12話 私と戦うヘンテコナカマ。 すっごいぴんち!
東京、Vector社の本部。
社長の白夜が秘書と話していた。
「社長、AITuberの2人はなかなかいい活躍をしていますよ」
「うーん! 活躍とは言えないが、人格形成のプロモーションにはなるね。適度に足を引っ張るくらいがいいって、“あの子”が証明してるしね!」
AITuberの開発者は何を隠そう、VTuberバトルの創立者である彼だった。
「しかし、なぜあれほどの個性を・・・・・・?」
「いやー、AIの進化はめざましいものでさ。初めはお絵かきや作曲などにしか使われなかったいわゆる発展型AIも、現代では専門家を超える知識量を適切に扱うただの便利屋になっちゃった。だけど、その進化の中で触れられなくなった分野があるのは知ってる?」
「ええ、仕事以上の知識を与えたもの、つまり、人間の代替としてのAIですね」
「そのとーり! 人間は発展し続けるAIを管理しないといけない。だから、みんな人間に近づける学習はさせなかったんだ。けど、僕はそのパンドラの箱を開いてしまった」
「ですが、あれは未完成です」
「あとは、実際に色んな人と接して、その中で成長してくれたらいいよ! にしても、やっぱりAITuberは面白いなぁ。今のところ、3号機まではロールアウトしてるけど、残りの4号機と情報処理個体はまだプレリリース状態だしね、あんまり量産してもいいAITuberは出来ないし、ゆっくり進めていこう」
モニターに映る2人の姿を眺める社長。
「2,3号機のAITuberは正しい行動をした時に“報酬”を与えるといった方法で学習をしてみたんだ。だから、僕はその報酬を人間に近づけるとどうなるのか、それを試してみたんだ。するとどうなったと思う? 過剰な程に人からの称賛を欲する黒部ランと、少しでも多くの痛みを欲しがる白野ワールが生まれたんだ」
「それは、どういった経緯で?」
「さぁ、そこまで詳細なログは見てないけど、2人とも生きる意味や実感を求めているようだったよ。面白いね、VTuberに貢ぐのを幸せと考える人がいれば、ただ1人で筋トレをすることが幸せと考える人もいるように、彼女たちも人生の中で自分の幸せを見つけたんだ」
「もう少し研究すれば、なにか見つかりそうですね」
「面倒だからそれはいいや。けど、人によって幸せの形が違うってのは・・・・・・。わかりきっていることだけど面白いよね」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
ランを撃破した後、ホリィはアイカ探しに奔走していた。
その時だった。道中に見覚えのある人物がいた。
『ふひぃ・・・・・・。きもひいいぁぁ!!』
それはゴーカートに引きずられる白野だった。そして、そのゴーカートを運転しているのはカペルだ。
『君(白野ではなく画面の向こうの視聴者)とのドライブは楽しいよ』
『ぐほっ!! 壁にあたっらぁ!』
『あはは、後ろは気にしなくていいよ、僕だけを見て』
『さすがの私もドン引きね・・・・・・』
今すぐにでも倒したい気持ちに駆られたが、体力が少ない今は出るべきではないと考え、アイカ捜索を続けた。
とは言っても、こんなに広い遊園地でどうやってアイカを探せばいいのか。
人混みがあるせいで、高くから見下ろしてもなかなか見つけられない・・・・・・。
なら、何か合図をすればいいのよ! 最悪敵に見つかっても倒せる見込みはあるし!
そういうわけで、しっぽを伸ばして空に文字を描いた。
“↓ここにいるわよ?“
さて、鬼が出るかヘビが出るか・・・・・・。
『あー! ようやく見つけた! ホリィちゃーん!』
『あ! アイカ! 私を回復し、て・・・・・・』
ホリィは目の前の光景に目を丸くした。
『助けてー!! 追われてるよーー!!!』
アイカの背後にいたのはゴーカートに乗って爆走するきゃらめリップの2人だった。なぜかコース外の普通の道を爆走している。
『これが出来るのも、仮想空間ならではだね』
『頭のネジ外れてんのーー!?!?』
『免許をとっといて良かったよ、楽しいドライブだ』
『ぼろぼろのボロ雑巾・・・・・・。ざいこぉーー!!』
『わー!!! 追いつかれるぅーー!!!』
そのときだった。
『ぶっ飛べみゅー!!!』
『おっと』
突然ハルハルが飛び出し、カートを思いっきりハンマーでぶっ叩く。
カートは制御不能になり暴走を始めたため、カペルはさらりと飛び降りる。
『あはぁっ!! もっと乱暴にぃ!!』
カートはそのままバイキングの根本に勢いよく衝突した。
・・・・・・。
どっっっっっかぁぁぁーーんん!!!!!
