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19話 素晴らしい日々

 5


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 3


 2


 1


 もう、1錠しかない。


 怖い、私が前と同じように無能に戻ってしまうのが。


 バイトだって、ようやく認められ始めたのに。


 ついに普通になれたと思ったのに。


 安心できない、安心できないという恐怖は私の中で一番怖い、じわじわと私の精神を蝕んでいく。


 仕方ない、節約するしかない。今度こそ我慢しよう。と、3錠目を飲んだあたりから思ってはいるものの、薬が切れると途端に苦しくなって、どうしても飲んでしまう。


 覚せい剤なんかと違って、服用しても体がボロボロになったりはしないのだから、大丈夫だろうと自分に言い聞かせて、ずっと飲んできた。


 「律帆ちゃん、なんだか最近しんどそうだよ?」


 「そんなことないわよ」


 「なにか困ったことがあるの? 相談なら聞くよ・・・・・・?」


 「何でもないわよっ!! いい加減しつこいのよ! 少しでいいから落ち着かせてよ!」


 他人が入ってくる。私の中に。イヤだ、イヤだ・・・・・・。やめてよ、私を1人でいさせてよっ!!


 「ご・・・・・・ごめんね」


 そろそろ昼の12時、薬が切れる。


 今日はバイトもない、だから飲む必要はない。


 だけど、ここまできて1錠残すのも気持ち悪い、飲もう、そのあとは苦しんだりしないだろうし。うん、飲む。


 「・・・・・・」


 結局飲んでしまった。空になった錠剤のシート、むなしくて見てられなかったからすぐにごみ箱に捨てた。


 その姿を、藍が見てくる。なによ、私に文句があるの? 気味悪がってるの!? どいつもこいつも私を精神異常者扱いして・・・・・・っ!


 私は自席に座って頭を抱える。


 これからどうしよう。薬を手に入れるために私が出来ること・・・・・・。


 VTuberで稼いだお金が余るほどあるから、買う分には全く問題ないのに、肝心の購入ルートが分からない。私が使える手は、私の持つ力は・・・・・・。


 VTuber・・・・・・。


 「律帆ちゃん・・・・・・」


 「なに!? 私今考え事してるのっ! 言ったでしょ!? いい加減しつこいのよ!」


 藍の、今にも泣き出しそうな顔。


 ・・・・・・えっ?


 私は目を疑った。


 藍が持っている、それは・・・・・・。


 「このお薬って・・・・・・。もってるだけで犯罪になる・・・・・・」


 な、なんで・・・・・・。それを。


 あ、そうだ私、普通にごみ箱に捨てちゃったんだっけ。


 ばかだな、私。そうか、薬が切れかかってたわけで、本来の自分ってホント杜撰でバカ。


 「そんなわけないじゃない、そんな危ない薬。もともと捨ててあったのよ」


 「ねぇ、いっしょに病院行こう?」


 バカっ! なんでこんなに人がいるところで話すのよっ!!


 がしっ。


 私は藍の腕を取り、そのまま教室を駆けだした。


 「だ、大丈夫だよ・・・・・・。未成年だからっ、許してもらえるよ・・・・・・」


 「うるさいうるさいっ!!」


 薬、飲んでおいてよかった。今なら、どういう対処をすればいいかよく分かる。


 とはいっても、薬を飲んだせいでばれたわけだけど、因果応報ってやつね。


 藍を空き教室に連れ込む。


 すぐさま藍を壁に追い詰め、壁を強く叩いて威圧する。


 「あんた、本当に馬鹿よ。なに? みんなの前で私を犯罪者だってバラそうとしたわけ?」


 「そうじゃなくって・・・・・・」


 「で、私がもしその薬を使ってたとして、なんで普通のごみ箱に捨てるなんて馬鹿なことするわけ? そんなわけないじゃない」


 「もしかして、助けてほしかったのかなって」


 「はぁ?」


 「わざと見つかって、誰かに叱ってもらってほしかったんじゃない?」


 バカすぎでしょ。メルヘンな絵本の読みすぎだっての。そんなわけない、私がただそこ知らずなおっちょこちょいのバカだっただけよ!


