3話 ときたまテンプテーション
VTuberバトルを左右する重要なアイテム、レベルアッパー。その名前の通り、使用者の装備レベルを上げるアイテムだ。錠剤タイプだが、口に含んだ瞬間に効果が適用される。
前回、ハルハルが1つ入手し、山田が2つ入手している。もちろん、装備レベルの高さはステータスにそのまま影響されるため、使用することで大きなアドバンテージとなる。このアイテムはステージ内計4か所に設置されたショップで購入することが可能で、1つ購入するごとに値段が倍になる。これはチーム内で共有されるため、3人×4か所の合計12個が購入できる限度なことを考えると最終的には、1つ40億9600万円だ。
しかし、過去にレベル13を達成したVTuberはいない。アマチュアは3レベル、プロでも7~8レベルが最終的なレベルの平均、最高記録は11レベルだ。
そしてショップでアイテムを購入するにはスパチャが必要となる。単位は円、現実で使うお金と同価値で、視聴者からの投げ銭のことを指す。このスパチャは、バトル後に余った分の2割を収入としてもらうことが出来る。そのため、卑しくもバトルにスパチャを使わないVTuberもいるが、それはまた別の話・・・・・・。
『安心するデス、やさしい私はダウンで見逃してやるデスよ』
『はみゅ、デビュー戦で勝たせる気はないんだ・・・・・・』
『私たち、負け続きですから・・・・・・。キルもされず、いつも当て馬にされ続けてるんです』
『にゃので、いちどはかってみたいのれす!』
『あらまぁ、かわいそう。でもわたしたちだって処女戦は勝ちたいのぉ~』
『うわぁホリィ!? い、いつからいたみゅ・・・・・・』
『さっきペナルティ受けちゃって、バトル再開してからずっと探してたのよ?』
『いや、だからどこからきたみゅ・・・・・・』
『階段は向こうだよね?』
現在、山田たちは階段側に、向かい合うようにアイカ達が立っている。ホリィは気づいたときにはアイカ達の背後にいたため、壁から上がってきたことになる。
『気になるわよねぇ? 実はこのしっぽで登ってきたの!』
『しっぽ?』
『すごいのよ、これすっごく大きくなるの』
そういうと、先がスペード型になっているしっぽを自由自在に伸び縮みさせて見せる。
『ふみゅう、それを柵にくくりつけて・・・・・・』
『登ってきたわけだね』
『なんか卑怯じゃないデスか!?』
『でも、その代わりなのかステータスは低いのよぉ。それにぃ、天使系VTuberなんか羽の翼で飛べるじゃない』
『ぐぬぬ・・・・・・』
『ちょうはちゅにのっちゃらめ! そのぽいぞんくろーでやっつけて!』
『そうデスね、とっととやってやるデス!』
そういうと、アイカ達めがけて3人が走り出す。
『わーっ! どうしよどうしよー!!』
『あっ、そういえば登ってくる途中にショップを見つけたわよ、確か2階の窓際』
『んなこと今はどうでもいいみゅ! それより、ここから生きて帰る方法を・・・・・・。ん? 窓際・・・・・・か』
『うわぁっ!?』
山田がアイカに切りかかるが、それをすんでのところで躱す。
『あつっ! あついよぉっ!』
直撃は免れたが毒液がすこし跳ね、アイカの腰のあたりを溶かす。
『ちょっと! 水着が溶けてるわよ!』
『う、うわぁっ! 恥ずかしいよーっ!』
『ペナルティー受けちゃうじゃない! こんなときに!』
『ペナルティーとか言ってる場合じゃないよぉっ! うわぁっ!?』
『とっととダウンするデス! おとなしくすれば痛くないデスよ!』
避け続けるアイカだったが、とうとうミリコとアンダーソンに両腕をつかまれる。
『なんでわたしばっかりー!!』
『二兎追うものは一兎も得ず、1人1人確実に仕留めるのが私流なのデスっ!』
山田がポイズンクローを振りかざす、その瞬間だった。
『こっちを見るみゅ!』
その声を聞いた山田は、ハルハルたちの方に爪先を向ける。
そこにはしたり顔でこちらをみるハルハルの姿があった。
『痛いのは嫌だから降参デスか?』
『いんや、残念ながらちがうみゅ』
『時間稼ぎかもしれません、すぐにとどめを刺しましょう』
『んんー、あっ!』
その違和感にアンダーソンはすぐに気づいた。
『分かったれしゅ! すぐに柵を溶かひてくらしゃい!』
『柵? いったい何を言ってるデス・・・・・・はっ!?』
『柵を背に背水の陣。しかし、背水ではなかったというわけみゅ』
落下防止の柵にはホリィのしっぽが巻き付けられていた。
『わたし、耐えられるかしら?』
『ダメでもともと、可能性があるならかけるが吉みゅ!』
『『せーのっ』』
2人がなにをしようとしているかを察し、アイカを離しててぷちジャンの3人は駆けだした。
『『バンジーっっ!!』』
が、間に合わなかった。
ハルハルとホリィはしっぽをロープ代わりにして屋上から飛び降りる。
『このへんでストップみゅ!』
『はぁーいっ!』
3階の高さで、しっぽの伸縮が止まる。2人は無事にショップのある3階窓際までたどり着いた。
