23話 黄昏のシンフォニー
『超超大波乱の今回のエキシビジョンマッチ!』
『なかなか複雑になってきたので、ここで1回復習しましょう!』
『有志の人達が色んな情報を送ってくれたんで、その情報を元にまとめるっすよー』
『結構やばめで個人情報マシマシな話ですが、社長の意向でぜーんぶぶっちゃけちゃいます!』
『まず、アイカとハルハル、ホリィはリアルフレンドっす! ある日、アイカは学校でホリィがやばめのお薬を持ってるところを発見。アイカはホリィを心配して、野良で出会った警察のミリコに話をするっす。それと同時に、薬でおかしくなり始めたホリィに気づいたハルハル(男)はカペルに連絡するっす』
『そこで、ミリコとカペルが出した結論はホリィをキルしてVTuber生命を絶たせること! そうすれば、普通の女の子に逆戻りして、薬とは無縁の普通の生活を遅れると考えました! そして、ミリコが主導で今回のエキシビジョンマッチを開催が決定。そのメンバーは山田を除いて全員がホリィの情報を知っているという状態、だったはずでした。 しかしなんと! 警察のミリコは偽物で、今回の試合に出ていたほうが本物のミリコ、つまり、今回の件を知らなかったのは山田とミリコの2人だったんです!』
『ホリィは自分のスキルで中の人が男のVTuberを次々撃破。ミリコもスキルで倒すつもりだったっすけど、前もって調べていたミリコが男だという情報は偽ミリコのものだったせいで、本物のミリコは倒せてないっす! 完全に油断していたホリィは1レベルの状態、対してミリコは3レベル!』
『さて、今回のバトルの鍵になってるのはそれぞれの思惑。ホリィをキルしなくてはならないのに、やたらホリィに肩入れするアイカ。そして、自分でも何が目的なのかに気づけていないホリィ。一体、この試合はどんな終着点へとむかうのでしょうか!』
『ぶっちゃけー、そこまで勝ちに執着してないホリィがスキルを使うのに失敗しただけで、なんであんなに取り乱したのかは分かんないっすけど』
『今のホリィの心情は分からないこと尽くしだからねー! しかたないねー』
『閑話休題! 本編再開っす!』
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『落ち着いて! ホリィちゃん!』
『ぐぐぐぐ・・・・・・!!』
律帆ちゃんが顔を真っ赤にしてる・・・・・・。
恥ずかしいのか、怒っているのか、わかんないけど・・・・・・。
『全ッ部台無しよ!! かぁーっ!!』
ちょっと、いつもの律帆ちゃんに戻った気がする・・・・・・。
『・・・・・・で、わたしはなんで責められてるんでしょうか・・・・・・?』
『こっちが聞きたいデス・・・・・・』
私は今、何をするべきなんだろう。
分かんないけど・・・・・・。
『大丈夫だよ』
私はそっと律帆ちゃんを抱きしめた。
『なにがよ! というか、いきなりなんのつもり!?』
『ちょっとさ、疲れてるだけなんだよ・・・・・・。今日はバトルで勝って、一休みして、寝て、いつも通りの毎日を送ろうよ・・・・・・』
『キッモ!! やめてよ!』
私を思いっきり蹴り飛ばして、律帆ちゃんは言った。
『あんたに何が分かるの!? この私のっ、何が!!』
『ここじゃだめなんだよ!』
『は・・・・・・?』
この世界は、私の夢だったけど、VTuberがいられる唯一の世界だけど。
今欲しいのは、そんなんじゃなくて・・・・・・。
『前に言ってたよね・・・・・・。ずっと何かに追われてるような気がするって、それって、多分VTuberになったことも原因なんじゃないかな。ちょっと、キャリーオーバーになっちゃってるんだよ』
『それを言うならキャパオーバーデス・・・・・・』
『じゃあなに!? 私にVTuberをやめろっての!? なんでそんな事言う権利があるのよ!』
『だから、私と一緒に考えようよ! なんでこんなに苦しいのか、教えてよ!!』
『・・・・・・私が本音を言ったら軽蔑するに決まってるわよ』
『なんで決めつけるの!?』
『・・・・・・』
律帆ちゃん・・・・・・。
辛かったんだ、ずっと1人で抱え込んで。
誰にも頼れなくて、頑張って、なにをすれば良いのかも分からなくて・・・・・・。
ぽろぽろ・・・・・・
『な、なんであんたが泣くのよ!! 泣きたいのはこっちよ!!』
『そうだよ、ねっ・・・・・・本当に泣きたいのは私じゃないもんね・・・・・・』
『はっ・・・・・・、べ、別に泣きたいってわけじゃなくて! 言葉のアヤよ!』
2人の喧嘩を見かねたぷちジャンの2人はお互いに目を見合った。
『とにかく、こうするのが正解ってことデスね』
『そうですね』
山田は、自慢の爪攻撃をミリコに容赦なく叩き込み、ミリコもそれを正面から受け止めた。
『えっ!?』
なにしてるの!?
