4話 宮内斑鳩は同棲がままならない
・・・・・・。
「起きて・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
「起きてくださいまし・・・・・・」
・・・・・・くがー。
はっ!?!?
飛び跳ねた。
「い、今めっちゃいびきかいてた・・・・・・?」
「起きましたわー」
え、えーっと・・・・・・。
はて、一体なにがあったんだったっけ・・・・・・。
確か、バトルに参加して、負けて・・・・・・。
「ってえぇ!? なんでぇ!?」
驚いたのは他でもない、なぜか着ている服が女物の服だったからだ。
「べ、別に寝てる貴方がお人形さんみたいで、着せ替えて遊んでいたわけではありませんでしてよ・・・・・・? 本当に」
絶対嘘だ・・・・・・。
しかし、外を見るともう暗くなっている。長い間寝ていたのだろうか・・・・・・。
そうだ、それより僕はさっきまでバトルをしてて・・・・・・。そうか、僕のヘマでピンチになって、そのまま負けたんだ・・・・・・っ!
「すいません! 最後の最後に役に立てなくて!!」
「なに言ってるんですの! 大大活躍ですわ!」
「え? 僕が・・・・・・?」
「ええ! だって2人倒せたのは貴方の知恵と勇気のおかげ! 貴方がいなければ、試合に参加することも出来なかったし、参加できたとしても誰も倒せずに終わったかもしれませんわ!」
「でも、僕以外の人だったら勝てたかも・・・・・・」
「なにくよくよしてるんですのっ!! 貴方を選んだ私の目が節穴だとでも申しますの!? 貴方の謙遜は、わたくしへの侮辱でもありますのよ!!」
「ごっ、ごめ・・・・・・」
「ですから、謝らなくていいんですのよ」
そう言うと、すみれさんはソファーに座り、太ももをぽんぽんと叩く。
「今回の活躍で、100すみれポイント獲得ですわ。100ポイントの特典は膝枕ですの」
「ひざまくら・・・・・・?」
「もう、わたくしだって羞恥心がないわけではありませんの! はやくしてくださる?」
ちょ、ちょっとまってくれ・・・・・・混乱してる。
膝枕? あの膝枕? フィクションじゃなくて? ええ・・・・・・?
うわぁ・・・・・・。
「・・・・・・」
すっとソファーに横たわり、膝枕を堪能する。
こういうのは堂々としていたほうがいいだろうということで、無言で膝枕されている・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
感触なんか楽しめるか!
今僕は、顔が緩んできもいことになってないか、口によだれが溜まって口から垂れそうになってないかを考えるので必死なんだ!!
てかこの間はどうすりゃいいんだ!
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「ひ、膝枕って、別に膝に乗せるわけじゃないんだから、正確には太もも枕ですよね・・・・・・」
横を向きながら恐る恐る話題を切り出してみる。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
無視かよ!!
ぴとっ・・・・・・
え? なにか水滴が左頬に落ちた。
もしかして、僕がキモすぎて泣いて・・・・・・。
くかー・・・・・・。
「すみれさんのよだれかいっ! うわ! 生温かい!!」
「えっ・・・・・・! よ、よだれですの・・・・・・?」
「あ、いや別になにも・・・・・・」
すると、すみれさんがスカートに落ちたよだれをハンカチで拭く。
「いいんですのよ、それだけリラックスしてくださったということですから・・・・・・」
この人勘違いしてる! 僕がよだれをたらしてたんだと思ってる!!
そして優しい! 優しいんだけど、ここで指摘したらだめだよね!? 恥は僕がかぶれば丸く収まるからね!
すみれさんに振り回されっぱなしの日だった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
次の日の朝。
なんでこんなことになったのか。
僕はベッドで寝ていて、すみれさんが床で布団を敷いて寝ている。
まただ、頭がぼーっとしていて思い出せない、確か、昨晩のことは・・・・・・。ぼんやり思い出してきた・・・・・・。
そうだ! あのあと、僕の下宿先に泊まると言い出したんだ!
僕は床でいいって言うのに「居候の身でそんな贅沢言えませんわ! わたくしだって体に自信はありますのよ!」とか言って、結局こんな形に・・・・・・。
あれ!? それ以外が全く思い出せない!? ワンナイト!? んなわけ!!
いや、徐々に思い出してきたぞ・・・・・・?