 「ねぇ、お医者さんにみてもらお? あのね、このお薬って、いぞんせいっていうのがあって、やめられなくなる薬だって・・・・・・」


 「そんなわけない! 何度も飲んだけど副作用なんてなかった!!」


 「でも、ミリコさんがそう言って・・・・・・」


 ミリコ? あのVTuberか。余計な入れ知恵を。


 「大丈夫、大丈夫だよ・・・・・・」


 そういって、藍が私を抱きしめる。


 きもいキモイキモイキモイキモイキモイキモイ!!!!!


 「やめてっ!!」


 「えっ・・・・・・」


 「なんでどいつもこいつも私を精神異常者扱いするの!? まずその憐れむような眼をやめて!! 私が病気だって言いたいんでしょ!? それを分かって、私を助けることでマウントを取りたいんだ!! 結局他人を助けようとする奴なんてどいつもこいつも自分が気持ちよくなりたいだけなのよ!」


 「そんなこと・・・・・・っ。ないよっ!」


 「信じられるかっ! 自分以外の人間なんて、何を考えてるかなんてわかったもんじゃないのよ!! きっと、私の考えてることを誰かが読んでるのよ。そうよ、もしかしたら私以外の人間は人の心の中がすべて見えてるのかもしれない、ただ私がこんな薬に頼らないといけないようなおかしい人間だからそれに気づいてないだけで、普通の人間は言葉にするまでもなく普通に心を読めるのかもしれない!!」


 「お、落ち着いてよ! さっきから言ってることがおかしいよ!」


 「おかしくない! 可能性の話をしているの! 0%なんてないでしょ! この世に!」


 藍の顔がどんどん歪んでいく。


 「だからっ! やめてって言ってるでしょ! その眼でみるな!! あぁっ!!」


 私は駆けだした。もう無理だと悟った。


 はじめてだった、まじめな私は、学校も終わってないのに校門を飛び出したことなんてなかった。不思議な感じだった、まるで異世界へ飛び出したような、そんな気分。


 私は走った。気づくと、家の前にいた。


 こんな時間に帰ったら、お母さんにばれるし・・・・・・。


 その時だった、道路の突き当り、丁字路に見覚えのある影が見えた。


 あれは! 間違いない! あの時私にぶつかった! 薬を持ってる人だ!


 いざなわれるように、その影を追って走り出した。そして、丁字路を右に曲がった影を追って、私も同じように右に曲がった。


 そこには車が一台止まっていた。


 「え」


 大柄な男が2人、私の前にいた。


 突然強引に体を押さえつけられた。


 捕まった、どれだけもがいても逃げられそうにない。信じられないほど太い腕が絡み、動くことは出来なかった。気持ち悪い。


 餌でぶくぶくと太らされ、屠畜場の籠に詰められた鶏のような気持ちだった。


 「やめてっ! んぐっ!?!? んーーっ!!!」


 口をふさがれた、意識が遠のく。


 あがいても無駄だという事が分かると、私は涙を流しながら身を任せた。


 お母さん。藍。晴人・・・・・・。


 私は、落ちた。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 ぼんやりと視界が広がる。それでも、泣き続けたせいで、視界はぼやけたままだった。


