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2話 観覧車の中、ギャルの彼女

 試合開始の合図と共に、眼の前の世界が変化していく。

 

 気づくとさっきいた無機質な電脳空間から遊園地へと移動していた。

 

 ・・・・・・。

 

 科学のちからってすげー!!

 

 うおお! 手が自分の思ったとおりに動かせるし、吹いてる風も、人混みの騒がしさも、なにもかもがリアル! というか現実と何ら変わらないぞ!?

 

 これって、現実世界ではどうなってるんだろう? フルダイブマシンって言ってるんだから、実際に現実で体を動かしてるわけじゃないんだよな。手とかにつけてたのは神経の信号を読み取るためのものか・・・・・・。まだ脳と直接つなげたりする技術はないのか・・・・・・。

 

 なぜかは知らないが、このフルダイブマシンの詳細については世間一般に知られていない。多分、同じ技術を持つライバル業者が出ないようにするためだろう、それならVTuberと一部の業者にしか販売されてないというのも合点が行く。はぁ、これを一般家庭に普及させてくれれば世界の技術はもう一歩前進すると思うんだけど・・・・・・。

 

 と、感動に浸るのはここまでだな。早くすみれさん・・・・・・いや、りんすに会わないと!

 

 とにかく走った、横腹が痛くなりながらも、すみれさんに迷惑をかけないようにと。体は実際には動いていないはずなのにちゃんと疲れるから不思議だ。

 

 人混みがすごくて、全く分からない。特に僕は人の見分けがつかないからどれも同じに見える。


 その時だった。明らかに、なにか光って見えた。実際には光っていない、コンビニを見ているとバチャメンカード売り場が主張するように置いてあるのと同じように、視線が彼女を追っているような感覚だった。


 『りんす!』


 『あー! ちゃんとあーしの事見つけてくれたんじゃん』


 息を涸らしながら、駆け寄る。


 『はぁ・・・・・・ようやく見つけた・・・・・・』


 『やっぱ、運命の糸でつながってるんかねぇー』


 『運命の糸って・・・・・・』


 『さてさて、ルールを教えてあげんとねー』


 そういうと、りんすは遠くを指差した。


 『あそこ、SHOPって書いてあるの見える?』


 『あ、はい見えますね』


 『とりまあそこ行こっかー』


 そう言うとモデル歩きでカツカツとローファーを鳴らしながら歩き始める。


 『手ぇつなぐ?』


 『いや! まだ早いですって!』


 『そっかー』


 これは本音か建前なのか・・・・・・。ギャルとしてのキャラを守っているのか・・・・・・?


 『じゃん、ここがSHOP! ここでレベルを上げたり各種アイテムを買ったり出来る的なー』


 『へぇ・・・・・・でもSHOPっていうからにはお金とか、通貨があるんですか?』


 『ぴんぽんぴんぽーん! 聞いたことあるっしょ? スパチャ、視聴者にもらったお金でここのアイテムを買うことがー出来る感じ? しらんけどー』


 いや、知らんことはないだろっ。


 『今いくらスパチャがもらえてるか、頭ン中で念じてみ? BMI確認する感じで』


 『は、はい』


 言われた通り確認してみると、スパチャ額が表示された。


 『見れるのは味方のスパチャ額ね、相手のは見れないから。あと、コメントを見たりも出来たりー? コメントに反応したほうが視聴者も喜ぶから!』


 そんなアドバイスは全く耳に入っていなかった。なぜなら、僕のスパチャ額。


 晴宮ハルハル:9820000

 青空ちゆ:1320000

 いちかりん:28666


 『桁が違うっ!? 悪いイミで!!』


 『まぁ当然っしょ。だって本来VTuberバトルは一部のトレンドVTuberしか出来ないもんだしー? 参加できてるだけで奇跡、ファンがいないならそうなってもおかしくはない・・・・・・的な?』


 ボクがダントツで少ないのはともかく、ハルハルさんのスパチャ額が異常だ。982万円ってなんだ!?