『お願いしますわ!』
『いや! だから理由は!?』
『さっきから言っているじゃありませんか! 一度やってみたかっただけですの! それに、有力なわたくしのバトルメンバーをみすみす逃すわけにはいきませんわ!』
『危険ですよ!! 男の部屋になんて!』
『大丈夫ですわ! 何度も言うようですが、わたくしは人を見る目はありますの』
『ううーん』
『貴方、VTuberになるつもりはないんですの?』
『そりゃあ、なんの取り柄もない僕がVTuberになれたらすごく嬉しいですけど・・・・・・』
『はっきり言ってくださいな』
『・・・・・・なりたいです。あの非日常は、他じゃありえませんし、いい刺激になると思うんで・・・・・・』
『うん、十分立派な心意気ですわ。25すみれポイントを差し上げます。では! なおさら私がいなくては成り立ちませんわね!!』
『どういう理論!?』
『しばらくでいいんですの! 頭は下げませんが、頼みますわ!』
『頭は下げないのか・・・・・・』
『もちろんですわ! わたくしはおじょうさまですもの!』
『自分で言ったらだめでしょ!!』
で、なんだかんだで押し切られて・・・・・・。今に至る。
この居候生活、いつまで続くんだろう・・・・・・。僕がVTuberになれるまで?
・・・・・・正直、こんな生活が続くなら、それはそれでアリな気がする。
そんなことを考えていると、朝6時のアラームが鳴る。
「むにゃぁ・・・・・・もう食べられませんでしてよ~」
どんな夢見てるんだ・・・・・・。というか起きろっ!
僕は身支度を済まして、バイトに行く準備を終わらせた。あとは家を出ていくだけなんだけど、このまますみれさんをおいておくのはいかがなものか・・・・・・。
変なやつらがすみれさんを襲ったりしないだろうか、と嫌な妄想をしてしまう。
「すみれさん~?」
肩くらいなら大丈夫だろうと、とんとん叩く。
「はぎゅーぅ」
「はぁっ!?」
めっちゃ抱きしめられてる! 寝ぼけすぎだってば!!
「お兄様・・・・・・いい加減仲直りしてくださいまし・・・・・・」
「・・・・・・」
なにか聞いてはいけないプライバシーな言葉が聞こえた。
仕方ない、書き置きだけ残して、鍵さえかけておけば大丈夫か。僕はすみれさんの手を解・・・・・・けないっ!!
寝ぼけてるとは思えない力の入り方!! ちょっと! バイトまでそんなに時間ないんですけど!?!?
「ぜったい離しませんわぁ・・・・・・」
ちょ、ちょっとぉぉぉ!!!!
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
今朝はひどい目にあった・・・・・・。
今日はランチタイムしか入らなかったから15時にバイト終了、いつもと同じようにコンビニをちらっと見て、そのまま自転車で帰宅。
今日はかなり早く学校も終わったし、すみれさんにVTuberについての話を聞くとしよう・・・・・・。
「ただいまー」
鍵を開けて玄関に入ると、布団を片付けてボケーっとしているスミレさんがいた。
「なにしてるんですか・・・・・・?」
「・・・・・・すぅー。男の人の部屋って、不思議な匂いがしますのね」
なんか恥ずかしくなってきた。
「朝ごはんとか昼ご飯はどうしたんですか? 朝食はパンを用意しておいたと思うんですけど・・・・・・」
「そこは心配ありませんわ! キッチンをご覧あそばせ!」
言われるがままにキッチンを見てみる。と、グリーンカレーが鍋の中でグツグツ煮えていた。
いや、火かけたままぼーっとしてんなよ・・・・・・。火事になったらどうすんだ。
「なんでグリーンカレー・・・・・・? それに、材料は?」
「なぜグリーンカレーなのか・・・・・・それは美味しくて栄養価もばっちぐーだからですわ! 材料の買い出しなど、グリーンカレーの魅力の前には朝飯前なのです!」
「はぁ・・・・・・」
忘れずに火を止め、スプーンでひとすくいして食べてみる。
「うう・・・・・・辛い・・・・・・」
「お辛いのは苦手でしょうか?」
「僕は昔っから甘党なんだよ」
「でしたらラッシーをお飲みになって! 冷蔵庫に入ってますわ!」
また言われるままに冷蔵庫を見てみると瓶に入った白い飲み物が置いてあった。
「ラッシーって・・・・・・。なんでさっきからエスニック料理なんだ・・・・・・」
「美味しいですわよ?」
「申し訳ないけど、僕は乳糖不耐症で牛乳類は飲めないんだ、ごめんね」
「そうですの・・・・・・それは悪いことをしましたわ・・・・・・」
すみれさんは結構僕と似通ったところが多いと思ってたけど、食の好みはまるで違うみたいだ。
「でしたら、斑鳩さんの好きな食べ物を教えてくださりませんか? おっしゃってくださればなんだって作りますわよ!」
「え、ほんと!? そうだな・・・・・・僕の好きな食べ物は唐揚げとかかなぁ」
「あら、随分と大衆的な好みですわね。いいですわよ! 今夜は唐揚げをたくさん揚げますわ!」
「おぉー! ・・・・・・でも待って、そのお金はどこから? 僕もそこまでお金持ってないんだけど・・・・・・」
「なぁに言ってるんですの、口座の残高はまだご覧になってませんの?」
口座残高?
