22話 カシマシストリーム
嘘、だろ?
アナウンスが流れた、聞き間違いでなければカペルがダウンした、とのことだったが。
まさか、そんなことあるのか・・・・・・!? 始まってまだ10分も経ってないのに、そんな早くに!? 一体どんな方法を使って・・・・・・。
痛手だ。かなりの痛手だ。律帆に勘付かれないように山田を選出したのは仕方ないとして、アイカはこっち側だから4対2の構図になるはずだったのに・・・・・・。絶対勝てると思ったのに・・・・・・そんなのアリかよ!!
まずい、律帆をキル出来なくなるかもしれない・・・・・・。手遅れになってからじゃ遅いってのに!
手遅れってのが、具体的に何を指すのかはわからない。でも、なにかまずいことになるような予感がするんだ。
なんで、なんでもっと現実で気にかけてやれなかったのか、今となっては後悔してもしきれない。渚さんに相談したあと、藍に律帆の薬の件を聞くまで律帆のことを全く知らなかった。動画の内容がちょっとおかしくなった事に気づいただけで、まるで律帆の小さな異変に気づいたつもりになってて・・・・・・。
もっと、もっとあいつと話せばよかった。誕生日会のときに見せてくれた笑顔だって、あれだって偽物だったのかよ!! 俺はずっとあいつと仲良くなってる“つもり”だけで、全然そうじゃなかったのかよ!
友達、友達ってなんだっけ。俺があいつのことを好いていたら友達なのか? 俺とあいつの関係はなんなんだよ。
わからない。わからない。わからない。
『先にこっちと出会うか・・・・・・』
『なっ・・・・・・!』
俺は虚ろに歩いていた、するといつの間にか・・・・・・。目の前にホリィが立っていた。
『聞いてよ、あの王子様気取りのやつさ、私を知った気になってべらべら負け惜しみをつらつらと・・・・・・。嫌いなタイプ』
『カペルを、どうやって倒したみゅ。実力ははっきりしてるはずみゅ』
『私のスキルよ。男は私の言うことに逆らえないの』
ま、まさか。ホリィのスキルが渚さんに効いたのか!? あれって、女性VTuberでも中身が男だったら有効なのかよ・・・・・・っ!
というか、だとしたら! 渚さんは男バレしたのか!? キルはされてないものの、一体どれだけフォロワーが減るんだ!?
『さて、わたしは正直、このバトルでなにをしようか決まってないの。相手に勝つ、というのはなんか違う気がする。そしてさらにぶっちゃけると、私についてる大きな組織があるんだけど、その人たちの命令もどうでもいいのよね』
『大きな組織・・・・・・? まさか、それがホリィを変えたのかみゅ!?』
『変えた・・・・・・。まぁ、私にとっては自分のキャラだとか、行動に信念もなにもないわけだから、“変わった”というのがさほど悪い事のようには感じないけど。まぁ、そうなんじゃないの』
『悪いことは言わないみゅ、そんなやつとは縁を切るみゅ! 普通に暮らすほうがよっぽど幸せなはずだみゅ!』
『そうなんだろうね。普通に学校に行って、友達と駄弁って、美味しいもの食べて。それで幸せになれるのは分かってる。でも、ね。こうなっちゃったからには、何か変わったことをしてみたいわよね』
わからない、読めない、律帆の心が。
どうしたら戻ってくれるんだよ・・・・・・。俺達のもとに!
もっと伝えたい、なのに、VTuberとしての肩書きと、モニターという名の障壁が邪魔で本心が伝えられない。
『くそっ! もう知るかよ! VTuberの肩書きとか、今はどうでもいい!!』
『・・・・・・』
『お前に世界を救えとか、そういうことを頼んでるわけじゃないんだよ! ただ、普通の暮らしをして、俺と仲良く、楽しい毎日を送ってほしいって言ってんだよ・・・・・・。それなら! お前にも出来るだろ!? なぁ、俺なにか難しいこと言ってるか!? もうVTuberはやめよう! その大きな組織とやらも縁を切ろう! 知り合いに警察がいるんだ・・・・・・その人に頼めば、きっと縁を切れるからさ! なぁ!』
俺は、心の中を全てさらけ出した。なんでもっと早くこの言葉を言ってやれなかったのか、現実世界で言ってやれなかったのかと、今更になって思う。初めはキルすることが正解だって思ってた。でも実際は違うだろ!? 相手は友達だ! 5年ほどしか付き合いはなかったかもしれないが、それでも友達なんだよ!