 『僕、なんで選ばれたんだ・・・・・・?』


 膝からがくりと倒れると、スミレさんが僕と目線を合わせて、肩を叩いてくれた。


 『何回も言うようだけどさー、来てくれただけでほんッッとうに感謝してんだからね? 一緒にバトルできてあーしも嬉しいし? これはガチで!』


 『んん~・・・・・・』


 『そだ! そんなとき何すればいいか教えてあげる!』


 『何を?』


 『そ! テコ入れ!!』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『やっぱさー、ボクっ娘こそかわいいフリフリな服って、相場は決まってんのよー!』


 『そうですかねぇ・・・・・・っ!?』


 遊園地でどうやってこんな服を用意したのか・・・・・・。ちょっと目を離した隙にスミレさんがこの服一式を持ってきた。


 『これ、あーしの好きなデザイナーがデザインした服! やっば! 超似合うー!』


 なんか胸元が空いてるし、ホワイトブリム的なのがついてて、メイド服とゴスロリをミックスした感じの服だ。


 『うぅ、こんな服着たことないからスースーする・・・・・・』


 そのとき、都合よく突風が吹く。


挿絵(By みてみん)


 『わわっ!?』


 『隠して隠して!!』


 とっさの判断でスカートを両手で押さえる。


 『後ろが丸見えーっ!!』


 『えぇっ!?!?』


 そうか! 前だけ押さえたって意味ないですよねーっ!!


 なぜだ、めちゃくちゃ恥ずかしい・・・・・・。


 特にスカートなのが解せないというか・・・・・・。この布一枚をめくったら簡単にパンツが見えるって状況が意味不明すぎる。


 『アンスコとかドロワーズ的なのとかないんですかぁ・・・・・・』


 『ほらほらスパチャが鰻登りですわ・・・・・・ごほんごほんっ。うなぎのぼりだしー!』


 確認してみると、確かに220000円も集まってる!!


 『すごーいっ!?』


 『やっぱ、ふーきデザインの服は最高的なー?』


 『これだけあったら何か買えますかね!?』


 『ううん! 無理! 重要アイテムはレベルアッパーってやつなんだけど、それが100万円!』


 『レベルアッパー? 100万円・・・・・・?』


 まあレベルアッパーが文字通りレベルを上げるものなんだろうけど、100万円もするのか・・・・・・。金銭感覚が麻痺してしまう・・・・・・。


 『んで、レベルアッパーは1回買うごとに値段が倍になるから、ハルハルが買っていってたら200万、下手すれば3200万円くらいにはなってるかもねー』


 『高すぎるでしょう・・・・・・』


 舐めてた、VTuber界隈・・・・・・。こんなにお金が動いてる世界だったとは・・・・・・。


 『だから、ホントは一緒に動いたほうが作戦立てやすいんだけどねー。固まってるってことは相手にも動きを読まれやすいわけだから、そこの塩梅が案外難しいってワケ~』


 『うひ~』


 聞けば聞くほどこんがらがってくる。それもそうだよな、VTuberバトルの次にメジャーな野球なんかもルール全くわからないし。


 『あぁっ!! 見つけましたよぉーっ!!』


 視界の外から突然大声が聞こえた。


 『おっ! 来たねー』


 すみれさんは一瞬で敵の位置を見破ってそっちに視線を向ける。僕も視線を追ってみると手錠をつけた不審な人物が立っていた。


 『あれれ・・・・・・アタッカーのハルハルさんはどこですかぁ?』


 『そんなの言うわけないしー!』


 『そうですか・・・・・・アタッカー以外には興味ないので・・・・・・。それではー!』


 回れ右をしてそのまま走り出して行ってしまった。


 『なんですかあの人は・・・・・・』


 『まじウケる』


 というか、今聞き慣れないワードが出てきた。


 『そういえば、アタッカーってなんですか?』


 『あ、そうそう忘れてたし。このバトルの中では役割が分かれてる的な? アタッカーは文字通り攻撃が出来て、ヒーラーは回復出来て・・・・・・的な感じで色々あるのよ。今あーしらが戦ってる敵はアタッカー、ガンナー、タンカーで構成されてる』


 『ガンナー・・・・・・。ってことは、銃を撃ったり・・・・・・』


 バンっ!!


 突然銃声が響く。


 音から少し遅れて、右足に痛みがゆっくりと流れる。


 『わぁーっ!? う、撃たれましたぁーっ!!』


 『お、落ち着きな!? とりあえず物陰にっ!』


 バンつ!!


 次に撃たれたのはすみれさんだ。同じく右足を撃たれていた。


 『い、痛ったぁ・・・・・・っ!』


 『隠れても無駄、ここで私が2人を倒します!』


 あ、あれは確か手錠の変質者と一緒にいた・・・・・・。


 『黒部ラン、高所恐怖症のガンナーだし、まじウケる』


 『それを言うなー! もう私スナイパーみたいに遠くから狙うのはやめにしたんです』


 そう言うと銃に弾を込め始める。


 『水平二連散弾銃・・・・・・。やっぱり、中折れ式ってロマンですよねー! かっこよさと活躍の合わせ技で、人気もばっちしゲットな算段! 散弾だけに! なんちゃってー! ユーモアもあるなんて、こりゃ人気爆増間違いなしですよねー!!』


 なんだあの痛いヤツ!!