 「手荒な真似をしてすまなかったね」


 目の前には、椅子に座った男の人がいた。


 「こ、殺さないで・・・・・・。何でもしますからっ!!」


 私はすぐに頭を地面にこすりつけて服従の意を見せた。


 私の中に反抗する意思は全くないと、そのために必死で「お願いします」と連呼した。


 「2人共、脅かし過ぎだね」


 「し、しかし暴れるので!」


 「大声をだそうとしてましたし・・・・・・」


 「理由は聞いていないよ。やりすぎだと言ったんだ。僕は、ただ話がしたいだけだからね」


 「「す、すいません」」


 「謹慎処分だ、しばらく頭を冷やして」


 そういうと、何人かが扉の向こうから現れ、2人を連れ出した。


 「すまないね、相当手荒な真似をされたようだ」


 おそらくこの中で一番偉い人、が、私を優しい目で見る。


 「落ち着いてくれ。君に危害を加えるつもりは全くないからね」


 不思議と、気分がやわらいできた。


 「じゃあ、なんで私を?」


 「君に手伝って欲しいことがあるんだ」


 そう言われて、私は豪華な食事の並んだ部屋に案内された。


 「安心して、毒が入ってるわけはないし、別にこの食事に見合った仕事をしろと脅しているわけでもない。食事をしながらの話の方が、落ち着くだろう? だから食事の席を設けたにすぎないのさ」


 「た、食べていいんですか?」


 「もちろん」


 別にお腹がすいてるわけではなかった。


 私は一番近くの席に座って、目の前にある皿に料理を取り分けた。サラダや鴨のお肉が並んでいて、ヘルシーでおいしそうだった。


 「さて、僕も」


 そういって、彼も料理を食べ始めた。私は、この人がどこかの国の王子に見えた。どこかマイペースで、だけど気品はあって。


 「僕の名前は咲也。君の名前は?」


 「律帆です、でも、さっき私の名前呼んでませんでしたか?」


 「うん、そうだね。一応、君のことは知ってるんだ。“昔から”」


 だったら、なんでわざわざ名前を聞いたのか。そう聞こうと思ったけど、下手に口を出して怒られると怖いからやめた。


 「裁判傍聴ってしたことある? 裁判の最初にさ、自分の名前をいえますか? って質問があるんだよ。面接だってわざわざ自分の名前を言うでしょ? どっちも、わざわざ知ってることを聞くの、なんでだろうね」


 「なんででしょうか・・・・・・」


 「おっと、くだらない話をしてる場合じゃなかった。早速本題に入るんだけど、君にはキャスメルが世間に認められるよう、トレンドVTuberの地位を利用して広めてほしいんだ」


 「し、知ってるんですか? 私がホリィだってこと・・・・・・」


 「うん、そうだよ。だけど、別に君に限った話じゃない。1日あればどんなVTuberの情報だって分かるよ」


 すごい・・・・・・。


 「でね、君にはお試しで4日分の薬を渡した、うちで作ってる特別製のやつを。それを使ってもらって、その薬の有用性とすごさについてはよく分かってもらえたはずだよ」


 「はい」


 「だからね、その素晴らしい薬を、困ってる人たちに届けてあげたいんだ。だけど、それを法律が邪魔してる。だから、君の立場を利用して、世界中の人にもっと薬について知ってもらって、薬の法案をゆがめる。それが僕たちの作戦なんだよ」


 「でも、副作用が」


 藍には副作用なんてないといったけど、正直、私も副作用を恐れてる。


 「知ってるかい? この世に存在する薬には副作用のない薬は存在しないんだ。だけど、世の中の薬やワクチンは普通に使用されている。だから、この薬だけが禁止になるなんてあってはいけないんだ。人間には、道を選べる権利も必要なんだよ」


 「私も、そう思います。それに、生まれつきの矯正出来ない特性で人生を台無しにされるなんて、本当につらい」


 「そうだよね。だから僕たちは活動している」


 「分かりました。私に出来ることなら、なんだってやってみせます」


 「そういってくれると思っていたよ、君は僕の同志だ。協力して、少しでもいい世界を作っていこう」


 「はい」


 「じゃあ、とりあえず薬を1か月分渡しておくよ。薬が切れるころにまたなんとかしてコンタクトするから安心して」


 「あ、ありがとうございます!」


 ようやく、また一息つけそうだ。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 咲也さんとお別れしてから私は車に乗せられて、いつの間にか家の前に着いていた。