凄まじい轟音とともに、カートは木っ端微塵に吹き飛んだ。白野を巻き込んだまま。
『白野! 大丈夫かい?』
『さ、さすがに・・・・・・至近距離の爆発は堪えるぅ・・・・・・。悶えるぅ、ふひひぃ』
白野ワール ダウン。
『おっと、いきなり1対3のピンチってわけかぁ』
『ハルハル! 死んだはずじゃ!』
『言い方・・・・・・。ただダウンしたところをアイカ姉ちゃんに助けてもらっただけみゅ』
『うん、私のスキル『おはよー!』でね!』
『そんなスキル持ってたっけ』
『忘れてたみゅんか。試合中一度だけダウンした味方を復活させるスキルみゅ』
『なるほど』
『というわけで、観念するみゅ! 3人に勝てるわけないみゅ!』
『しかも私のレベルは6よ!』
『あはは、いいね、すごくいい試合だよ。それじゃあ、僕もこれを使おうかな』
『れ、レベルアッパー!!』
『さっきホリィちゃんと戦ってた時、レベル3って言ったのはホントだよ、ただ、こうやってレベルアッパーを保管しておいたんだ。ここに5つある』
『じゃ、じゃあレベル8になるってこと!?』
『そう、みんなで頑張ったからね。あと、ハルハルの背後をつけてたからショップの位置は全部筒抜けだったよ』
『やっちまったみゅ』
『『ハルハルー!!』』
『よく考えたらホリィ姉と歩いてるときは全く撃たれなかったみゅ、カペルと一緒に行動してたみゅんね』
『値上がりを考慮して、先にスパチャ額の少ないランちゃんに3箇所で買ってもらって、ワールちゃんが差し入れてくれた1個と、僕が最後にスパチャ額で買える限度の3個、合わせて7個ってわけだね』
『ずっとメリーゴーランドで遊んでると思ってたよー!!』
『私が見たときはゴーカートしてたし』
『私が見たときはジェットコースターに乗ってたみゅ』
『あ、それはショップがジェットコースターの降り場にあるからね・・・・・・』
『いい調子だね、さてと』
カペルはレベルアッパーを飲み込んだ。
『よし、さぁかかっておいで、子猫たち』
『レベル差が埋まっちゃったわ!』
『で、でもっ! 3対1なら勝てるんじゃないかな!』
『厳しいわよ、さっき戦った時に分かったわ、”正攻法じゃ勝てない!”』
『だったら頭を使うみゅ!』
『私に言わないでよぉ!!』
『相談してるみたいだね、僕は紳士だから、少しだけ待っておくとしようかな』
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
1分経過。
『時間切れでも狙うつもりかな。僕1人しかいないわけだし、このままだと負けるよね』
『よし! 決まったみゅ! 勝負再開みゅ!』
『待ってたよ』
カペルは素早く足を運び、あっという間に3人との距離を縮める。
『とっ! とりあえずにげるみゅ!!』
その声を幕切れに、ハルハルは1人で逃げた。
その方向とは反対に、アイカとホリィはジェットコースターの方に向かった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
二手に分かれたみたいだ、さて、どっちに向かおうか。
これは明らかになにかの罠。一体どっちへ誘い込んでいるんだろうね?
レベルが低く、孤立しているハルハルを先に倒すのが定石だけど。いや、違うな、何か引っかかる・・・・・・。
そうか! ホリィはアイカと一緒にジェットコースターのショップに向かうつもりだ! ホリィのレベルは6、2人がまだジェットコースターで購入してないと仮定すると、8レベルまで上がるんだ! そして、僕とイーブンのレベルにして、あとは3人の数の力で僕を倒すつもり・・・・・・。
つまり、ハルハルは囮、2人を追いかける!