 『落ち着いて、全然ピンチじゃないし』


 『え? そうなんですか?』


 『ガンナーは遠距離から攻撃出来るけど、同時に弾を6つまで持つことしか出来ない。それでもって、弾は1つヒットしたら1~2割のダメージ。あーしとアンタで一回ずつ食らってるから、残り4発を全部クリーンヒットさせられない限り勝てるし』


 『なるほど! で、僕たちはどうやって反撃するんですか!?』


 『念じてみ! 武器が出るから!』


 僕が手間取っていると、すみれさんの持っているスクバについているクマのぬいぐるみが動き出し、歩き始めた。


 なにそれ!


 『アンタの武器は・・・・・・あれ? なんだっけ?』


 僕もああいう能力があるのかなっ!


 念じてみる、武器が出てくるイメージを掴んで、やってみる。


 ・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・。


 出ない。


 『ばーんっ!』


 また一発撃たれた、当たったのは僕の左足!


 まずい、やられるとしたら僕からだ!


 『そーいえば、武器も役割もスキルも、なにもかも未設定だったし・・・・・・』


 『・・・・・・はい?』


 『もういっぱーつ!!』


 また撃たれた! 3発も撃った!!


 なんだか、眼の前が曇って見える。実際は血も出てないし分かるような外傷もないのに・・・・・・。


 『ゲロやば!! ここはあーしがなんとかしないと!! くまベアー!』


 スミレさんがくまのぬいぐるみに声をかけると、周りからレンガやらメリーゴーランドやらが崩れ始め、ぬいぐるみはそれを取り込み巨大な熊の姿になった。


 『くまベア! マジモード!』


 巨大化したくまベアはパっと見200センチくらいあって、非常に強そうだ。


 『じゃ、あとはよろしくー!』


 『あぁっ! 逃げるなぁっ!』


 すみれさんは僕を抱きかかえ、なんとか窮地を脱した。


 『人数合わせのためだから、ホントになにも設定してなかった! ホントごめん!』


 『えぇ・・・・・・』


 そんなに僕に期待してなかったのかなぁ。でも、考えてみれば僕に会う前から用意していたアバターみたいだし、別に僕への期待度とは関係ないのかな・・・・・・。


 情けなくお姫様だっこされたまま、観覧車の中に乗り込む。


 『デートみたいでちょっとテレるね』


 いや、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ・・・・・・。まじで。


 『あれってなんなんですか? 強そうなやつ出してましたけど』


 『あれね、あれはあーしの武器、てか相棒。体力、攻撃力はハルハルより高いけどスピードが遅くてマジモードになれる時間は決まってる。あと、周りから材料を吸収して大きくなるから、岩場とかだと強いけど、綿あめで作ったら弱いだろうねー。まじウケる』


 仮に森でマジモードにしたら、全身木から出来るだろうから簡単に燃えそうだ、こうかはばつぐんだ。


 『それより、僕には戦うすべもないんですね・・・・・・』


 『でも、相手はそれを知らないはずだし、上手く動けば撹乱出来るだろーね』


 『あと、さっきスキルって言ってましたけど、スキルってなんなんですか?』


『スキルは1人1つ持ってるやつで、バトルの中で使える的な? 例えばハルハルはハルハルエンジンが使えるし、あーしはくまベアをマジモードに出来る。ハルハルのスキルは1回の試合で1回しか使えないけど、あーしのスキルはしばらく待ったらまた使えるようになるし』


 『りんすさんのは分かるけど、ハルハルエンジンってなに?』


 『ハルハルエンジンはハルハルエンジンっしょ!』


 いや、だからそれがなんなんだって・・・・・・。


 『それより・・・・・・僕のHPが残りわずかなんですが・・・・・・。これ、どうすればいいんですか?』


 『まー、ショップで回復薬買うしかないよねー。回復薬は10万円で買えるから』


 観覧車はゆっくり進み続け、ついにてっぺんまで登りきった。


 『あ、ほら。あそこにショップが見えるじゃん』


 『ホントだ・・・・・・』


 遊園地の中央、遊具の横にSHOPという文字が浮いているのが見える。


 『つまり、観覧車を降りたらあそこに行って、回復薬を買えばいいんですね』


 『大正解―っ! ついでにレベルアッパーの値段見て、買えそうなら買うって感じでよろー』


 『わかりました・・・・・・』


 ゆっくりと高度を下げる観覧車。バトルの全容が見えてきて、次にやるべきことも理解できた。


 心に余裕ができてようやく、彼女が言った“デートみたい”という言葉も理解できた。


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