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15話 アイカノ詩

 「特大ニュースでーす!」


 学校の帰り道、藍が突然「今日私の家にきて! 理由はまだ内緒!」と、2人を誘ったのだった、それで、今は藍のVTuber部屋に3人が集まっている。


 「なに? 私忙しいんだからつまらない事だったら怒るわよ」


 「お前、なんか最近不機嫌だよな」


 「忙しいだけよ」


 「いやいや! ほんとにすごいんだってば!」


 突然、藍は膝を少し曲げ、手でふとももをドラムロールのようにぺたぺた叩き始める。


 「でゅくでゅくでゅくでゅく・・・・・・。でゅん! なんと! 私たちオリジナル曲でライブをすることになりましたー!!!」


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 「「それはすごい!!!!」」

 

 2人は目を丸くして藍の方を向く。

 

 「すごいじゃないそれ! ついにメジャーデビュー!?」

 

 「でも冷静に考えたら俺、歌うの苦手なんだが。というか高い声でねぇし」

 

 「うん、だから歌は私と律帆ちゃんですることになるかなーって、お父さんが言ってた」

 

 「じゃあ俺はギターでも弾けばいいのか?」

 

 「がんばって練習してね!」

 

 「んな、無茶な・・・・・・」

 

 「メインボーカルは私たちでいいけど、晴人にも少しは歌ってもらいましょ。せっかくの3人の曲なんだから。で、オリジナル曲ってどうするの? 歌詞とかも外注?」

 

 「いや、なんかね、私たちも色々希望を出したり出来るんだって。作曲する人と打合せして作るらしいよ」

 

 「かなり道のりは長そうね」

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 それから1週間後、作曲者とのオンラインミーティングが始まった。

 

 『それでは、よろしくお願いします』

 

 無機質な空間に1つだけ置かれたテーブルに、1対3になるような形で向き合って座る。

 

 『おねがいします!』

 

 『それでは、お願いしていた曲全体のイメージや、使いたいフレーズを見せてもらえますか?』

 

 『あらぁ、欲しがりさんねぇ・・・・・・。はい、これよぉ』

 

 『普通にお願いします』

 

 『あ、はい、すみません、仮想空間だと癖で・・・・・・』

 

 『分かるなー。最近は晴人くんもリアルで女の子座りするし』

 

 『その話はやめろみゅ』

 

 ホリィがあらかじめ用意しておいた資料を共有する。

 

 『わたしたちは、とりあえずボーカル2人のデュエット、ハルハルが楽器を演奏して、たまに合いの手を入れる感じでどうかと思ってます』

 

 『・・・・・・まじめなホリィちゃんってレアだね』

 

 アイカがハルハルに耳打ちする。

 

 『・・・・・・なんか気持ち悪いみゅ』

 

 『ふむ。いいと思います。曲調は?』

 

 『ポップな感じで、令和特有のコミカルでキャッチ―な要素も入れつつですかね。メッセージ性よりも語感を大事にして、前奏は短めに印象に残りやすい曲がいいかと』

 

 『ホリィちゃんすごい・・・・・・』

 

 『オタクだからみゅ・・・・・・』

 

 『分かりました、それでは次は歌詞の方を・・・・・・』

 

 その後も打合せが続いた。なんとか伝えたいことを伝えきったところで、2週間後、ラフ版が3稿完成した。3人は再び藍の部屋に集まり曲を聞いていた。

 

 「たった2週間で3曲も出来るってすごいよね」

 

 「とはいっても、曲自体はほぼ同じだな。歌詞と歌い方が違う」

 

 「全部まだ1番しかないけど、私たちのアイデアがもう曲になってるわ。こうやって曲って出来るのね、すごい、感動だわ・・・・・・っ!」

 

 「うん! すごいすごい! 私たちの歌だよ!? びっくりだよねー!!」

 

 「夢じゃないもんな」

 

 「まだ信じられないよー、私のほっぺ引っ張ってみて!」

 

 「俺はいい、律帆頼んだ」

 

 「なんでー?」

 

 「じゃあ私が代わりに」

 

 律帆は容赦なく藍の頬をつねって、引き伸ばす。

 

 「いらいー! 本気は痛いー!!」

 

 「ごっ、ごめん・・・・・・」

 

 「そんな謝らなくてもいいのにー」

 

 つねられた藍よりも、律帆のほうが暗い顔をしていた。

 