『ハルハルを捨てたのね、ほんと馬鹿』
俺は気づくと、ハルハルではなく、自分の言葉を発していた。
『今はそんなの関係ない! 俺は、後悔してるんだ。もっとお前を知ろうとしてやればよかったんだよ! なのに、それを怠ってた。俺に言ってくれれば・・・・・・』
『私さ、自分を人間不信だって人に言う人が嫌いなのよね。それって、べつに人間不信でもなんでもないじゃない。本当に人間不信だったら人に言わないって。所詮自分を普通じゃない誰かだと思いたいだけの構ってちゃんよね』
『なぁ! 聞いてくれよ!』
『『さきゅばしっちゃう魅惑のGGはぁと』』
『なぁ! なぁッッ!!』
体が、動かなくなった。
『動くな』
『う、うわぁぁぁぁぁ!!!』
悔しかった。
俺たちって、そんなに“他人“だったっけ。
普通、こういう時ってもっと話を聞くもんだろ・・・・・・。
藍ほどじゃないけどさ、俺だって5年の付き合いなんだぜ・・・・・・?
律帆が斧を振り下ろす。
『予定変更だ! 俺はお前を迎えに行くからな! 首洗って待ってろよ!!』
ザシュッ・・・・・・。
ハルハル ダウン。
俺は、ダウンと同時にサーバーとの接続を解除して、フルダイブマシンをこじ開けてすぐに家を出た。
「前にお前の家で誕生日会をしてよかったぜ!」
地図は頭に入ってる。俺は、律帆の家に駆け出す。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『と、途中報告っす・・・・・・』
『ホリィがカペルとハルハルをスキルで完全支配、瞬殺してしまいました・・・・・・』
『なんで中の人の情報を知ってるっすかー!! 怖いっす!!』
『それに、ハルハルはダウンしたあと途中棄権。ログアウトしたみたいです』
『こんな試合前代未聞っすよ!?』
『残る黒チームはミリコのみ・・・・・・。目が離せませんっ!!』
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
次で、最後だ。
最後はミリコを倒して終わり。あいつも所詮ネカマの警察官だ、歳は、たしか57歳だったかな、定年退職が近いから最後になにか大きな事件を解決したかったのかもね。
ネットでの付き合いって、意外と怖いものね。何から個人情報が漏れ出すか分からないもの。咲也さんみたいな、裏社会的な感じの人なら簡単に分かるみたいだし。
スキルが使用可能になるまであと10分くらいか、水族館でも見て回ろうかな。
私の足は、自然とクラゲのコーナーに向かっていた。
仄暗い空間の中、ライトアップされた水槽を海月が揺蕩う。
なぜかはわからないけど、私は昔からクラゲが好きだった。忙しなく動く魚やアシカなんかより、断然クラゲのほうが好きだ。
本当は、クラゲを何時間も見ていたかった。なのに、周りの人達はどんどん次のコーナーに移っていって・・・・・・。私は、その流れに飲まれていた。
校外学習のときもだった。クラゲを見ていたら、先生が顔を青くして戻ってきた。「なんでみんなと歩かないの!?」だって。私は答えた。「みんなはいろんなものをちょっとだけ見たいんでしょ? 私はこのクラゲだけ見てたいから、みんながいろんなものを見てる間だけ、クラゲを見てたいの」何も間違ったことは言ってないつもりだった。大人な対応をしていると思っていた。でも、あの時の先生の顔は問題児を見るような、嫌な目だった。
結局、私は先生に連れられて、他の生徒に混ぜられた。息苦しかった。
それから、私はずっと願ってた。ずぅーっと、飽きるまでクラゲを見ていたいと。でも、水族館は遠くにしかなかったから、1人で行けなかったし、お母さんに言ったって無駄なことなんて分かってたから・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
クラゲは、何を考えてるんだろう。何も考えていないかもしれない。そんな生き方は幸せなんだろうか。
ミズクラゲ、アカクラゲ、ビゼンクラゲ、サカサクラゲ、オワンクラゲ。
数ある中でもタコクラゲが好きだ。かわいい。
幸せだ。
クラゲを見ていると、落ち着く。
誰もいない空間だから、なおさらだ。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
どう? 私の気持ちはすごく穏やか。
“あなた”はどう? 落ち着けない?
