24話 END ~輝く未来へ~
今日は、ドキドキしている。
また、この日が来たかと思うと、少し憂鬱だ。
でも、仕方ない。行くしかない。
「チャイム、鳴らすですよ・・・・・・」
「うん、慎重に行きましょう・・・・・・」
今日はぷちジャン8期生の月1ミーティングだ。
私、山田運命こと佐藤心美と、涼海ミリコこと小林茉優2人で迎えに来ているのは・・・・・・言うまでもない。
「でも、慎重にインターホンを鳴らすって、どうやるんですか・・・・・・」
「言われてみれば確かに、おかしな話ですね」
「はぁ、憂鬱です・・・・・・」
ぴんぽーん
インターホンを押すと、どすどすという大きな足音がして、ドアからイカついモヒカンヘアのタトゥーおじさんが出てくる。
「なんの用だ・・・・・・?」
「あ・・・・・・あの、合同ミーティングを・・・・・・」
「チッ、入りな」
「は、はいっ!」
2人で恐る恐る廊下を進んでいく。
何回来ても慣れない・・・・・・。
「茶ァ淹れてくるから、待ってろ」
「はい・・・・・・」
うぅ・・・・・・。肩身が狭いというかなんというか・・・・・・。
「ここちゃん・・・・・・時間は大丈夫ですよね?」
「大丈夫なハズですが・・・・・・」
しばらく待っていると、来た。
「おっまたせーなのでしゅー!!」
「「ふぅーー・・・・・・」」
ようやく会えた・・・・・・。井上アンダーソンこと、左武七海。
さっきのおじさんがアンダーソンなわけもなく、こっちのちんまりした幼稚園児が私の仲間だ。
「おとーさーん!」
「あいよ、ほら、さんぴん茶とせんべいだ」
「ど、どうもです・・・・・・」
「6時までには帰るんだぞ」
「はーい!」
「分かってんだろうな・・・・・・?」
「も、もちろんです・・・・・・」
「心配しないでください・・・・・・」
この男、極度の子煩悩である。いかつい顔とは裏腹に、愛妻家で趣味は家庭菜園、某エンターテイメント企業でマスコットキャラクターをデザインするのが仕事だ。
「じゃあ、早速行くですよ」
「ふぁーい!!」
相変わらず、縁というのは奇妙なものだ。
私達はもともと全く知らない人同士だった。けど、VTuberで同じチームになってからのある日のこと。ひょんなことから近場に住んでることが分かったのだ。それで、会いに行ったら、なんか意気投合して、さらに仲良くなって。
「覚えてますか? 私達が出会った時のこと」
「もちろんです! 住所の通り言ってみたらすっごい豪邸があって腰が抜けたのをはっきり覚えてるです!」
「私は・・・・・・ななみちゃんの家に行った時をよく覚えていますね・・・・・・。だって、玄関から出てきたのは強面のおじさまだったので・・・・・・。この方がアンちゃんなのかと思って、『意外と中身は強面なんですね』なんて言ってしまって・・・・・・」
「笑えねぇです・・・・・・」
「なんでそんなにこわがるのれすかー? やさしいおとうさんれすよ!!」
「熊みたいなものです・・・・・・。子を守る親ほど怖い生き物はいないのです・・・・・・」
「それに、いざ本物とご対面! かと思いきや今度は幼稚園児が出てくるんですから。驚きで何も言えませんでしたよ」
「てっきり、VTuberのときは実年齢より低めの設定なんだろうなぁと思ってたら、まさかのアンダーソンの時のほうが歳上なくらい小さくて、びっくりなのです」
そんな話をしながら、たどり着いたのは普通のカラオケ。
「一曲歌うですか!?」
「一曲だけですよ。ただでさえ門限が早いんですから・・・・・・」
「なにうたうれすかー?」
「あ! あれ! “ラフライフ☆めでぃけーしょん!”にするです!」
「あれならさんにんでうたえるれすぅー!」
「誰がハルハルパート歌う?」
「わらしがうたうれす!」
「じゃあ私がアイカパート歌うです!」
「それでは、私はホリィパートを・・・・・・」
一通り歌った。
まぁ酷かった。心美は音程が死んでるし、七海は滑舌が悪いから聞けたものじゃないし・・・・・・。
まぁ、楽しかったしいいか。
「それじゃ、アイスブレイクも終わったことだし、ミーティングを始めましょうか」
「「はーい」」
「それじゃあまずは、ホリィが起こした騒動、あのあとみんながどうなったのか・・・・・・。振り返ってみようかな」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