 「ところで、ラフ画とかのラフと、笑うって意味のラフってスペルは違うのかしら?」

 

 「唐突すぎるだろ」

 

 「ごめん・・・・・・」

 

 「だから別に謝らなくても・・・・・・」

 

 律帆の物憂げな顔、少し打たれ弱い律帆に、2人は首をかしげた。

 

 その日はなんだかんだ雑談で終わってしまったのだが、次の日にはまたオンラインミーティングがあった。

 

 『すごくよかったです!』

 

 『そうですか、それはよかった。では、どのサンプルがよかったですか?』

 

 『それがね・・・・・・』

 

 『結局絞れなかったのよ』

 

 『まぁ、仕方ないですね。どうしますか?』

 

 『私思ったんだけど、なんとなく流れはつかめたし、ここからもう一案みんなで作らない?』

 

 『それっていいの?』

 

 『ええ、私は構いませんよ。より良い曲が作れるならどれだけ時間をかけてもいい』

 

 『いい人みゅ』

 

 そんなこんなで、3案の中で好きなところを混ぜたり、新しいメロディーを考えたり、たくさんのフレーズを次々に生み出していった。

 

 『ふんふんふーん↑ふふん↓ふーん。とかどうかな?』

 

 『ごめん、全く分かんない』

 

 『2人はボイストレーニングから始めたほうがいいかもみゅ』

 

 『確かにね。歌の練習もしなきゃいけないんだよね・・・・・・』

 

 『当たり前のように歌唱力まで求められるんだから、VTuberも楽じゃないわね』

 

 『茨の道みゅ』

 

 『はぁ、バイトも忙しいし、気が重いわ』

 

 『疲れてるの?』

 

 『・・・・・・別に』

 

 律帆は藍の言葉をけんもほろろに返した。それでも律帆の感情を感じ取ったのか、藍は明るい顔を作ってもう一度声をかけた。

 

 『そんな時は、自分にやさしくするのが大切って、お母さん言ってたよ! 美味しいもの食べて、いっぱい寝れば大丈夫!』

 

 『美味しいものを食べるだけのお金がなかったら?』

 

 『そんなときは・・・・・・』

 

 『まぁ、実際はお金なんて十分にあるんだけどね。少しいじわるしたわ』

 

 『そんなときは、ちょっとの時間とご機嫌な曲があればいいんですよ』

 

 2人の雑談に、作曲者が割入ってきた。

 

 『私が作っているのはそういう曲、だれかに生きる場所を与える希望の曲』

 

 突然席を立って、語り始める。

 

 『音楽にはすごい力がある。心霊スポットにいたとしても、ジャズを聞けば心が躍るし、しんどいときにはしんみりした曲がそばにいてくれる。プロが作った曲にも、素人の作った曲にも、その力はある。だから私は音楽を作っているんです』

 

 『音楽の力・・・・・・』

 

 『先ほどの話から、少し見えてきました。こういうのはどうです?』

 

 ただの雑談が、曲を完成させる最後の1ピースとなった。案外、雑談の中で生まれる言葉こそ、飾らない本当の気持ちなのかもしれない。

 

 作曲家がその場で披露した完成版の歌を元に、2人は必死に歌の練習をした。1か月後、編曲も含めた完成版が届き、それからさらに2週間練習に練習を繰り返した。

 

 『担当のラップパートが出来たせいで練習量も2倍みゅ、実に大変みゅ』

 

 『ふーん、ギターって初めて触った』

 

 『無視か・・・・・・。ほら、ちょっと貸してみるみゅ』

 

 じゃっじゃー、じゃじゃじゃん

 

 『これが練習の成果みゅ!』

 

 『すごーい! もうこんなに弾けるようになったの!?』

 

 『どうやって弾くの?』

 

 『ここを手で押さえて、右手は一定のリズムで……』

 

 1時間後

 

 じゃっじゃー、じゃじゃじゃん


 『なんだ、意外と簡単ね』

 

 『私の2カ月を返せみゅー!!』

 

 『すごーい!』

 

 『私が普通の上達スピードみゅ! こいつが普通じゃないんだみゅ!』

 

 『まぁ、曲を聞くのは好きだし、コードの運指さえ覚えれば脳内リズムに合わせて勝手に手が動くだけよ』

 

 『脳内リズムってなにみゅ! 天才すぎるぅーっっ!!』

 

