5話 ◯◯◯の消えた日
明日、北海道に・・・・・・? 相変わらず無茶を言う人だ・・・・・・。
俺はベッドに腰掛けながら、“あいつ”からのメッセージを確認していた。メッセージには北海道行きのデータギフト乗車券が添付されている。
ようやく荷解きが終わってゆっくり出来ると思っていたのに、青天の霹靂だ。
俺は晴人、VTuberをしている。
3ヶ月ほど前、友達を巡る大きな事件に巻き込まれたが、紆余曲折ありながらも晴れて第一志望の高校に合格して、春から高校生だ。幼馴染の藍も同じ高校に受かった、今は女子棟の方で大きな荷物に音を上げているに違いない。
・・・・・・律帆。
事件の渦中にいた律帆は、まだ山口県のほうに残っている。結局、バーチャル校に通うことになったらしい。家から授業を受けれて便利な反面、家を出ないのは身体の成長に悪影響ではという意見があるせいで未だに浸透していない教育機関だ。
元気・・・・・・なわけないよな。
別に学校の話をしているわけじゃない。律帆は今でも苦しんでいるんだろうと思うと、俺はどうも気がかりだった。
“俺は律帆を救えなかった”
気分が沈んでいたその時、突如ドアをノックする音が聞こえた。
誰だ・・・・・・? ここは男子棟だから藍が来るわけないし・・・・・・。
「ねーねー! 昨日のバトルおつかれさま! ところで、荷物片付けた!? 見せてー!!」
「はぁーっ!? 馬鹿か!? なんでここにいるんだよ!!」
眼の前に立っていたのは紛れもない、藍だった。
「男子棟は女子禁制だぞ!? 退寮させられるぞ!?」
「えっ!? そうなの!?」
「ばかばか! バレないうちに1階に移動するぞ!!」
藍を引き連れ、舎監の目をかいくぐり、なんとか1階のロビーまでたどり着いた。
「ひどいよー、部屋に入ったらだめなんだったら、どこでお話するのー?」
「サロンがあるだろ!」
「え? 髪の毛切るの?」
「そりゃヘアサロンだ! あっちの机とかがある場所だよ!!」
「ネイルとかやってみたいなー」
「だから! ビューティーサロンじゃないっ! とにかく男子棟には二度と入ってくるなよ!?」
「ぷえーっ、めんどくさーい。そもそもなんでだめなのー」
「そりゃ高校生だぞ! 男女七歳にして席を同じゅうせずって・・・・・・伝わらないか・・・・・・」
「なんか晴人くんばっか大人になっていく感じがするよー・・・・・・」
多分、お前が幼すぎるだけだ、純粋なのは良いことだが、簡単に騙されて近い内に痛い目に遭うに違いない。とはいっても、俺だってまだまだ幼い、知らないことばかりだし、未だにお付き合いの1つもまともに出来てないし。一応、連絡を取り合ってる相手はいるが、あれは・・・・・・お付き合いに入るのだろうか。
それよりも聞くべきことがある。なんで部屋に来たのかだ。それを聞こうと口を開きかけると、藍の方が先手を取った。
「そうそう! 律帆ちゃんがこっちに来てるんだって!」
「嘘だろ!? 俺達に会いにか!?」
これまた青天の霹靂。“あいつ”からの招待は後回しになるな、俺にとってはこっちのほうが遥かに大切だ。
「うんうん! 律帆ちゃんのお母さんが連絡してくれたんだー。律帆ちゃんがみんなに会いに行きたいっていうから送り出したんだってー!」
「でも1人で大丈夫か・・・・・・? 疑うつもりはないが・・・・・・律帆を1人にすると何をしでかすか・・・・・・」
「それは大丈夫! じゃじゃーん!!」
藍が取り出したのはスマートフォンだった。
「古っ!」
スマートフォンか、物理ボタンはガジェットオタク心をくすぐるが、処理は遅いわ充電が面倒だわ、なによりずっと携帯していないといけないのが不便だ。
「私のお母さんが使ってたのを持ってきたんだけど、これのアプリで場所が分かるんだって」
「場所がわかる? あぁそうか、トラッキングアプリは今は規制されててダウンロードできないもんな。スマホだったら合法的にインストール出来るのか」
BMIではトラッキング機能のあるソフトを入れることは出来ない。だから、敢えてちょっと前の機械を持ってきたわけか。なかなかおもしろい話だ。このマイクロチップも本来は新生児や学生を管理するために使われるもので、そういった公共施設にある機械じゃないと場所を確認できないんだが、意外な抜け穴があったということだ。
「小指にチップ入れたんだって」
小指に微小な機械を埋め込む方式だ。簡単に外れないように注射器で差し込む、本来人間の体は異物を排除するように出来ているが、このチップは人体の組織に親和するように作られているので、指を切り落としでもしない限り取り外すことは出来ない。
「へぇー、それなら安心だな」
「さてさて、集合場所は超人気なケーキ屋さんにしたんだけど・・・・・・」
スマホを見てみると、もう最寄りの駅までついていた。
「やばいよ! 早く行かないと!」
「おい、そんな急に来るわけないよな? 本当は昨日くらいから連絡があったんじゃないか?」
よく考えれば、そうでなきゃ藍が実家からスマートフォンを持ってくることもなかったはずだ。
「ごめんねっ! 本当は昨日連絡があったんだけど、引っ越しで忙しくて晴人くんに言うの忘れてた・・・・・・」
