14話 バ美肉(ボク)はバ美肉(おうじ)に恋してる
俺はバトルを終えてようやく一息つけると思っていた。しかし、自宅のベッドに横になった瞬間にBMIに通知がくる。
『ちょっと君のことが気になってね、プライベートルームで話さないかい?』
差出人は渚カペルだった。
『面倒・・・・・・だけど、断る理由もないみゅ』
俺はそう返信して、ルームアドレスを送った。すると、すぐにログイン通知が会ったので俺もダイブする。
『突然の連絡でごめんね。気になったことがあったんだ』
『みゅ、なんの用みゅ。リベンジの挑戦状なら受けて立つみゅ』
『回りくどいのは嫌いでね、単刀直入に言うよ。君、男の子だよね?』
『何言ってるみゅ・・・・・・、そんなわけない・・・・・・』
『ごめん、突然過ぎたね、これだとフェアじゃない、尋問みたいだ。先に僕の方から暴露させてもらうと、僕は男なんだよ』
カペルは悩む素振りも見せずに、ハルハルに暴露する。
『みゅ・・・・・・それで王子さまキャラを演じるのは珍しい・・・・・・』
『そうだよね、女性化願望がある男って、大体か弱い女の子を演じたがるから。意外と大穴なわけなんだよ』
『なるほどみゅ』
今後のキャラ作りに活かせるかもしれない。晴人は参考にしようと思った。
『それにしても、あまり驚かないんだね』
『・・・・・・まぁ』
『さて、君は僕の仲間なのか。それとも、普通の女の子なのか』
『まず初めに聞きたいみゅ。なんで私が男だと思ったの?』
『立ちふるまいや言動だね。女の子を演じていると、意識する部分がある。座り方から言葉選び、努力しても身につかない生得的な部分が見えるんだ』
『なるほど、まるで探偵みゅ』
『それに、君は頭が良い、バトルの頭脳役として上手く立ち回っている。ということはつまり、女の子を演じられるだけの頭脳もあるということになる』
『買いかぶりすぎみゅ』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『オフで会う気・・・・・・ないかな?』
『何言ってるみゅ、絶対いや』
『おっと、手堅いね』
『VTuber同士がオフで会うなんてご法度中のご法度。正体バレしたら終わりみゅ』
『そうかな、僕の知り合いにも結構いるみたいだけどね。ふふ、君は来るよ』
『・・・・・・?』
『明日は予定ある?』
『ないみゅ』
『じゃ、決まりだ。このプライベートルームは残しておくからさ、東京駅の金の鈴前に13時集合、ライトダイブでまた連絡取って会おうか』
『自分勝手なやつみゅ・・・・・・』
『男は、相手を少し引き回すくらいが魅力的なものだよ』
『ふん・・・・・・』
『それじゃ、また明日』
はぁ、とんでもないのに目をつけられたな・・・・・・。君は来る・・・・・・か・・・・・・。
晴人は再びベッドに横になって、モーターカーの予約画面と睨み合っていた。
次の日
「えーと、10分前だな、履歴から飛んで・・・・・・」
陽斗は約束通り山口から東京まではるばるやってきた。運賃は42000円、モーターカーなので所要時間は2時間。
『約束通り来た、金の鈴前で帽子をかぶって待ってる』
『うんうん、了解』
待っていると、1人の女性が声をかけた。
「君が、ハルハルかな?」
「お、おう」
「お待たせ、それじゃ行こっか」
「な、なんだよ・・・・・・驚かないのかよ・・・・・・」
「僕の予想通りだったからね、でもこんなに若いのは想定外だったよ。最近の若い子はすごいね」
「はぁ・・・・・・なんで来てしまったのか」
「そんなことより、どう? 似合ってるかな?」
「ええ、似合ってます。というか、結局男ってのは嘘だったんですか」
「ううん? 嘘じゃないよ? ほら」
そう言うと、手を取って胸に当てる
「ね、硬いでしょ? 筋トレはしてるんだ」
「ちょ、やめてくださいよいきなり!」
なんでだ・・・・・・少しドキっとした・・・・・・手もゴツゴツしてて、まさに大人の男の手だった・・・・・・。
「さて、どこ行こっか?」
「どこって・・・・・・決めてないんですか・・・・・・」
「こういうのは、決めてない方が楽しいんだよ。東京で行ってみたいところとかある?」
「特にないです・・・・・・けど、強いて言うなら秋葉原が少し気にはなります。電気街として栄え、オタクの街になり、今は怪しげなコンカフェの街。変遷が面白い街ですから」