『2人とも、話すのは直接会ってのほうがいいデス』
『いつまでも、試合のなかで喋られてたら困るんですよ』
『ツンデレデスねー、ミリコっ』
『うるさい』
2人は微笑みながら、私に手を振っている。
『そっ、そうだね! ごめん! ありがとう!!』
『もう! めちゃくちゃよ! なにもかも!』
『全くっすねー。結局なんのこっちゃっすよ、観戦者側は』
『ほんと、とんだ放送事故・・・・・・。試合自体も超つまんないし・・・・・・』
『以上! 黒チーム全滅で今回のエキシビションマッチは終了! みんなを強制ログアウトっすー』
司会の人達、てっきり怒ってるのかと思ったけど。
いつもと違って強制ログアウトにしてる、これってきっと、わたしたちが現実で話せるように、この空間から追い出してくれてるんだ!
『しろねこさん! ありがとう!』
『チッ! 嫌よ、あんたたちと話すと馬鹿になるわ・・・・・・っ!!』
律帆ちゃんは消える寸前に怒っているようすだった。早く助けてあげないと。気づくと、私たちの体は光に包まれ、気づけばフルダイブマシンの中にいた。
『ふっ、礼を言われるようなことはしてないっすよ・・・・・・』
『えっと、もうみんなログアウトしてるよ?』
『かーっ!! ダサダサじゃないっすかー!!』
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
「よし・・・・・・あとはここのネジを外せば・・・・・・!」
晴人が律帆のフルダイブマシンを分解していると、ネジを外す前に突然入口が開いた。
「はぁ! 冗談じゃないわよ!」
「律帆!!」
「ちょっと! なんでいるのよ! ヘンタイ!!」
「ヘンタイってなんだよ! お前のためだろ!!」
「お説教は絶対嫌よ!」
そう言うと、しゃがんでいた晴人を飛び越え、ドアを開けて廊下に出る。
「律帆のお母さん!!」
「了解!」
廊下にでた律帆を待ち構えていたのは律帆の母。
「なんで邪魔するのよ・・・・・・っ!!」
「・・・・・・」
「どけぇーっ!!」
律帆が母を無視して走り出した。が、腕を掴まれ、律帆の母はそのまま勢いを利用して絞め技をかける。
「いだだだだだ!!!! 虐待よー!!! ぎゃくたいー!!」
「どこ、行くつもり・・・・・・?」
「こんなところいられないのよ! 私は・・・・・・私はっ!」
「どうするの?」
「と、とにかく! 離しなさいよっ!!」
「律帆は、いつもいきあたりばったり。お母さんも、そうだったけど・・・・・・。でも、律帆は、やりすぎ」
「くーーっ!!」
もがき続ける律帆の瞳に、見覚えのある顔が写った。
「・・・・・・藍」
「律帆ちゃん・・・・・・」
「話し合いなら無駄よ・・・・・・。第一ね、「話し合おう」なんてのは相手に自分の考えを押し付けるための方便に過ぎないんだから・・・・・・。まだ、暴力のほうがわかりやすいわよ」
「じゃあ、暴力でいこう。表に出て」
「・・・・・・へ?」
ようやく拘束を解かれ、自由の身になった律帆はなぜか家の前で藍と対峙していた。
「だ、大丈夫なのかよ・・・・・・」
律帆は、なぜか高揚していた。藍の言った言葉が昨今聞き慣れない言葉だったからだ。
「前に、お父さんが言ったの覚えてる? 麻雀の話」
「そんなの、覚えてないわよ・・・・・・」
「麻雀をしながらの話って楽しいらしいんだよ」
「はぁ」
「だから、本気で殴り合いの喧嘩して、その中で話し合えばきっと分かるはずだよ!」
「めちゃくちゃすぎるでしょ!!」
藍が、すっと構える。
「ここなら、遠慮なくお互いの名前を呼べるね、律帆ちゃん」
「はぁ・・・・・・。そうね、藍・・・・・・」
高揚が高まる。
現実で殴り合うなんて、そんなこと出来るのは・・・・・・。
ばごんっ!!