 翌日、土曜日。私は薬を飲まなかった。もう一度、薬がなくても生活できるかをチャレンジしてみたかったからだ。


 これで無理なら、あきらめる。薬に頼る生活を送る事にする。


 午前はなんとか家でいるだけだから、何とか耐えられた。けれど、午後からバイトだった。憂鬱だったけど、頑張ろうと思った。


 そして、憂鬱なバイトが始まった。


 バイト開始から2時間、何度も躓き、何も考える暇がないほどに忙しい。


 私は、商品を袋につめながら、これまでのバイトを振り返っていた。


 思い返せば、そろそろ2年目になるかな。同時期に入った人は当然だけど、後から入ってきた人もすっかりなじんで、仕事は私の倍出来るし、働いた後はバイト先の人とご飯を食べに行ったりしてる。


 なんでだろう、なんでここまで続けてきたんだろう。私には苦手な仕事だって、1か月したときにはわかってたはずなのに。


 でも、苦手だから、だからこそ頑張れば人並にできるんだって証明したかったのに。


 なんでだろう、2年も続けてきた仕事なのに、未だに初めて知ることばかりだ。今日は袋に詰める順番を教えてもらった。先月入った人はもう指摘されずに普通に出来てるっていうのに、なんで2年もやってて知らなかったんだろう。


 自分の2年は、他の人の1か月にしかすぎない、下手すればそれ以下なんだと思うと、本当に無力だと感じる。


 薬が切れたら、もう今まで通りの無能に逆戻りしていた。知識も記憶も持っているはずなのに。もう、思考がとめどなくあふれてきて止まらない。だからまたミスをして、指摘されて。


 今日も注意、何回目の注意? 初めての注意、だと思う。


 あぁ、だめだ、こうなったら最後、今日もミスだらけ。


 「これ入れる時はこっちの袋がいいから、次から気を付けてね」


 バンっ!!


 私は衝動的にドリンクの入ったカップを上から殴りつけた。


 ようやく進んだ。2年間なにも進まなかったこの仕事が、物語が。


 「え・・・・・・、ど、どうしたの?」


 「意味なんてなかった。意味なんてなかったのこの2年に」


 注文は絶え間なく入ってくる。だから誰も手を止めなかった、ただマネージャーだけが私に声をかけていた。


 マネージャーは声を失っていた。2年間もおとなしくまじめに働いていた私がこんなことをしたのだから、怒るべきか、慰めるべきか分からなかったのかもしれない。すべては私の妄想でしかないけれど。


 「誰だって、頑張れば人並に出来るものだと思ってた。でも、そんなことなかった。どれだけ頑張っても、鳥の群れに混じろうと、所詮鳥じゃない私は空を飛べないの」


 もうここまでやったのだから仕方ない。全部吐き出してしまおう。


 「情けない話なのは分かってる! だけど、どれだけどれだけ働いても! 頑張っても、すぐに後から入ってきた人に負け続けるこの気持ちっ、分かる!? 上手くいく方法すらわからない。みんな、鳥が飛ぶのと同じように、いつの間にか当たり前のように空を飛んでる!」


 「鳥は生まれつき飛べないの、鶯が鳴くのも、親鳥に教わってからようやく身につけるものなのよ?」

 

 死ぬほどどうでもいいことで揚げ足をとってくる、そろそろイライラしてきた。流れ続けるジャンクフードの流れを私がせき止めて、私は自ら濁流のような思いを垂れ流し続ける。

 

 「それに、最近はミスも減ってきて、お仕事が楽しくなってきたって言ってたじゃない」

 

 それは、薬があったから! 一般人なら楽しいでしょうよ! でも、私は違うの!

