21話 さよならも忘れて
『今日の試合はすごいっすよー!!』
『おおー! なんでー?』
『今日はエキシビジョンマッチっす! 夢のドリームチーム爆誕っす!』
『と、いうわけでー本日はゲリラ試合! 事務所の壁を超えたチーム戦でーっす!』
『盛り上がるっすー!!』
いつものしろねこ、くろねこコンビによる開会宣言から始まるこの試合。表面上はいつもと変わらないVTuberバトルだが、その水面下では様々な思惑が渦巻いていた。
『と、いうわけでー! チームを紹介―っ!!』
『黒コーナー! 涼海ミリコ! 渚カペル! 晴宮ハルハル!』
『白コーナー! 闇雲ホリィ アイカ! 山田運命!』
『なんで私がこのメンツに・・・・・・』
『ミリコー! まさかここで戦うことになるなんて思わなかったデス!! リーダーの風格見せてやるデス!』
今回バトルには参加しなかったアンダーソンもVTuberの姿で応援に来ている。
『なんれわらひだけなかまはずれー!?』
『大丈夫、アンちゃん。今度は私の代わりに出てくれたらいいよ』
『ふまんですが、がまんしてやるのれす』
『仲いいんだね、君たち』
『えぇ、腐れ縁です』
『腐れ縁・・・・・・』
『ハルハル、頑張るよ。これは、君だけの戦いじゃないんだ』
『・・・・・・分かってるみゅ』
渚カペルの言葉に少し物憂げな顔を見せるハルハル、この戦いの重大さは痛いほど分かっている。
ホリィをキルする。
キル、というのはいわゆるアカウントBANだ。ダウンを取った相手に、更に攻撃を加えることでキルをすることが出来る。キルをされた場合は、永久にそのアバターを使うことはできなくなり、VTuberとしての生命を絶たれる。当然ながら、現実での体に影響が起こるわけではない。
だが、一瞬で、それこそファンにさよならを言うことも出来ずに、気づけば現実世界に戻ってしまうのだ。そして、VTuberとしての自分は消える。そのときの絶望感、あっけなく終わる人生は、筆舌に尽くしがたい・・・・・・。
このキル要素は社長である白夜の“リアルが欲しい”というだけの理由で組み込まれたシステムだ。やたらめったらキルすれば反感を買うのはみんな分かっている。だから、人気が落ち目なVTuberが狙われるのだ。アイカの周りにはお人好しなVTuberが“意図的に”集められていた。しかし、実際の世界はそんなメルヘンなものではない。視聴者に飽きられれば、ファンが残っていようが容赦なくキルされる。所詮流行りなんて一過性のもの、大衆は新しく輝かしいVTuberにしか興味がないのだ。
『ねぇ、ホリィちゃん、顔が固くなってるよー! もっとすまいるー!!』
『・・・・・・』
『え、えへへ・・・・・・』
『ふっふっふ、まさかお前達と組む日が来ようとは思わなかったデス! あのときは敵でも、今は背中を預けるパートナー・・・・・・。勝つデスよ!!』
全く事情を理解していない山田は、2人にグータッチの構えをとる。しかし、反応してくれたのはアイカだけで、ホリィは侮蔑の目を向けた。
『ふっ、事情を知らないのが1人いるみたいね』
『ん? なに言ってるデス?』
『なにも』
『というか! キャラが変わってるデス! あの時のホリィはどこ行ったデスかー!!』
『ひどい! やまだひゃん、しぬほろくうきよめねーです!!』
観客席からアンダーソンが大声で叫ぶ。
『さぁ! 覚悟は決まったっすかー!?』
『本日の舞台は水族館!! お魚いっぱいでおいしそーですが、気をとられないように戦ってくださいねー!』
『『それでは! バトルスタート!!』』
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
この戦い、負けられないね。
なんたって、晴人くんの友達を助けるためなんだから。
一度、彼女をこっちの世界から隔離させないと。そして、本当の温もりを知るべきなんだ。こんな、偽りの関係、偽りの姿、偽物だらけに囲まれた世界に、彼女のような多感で繊細な子を連れてきてはいけなかったんだ。
なんて、僕は彼女のこと何も知らないのにね。一度は刃を交えた相手だけど、あの時の仕草も表情も、全部偽物だったんだから。
彼女をキルできた暁には、出来ることなら会ってみたい。本当の声、姿を知りたい。
そのためにも。
『勝たなくちゃね、君も応援してくれるかな』
虚空に語りかける。
この世界の声はパブリックだ。
みんな知ってる。
『こんな世界じゃ、おかしくなるのも無理ないよ』
『それは勘違いね』
『っ!?』
そこにいたのは、ホリィだった。
『あなたは、わたしのことを勘違いしてるみたいだと思うの』
『勘違い・・・・・・?』
『私が変わったのはVTuberのせいじゃない。そして、変わったのはいいことよ』
『いいこと?』
『人間ってね、過去を恥ずかしがるものだと思うの。子供のころにおねしょしたこととか、波浪警報の波浪をハローと勘違いしてた小学4年生の頃とか、親の見様見真似でお化粧をして外をひどい顔で出歩いてた中学1年生の頃とか。それは今だってそう。中学3年生になった私も、いつだって1週間前の自分は恥ずかしかったと思いながら生きてる』
『な、なんの話?』
『でね、前に私友達に言ったの。「今はちゃんと成長して、立派なオトナ」だって。でも、そんなことなかった。結局、自分が無知なのを自覚してないだけだったの。それで中学生が大人を気取るんだから、本当に恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないわよね』
『ちょ、ちょっと!』
爆弾発言・・・・・・? え、嘘! 私と同じ!
