13話 女性Vのお茶会
藍がお忍び用の3DモデルでVR横丁で散歩していた時のこと。
『あれ? もしかしてミリコさん!?』
普通にオープンな場所でミリコが歩いていた。
『ん、そうです。サインいりますか?』
『あ、いえ、そうじゃなくて・・・・・・』
だれにも聞かれないようにそっと耳打ちをする。
『私、アイカです。ちょっと散歩してたんですよ』
『そうだったんですか』
『うんうん』
『では、ちょっとプライベートのほうで話しませんか? ここであったのもなにかの縁ですし』
『はい! 大丈夫ですよ!』
2人は、すぐにプライベートカフェルームに移動した。
そのあと、藍は少しだけ抜けて、フルダイブマシンを使ってもう一度プライベートルームに入った。
『えへへー、アイカになってきましたー。これで、ケーキも食べれます!』
メタバースに入るときに使用するのは、基本的にはBMIのみの簡易的なものだ。そしてトレンドVTuberになると会社の方からハイエンドモデルのフルダイブマシンを貰うことが出来る。これは1つ3000万円もするもので、一般人が手を出せる値段ではないが、この3000万円の投資を何十人にも出来るほど、VTuberバトルの運営は儲かっているという事だ。
そして、このフルダイブ型は特に出力が一般的なものに比べて段違いに性能がよく。物の感触やにおい、そして味まで体験することが出来る。だが食べる時の食感は再現できないため、感じる美味しさは現実世界の1/3ほどだ。そのため、未だに現実世界での食べ物には栄養補給としてだけでない、嗜好品としての需要がある。
『・・・・・・。こういうとき、なにを話せばいいか分かりませんね』
『それじゃあ、ミリコさんの好きなものとか聞きたいです。あんまり配信の時とかそういうこと聞けないじゃないですかー』
『好きなもの、ロボットアニメが好きです』
『ロボットアニメですかー! えっとなんでしたっけ。エバーなんとかって名前の』
『ロボットアニメで真っ先にそれ出しちゃいますか・・・・・・。まぁ好きですけど、論争が起きそうな・・・・・・』
『あれって、合体とか、変形とかしないんですか?』
『変形なんてしません、ビルバインダーじゃないんですから』
『ビルバ・・・・・・?』
『いえ、こちらの話です』
『でも意外です! ミリコさん、なんだかまじめな人かと思ってたので、趣味はないのかなー? って思ってました!』
『そうでしょうね、とくにPRはしてませんから』
『ところで、さっきは何をしてたんですか?』
『パトロールですよ』
『パトロール?』
ぐーー・・・・・・。
アイカのお腹の音が鳴った。
『そうですね、せっかくなんで知ってもらいたいことがあります。ただ、話が長くなりますし、何よりつまらないですから、どうぞお菓子でもつまみながら聞いてください』
『す、すいません・・・・・・』
『高級マシンも困りものですね、しっかり音を拾ってしまうから』
『あははぁ・・・・・・』
アイカははずかしがりながらも、AIが運営するこのプライベートカフェでケーキとクッキー、オレンジジュースを注文した。
注文した商品はすぐに運ばれる、ただのデジタルデータなのだから当然の光景だ。
早速クッキーをほおばる。食感はないので、バターの香りと味だけを楽しむ。それに、別に食べてもお腹に溜まるわけじゃないのであくまで空腹を紛らわす程度のものだ。
『アイカさんは、CAZMLってご存じですか?』
『え? キャスメルですか? 社会の授業で聞いたことあるような・・・・・・』
『社会の授業? 禁止になったのは6年前ですが、そんなに前から載ってたんですか?』
『えーっと、そうなんですよー!』
VTuberにとって、リアルな年齢を知られるのは致命的だ。それでも時々年代がばれそうな発言をしてしまうことがある、藍はかなり焦った。だがそれはミリコも全く同じで、なんとなくの年代が悟られてしまった。お互い少し気まずい雰囲気が流れる。
『そうなんですね。とにかく、その禁止された薬についてです』
『どういう薬なんですか? 私授業があんまり分かん・・・・・・、授業に追いつけてなかったんですよー! だから、詳しく知らないんです』
『簡単に説明すると、頭のワーキングメモリを拡張し、処理速度を早くする薬です』
『わーきんぐめもり? しょりそくど?』
『もっと端的に言うと、頭が良くなるんですよ』
『なるほどー。そんな薬があるなら私も欲しいなぁ』
ぐーーーー・・・・・・。
またもやアイカのお腹からかわいらしい音がする。
『こ、ここで食べても現実で食べないとお腹はいっぱいになりませんよねー! あ、あははは』
『やめときます?』
『ううん! 聞きたいです!』
『キャスメルには強い依存性があるため、現在では所持ですら犯罪になるお薬です』
『キャスメル・・・・・・。メモメモ』
『ですが、最近ではそれを秘密裏に売買している連中がいるんです』
『悪い人ですね』
『えぇ、そういった人たちを見つけるためのパトロールです。以前は隠語なんかで文字検索すればすぐに見つかったんですが、今ではこういったメタ空間での取引が主流で、ひたすら地道に、しらみつぶしに探すしかないんですよ』
『でも、なんでミリコさんのアバターで探してたんですか? 目立ちません?』
『トレンドVTuberがここらを歩いているなんて、あなた以外思うわけないじゃないですか、みんなただのなりすましだと思ってますよ。そして、なりすましをするような人だとそこまで警戒されないんです』
『なるほどです。うーん、思ったんですけど、いい薬だったら別に依存症になってもいいんじゃないですか? それ以外に悪いことってないんですか?』
『その薬は少し高額なんです。なので、貧富の差で買える人や買えない人に学力差が生まれてくる。ですから、厳しく取り締まることが結果的にたくさんの人を救うことになるんですよ』
『だからボランティアでパトロールしてるんですね! VTuberもやって、パトロールもしてるなんてすごいなぁー!』
『なので、もしキャスメル関連の話を聞いたらすぐに連絡してください。私のアドレスはこれです』
『アドレスって、これ、なんですか?』
ミリコが出したのはスマホのメールアドレスだった。
『あぁ、イマドキの子はもってないか・・・・・・。じゃあこっちで』
『こっちなら大丈夫です! ありがとうございます!』
もらったのはルームアドレスだった。これがあればメタ世界に伝言を残したり直接会話することが出来る。
『それじゃあ、そろそろ夜ご飯なので帰りますね! ミリコさんはまだパトロールですか?』
『はい、引き続き』
『それじゃっ! 頑張ってください!』
『ありがとうございます、頑張ります』
そして、ログアウトする。
「うーん、お腹すいた・・・・・・。今日のごはんなにー!?」
バーチャル世界に蠢く不穏の影も、現実世界まではやってこない。藍はいつも通りの明るい毎日を送っていた。