 

 「無駄だったの! 頑張れば出来るなんて、そんなのまやかし! 見せかけだけでは出来てるように見せかけることならできるかもしれないけど、実際は本当に見た目だけ! 教わったことしかできない! 自分で考えれば絶対それは間違ってると指摘される! だけど教わったことをしっかり守っても、毎日毎日小さなことで注意される! どうせいつまでたっても一人前にはなれない! なれる未来が見えない! だって出来ないんだもん! 普通の人が普通にやる、この普通が分からないのに! 普通っていつ身につけるものなの!? 身につくものなの!? いったいどこで、どういうきっかけで身につくものなの!! 普通にやれ、普通に考えて、普通にいれば。一生懸命普通を考えてやっても、どこかおかしいって言われる気持ち考えたことないでしょ! ない! 絶対ない!」

 

 私の足は、勝手に動いていた。

 

 頭の中は空っぽだけど、目の前の景色がどんどん変わっていく。誰も止めなかった、止めなかったのか止められなかったのかは知らないけれど。


 控室に戻って、着替えてカバンを持つくらいの理性はあった。控室を出たとき、待ち伏せしていたマネージャーに出くわした。


 「疲れてるんだよね、今日は帰ってもいいから、しっかり休んで・・・・・・」


 「いや、もうやめます」


 かちゃ


 すぐにバックヤードのドアノブに手をかけていた。せっかくだからあの話もしておこうと、後ろを振り返って言った。


 「あなたの名前、最後まで覚えずじまいでした。というか、2年間も働きましたが、誰1人名前を覚えた人はいませんでした」


 私はすぐにその場を去りたくて、駆け足で店を飛び出した。


 自転車を10分ほど走らせ、家の近くの山のふもとにある鳥居の下で、座って星を眺める。


 思い返せば、よく名前も覚えずに2年も働けたものだな。


 困るのは○○さんに伝えておいてと言われた時。大体、他の人に「○○さんはどこですか?」と聞いて、指を差した先の人に話しかけていた。大体分かれば、あとは胸の名札を見れば確定するから、この方法が一番楽ちん。初めのころは1人1人の名札を順番にじろじろ見てたけど、それだと時間がかかるからこの方法を編み出した。


 こういうことなんだよね、見せかけは出来てるように見えても、結局普通の人には出来ることが出来ない。


 名前を覚えようと努力はもちろんしてる、けど、全く覚えられない。同級生なら、まぁなんとなく日常会話をするから「電車が好きな人は松井くん」といったふうに覚えられるけど、バイト先では全くそんな会話はしないから、顔と立ち位置でしか見分けられない。出来れば控室に貼ってある顔写真と名前の一覧を写真で保存したかったけど、控室は撮影禁止だし。バイト前もバイト後も忙しくてゆっくり顔を覚える時間はないし、何度見ても、覚えられないし・・・・・・。


 だから、顔はみんな同じに見えるし、立ち位置はなんか時間によって変わってるしで意味不明。よく聞く名前だと、増井、松居、和久井。どれも“い”で終わるから同じにしか聞こえないし。なんでこんなややこしいのを自然に覚えてるわけ? 誕生日をしっかり覚えてるのも意味不明。私なんて親の誕生日すらまったく見当がつかないのに。


 はぁーあ、つくづく自分が嫌になる。『人には得手不得手があるものだよ』とか言う人いるけど、その不得手が致命的だったらどうしようもない。はぁ、ほんと嫌になる。

 

 星を眺めていると、そんな愚痴が次から次へと浮かんで溜まっていく。今の私には、星空が見下ろした地面のように見えた。すごく狭くて、近くて不気味。『星空を眺めていると、自分の悩みもちっぽけに思えてくる』とか言う人いるけど、そんなことない。ただのナルシストの妄言にしか聞こえない。

 

 星空を眺めていると、不思議とどんどん愚痴があふれてくる。で、それが溜まっていく。たまに2分前に考えたことを思い出して、ため息をつく。このままだとずーっと嫌なことが生まれてくる気がする。永遠に。

 

 やっぱり、私にはあの薬が必要だ。

 

 一生付き合っていくことになる己の出来の悪い脳みそとのこれからの生活を想像すると、不思議と涙が頬を伝う。目のあたりが熱くなるのを感じながら、私は寒空の中、ずっと星空を眺めていた。

挿絵(By みてみん)


おまけ ぷちジャン8期生 デザインラフ(決定稿)

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