「了解、それじゃ行ってみよっか!」
山手線135周年記念と書かれた掲示をみかける。
言葉がなくて、少し気まずかったのでゆっくりと口を開けた。
「東京の山手線って、初めて乗りました」
「そうなんだ? 結構遠いとこに住んでたりする?」
「ええ、山口です」
「へぇ?、山口! はるばる来たね?」
「まぁ、あんな気になることを言われたら・・・・・・」
「なるほどね、まんまと口車に乗せられたわけだ」
「えぇ、そうです。その口のうまさが羨ましいです」
「教えてあげようか?」
「まぁ、気になりますが・・・・・・。何か本を読んでたり?」
「うーん、あんまり本は読まないかな。経験から学ぶ感じ?」
「ビスマルクもびっくりですよ」
かのビスマルクの名言だ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。でも、情報が溢れかえった現代では他人の知識より自分で身につけた知識のほうが重要視されている、この名言も時代に取り残されたもののようだ。
「でも、強いていうなら1冊だけあるけどね。伝言力って本」
「聞いたことあります」
「うん、今度貸してあげようか?」
「ええ、お借りします」
ここで言う「貸す物」は今で言う電子書籍の話だ。2031年から使われているバーチャルブックというもので、電子書籍ながら、本を読む権利を他人に譲渡出来ることが特徴だ。しかし、こちらは電子書籍とは異なり、法律によって値下げして販売することを禁止されている。
また、高度なブロックチェーンシステムにより、書籍データを保存することは出来ない上、特殊なビット配列によって写真やコピーには写らないようになっている。紙の書籍では違法アップロードを対策することが出来ないため、近年ではどの出版社もバーチャルブックを使用している。一部の需要によって、紙の書籍を販売している作品もあるが、それでも違法アップロードの件数は8割減少したというデータが出ている。
「秋葉原にまで来てメイドカフェですか・・・・・・」
「いいよね、ここだけは何年も変わらなくって。電気街からオタクの街。そして今や風俗街と化したこの街で、唯一残った昔の景色だ」
秋葉原。日本の都市は国の開発によって生まれることが大半だが、この街は例外だ。
秋葉原の歴史はラジオの修理から始まった。ラジオの修理業者と、家電の普及によって家電量販店が集まった。家電が普及しきると同時に次々と店が撤退していくなか、レーザーディスクの販売に目を向けた一部の企業によってオタク向け商品の販売が広まった。
ここが平成までの歴史だ。令和以降は、この街に違法コンカフェや風俗が増え始めた。秋葉原の条例からして、他の都市に比べると規制が緩いためである。結果、オタク向けの店は淘汰され、今ではこのような風俗街になっている。海外から来た人に人気の観光地であるため、収入は他に比べて遥かに高い、だから集まる。
秋葉原はいつの時代も、何かを愛する人々で出来ていた。それは今でも変わらない、受け入れ難いが、これが人間の営みから生まれた現在の秋葉原だ。
ラヂオ会館も、メロンブックオフもアニメイツも、今やコスプレ風俗の店に変わってしまっている。かつてのポップな秋葉原は、アニメの中にしか残っていない。
「それじゃあ! 一緒に萌えパワーを注入して欲しいにゃんっ!」
「え、えぇ・・・・・・」
「はーい!」
「あの、こういうの好きなんですか?」
「いや? 来るのは初めてだよ。だけどさ、こういうのってノリ良く楽しむと、すっごく楽しいよ」
「そ、そうですか・・・・・・」
どこかの誰かに似てる・・・・・・。
「それじゃあみなさん、ご一緒に」
「「萌え萌えきゅ?ん」」
「ありがとうございますー! それではごゆっくりー!」
「ふふ、可愛いね、君」
「どこがですか・・・・・・」
「やっぱり中学生だね、恥ずかしいでしょ?」
「気にしてませんし・・・・・・」
「そういう、強がりなところが可愛いって言ってるんだよ」
だ、ダメだ・・・・・・今日1日ずっと感じるこの感じ・・・・・・。
へその下辺りが少しきゅんきゅんする・・・・・・
俺の子宮が疼いている・・・・・・っ!?
嘘だろ!? メス墜ち!?