だったら、私と同じ気持ちになって。
流れる。
光る。
幻想的。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
ほわほわと・・・・・・。
涙がでる。
幸せだ。
1人でいる、この空間に、溶けるように。
空気になる。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
流されない。
人口の水流に流されるクラゲと、流されないわたし。
好きなのに、私とは正反対なもの。
だから、心惹かれるのだろうか。
・・・・・・・・・・・・。
たゆたう。
ずっと、このままでいたい。
きらびやか。
しなやか。
なめらか。
落ち着く、幸せ。
ずっとこのままでいたい。
・・・・・・・・・・・・。
誰も来ないことを祈る。
これからなんてどうでもいい。
ただ、この時間を・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
くらげ
クラゲ
海月
・・・・・・・・・・・・。
ゆっくり。
と、その時、足音がした。
『そうよね・・・・・・オーディエンスには退屈でしょうね・・・・・・』
『見つけました・・・・・・。エキシビジョンとはいえ、本気でやりますよ・・・・・・』
『無性に腹立つヤローだわ・・・・・・』
『とはいえ、みなさんが倒されてしまったので、レベルは3までしか上がらなかったんですがね・・・・・・』
『倒してみなさいよ。ほら、ほら』
『ホリィちゃん!』
背後からモウ1人、ヨク見知ったカオが。
『よかった、会えた! 一緒に戦うよ?』
わたしの空間に、人が集まる。
腹立たしい、犬が自分家の庭にフンを撒き散らすくらいに。
『はぁ? あんた何いってんの?』
『なにって・・・・・・一緒に戦うんだよ?』
『いやいや、視聴者に向けてアピールしなくていいから。私に対して「私は仲間ですよー」アピールとか、ホント無駄だから』
『アピールじゃないよ! だって、仲間でしょ!』
『あぁ、会話が要領を得ないわね・・・・・・』
『今は同じ白チームで、ホリィちゃんの味方だよ!』
『あー、そっか。私を倒すことが裏切りだと思ってるのかな? 晴人とは違って、あんたは友達を倒す覚悟がないんだ。仮にそれが私を救うことになるとしても。それが本当の優しさなのかしらねぇ。それはただの・・・・・・』
『だーかーらー! とにかくミリコちゃんを倒すよー!!』
『これって完全に飛び火ですよね・・・・・・ホリィさんなんか調子悪いし・・・・・・』
ホリィは、自嘲気味な顔から、急に不機嫌な顔になった。
『あんた、底抜けのバカでしょ』
『ひ、ひどっ!?』
『明らかにクライマックス的な場面でさ、もう少しあるでしょ』
『だって! 私こういうときどうすればいいかわからないんだもん!!』
アイカが涙ぐみながら、叫んだ。
・・・・・・これが本音か?
『分かるわけないよ! まだ子供なのに、警察の人と話すことになったり、自分でなんとかしろって言われたって、分かるわけないよ! なにが正解なのか、大人でも分からないのに、私が分かるわけないじゃん!』
『晴人に続いて、私の友達には馬鹿しかいないのかしら・・・・・・』
『バカはそっちだよー! ばーかばーか!!』
『はぁ!?』
『もーっ!! 喧嘩なんてしたことないから分かんないよー!!』
『これって喧嘩だったの?』
『そうだよ!』
『はぁ・・・・・・』
なんというか、藍らしいというか、子供っぽいというか・・・・・・。
『でもさ、分からないことを一緒に笑い合えたり。一緒に考えたり出来るのが友達なんじゃないの!?』
『・・・・・・』
『時間はたっぷりあるんだよ!?』
『あるから何よ・・・・・・』
『たくさん話せるでしょ!!』
『で・・・・・・?』
『そしたらさ・・・・・・』
『あーもう飽きた! もう何も聞きたくない! 鬱陶しい!』
『ホリィちゃん!!』
『『さきゅばしっちゃう魅惑のGGはぁと』』
私はこの地獄を抜け出すべく、ミリコにスキルを使った。
早く、1人になりたい・・・・・・。そうだ、これが終わったらクラゲを見に行こう・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
俺は律帆の家に来ていた。
ようやくたどり着いた・・・・・・。ブオーンと低音を鳴らしながら稼働中のフルダイブマシン、ここに律帆がいる。
中からロックが掛かっていて、正攻法では開けられない。だけど、このフルダイブマシンは何度も組み立てたことがある、それを逆の順序でやれば開く。家から持ってきた工具、これで・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『自害しなさい』
回りくどいのは嫌いだ、だから、スキルを使ってからすぐにミリコに命じた。
『は、はい?』
・・・・・・。
は・・・・・・? は、こっちのセリフよ!
『ど、どういうこと!?』
『な、なにやってるデス!?』
山田がまた微妙なタイミングでやってきた。いや、今はそれどころじゃなくて。
『な、なんで効かないのよ・・・・・・』
『当たり前デスよ・・・・・・』
『なんでよ! あいつの正体は57歳の男性警察官よ!?』
『なーに言ってるデス! ミリコは学生なのデス!』
『ちょっと! ここみちゃん! それ言っちゃだめ!』
『『・・・・・・あ』』
『なーんで私の名前をバラすですかー!!』
『そっちこそ! リアルの関係あるって言っちゃってるし! 学生なんて言って特定されたらどうするんですかー!!』
姦しいVTuber2人組。
え、嘘。間違えた?
この私が・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
あーー!! 恥ずかしい! 恥ずかしい!
完璧に決めるつもりが! 最後の最後に台無しよ!!!
クソっ! クソっ!!
特定が間違えることはない。第一、藍と話してる内容にも警察でしか知り得ない情報があったわ! つまり、あのミリコが偽物だったのよ!
『謀ったなぁ・・・・・・! 田代ォ!!!!』