なんか嫌な予感がしたのでチェックしてみる。
「わ、わぁぁぁぁ!?!?!?!? 50万円増えてる!?!?」
「これも説明し忘れてましたわ、VTuberバトルでもらったスパチャのうち、余った分の2割はギャラとしていただけますの」
「うっそでしょ!?!? 50万円あったら1年間毎日ランチにハンバーガーが食べられるよ!」
「そこも大衆的なんですのね・・・・・・」
「古本だって1000冊買えるし、バチャメンカードも1000パック買えるじゃないか!」
「ま、まぁ、トレンドVTuberになれればお金に不自由することはありませんわ。でも、お金があったところで満足できないのが人間の怖いところなのですが・・・・・・」
「何に使おう! プラモデル!? CD!? 新作ゲームでも買っちゃおうかな!」
「全く聞いてませんわね・・・・・・。というか趣味が古いですわ・・・・・・」
「でもその前に、すみれさんになにかプレゼントを送りたいなぁ!! なにか欲しいものとかありますか!?」
テンションが高くなって口をすべらせた。いやキモいって! いきなりプレゼントとか言い出して! なんか女性に貢ぐおじさんみたいなやつだなって思われるかも・・・・・・っ!
ほら! すみれさんもなんか目線そらしてるし!
「そ、そうですわね・・・・・・」
僕がどうやって失言を誤魔化すか考えていると・・・・・・。
すみれさんの頬に一滴の涙。
「え、えーっと・・・・・・その涙はなんの涙ですか・・・・・・?」
キモっ! キモっ! なんでさっきからうざくてキモい言葉しか出てこないんだぁっ!!
「あ、あれ・・・・・・おかしいですわね・・・・・・。わたくし、泣いたことなんて・・・・・・」
すいませんすいませんすいません!!
「きっと、嬉しいからですわ」
・・・・・・え? 嬉しい?
「失礼しました、プレゼントですわね。わたくし、貝殻をボタンにしてコレクションしているので、一緒に貝を拾いに行きたいですわ。その旅行がプレゼントってことにしてもよろしいでしょうか?」
これまたパンチの効いた趣味だな・・・・・・。まぁでもそれで喜んでくれるなら。
「いいですよ! どこ行きます!? ハワイ? グアム? それともモルディブですか!?」
「別に海外のつもりで言ったわけではありませんのですけれど・・・・・・。50万円で、足りるんですのっ?」
「海外旅行となると50万円がはした金に思えてきた・・・・・・」
「その旅行はいつでも構いませんわ、お誘い待ってますわよ」
「はいっ、びっしり考えておきます!」
びっしりってなんだよ! うわぁ失言に失言を重ねてるぅ・・・・・・。
でも、すみれさんは微笑んでくれてる、なんていい人なんだ!
「そ、そうだ。トレンドVTuberになる方法を教えて下さい! まずは何から始めればいいんでしょうか!」
「良い心意気ですわね、1すみれポイントを差し上げましょう。そうですわね、まずはどんなVTuberになりたいかですわね」
「どんな・・・・・・ですか」
「これに関しては色んな人に聞いてみるといいですわ! というわけで、ハルハルを呼びましょう!」
ハルハルさんか・・・・・・。確かに全く話さず終わっちゃったしな、色々聞いてみよう。
「明日、兵庫で回収して、すぐこっちに連れてきますわね」
「え!? 直接!? というかここ北海道ですよ!? リニア使っても8時間かかるのに、昨日の今日で・・・・・・」
「大丈夫ですわ、受験終わりで暇でしょうし」
受験終わり・・・・・・? 僕は春から大学2年生だから、1個下くらいなのかな?
「はい、手配しましたわ、それでは明日をお楽しみに」
すごいよすみれさん、あっという間に連絡を済ませちゃった。
「すみれさん、一体何者なんだ・・・・・・」
「わたくしの素性は絶対教えませんわ、次聞いたらすみれポイントを没収ですわよ」
「なんでっ!?」
まぁ、すみれさんが言いたくないというのであれば、聞きませんけども・・・・・・。