「うん? どうしたの? 大丈夫?」
「な、なんでもない・・・・・・です!」
な、何か別の話題を・・・・・・。
「そういえば、渚さんって本名はなんなんですか? オフだったら本名で呼びあったほうが良いかと思って」
おい! 本名で呼び合いたいって、それはなんていうか、好きな人と距離を詰めたいときの会話だぞっ!
「あぁ! ごめんごめん、渚って呼ばれてるから知ってるのかと錯覚しちゃったよ。僕は渚悟だよ」
「渚は本名なんですね・・・・・・。俺は晴人です」
「晴人くんね。覚えたよ」
周りが騒がしくなってきた。どうやらメイドのライブが始まったみたいだ、外国人客がペンライトを持っておおはしゃぎしている。
「にしても、本当徹底してるよね、座り方とかもさ」
ふと自分の座り方を見ると、女の子座りになっていた
こ、これはいつもの理性で演じてるハルハルじゃない! 現実世界でも、素で女の子になってきてる!
俺は耐えきれず、渚さんと外に出る。
「そ、それじゃあそろそろいいですかね」
「そうだね、楽しかった?」
「えぇ、良い気分転換になりましたし、あなたのこと知れて良かったです」
「同じ仲間だからね」
「え、えぇまぁ・・・・・・」
なんでだ・・・・・・なんでこんなにこの人に媚びるような言葉を選んだ・・・・・・?
意識されたいと思ってしまった? まさか・・・・・・まさかな・・・・・・
「それじゃ、帰りには気をつけて。また遊ぶ?」
「え、えぇ。そうですね・・・・・・。また会いたい・・・・・・です」
そう言うと、渚さんはニコニコしながら反対方向へ歩いていった。
俺はさっきまでのことを振り返って、くらくらしながら駅まで歩き始める。
「こんな、こんなことになるなんて・・・・・・」
だが、なんとか寸でのところで耐えた。後は帰ればいつもの俺の生活が待っている。
そう、藍と律帆が待ってる・・・・・・。
そんな事を考えながら歩いていると、ふと、1人の男が目に入った。
それだけで、鳥肌が立った。
な、なんだこの人のオーラ・・・・・・直感が関わるなと言っている・・・・・・!?
絶対にすれ違いたくない、なぜかそう思った。歩くスピードを遅くして、上手く避けようとする。
男は3人で歩いていた。しかし、他の2人と比べて明らかに違う、関わってはいけない。目を逸らして距離を取り始めた時だった、その男はサラリーマンにぶつかる。
「あぁっ!?」
ボガァンッ!!
その音は余りにも鈍く、初めて聞く音がした。
その後男は、無言でひたすら相手をタコ殴りにする。
そう、それはあたかもライオンのようだった、野生のごとく跳びつき、一切の反撃も許さず一方的に殴りつける。
「ゆ、ゆるじで・・・・・・」
「誰が喋って良いっつったよ!?」
あぁ、予想通りだ。コイツはめちゃくちゃ過ぎる・・・・・・。暴力慣れした、俺とは真逆の人間だ。
突然、現実が地獄絵図と化した。このめちゃくちゃな男のせいで。
「なぁ、俺にも少しやらせろよ」
取り巻きの一人がそう言った。
「ちょっと待てよ」
しまったというように、取り巻きは構える。
「やらせろ? 今やらせろっつったのか!? オイ!」
思いっきり跳んで殴りかかる
「俺様に命令していい立場かよあぁ!? 土下座しろよ土下座ァ!」
顔を掴んで思いっきり地面に叩きつける。
「そうだよなぁ、これが土下座だよな男なら出来るよなあ!?」
早くっ! 早く逃げないと! だけど、それを気取られると次は俺がターゲットになる・・・・・・。
どうすればいい。何も分からず、ただ足がすくむ。それでも歩き続けた、気分は屠殺場に進む豚の気分だった。
次のターゲットは通りすがりの親子だった。おそらく駅前のコンビニに寄ろうとしたところだったのだろう。自動ドアの前でいきなり子どもに掴みかかって頭を地面に叩きつける。
「な、男なら子どもでも出来るよなあ土下座」
「やめて!」
母親が悲痛な声をあげる。
「おらぁっ!!」
そして、子どもの頭を地面に叩きつけた。
「きゃぁぁぁあああーー!!!」
「ほら出来たじゃねぇーか!」
「大丈夫・・・・・・っ!? ね、ねぇっ!?」
子供はぐったりとしていて、返事がない。
「余計なことすんじゃねぇ!」
母親を突き飛ばす
「次はお前だな・・・・・・。オラァッ!!」
母親の頭をバスケットボールのように軽々持ち上げる。
「いやぁぁぁあああ・・・・・・っっ!」
「なんだこの女、うるせえな、大人だろーがぁっ!!」
次々となぎ倒される人達、冗談じゃないぞ・・・・・・。
秩序なんて、たった1人の気まぐれによっていとも簡単に崩壊するということを、俺は知った。
「だったら土下座だよナァっ!?」
ぐしゃっ・・・・・・
ドラマや漫画なんかにある命乞いって、なんて非現実的な、ファンタジーなんだろう
だって! 喋れない! 動けない!!