のだが。
『ほげぁっ・・・・・・』
『いったぁーい! こわれちゃうっ!!』
2人は勢いよく宙ぶらりんに吊り下がる形になり、その衝撃でダメージを受けた。
『よくよく考えたら、ゴムとは違って衝撃を和らげるわけじゃないから、普通に落ちるのと変わらないみゅ・・・・・・』
『3階だったからセーフだったけど、2階まで降りてたらダウンしてたわね・・・・・・』
『あの流れで死ぬのは最高にダサいみゅ・・・・・・』
一方屋上では山田が柵を壊そうと躍起になっていた。
『毒でもなかなか溶けないデスよーっ!』
『服をちょっと溶かしたり舌がピリピリするだけの毒に、柵を溶かせるわけないですよね』
『だったりゃきっちゃえばいいれす!』
『なんか爪で金属を裂ける気しないんデスけど・・・・・・』
『ふぁいとー!』
『よし、いくデス!』
一方、ハルハルたちはしっぽに吊り下がったまま、なんとかハンマーでガラスを割って3階に侵入しようとしていた。
『思ってたほど簡単には割れないみゅん』
『ほぉら、がんばれっ! がんばれっ!』
『もういっちょぉ!』
ガラスを蹴って、勢いと共にハンマーの一撃をくりだす。
ガラスにひびが入る、すかさずもう一度叩くとガラスは大破した。
『ふう、なんとか入れたみゅっ!』
『それじゃ、いそいでレベルアッパーを買うわよぉっ!』
『あぁ・・・・・・。って、そういえばスパチャが足りないみゅっ!』
『ばかぁーっ!』
『どうするみゅ・・・・・・っ!?』
『そっ、そうだわっ! もう一度わたしが人肌脱いで・・・・・・』
『またペナルティー喰らいたいみゅんかぁーっ!?』
2人で揉めている間、屋上ではぷちジャンの3人が同じように揉めていた。
『くっそー、間に合わなかったデス!』
『どうするれすかぁーっ! 山田がわるいれすっ!』
『人のせいにするのはダメデスよーっ! 幼稚園で学ばなかったデスか!!』
『急いで私たちもレベルアッパーを買いましょう』
『そ、そうデスね・・・・・・。スパチャはどれくらい貰ってますデスか?』
『私はずっとここで待ってただけですから、100万円くらいです』
『私もさっき使ったばっかデスから、19万・・・・・・』
2人はアンダーソンを見る。
『しゃっきここで1つ買って、残りも400万ありまひゅけど・・・・・・。使わないとだめれすか・・・・・・? わたひがもってかえれるぶんがへっちゃうれす・・・・・・』
『アンちゃん! せっかくの勝機ですよ!? ここでケチったらだめです!』
『3階に降りてから買う必要があるデスね。私が見つけたショップは地下にあったデスから、そこよりは近いデス』
『でも、鉢合わせになるのはまずいですね』
『子デスに入らずんばデスを得ずデス!』
『ですですうるせーですーっ!!』
『茶番はいいですから! とにかく行きますよ!』
『あのー、私は・・・・・・?』
すっかり忘れられていたアイカがおそるおそる3人に聞く。
『構ってる暇はないデス! 2人とも行くデスよ!』
そう言って、3人は階段へと走っていった。この爪の甘さが彼女たちの弱さなのだが、御愛嬌。
『私、どうすればいいんだろっ・・・・・・』
ふと、柵を乗り出して下の様子を見た。
そこには手を振るハルハルたちの姿が。
『うわぁ、ホントに降りれたんだー、おーい!』
笑顔で手を振り返すと、ハルハルは首を大きく振って手で✕を作る。
『え? なにか伝えようとしてる?』
ハルハルは両手でこっちに来るようにとジェスチャーをする。
『降りてこい・・・・・・って言ってる?』
ホリィはしっぽを伸び縮みさせている。
『わたしのしっぽでキャッチするから降りてきなさいよ・・・・・・? って! 無理だよっ!? むりむりっ!! そんなわけないよね、こんな高いところから落ちたら危ないもんっ。それに私がいなくたってレベルアッパーは買え・・・・・・、ないってことなのかな?』
ようやく事の重大性に気づいたアイカはもう一度下を見る。強い風が吹いていて、落ちたらひとたまりもない。
『う、うぅ、不安だよ・・・・・・』
このバトルでは、一定以上の痛みは感じないように出来ている。そのため、仮に失敗して地面にたたきつけられてもさほど痛くはない。しかし、あまりにリアルなバーチャル世界で、屋上から飛び降りるのは簡単ではない。
『でもっ、やらなきゃ。これくらいできないと、レジェンドVTuberにはなれない!』
アイカは柵を乗り越え、そのまま小さく跳躍し、勢いよく落下した。
一方、ぷちジャンの3人はというと。
『はぁっ、はぁっ、なんとか3階に着いたデス・・・・・・』
『あとはばれないように、こっそりとショップに・・・・・・』
『うひゃあ、だめみたいれすっ!』
壁の影に隠れていた山田たちの前に、ハルハルが立ちはだかる。
『ふみゅ、デビュー戦でレベル3、なかなかいい調子』
手に持っているのはレベル3のハンマー、ギガハン。
『レベル差はイーブン。VTuberバトルはセンスの差がすべてだってことを教えてやるみゅん!』