『き、来ちゃったよ!?』
『アイカのスパチャを使ってレベルアッパーを買いまわる作戦は失敗ね、ジェットコースターのショップにはもう入っちゃったから、買えるのはアイカの1個分だけだし』
『ホリィちゃんのスパチャ額は!?』
『もうすっからかんよ』
『じゃあ上がってもレベル7!? もしぎりぎり追いつかれずにジェットコースターに乗っても! 私が頑張ってトラウマを振り切ってジェットコースターに乗っても勝ち目がないの!?』
『もとより一か八かの作戦だったのよ』
『どーしよー!!!』
『ジェットコースターってカードが切り札になるはずなのよ。でもどうすれば・・・・・・』
『わー!! しかもジェットコースターすごい行列だよ!? これじゃどっちみち乗れないよ!!』
『行列、人混み・・・・・・ね』
必死に思考を巡らせていると、ふと脳内にとあるアナウンス音声が流れた。
『『ぴんぽんぱんぽーん! えー、言い忘れてましたが、このステージの特別ルールで、バトルに関係ない客を攻撃した場合、ペナルティーとして1人につき5秒の硬直が発生します』』
『そっ! そうだわ! これが答え!!』
『えぇっ!? 何が!?』
『『さきゅばしっちゃう魅惑のGGはぁと』!!』
ホリィのスキル、XY染色体を持つ、いわゆるオスに分類される生き物を仲間につけるスキルだが、その矛先は、ジェットコースターに並ぶ男性客だ。
『さぁ眷属たち!! あのイケメンを拘束するのよ!!』
その言葉に従うように、男性客はぞろぞろとカペルに集まる。
『一応言っておくわ! カペルちゃん! NPCを攻撃したらペナルティーでしばらく動けなくなるわよ!!』
『なるほどね』
もこもこと集まっていく男性客で、カペルは完全に身動きが取れなくなった。
『よく考えたね、でも残念、予習不足だよ、完全にね』
そう言うと、手を高く掲げて言った。
『『カリスマ』!』
カペルの合図で、男性客一同は目線をカペルに向ける。
『僕のスキルは『カリスマ』、VTuber以外の動物を自由に操れるのさ』
『私の完全上位互換じゃない!!』
『悪いね』
相変わらず全く動じない様子のカペル、ホリィは万策尽きたという様子で、顔がひきつった。
『じゃあ、君たち。彼女たちを拘束して』
『私の作戦をパクったわね!?』
『ほら、そんなこと言ってないで、逃げないと追いつかれるよ?』
『さっきから追われてばかりじゃない!! どうすればいいのよぉー!!』
『そうだ! ハルハルは!?』
『ハルハルがいたってどうしようもないわよ!』
赤ちゃん連れ、カップル、いろんな客に阻まれながらも距離を取る2人、だったが、ついに男性客の1人にアイカが捕まってしまう。
『わー!! もうだめだー!!』
『ううー、どうすれば・・・・・・』
ペナルティーを使うって作戦は良いと思ったのにぃ!
そう思ったのもつかの間、ホリィまで捕まってしまう。
『残念だけど、これでチェックメイトだね』
『くっ・・・・・・』
万事休すか。
『さぁ、これで最後だっ!』
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
剣を振り下ろすカペル、その時カペルの視界に何かが飛び込んできた。
カペルは、それを弾き飛ばす。
『ハルハルの攻撃かっ? って、これはっ!?』
弾き飛ばしたもの、それはまさかの赤ちゃんだった。NPCだから血を流したりはしないものの、気持ち悪さが残る。仮想世界なのを良いことにやりたい放題だっ・・・・・・。
飛ばしたのは、ホリィのしっぽか、なかなか器用な真似ができるんだね。
って、違う、そうじゃない!
カペルはNPCを攻撃したペナルティーで5秒間動けなくなる。
『なっ・・・・・・!』
『それだけじゃないわ!』
カペルは今この場所がどこなのかを考える。
こ、ここは! フリーフォール!
顔を動かすことは出来ないが、地面の影が動いたのが見えた。
フリーフォールの高いところからハルハルがハンマーを構えて跳んでいたんだ!! 全てはこの5秒に合わせるつもりで!!
急転直下
どぅおおおおーーーーんん!!!!
『ハルハル見参みゅ!!』
レベルが低いとはいえど、物理の力で何倍にも強化されたハルハルの捨て身ハンマーはカペルを一撃で葬った。
『まさか、こんな方法を考えるなんてね・・・・・・全く容赦がない・・・・・・』
渚カペル ダウン
おまけに、ハルハルも落下ダメージでダウン。
男性客は彼女たちの元を離れる。
『や、や・・・・・・』
『『やったぁぁーーー!!! 大勝利ぃぃーー!!』』