「~~~っ!?」
思い切り頬を殴られた。
「遠慮ないやつね、クソぉっ!!」
ドゴォっ!!
「痛ぁっ!!」
お腹を殴られ、うずくまる藍。
「そうよ、あんたね、昔のドラマ見過ぎなのよ! 殴りあいなんて、結局一回で勝負が決まるもんよっ!!」
蹴る。
蹴る。
蹴る。
違う。
違う。
違う!!
「・・・・・・違うでしょ。こんな馬鹿なこと、してんじゃないわよ・・・・・・」
律帆は、突然意気消沈してその場に膝から崩れ落ちる。
「なんて、嫌な気持ちになるのよ・・・・・・。人を殴るのなんて、初めてよ。そして、すごく怖かった・・・・・・」
「なんで・・・・・・怖かったの?」
「・・・・・・わかんないわよ、そんなの」
「わたしに嫌われると思った?」
「・・・・・・」
「律帆ちゃん。私ね、ホントは律帆ちゃんが私と晴人くんのことを大好きだって思ってくれてるの、知ってるんだ」
「また、人の気持ちを知ったかぶり?」
「だって、そうでなきゃおかしいよ」
・・・・・・。
「私なんて、みんなに嫌われる存在よ・・・・・・。だって、普通じゃないんだもの。どんなに頑張っても普通になれなくて、躓いて、友達だっていない。だったら、1人でいるしかないじゃない! どうせいつかあなた達も私の本性を見抜いて愛想尽かすに決まってる! ぶっちゃけるわ、私は一生の友だちなんて出来るわけないのよ!」
律帆は、初めて話した。
自分が、本当は他人を誰よりも恐れていることを。人とのつながりを求めていたことを。そんな、恥ずかしいことを吐き出した。
「分かるわけ、ないわよね! 他人だもの!」
「ねぇ、律帆ちゃん、知ってた? 私の友達って律帆ちゃんと晴人くんしかいないんだ」
「え」
「だって、レジェンドVTuberになりたいってずっと言ってる世間知らずだったし、ちょっと頭が弱くて幼さが抜けなくって。そしたら、みんなと離れてるような気がしたの。それに、VTuberの配信ばっかりしてたし」
「でも、藍は優しいし、前向きだし・・・・・・私には羨ましくて、輝かしすぎたのに」
「きっと、私と律帆ちゃんって、相性がいいんだよ。わたしだって、ずっと律帆ちゃんが羨ましかった。だって、頭が良くて、かっこよくて、バトルでもすごい作戦を思いついてたし。だから、律帆ちゃんが友達でもいいのかな、私なんかが釣り合うのかなって、ずっと思ってたんだよ?」
「なんでよ・・・・・・、そんなことっ、今まで一度も言ったことなかったじゃない! 言葉にしないと伝わらないでしょ!! そんなこと!!」
「お互いさまだよ・・・・・・」
律帆は足元が崩れ落ちるような気がした。
そう、今まで人のことを信用してなくて、なにも相談できなくて。
「俺たち、もっと腹を割って話せばよかったのかもな・・・・・・」
晴人が呟く。
律帆は頭をフル回転させる。
また、恨み節を吐かないと・・・・・・。
私が持たないもの、他の人が持ってるもの。この世の不条理、その全て!