VTuberバトルの運営、Vectorの社長室。
「はぁ、なんか面白くなかったなー」
「面白くないって・・・・・・なんの話ですか」
「うーん・・・・・・。なんだろうなぁー。今回のホリィを中心に起きた騒動は、結局ホリィの改心で終わっちゃっただろ? せっかくならいけるとこまで行ってほしかったよ」
「はぁ・・・・・・」
「律帆も、所詮中学生だよね。ホントつまんないやつだよ」
「・・・・・・私はそうは思いません」
「へ?」
「律帆はまだ子供。本人が言っていたように、毎日変わって、変わっていきます。だから、律帆をつまんない人間だと決めつけないでください。もしかすると、選択肢によっては社長好みの“面白い人”になるかもしれませんよ。だってなにより、あの子は・・・・・・」
秘書は何かを言おうとして、止めた。
「ふーん、じゃ、もう少し眺めてよっかなー!」
椅子から立ち上がって、窓から外界を見下ろす。
「さて、あの中学生たちもついに高校生になる。これからどんな大人になっていくか、近所のおじさんになったつもりで見させてもらうよ。“一歩引いてね”」
その後、にやりとしてから秘書の方を振り返り、言った。
「君はさ、律帆って呼び捨てにするのやめなよ。もっと他人行儀になりなよ、馴れ馴れしいよー」
「・・・・・・はい」
場所は変わって、今度は地下のアジト。
「律帆ちゃん、残念だけど、僕のことは忘れてくれ」
それだけ言うと、通話を切った。
「ですが、本当に良いんですか? 私達の悲願は・・・・・・」
「いや、いいんだよ。律帆ちゃんは今度こそ本当の気のおけない友だちができたみたいだし、それをこれ以上かき回すわけにはいかないだろう?」
ぶどうジュースの入ったグラスを傾ける。
「律帆ちゃんは無事に薬も抜けきったみたいだしね」
「えぇ、減薬プログラムの効果のデータもとれて一石二鳥でした」
「でも、この薬を広めることが、世界のためになるのか? 他にも方法は・・・・・・」
咲也はまたしても、自分のやっていることだ正しいのか疑問を持ち始めてしまった。
タタタタタタタタ・・・・・・。
上から誰かが降りてくる音。
「おっと、ここも嗅ぎつけられた。撤収」
「はい」
咲也たちは壁の裏にある隠し通路から逃げ出した。
誰もいない部屋に足音が響き渡る。
「誰もいません・・・・・・」
「田代巡査に再度連絡してみます」
「あぁ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
少し前、オープンワールドでは藍と偽ミリコが話していた。
「あの、今回の件はありがとうございました!」
「えぇ、構いませんよ。それが仕事ですから」
「無事に律帆ちゃんも元気になって、前より仲良くなれました!」
「そうですか、よかった。悪女は最後の最後に視力を失ったり、物語半ばで死んだりするものですが、今回はハッピーエンドですね」
「なんの話ですか?」
「アニメの話ですよ」
「それより、律帆ちゃんが1つだけ聞きたいって」
「なんです?」
「あなたは何者? だって。変な話、ミリコちゃんはミリコちゃんだよね?」
「・・・・・・」
“彼”は、少し呆れているような、笑っているような、そんな顔でため息を吐いた。
「こんな作り物の体だけで、人を判断してはいけませんよ。特に、インターネットのお陰で世界中すべからくご近所さんになってしまった。隣に立つ人間が詐欺師かも、テロリストかも、余計にわかりにくい世の中です・・・・・・いや、それは現実でも同じか・・・・・・」
「え、えっと・・・・・・それってどういう」
「おっと失礼、警察の方から連絡です。今日はこのところで」
「は、はい・・・・・・」
まだ納得はしていなかったものの、警察の人が言うんだから間違いないんだろうと、藍は思った。もっとも、本当に警察なのか、連絡も本当に入ってきていたのか・・・・・・、藍には知るよしもなかった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『くひひぃ・・・・・・』
『ちょっとワール、気持ち悪い笑い方しないでよ・・・・・・。それより、ホントなんですか? カペルさん』
『うん、ようやくきゃらめリップに2人入ってきてくれてね』
