柔らかい笑顔で僕の顔を見て言った。
「何の話をしてるですか?」
「わからないれす・・・・・・」
それから、僕達は小林さんたちに手取り足取り教えてもらった。ちゃんと謝ったからか、僕の心はどこか晴れているような、そんな綺麗な気持ちで話をすることが出来た。
VTuberの仕組み、なる方法、人気を得る方法、愛される方法。答えはない、3人が代わる代わる自分の場合はこうだったという話をして、僕は質問を挟んだり、逆に意見を出したりしていた。
3Dモデル受注のことや、動画配信のやり方に関しての話は特に参考になった。
「ありがとうございます・・・・・! お陰様でだいたいわかりました!」
「助かりましたわ、小林さん」
「あーはっは! 感謝するですよ! 私のアドバイスなんてなっかなか聞けませんですよーー!!」
「ですですー!! せんぱいかぜびゅーびゅーです!」
最初はちょっと不安だったけど、この2人から聞けた情報もとても参考になった、人間見かけによらないもの・・・・・・と、口に出したらマズイよね、うん学んだ。
「よし、頑張ってみます!」
にしても、この3人は仲が良さそうだな・・・・・・。気のおけない友達なんて、僕には考えられない存在だけど・・・・・・。
「そういえばぷちジャン8期生のみなさんって、リアルの知り合いなんですね? 他のVTuberもそんな感じなんですか?」
「いえ、あまり聞きませんね・・・・・・もちろん隠してるのもあると思いますが。後は、ハルハルさんの元のお仲間が知り合いだったというのは聞きましたが・・・・・・」
「アイカとホリィでしゅ!」
「なんだか懐かしい響きなのです・・・・・・」
あぁ、そっちも一応バチャメンカードで名前だけは知ってる。ハルハルと違って人気がすごかったからカードも高騰してたんだよな。最近はだいぶ落ち着いてきたけど・・・・・・。
・・・・・・思い出した。それこそ件の事件はホリィが中心人物だったんだっけ、あまり詳しく知らないけど・・・・・・。
「お2人とも卒業されたので、今どうなってるかは知りませんが・・・・・・」
「え? 卒業ってことは、今は活動してないんですか?」
「ええ、そういうことです」
初耳だ。
「まぁ、とにかくそういうことです、リアルで会ってるVTuberは稀だと思いますよ」
「でもよかったですね、実際に会ってる方が信頼できるんじゃないですか?」
「そのとおりなのです! 私たちは出会いの時点で運命を約束されているのですよー」
「そう言えば、ハルハルは貴方のこと知りませんわね」
そういえばそうだ。
「他の方は凄いと思います、一度も出会ったことがない人を信頼して、背中を預けるのですから」
それを言えば、ハルハルだって僕にレベルアッパーを渡すように言ってくれた。それだって信頼の形だったはずだ。でも、僕がちゃんと渡さなかったせいで・・・・・・。
「でも、それは古い考えだと思いますわ。リアルもバーチャルも変わりませんでしてよ、共に戦えば仲間、ではありません?」
「それもそうだね、一緒に戦うってのは、れっきとした友情の形だもんね。リアルが何であろうと、一緒に戦ってくれたことはホントのことだから」
「そうですの、リアルで会えばその人のことが全て分かるというわけでもありませんもの」
そのとおりだ、昔は現実世界でしか会話していなかったけど、それでも人はすれ違って、分かり会えなかった。現実世界至上主義には、少し同意しかねる。
「さて、そろそろお暇するとしますわ、ご協力に感謝ですの」
「あ、ありがとうございました!!」
「いいんですよ、近所なんですから、いつでも来てくれて大丈夫です」
いつでもは・・・・・・流石に厳しいけど・・・・・・。
すみれさんは一足先に部屋を出た。僕もそれに続いて出ようとしたんだけど、小林さんに呼び止められた。
「すみれさん、本当は寂しがり屋なんですよ」
「えぇ? あの人が? 僕にはそう見えませんけど」
「私、たくさんの大人の人とお話してきたからか、目を見ればその人のことがなんとなく分かるんです。すみれさんはいつもどこか違う場所を見ているような、そんな人です。人のことを信頼していないというのでしょうか、いつも自分を信じて生きているような、そんな人です」
小林さんは占いのような口調で言った。
「ですから、大雑把に見えて人との関わりには一層気をつけているんです、さっき不機嫌だったのもそのせいですよ」
「すみれさん・・・・・・。いつも明るいから、そんなの考えてないのかと思ってた」
「自分には何を言っても良い、けど、他人に何かを言う時は気をつけている。その意味がわかりますか?」
「え?」
僕は、小林さんが何を言おうとしているのか分からなかった。
「きっと、あなたのことを気に入ってるんだと思います。他人同士が何を言おうと勝手だけれど、斑鳩さんを味方だと思っているから過敏になってるんですよ」
すみれさんが僕をそんな風に? でも、そんなわけないよね。僕なんかを特別視してるなんて、普通に大学に通ってて友達の少ない僕を。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
話を終えた斑鳩さんは、すみれを追うように部屋を出た。
「ぷふふ・・・・・・男の人が相手で緊張してたですね?」
「あー、ここみちゃんそういうこと言っちゃうんだ? このこのー」
脇腹を肘でグリグリする。
「い、いたいです!!」
「そっちだって後輩が出来て調子に乗ってたよねー!」
「そ、そうですけどぉー!」
「あはは、にたものどうしです!」
「七海ちゃんはいつも通りだったねー、偉いねー」
「ふわぁ! だきしめないでください~!」
その時だった、再び扉の開く音。もう春だというのに、扉からは冷たい空気が流れ込んできたようだった。
「あの! 聞き忘れてたんですけど、3Dモデルってどこの会社に依頼し・・・・・・」
斑鳩だった。見られた、3人で乳繰り合ってるところ・・・・・・。
ここみちゃんと七海ちゃんは平然とした顔だったけれど、私はさっきまでの立場も会ったから、顔を真赤にしていた。
「あ! あの! これは、違くて!!」
「ま、また出直しますね・・・・・・」
「だから違うんですー!! うわぁー! なまらこっぱづかしー!!」
「あはは! まゆまゆの顔が真っ赤なのです!」
「トマトみたいー!」
「あぁ、小林財閥の私のイメージが・・・・・・。あんたたちのせいだー!!」
「「きゃっきゃきゃっきゃ!」」
今日も、3人集まって姦しい。