 方向性の違い、解散の危機、まさかの三角関係がありながらも(大嘘)、それからさらに1か月の猛練習。オリジナル曲を歌うことが決まってから3か月後、ついにお披露目ライブが開かれた。

 

 『しろねこっす! 今日のクリスマス直前ライブ! ラストの曲はなななんと、ネクステ18期生のオリジナルソングっす! 4900万人も集まってくれたこのVスタジオライブ会場! 最後はどーんと盛り上げてほしいっすー!!』

 

 『本日のスポンサーは、リアルの娯楽を提供する、リースリバーと・・・・・・』

 

 司会がスポンサーの名前を読み上げている間。3人は舞台袖でスタンバイしていた。

 

 『ホリィちゃん、調子はどう?』

 

 『ええ、絶好調よ! フェミチキも食べて口は潤ってる!』

 

 『バッチりみゅ、アイゼン(春人がつけたギターの名前)もうずうずしてるみゅ!』

 

 『よぉーし! いくぞー!』

 

 『『『えいえい、おー!!』』』

 

 『というわけで最後の曲! “ラフライフ☆めでぃけーしょん!”』

 

 司会の言葉を最後に、会場がゆっくりと暗転する。

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 スポットライトが、3人を照らし出す。

 

 『教えて! あなたのこと全部全部もっと』

 

 『わたしたちなら そばにいてあげれるから』


 ~かっこいい前奏とギター演奏~


 『だれにだって 悩みの1つや2つあるよね』

 

 『それがまるで わたしを孤独にする そんな錯覚』

 

 『だから そこで立ち止まって』

 

 『ふと横を向いてみれば ならぶ仲間たち』

 

 『声をかけてみれば』

 

 『きっとなれるよお友達』

 

 『そのための一歩を・・・・・・』

 

 『そのための勇気を・・・・・・』

 

 『きみに届けたい!』

 

 『だから! この曲に乗せるよ』

 

 『あなたへのエールと 心のおくすり』

 

 『楽しい日も』

 

 『へこんだ日も』

 

 『『この歌を聞いてね』』

 

 『リズムに包んで送るよ』

 

 『水なしで飲める 気軽なおくすり』

 

 『ほらね上手に ごっくんできたでしょ』

 

 ~かっこいいギターソロ~

 

 『みんなおはよう! 今日もたくさんハッピーになっていってね!』

 

 『あらあらぁ、おつかれかしら? 私が癒してあ・げ・る』

 

 『おまえら甘やかしすぎみゅ、ここはどんと背中をぶっ飛ばしてやるのが礼儀だみゅ。ハルハルリリックで月まで飛んでけみゅ!』

 

 ~スクラッチ音とラップパート~

 

 『意外と楽しい この世界 途中下車で見つけたラッキーデイズ!

 やなこときっぱり忘れて明日へ それができたら苦労しない!?

 だったらまずはここから始める 自分のご機嫌とりましょー

 みゅんみゅん電波に乗せればOK 不法投棄もお構いなしで!

 

 ここまで出来たら案外簡単 幸せ探せるボーナスタイム!

 1分あったらぼーっと出来るし 5分もあったら動画が見れる!

 10分あったら自分にご褒美 この曲3回聞きましょう!

 ハルハルエンジンここらに搭載 さあ飛べこっから宇宙の彼方へー!! みゅー』

 

 ~ジャズ調の間奏~

 

 『だから この曲に乗せるよ』

 

 『あなたへのエールと 心のおくすり』

 

 『泣いた日も』

 

 『へこんだ日も』

 

 『『この歌を聞いてね』』

  

 ~ラスサビ~

  

 『きみに! 伝えたいこの思い』

 

 『偽りのない ホントの思い』

 

 『心の底から』

 

 『ずぅっと前から』

 

 『『伝えたかったの!』』

  

 『ひとりで飲めなくてもいいよ』

 

 『わたしたちが 手伝ってあげるから・・・・・・』

  

 じゃっじゃー、じゃじゃじゃん

  

 『がんばれ、がんばれっ!』

  

 じゃっじゃー、じゃじゃじゃん

  

 『背筋を伸ばせみゅ!』

  

 じゃっじゃー、じゃじゃじゃん


 『いつだっていっしょだよ!』

  

 じゃっじゃー、じゃじゃじゃん

  

 挿絵(By みてみん)

 

 『『『ラフライフ☆めでぃけーしょん!』』』

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