「ったく、仕方ないやつだな。いますぐ準備するから、ここで集合な!」
「おっけー!!」
俺は急いで部屋に戻って、外出用の服を着て、財布を持ち外に出た。急だったので毛回向ラフな格好だが、律帆に会うくらいならこんな格好でもいいか。
ロビーに行くと、さっきから待っていた藍がその場で足踏みをしていた。
「れっつごー!」
「おう!」
気持ち早足で歩き、無人バスに乗り込み、そのまま目的地の店までたどり着いた。
ケーキ屋かあまりこういう店に来たことがなかったので少し緊張しつつも、入っていく。
「い、いらっしゃいませー」
店内に入ると、ショーケースに並べられたケーキに目が移る。1つ1100円、ここのパティシエは確か有名な人だったな、それを考えるとなかなかリーズナブルだ。それにVTuberの活動のお陰でお金には困っていないしな。
それより、気になるのはこの店のパティシエだ。ショーケースの奥に立っているのがこの店のお菓子を作ってる人なんだろうが、なぜか目の部分だけ穴を空けた紙袋をかぶっている。人と目を合わせるのが苦手だとか? だとしても、あんな露骨なことしないよなぁ。
「藍、律帆は今どの辺だ?」
「えーっと・・・・・・。あれ? もうお店の中にいるみたいだよ?」
「え? いるか?」
店の中をうろちょろしてみても、律帆の様子は見当たらない。
「いないよな・・・・・・」
「トイレにもいなかったよ・・・・・・。ねぇねぇ、トイレにちょっと血がついてたんだけど、女の子の日ってああなるの? 私、実はまだだから・・・・・・」
「あまりそういうこと言うなよ・・・・・・」
藍のとんでもないカミングアウトを聞いてしまった。藍はどんな教育を受けてるんだ、親からはVTuberのことしか学ばなかったのか?
話を戻して、トイレにもいないってことだよな。そもそもこの位置情報アプリは合ってるのか? 一昔前の機械だし信憑性低いぞ?
「店員に聞いてみるか?」
「うん! そうしよっ!」
というわけで、藍が店員に聞く。
「すみません、この写真の子見たことありますかー?」
「え、えぇ・・・・・・。先ほど来ましたよ。お手洗いに行って、そのまま帰りましたが・・・・・・」
「え、うそ! 帰ったの!?」
「はい・・・・・・なにも注文せずに帰ったので印象深くって、よく覚えてます」
となると、アプリの反映が遅いのか・・・・・・? なんせスマホだしな。生体マイクロチップだから充電が切れることもないはずだし・・・・・・。
「なんで紙袋かぶってるんですか? 顔が見えないですよ?」
「見えないようにかぶってるんです・・・・・・。人と顔を合わせるのが、その、苦手なので・・・・・・」
・・・・・・。
嫌な予感がした。
「なぁ藍、そのスマホ貸してくれないか?」
「うん・・・・・・古いやつだから壊れてるのかなぁ・・・・・・」
スマホを借りると、慣れない手つきで操作する。
「これズームってどうやってやるんだ?」
「こうやって、指を外側に動かすんだよー」
「へぇ・・・・・・」
上限までズームする。
「あ、もしかしてかくれんぼしてるのかもね! でもこれだけズームできたら場所が分かっちゃうよ!」
藍の的外れな意見を無視して、目印を頼りに店内を歩いてみると、トイレのところまで戻ってきた。このトイレは男女兼用のものみたいだ、別に普通のトイレだし、人が隠れられるような場所はない。
それから、藍が言っていた通り便座の当たりに血が付いている。そのままにしておくのも気が引けるので濡らした紙で拭いておいた。
「たつ鳥あとをにごさずだね!」
「店員が言うには律帆は帰ってたみたいだし、いないと考えていいよな」
しかし、なにかがひっかかる・・・・・・。
「うーん」
俺は使った紙をゴミ箱に捨てた。ふと、そのゴミ箱が気になった。
もしかして、ここだったり?
俺はゴミ箱の中に手を突っ込んだ。
「ば、ばっちいよー」
中に入ってたゴミを床にばら撒く。あとで片付けるとして、1つ気になったものがあった。
「これって、ケチャップを拭いたのかな?」
藍が持っていたのは丸められた紙、赤く染まっている。
「ケーキ屋だぞ、ケチャップを拭くわけないだろ」
「じゃあいちごジャムかも」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
“「小指にマイクロチップ入れたんだって」“
“「トイレにちょっと血がついてた・・・・・・」“
“「これって、ケチャップを拭いたのかな?」“
嫌な予感がした。
あまりに狂気的な発想が頭に浮かぶが、そんなわけないと俺は、考えたくなかった。
「藍、そのゴミ貸してくれ」
「えー? 汚いよー?」
「いいから早く」
一見紙くずが丸まっただけのように見える。
手に乗せると重さがあった。
俺は、それを持ち、トイレを出て店の中を移動してみる。
「あ! 律帆ちゃんが移動したよ!」
汗が止まらない。
鼓動が早くなる。
認めたくない。
信じたくない。
夢であってほしい。
杞憂であってほしい。
俺は、意を決して、紙くずを広げる。
そこに
あったのは
切断された、小指だった。