『つまり、私は用済みと・・・・・・言うわけですねぇ・・・・・・? 放置プレイはあまり好きじゃないんですがぁ・・・・・・』
『そんな言い方してないだろう?』
『でも・・・・・・私はこれからどうすればぁ・・・・・・! 表舞台に立たないと・・・・・・、少し出しゃばるくらいじゃないと誰にも褒めてもらえませんよー!』
『でも、君たちを作ったVector社は君たちを気に入ってるみたいだから、きっとすぐに出番が来るんじゃないかな?』
『うぅ・・・・・・待ち遠しいぃ~』
『私たち、一応人と同じ時間の感じ方をするように作られているのでぇ、ほこり被りながら待つなんて出来ませんよぉ・・・・・・?』
『あはは・・・・・・AITuberも大変なんだね・・・・・・』
『『全くです!』』
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「はぁ」
「何ため息ついてんだよ、また病んでるのか?」
「・・・・・・正直に聞くけどさ、人前で泣いた後って、どんな顔して、どんな性格であんたたちと接すればいいのよ」
「・・・・・・まぁ、そんなの考えんなよ。自分でしたいようにすればいいだろ?」
「ホリィの方もどうしようかしら。私、あのキャラはもう黒歴史なんだけど・・・・・・」
「路線変更か、転生か」
「ま、そんなことは後で考えればいいわね。藍が私に教えてくれたことだもの」
「そうそう、あんまり気負い過ぎずにな」
「あんたに言われるまでもないわよ」
「・・・・・・」
2人が帰っていると、後ろから走ってくる人影があった。
「ごめーん! 待ったー!?」
「いや、普通に帰ってたけど・・・・・・」
「なぁ、藍。俺って律帆に嫌われてるのか・・・・・・?」
「そ、そんなことないと思うよ? 多分」
「おい、なんだよ多分って、多分って! 確かに律帆の説得は全部お前がやってたけどさ! 俺だって律帆が逃げないように抑えたぞ!?」
「いや、抑えたのは私のお母さんだけど・・・・・・」
「フルダイブマシンだって分解してたし!」
「でも、律帆ちゃんが出てきたのって、確かしろねこさんたちが強制ログアウトしてくれたからだよね・・・・・・?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「あー! そんな目で俺を見るなよ!! くわぁーっっ! ことごとく貧乏くじを引くー!」
そんな感じで、今日も1日が終わる。
限りある人生。人生100年時代だから、36524日くらい?
大切にしないといけないのは分かってる。悲観的になる日もあるけど、毎日頑張ってるんだから、そういう時こそ1日を無駄にできるような気の持ち方が大事なのかも。
本当にゆっくり、寄り道だらけ、なにも成し遂げてない、なにも出来ない自分だけど。
今日も、歩いていく。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「さて、今日のミーティングは終了、おつかれさま」
「うーん! ハッピーエンドって感じですかね!」
「はっぴーはいいことれしゅ!」
「ハッピーエンド・・・・・・。でも、これをエンドって呼んでいいんでしょうか・・・・・・」
「これからまたホリィがやみおちするかもしれないれしゅね」
「まぁ、とにかくこまめに切り刻んだらいいじゃないですか! 今回のホリィ事件はハッピーエンド! 仮にホリィ事件iiが起きたとしたら、またそれはそのときです!」
「そうだ、ではバッドエンドという概念をなくしたらいいんじゃないですか? 人生のあらゆる出来事はハッピーエンドで終わりとは限らない、それは逆説的にバッド”エンド”に見えることもそれがずぅーっとバッドエンドってわけじゃないはずですもんね、いつかはハッピーが来るから、そこをハッピーエンドにすれば・・・・・・」
「むげんハッピーエンドでしゅ!」
「いいとこだけ切り取ってやるです!」
「うふふ、それでは早速株取引でも初めてみましょうかね? 一時的に損することはあっても、ハッピーエンドがいつか来るはずですから!」
「そ、それはやめておいたほうがいいです!! バッドエンドになるオチしか見えないですー!!」
「けっきょく、むげんハッピーエンドなんてまやかしれす・・・・・・」
第1章 アイカジェネレーション - 終 -