「この世界、私だけ持ってないものだらけよ! 空気の読み方も知らない! 普通の人が知ってることを私は知らない!!」
「だったら私が教えてあげるよ! 知ってることなら!!」
「わたしには才能がない・・・・・・。野球もバレエも書道の才能もない!!」
「だったら、今から練習すればいいでしょ!!」
「この世界は、おかしいわ! 生まれつき不幸な人達がいる! 所詮幸せのとりあい、ゼロサムゲームなのよ!」
「そんなの今は関係ないでしょ! 律帆ちゃんはご飯も食べれて、VTuberにもなれて! 誕生日だって祝ってもらえるでしょ!!」
な、ない。恨み節が、私の鬱憤が!
かき消される・・・・・・。数年に溜まった鬱憤が!?
「バイトだって! 私は何年経っても仕事を覚えられなかった! 周りは出来るのに!!」
「それは出来ない人はやめていくからだよ! 逆に何年もクビにならないで出来ただけですごいことだよ!」
「やめたなんて話聞いたことないわよ!」
「じゃあ今まで入ったバイトの人の全員の名前言える!? 言えなかったら、知らない人がやめてたのかも知れないでしょっ!!」
言えない。全員どころか、誰1人覚えてない。
「わ、私は歌手が羨ましい! だって私は音楽が好きなのに音痴なのよ!」
「じゃあ歌手になれたら幸せなの!?」
「そ、そうでもない・・・・・・けどっ」
私の恨み節が・・・・・・尽きた。
・・・・・・あれ、私って、こんなことでイライラしてたんだっけ。
「そ、そうよ! 私は要領が悪いわ、薬で矯正しないといけないくらいにね!!」
最後の一絞り。
「そんな律帆ちゃんが好き!」
・・・・・・。
「・・・・・・は?」
「それくらい、どうってことないよ!」
「いやでも、要領の悪い人は嫌でしょ? 気持ち悪いでしょ? 嫌いになるでしょ?」
「私は気にしないよ! 第一、嫌いだったらずっと一緒にいないし!」
・・・・・・・・・・・・。
「俺もだ。お前が嫌いになったことはないぞ」
「な・・・・・・そんなの、デタラメに決まってる! どうせ、私が喋ってる今このときも、「うぜー」とか「めんどくせー」って思ってるんでしょ!?」
「思ってないよ! 律帆ちゃんのためになにかしてあげたいって思ってるよ!!」
・・・・・・私のために?
「・・・・・・あれ? あれ?」
私は今まで、なんでみんなが怖かったんだっけ。
だって、みんな私のことがキライで・・・・・・。
でも、なんで私、みんなが私の事をキライだって思ったんだっけ・・・・・・。
よく考えたら、何も根拠がない。
結局、私の妄想?
「律帆ちゃん」
藍が私を抱きしめる。
あの時、薬のことがバレたときのような不快感はなかった。
むしろ、心地が良かった。
「な・・・・・・なんでよ・・・・・・」
溶けていく、嫌な自分が。
溶けたものが、目から流れ落ちる。
「わ。わたし・・・・・・泣く人とかキライなのに・・・・・・。卒業式で泣いてるやつとかうぜーって思ってるのに・・・・・・」
目頭が熱い。あの小説的表現が、これ以上ないほどに私の状態を表してくれていた。
「あったかいよぉ・・・・・・っ」
涙が止まらない。
あぁ、きっと今の私はブサイクだ、見るに耐えないものだ。
いい年して、泣いてる。
「律帆ちゃん・・・・・・」
「なんで、私が泣いてるか、分かる・・・・・・っ? あんたたちが、優しいからよぉ・・・・・・っ。私をダメ人間にして・・・・・・さぞかし気分がいいでしょうねぇっ・・・・・・!」
藍たちの顔を見る勇気が、私にはなかった。
ただただ、私は藍の胸の中で泣いていた。
恥ずかしかった。
でも、そんな恥ずかしい姿を人にさらけ出すのが初めてだった。
なにか、変わった気がした。