なにか、こちらから行動すれば確実に殺される・・・・・・。ただ、一切の震えも止めて、アイツが気まぐれで俺を殺さないことを祈るだけ!!
「あ? お前さっきから何見てるんだよ!」
あぁ、終わった。
死んだ。
それでも必死に走って逃げた。
でも、すぐ捕まった。
「うぜーわ、お前。死ね!」
握られた拳が振り下ろされる。
・・・・・・。
長い、すごく長かった。いつ殴られるのか・・・・・・覚悟していたが、いつまでもその感触は訪れない。
「感心しないね、こういった下品なことは」
「なんだよぉ!? 俺の狩りを邪魔すんのかよぉてめぇはよぉっ!?」
男は振り向いて殴ろうとするが、それを躱す。
パンチは躱したが、キックが間もなく繰り出された。渚さんの脇腹を強く打ち付ける。
「いっ・・・・・・」
「女ァ! 死ね!」
足が高く上がり、踵落としが繰り出されるも、それをすんでのところで躱す。
「あいにく、僕は男だよ。だからこの痛みはよく分かるんだ」
そう言って、男の股間を膝蹴りで潰す。
「おおっ・・・・・・!? いづっ・・・・・・がっ、殺ず・・・・・・ぜってぇごろず・・・・・・」
男が膝をついたところで、顔にもう一膝蹴りを入れる。
「ぐぶぉっ・・・・・・」
男は倒れ込んだ。
取り巻き2人も急いで逃げ出す。おそらくこれからはこの男とつるむことはないだろう。
「痛ったい・・・・・・無茶はするもんじゃないね・・・・・・」
「大丈夫ですか!?」
体の緊張はまだ残っていた、強張っていた体を頑張って動かした。
「それより、さっきの子どもだ!」
そう言って被害者の元に走り出す。
サラリーマンは重症ながらも、1人で歩き始めていた。問題は子どもの方だ。
「救急車は呼びました・・・・・・けど、さっきからくたっとしてるんです・・・・・・っ!」
母親は傷まみれで子供を見守っていた。
「なら、胸骨圧迫をするんです!」
「でも! まだこんなに小さくて!」
「大人も子どもも基本は関係ありません! 1秒でも早くの対処が重要なんです!」
そう言って、子どもの心肺蘇生を始めた。
2分ほど経って、救急車が被害者たちを連れて去っていった。同時にパトカーが男も連れて行った。子どもは意識を取り戻し、母親に感謝されながらも病院へ行くのが先だと言って送り出した。
これは後日談だが、全員命に別状はなかったとのことだ。ネットニュースにも取り上げられ、親子を救った救世主がいたと連日報道されている。しかし渚さんは名乗り出ることをしなかったため、救世主の正体は相変わらず謎のままだった。
「はぁ、良かったよ。君にこれを渡しそびれててね」
受け取ったのは、半分に折られたファンシーな厚紙。中には、あのメイドカフェで撮ったチェキが挟まっていた。
「メイドカフェの、チェキ・・・・・・」
「君を助けられて、本当によかったよ」
ぽちゃーん・・・・・・。
「ん、どうしたの?」
「あの、また誘ってください」
「それは・・・・・・今日のデートが楽しかったってことかな」
もうデートって言葉を訂正するつもりはなかった。
「えぇ、出来ればいつでも予定合わせるんで、お願いします」
「ははっ、嬉しいな。僕、君のこと好きだよ」
「・・・・・・」
俺もです、なんて、言えないよなぁ。