嘘だろ、俺達のホリィが中学生だったなんて、最高じゃねぇか
JC!JC!JC!JC! これあかんやつや・・・・・・
これアーカイブ残りますか? ホリィこわれる
自称中学生は激イタでは
全く、中学生は最高だぜ! ←何歳だよお前wwww
案の定コメントがすごいことになっている。
『君は、何をしようとしているんだ・・・・・・?』
『別に・・・・・・。私は私がしたいことをするだけよ』
なぜかはわからない。やけに心が澄んでいる。
いつものピリピリする感触がない。まるで草原の中に1人で立っているようだ。
水族館だから? いや、違うな。眼の前の敵が異質すぎるんだ。
僕は柄にもなく足をゆっくりとひいた。
『私、もうバトルなんてめんどくさいのよ。飽きちゃった、レベル上げに奔走するのも、味方を探しに行くのも面倒で仕方ない』
『だったら、終わらせる!』
引いた足で地を蹴って、ホリィに斬りかかる!
『『さきゅばしっちゃう魅惑のGGはぁと』』
・・・・・・。
体が、動かない。
意識が、朦朧と・・・・・・。
意思が、吸い取られるように・・・・・・。
『ヒントをくれたのは、あなただったわね。覚えてる? 半年前の試合の時よ』
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『僕のスキルは『カリスマ』、VTuber以外の動物を自由に操れるのさ』
『私の完全上位互換じゃない!!』
『悪いね』
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『私のスキルにはね、そんなト書きなかったのよ。”Vtuber以外の動物”なんて。つまり、オスに分類される全ての生命体に、この技は有効なのよ』
『どっ、どうなってるデス!?』
偶然、山田が2人を見つけて駆け寄ってきた。
『私のスキルで彼を支配したところよ』
『そんなことが出来るデスか!? すっげーデス!! ・・・・・・あれ? たしか、男にしか効かないスキルだったと思うデスが・・・・・・』
『察しが悪いわね・・・・・・』
『ん?』
『そう、僕は男なんだよ・・・・・・いわゆる中の人はね』
『え、えぇ~っ!?!? いきなりの大暴露デス!! そんなこと言っていいんデスか!?!?』
『つくづく頭の悪いヤツね・・・・・・。このスキルが有効な時点でもう割れてんのよ!』
頭をかきむしって、続ける。
『渚悟、埼玉県在住の大学2年生。実家暮らしで、妹が1人、両親と4人で暮らしている』
『まいったな・・・・・・。帰るのが怖いや』
『ふんっ、最後までスカして、いけ好かないわ』
『君は、なんでそんなに嫌われたがってるんだい?』
『あぁ?』
『見れば分かるよ。どんなに人間が嫌いな人でも、人に嫌われようとする人はなかなかいないからね。君は、何か理由があって、そうやってヴィランを演じているんだろう?』
『あー、何言っちゃってんのかしら。黒歴史確定ね、人のことを知っているかのように喋っちゃってさ。残念ながら、特に意味はないわ。ただ、こうやれば面白いかなって興味本位のもと、深く考えずに動いてるだけよ。私は幸い、積み重ねてるものも、失いたくないものもないから、好き勝手やれる自由があるの』
『そうか・・・・・・』
わからない。僕には彼女の行動も、心理も理解できないみたいだ。
『もういいや、あんたと話しても禅問答よ』
そっぽを向いたかと思うと、ゆっくりとこちらを振り返って、彼女はこういった。
『自害しなさい』
『ええ、よろこんで』
彼女の支配下におかれた僕は、逆らうことも出来ずに剣を首にあてがった。
晴人くん、君にしか彼女を救えないみたいだ。
何も役に立てなくて・・・・・・ごめん。
シュッ・・・・・・。
カペル、ダウン。
『す、すごいデス・・・・・・だけど、なんでカペルのことを・・・・・・』
『・・・・・・知ってることをかっこよく演出するのが、物知りに見せかける方法よ』
『こ、答えになってないデス・・・・・・』
変わってしまったホリィの姿に、山田は震えた。
怯える山田には目もくれず、あてもなく彷徨うように、ホリィは歩き出す。
『ミリコ・・・・・・。いや、田代竜二・・・・・・。あなたも私の敵よ・・・・・・』
『な、なんていったデス・・・・・・?』
『・・・・・・』
再び歩き出したホリィ。山田は悩んだ末、彼女とは反対の方向に歩き始めた。




